長周期地震動(ちょうしゅうきじしんどう、英語:long-period earthquake ground motion)は、地震で発生する約2-20秒の長い周期で揺れる地震動のことである。周期が長い、すなわち低周波領域で発生するため低周波地震動とも。地震計の発展とともにその存在と性質が研究されるようになり、特に高層建築が増えた近年は防災の観点からも重要とされる。地震動を観測した地震波を見ると様々な周期の波が含まれているが、発震のエネルギー規模が大きいほど周期が長くなり(長周期、低周波)、その主成分の表面波は震源が浅いほど卓越することが知られている。地震動のうちこのような震動成分を特に長周期地震動とよぶ。大規模地震では周期が数百秒を超える地震動(超長周期地震動)や地球自由振動も観測される。現在の気象庁では防災の観点から周期が1.6 - 7.8秒の長周期地震動を観測対象としている。長周期地震動の原因は主に2つ考えられている。一般に考えられる断層地震では地震波の波長は断層の滑り量(断層が動いた長さ)に応じて大きくなり、したがって大規模地震になると大きな振幅とともに長周期の地震波が発生する。この地震波は小規模の地震に比べて距離が遠いほど卓越する(他の波に比べて顕著に目立つ)性質がある。波動は周期が長いほど減衰しにくい特性があり、特に表面波では減衰の条件が少なく自由振動に近い性質をもつ。したがって震源からの距離が遠い場合でも長周期地震動だけが到達することが多くなる。堆積盆地、付加体など、プレートに比べて柔らかい堆積層では長周期の表面波(レイリー波およびラブ波)の増幅が起こる。これは波動の干渉と反射、および変換が発生する性質に起因する。震源からの経路上に柔らかい堆積層があると、長周期地震動が効率的に伝わる。軟地盤中の震動は固い地盤に比べ速度が遅い。極端にはマグマ溜りでは極めて遅くなる。基盤岩から堆積盆地に入ってきたは地震動は速度差から干渉・増幅し長周期となる。そのため、堆積盆地の外を震源とする浅い地震において、伝播してきた地震波が堆積盆地内で強い長周期地震動を生じることが多い。なお、長周期地震動の主要成分である表面波は、加速度波形ではなく変位波形で観測されることが多い。関東平野では周期8秒前後の表面波が卓越することが知られており、原因として基盤岩と堆積層の速度差が大きいことで関東平野におけるラブ波の基本モード(一次モード)が周期8秒前後で卓越することが考えられている。堆積盆地を通過する実体波(P波およびS波)が盆地の境界面で表面波に変換されたあと長周期に変質することが知られている。このため、堆積盆地の堆積層と基盤岩の境界付近を震源とし、断層が両者の境界面を横切った場合には、境界面にとりわけ強い表面波が生じ、強い長周期地震動が発生することが懸念されている。またこれと関連して、基盤岩と堆積層のせん断波速度の差(コントラスト)が大きいほど、特定の周期の表面波が卓越しやすいこと(盆地端部効果、エッジ効果)が知られている。また、堆積盆地上に発達した平野の中で、基盤岩に覆われた山地に近い辺縁部では、周囲に比べ異常とも言えるような顕著な表面波が観測されることがある。1995年兵庫県南部地震において震災被害が顕著であった「震災の帯」地域は揺れも顕著であり、せん断波速度差の大きい六甲山地と大阪平野の境界付近にあたる「震災の帯」地域で強い地震波が生じたことが原因の1つとも考えられている(同地震の被害は主に周期0.5-2秒の「やや短周期地震動」によるものと考えられており、長周期地震動と直接の関連はない。また断層が直下まで延びていたことも強い揺れの原因である)。長周期地震動が及ぼす被害は主に、地震動の周期が地盤や建物などが構造的にもつ固有振動と共振を起こし、構造物の振幅が増大することにより引き起こされる。長周期地震動は減衰しにくいため、共振が長く続いて振幅が大きくなりやすい。長周期地震動が認識される以前にも、地震動と建造物の固有周期の関係は認識されており、関東大震災以降には耐震性構造に関する柔剛論争があった。しかし中低層構造建築が主流であり、振動地震による建造物の破壊は、剛性を高めることで大部分は防ぐことができるとされ、共振による被害の発生は非常に少ないと考えられてきた。ところが高層建築が増え、やがて大きな地震発生時に低層建築には見られない「船に乗っているような」「酔うような」と表現される地震動が経験的に知られるようになった。そして2003年の十勝沖地震で発生したスロッシングによる原油火災が起き、地震で発生する長周期地震動が一般にも注目を集めるようになり、被害の研究が進んだことで、地震に強いとされてきた既設の超高層ビルに対して今後破壊的ダメージがもたらされる懸念が出てきた。