『鳴門秘帖』(なるとひちょう/なるとひじょう)は、吉川英治の長編小説である。1926年8月11日から翌年10月14日まで、「大阪毎日新聞」に連載された。謎に囲まれた阿波に潜入しようとする青年隠密と、それを阻もうとする阿波藩士の戦いに、青年隠密を恋い慕う女性の恋情を組み入れたものである。中里介山『大菩薩峠』、白井喬二『富士に立つ影』と並ぶ、大衆文学を開拓した作品で、伝奇小説黎明期の傑作である。江戸時代中期、幕府打倒の陰謀が発覚した。幕府は、黒幕を阿波の徳島藩主たる蜂須賀重喜とにらみ、甲賀の隠密世阿弥を潜伏させる。しかしそれから10年、世阿弥は行方が知れず、その仲間の中には真実を知るために阿波潜入を試みる者たちがいた。虚無僧姿に身を包む隠密法月弦之丞(のりづきげんのじょう)もその一人である。世阿弥の娘であるお千絵は弦之丞に想いを寄せるが、弦之丞は隠密である関係上、その願いはかなわない。一方スリの見返りお綱は、偶然にも世阿弥の手紙を掏り取った。天堂一角、十夜孫兵衛、旅川周馬の3人は阿波の陰謀を知り、竹屋三位卿の指示のもと弦之丞の阿波潜入を阻止しようとする。当時毎日新聞の学芸部長は、病のため薄田泣菫の代わりに、阿部眞之助が務めていた。阿部は当時「サンデー毎日」の代表作家白井喬二に目をつけ執筆を依頼しようとしたが、編集長に断られてしまう。のち白井は「報知新聞」に『富士に立つ影』を連載、これに対抗しようと考え講談社に作家の調査を依頼、そこで指名されたのが吉川英治であった。執筆にあたり、伊上凡骨の案で阿波に興味を示し、司馬江漢の随筆『春波桜筆記』にヒントを得た作品である。蜂須賀重喜は30代で蟄居を命じられ、72歳まで生きた。作者は重喜の蟄居の裏には大きな謎があるとふみ、伝奇時代小説の伝統を踏まえつつ、宝暦事件で敗れた竹内式部、明和事件で敗れた山県大弐といった公卿の存在を鍵に、重喜が幕府転覆の黒幕であるという想像を盛り込んでいる。読者からの人気は高く、当時の大衆小説の代表的作品となった。新聞連載中に映画化、戦後にも映像化されている。なお本文中のルビは「ひじょう」となっているが、「ひちょう」と呼ばれて流通している。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。