エールフランス296便事故は、1988年6月26日、フランスでエールフランスのエアバスA320型のデモ機が空港脇の森に墜落した航空事故である。事故当時、A320は最新鋭の機体であり、エールフランスでもローンチカスタマーとして同年3月28日より運航を開始した機体とあってヨーロッパ中に衝撃をもたらした。事故機である296便として飛行したA320（機体記号:F-GFKC）は、当日ミュルーズにあるユーロエアポートを離陸し、同じくミュルーズのアルザスにあるアブシーム空港で行われていた航空ショーでのデモを兼ね、モンブランを周遊するルートのチャーター便として運航されていた。午後2時50分ごろ、この時296便はパフォーマンスのために高度100フィートで滑走路に接近し、着陸復行を行う予定であった。しかし296便の機長は観客にアピールするために副操縦士の注意を無視して30フィート（約9 m）もの超低空飛行を行った上、速度も必要以上に低い状態で飛行を行った。さらに機首が上がっておりより高い迎角になっていたことも災いし、着陸復行の際にエンジンが十分なパワーを出せず、失速し空港脇の森に墜落し炎上した。この事故により乗員6名、乗客130名のうち、脱出に遅れた男児1人を含む乗客3名の死者、98名の重軽傷者を出す事故となった。先述した通り、事故原因は機長のヒューマンエラーによるところが大きい。まず、着陸装置を収納したまま1,000 フィート以下になると高度警報が鳴るようになっているが、副操縦士がこのシステムを知らなかったためアスリーヌ機長は知識不足と判断し、警告音および副操縦士の進言を無視した。さらに、アブシーム空港は小さな空港であったため当時航空機上のナビシステムに空港のデータがなく、有視界飛行方式（VFR(visual flight rules)）での進入であった。ところが、空港を見つけるのに手間取ったことと、管制塔が他の中規模飛行場より低かったため、高度を予定通りと誤認したこと、さらには観客が居たのは、実は当初進入予定だった2番滑走路脇ではなく、垂直に隣接する草地の発着場だったこと、機長が高度計を見ずに高度を誤認したこと、その上エンジン出力がアイドル状態になっていたため、着陸復行を行った際にエンジン出力が上がらなかったことなど悪条件が重なってしまい、空港から約800 メートル離れた森へ墜落してしまったのである。ところが、後述するもののフランス当局の事故調査には矛盾があり、イギリスの主席事故調査官もフランス側の事故調査に異を唱えている。結局、機長は過失致死により禁固10か月を課せられることとなった。A320の運行課長で、事故機の機長であった操縦士はこの事故の後で解雇された上に操縦免許を剥奪されるのだが、相次いで発生した事故に際して、エアバス機の欠陥によるものとして"Le pilote est-il coupable? "（日本語版:花上克己訳、「エアバスA320は、なぜ墜ちたか―パイロットのせいか、飛行機のせいか」、講談社刊）を出版し反論している。具体的にエアバス社の航空機は、特定の飛行モードにおいて高度が基準値より低くなった場合に、フライトコントロールシステムが滑走路への着陸アプローチに適した飛行制御を優先処理してしまう。すなわち、ゆるやかに機体が地面に降りるように制御してしまうのである。そのため、パイロットがいかなる上昇操作を行っても、フライトコントロールシステムが操作をオーバーライドし、一向に機体が上昇しないという状態に陥る。ちなみにこの特性は機体のフライトマニュアルに記載されており、このような場合は、まず巡航モードに切り替えてから上昇操作を行うこととなっている。この事故の場合、滑走路の位置を常に把握するために、計器着陸用の電波を常時受信し、着陸あるいはナビゲーションモードでデモフライトを行った。そして極端に高度を下げた際に、それが滑走路への着陸操作と判断され、いくら上昇操作を行っても高度が回復せずに墜落したものである。この事故ではパイロットエラーとして処理されたが、後に1994年3月に発生したアエロフロート航空593便墜落事故（こちらは機長の息子に操縦させたことが最大の原因であるが、エアバス機の特性によるものでもある）、同年4月に発生した中華航空140便墜落事故と同種の事故が発生し、いずれもエアバス社のフライトコントロールシステムがパイロットよりもコンピュータ優先であることが原因であった。この点でエアバスを批判する際によく引用される。

出典:wikipedia