大きな振幅で揺れる高層建築は、大きな歪みを生じて窓枠やガラス、外壁が破損落下したり、内部の立体駐車場やエレベータなどの機械の破損や機能不全を生じ、屋内の壁の亀裂や破壊、設置してある什器や家具がかなりの速度で動きまわるほか、人はひとところに立っていられず避難さえ困難になることがある。高層建築が地震動で共振するような場合、これは接地面を固定端、最上階を開放端とする自由振動に近く、波動の位相が90°となる場所で振幅が最大となる。このため、低層建築物・中層建築物などではほとんど揺れを感じないが、高層建築物などでは高い階に行けばいくほど揺れが強くなる。また2次の振動モードで共振するような場合は、中層階に振動の“節”が現れ震動が少なくなるということも起こる。建造物の固有振動数は、その形状、構造、構成する物質の密度、弾性係数、支持の方法などで決まるが、高層建築では振動数が低く長周期となることが一般的である。一般的な鉄筋コンクリート造および鉄骨造では以下の式で略算が可能とされる。大阪管区気象台で想定される南海地震の卓越周期は南北方向でおよそ4.8秒とされ、これを鉄骨造階高4.5mのオフィスビル、鉄筋コンクリート造階高3.4mのマンションに当てはめると共振しやすい階高はそれぞれおよそ35階、70階となる。しかし地震動には卓越周期以外のものも含まれ、略算式も線形ではなく、共振の効果は持続時間の長いものが優勢となるため簡単ではない。シミュレーションでマグニチュード8クラスの地震が新潟県中越地方で発生したと想定し名古屋市内にあるビルの30階の揺れを再現したところ、1周期だけで約10メートルほどまで大きく揺れ、逆に短周期の場合は低層建築物に揺れが生じ、高層建築物に揺れが起きにくいという結果が得られたという。堆積盆地(基盤岩が盆地状に凹んだ地域に厚い堆積層が溜まる地質構造。海に面しているかどうかを基準にした平野・盆地の区分とは異なり、関東平野などもこれに該当する)において周期2-10秒の「稍(やや)長周期地震動」や10秒以上の「長周期地震動」が卓越する現象は、高密度に強震計が設置されるようになった1970年代に世界のいくつかの場所で発見された。大阪平野、京都盆地、十勝平野、ロサンゼルス盆地()などがその例であり、地震学界の一部で認知され始めていた。1985年のメキシコ地震において、震源から400km離れたメキシコシティでは低層建築物の被害が目立たなかったのに対し高層建築物の倒壊や損壊が相次ぎ、パンケーキクラッシュと呼ばれるような中高層の潰れたような崩壊が見られた。当時は建物の建築基準の甘さが建物倒壊の原因だとされたが、後に、メキシコシティがかつてのテスココ湖を干拓(埋め立て)した市街地が大半を占めており、厚さ数十mの柔らかい堆積層が表層を覆っていたことで長周期の表面波が増幅したことが考えられ、実際に周期2-4秒の地震波が卓越したことが確認された。これが契機となり、長周期地震動が世界の地震学で認知されるようになった。また、日本では1964年の新潟地震においてスロッシングによる石油タンクの火災が発生し当初液状化によるものと考えられていたが、1983年日本海中部地震の際にも新潟東港でタンク貯蔵物の振動が生じ、両者とも長周期地震動が原因と考えられるようになった。現在日本では、気象庁の95型震度計約600地点や防災科学技術研究所のK-net約1,000地点のほか、各地の大学により強震計が設置されていて、高密度で大地震における長周期地震動のデジタル波形が収集されている。一方、地震動の変質特性を解明する手掛かりとなる地下の地震波速度構造については、関東平野など一部で詳細な調査が行われているものの、調査途上の地域が多い。一方、地震波を計測する地震計(強震計)の改良も行われている。これまでは身近な構造物に被害をもたらす固有周期が0.5秒-2秒の「やや短周期」の地震波に感度のピークを設定することが多かった。しかし近年はより長大な構造物が増加し、固有周期が2秒-20秒の「やや長周期」にまで感度のピークを広げて設計している。大規模災害に繋がる断層地震ではさらに20秒-200秒の長周期が現れることが知られており、これを観測する強震計も設計されている。長周期地震動に共振して揺れが大きくなる建築物・構造物は、剛構造による耐震ににくわえ、柔構造による免震、制振という考え方で対策することが一般的である。これは高さが50m程度を超えるような高層建築物だけではなく、同じ規模の橋梁やタンクなどの構造物にも当てはまる。これらについて、それぞれ設計指針が設定されている。日本では建築基準法およびその関連法規により、特定の用途に供する建物、一定以上の階数・面積を有する建物、中層以上で主要構造部が石造・レンガ造・コンクリートブロック造・無筋コンクリート造などの建物では構造計算により地震動などに対する強度を定めている。規定の特定建築物で義務付けられている二次設計で用いる保有水平耐力計算は、設計地震動に対する応答を考慮した方式である。構造計算法として認められている他の限界耐力計算、エネルギー法も同様に設計地震動に対する応答を考慮している。限界耐力計算、エネルギー法は高度で多大な時間・労力を要する後述の「時刻歴応答解析」を簡略化し静的計算により導出可能とした手法である。また高さ60mを超える建築物では、動的計算にあたる「時刻歴応答解析」を行うべきことが定められている。また橋梁においては道路橋示方書により、地震時に応答が複雑なものについては時刻歴応答解析を行うことが定められている。時刻歴応答解析は、過去の大地震の地震波を数値化した設計地震動を設計モデルに与えた時の構造部の挙動を解析するもので、高度な技術を要する。この設計地震動の基準として、S波速度400m/s以上の「解放工学的基盤」における減衰定数5%での加速度応答スペクトルの大きさ(告示スペクトル)を満たす地震波という基準があり、多用される波形として以下のようなものがある。また1990年代以降は、地域特性をより反映するために、建設地近辺における小地震の波形をもとに作製された「模擬地震動波形」を使用する場合も増えてきている。ただし現行の建築基準法における長周期地震動への対策考慮はまだ不十分のままである。設計地震力構造計算には、いまだ旧態の知見にもとづく「地震地域係数」を設定しており、実態と合わなくなっている。2000年鳥取県西部地震の際は、大分県で周期5秒から10秒の長周期地震動が観測された。2003年の十勝沖地震の長周期地震動によって、北海道苫小牧市の石油コンビナートでスロッシング(石油タンク内の石油の共振)によりあふれた石油に引火して火災が発生した。2004年の新潟県中越地震の長周期地震動によって、震度3だった東京都港区の六本木ヒルズでエレベーター6機のワイヤーが共鳴したためワイヤーが損傷するなどしていた。現在は、ワイヤーにガイドを設けて対策を行っている。地震管制運転装置については、方式を変更し長周期地震動でも作動するように変更された。震源から200km以上離れた関東平野では最大震度4、東京都心は震度3で有ったが周期7秒程度の揺れが約3分間継続した。エレベータに人が閉じこめられるなどのトラブルが発生した。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、震源から離れた東京都内(23区の震度は「5強」)で長周期地震動を観測し、新宿センタービルなどの超高層ビルが最長13分間、最大1.08mほど揺れていたことが判明している。また、ビルそのものが大きくゆっくりと揺れる映像も撮影されているが、世界的に見ても大都市のビルが軒並み長周期地震動によって揺れる映像が撮影された例がない。さらに震源から数百kmも離れた大阪でも(観測された震度は「3」)、長周期震動によりエレベータ停止による閉じ込め事故が起きたり、内装材や防火扉が破損するなどの被害が出た。なお、首都圏での周期3秒以上の振動は東京湾沿岸部で大きく、東北地方の地震よりも長野県北部地震や静岡県東部地震による影響が強かったと解析されている。工学院大学の久田嘉章教授(地震工学)が、新宿区にある同大学のビルの揺れを再現したところ、ビル全体が大きく揺れただけではなく、ねじり振動という中層階が腰をくねらせたような揺れ方をする現象が起きていたと推測した。このため今回の地震では、ビル最上部よりも中層階で被害が大きかったとみられている。今回の地震については、あまりにも大きすぎる断層が震源となったため、これまで想定していなかった揺れ方や被害が起きていたとみられている。また今後、通常の長周期地震動のみならず、他の振動モードによる被害を想定した対策が必要とされている。3月9日に発生した最大前震(東京では江東区で震度3)でも同様の現象が観測されている。東日本大震災で撮影された超高層ビルが揺れる衝撃的な映像はメディアにより多くの人に視聴され、また実際の高層ビル内で人の歩行や行動が困難であったり、それまで想定されていた建物内での家具や什器の移動や転倒とは全く違う挙動が起こすことも世間に広く認識された。しかし、通常発表される震度階級ではその被害程度が分かりにくいという指摘が出た。これは震度階級が地上で体感する揺れ(周期0.2-1秒程度)に合わせた指標であるためである。これを承けて気象庁は震災翌年の2012年に長周期地震動に関する検討会を開き、翌2013年、現在の震度階級とは別に「気象庁長周期地震動階級」を設定し、同年11月から試行的に「長周期地震動に関する観測情報(試行)」として運用を開始した。同庁HPにて公開されている同年3月以降では、2015年末までに「階級3」の長周期地震動が2回観測されている。2016年4月15日未明の地震(熊本地震の余震)に伴い、初の「階級4」が熊本県宇城市松橋町で観測された。
出典:wikipedia
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