ニジマス(虹鱒、学名:"Oncorhynchus mykiss"、英名:Rainbow trout)はサケ科に属する淡水魚。食用魚であり、釣りの対象にもなる。成魚の体長は一般的に約40 cm前後であるが、大型のものは60〜120cmにまで成長することもある。体全体にはっきりした黒点があり、エラから尾びれにかけての体側部に赤から赤紫色の模様があるのが色彩上の特徴である。繁殖期のオスに現れる婚姻色として、非常に見事な虹色の光沢が発色し、それが英名及びその直訳である標準和名の由来となっている。仏語ではトリュイット・アルカンシエル (truite arc-en-ciel)。ニジマスの基種とその亜種の天然分布域は、カムチャツカ半島から北アメリカ大陸西岸(太平洋岸)のアラスカ、カナダ、アメリカ、およびメキシコ北西部の一部である。夏でも水温が摂氏12度以下の冷たい水、特に流れが速く、酸素を多く含む川に生息する。冷水の湖などにも生息するが、サケ科としては比較的高温の22℃程度の水温でも生息可能である。熱帯地域にも移入されているが、これは標高1200メートル以上の高地である。肉食性で、水生昆虫や貝類、甲殻類、水中を流下、水面に落下してくる小昆虫、他の魚の卵や小魚などを捕食する。飼育下で餌付けされた個体は各種配合飼料、乾燥オキアミ、トウモロコシといった死餌も食べる。本種は基本的には一生を淡水で過ごす河川残留型の魚であるが降海する個体もいる。ニジマスは海水適応が可能な種として知られている。なかには汽水域や海に下る個体もいて、他のサケ類のように海を回遊し、河川への遡上を行う。降海型の個体は、特に大きく成長しやすく、全長1.2m、体重25キログラム程度の記録もある。頭部上面が黒っぽくなる事から、日本ではテツ、英語ではスチールヘッド (Steelhead) などと呼ばれる。この個体が産地周辺の川を遡上することがある。テツは知床半島周辺の海で捕獲(漁獲)される場合があるが、回遊範囲など海洋での生態は十分に解明されていない。近年では、湖やダム湖など大きく成長した銀化した河川残留型(陸封型)のニジマスも陸封型及び降海型を問わずスチールヘッドと呼ばれる。繁殖時期については、生息域の水温で大きく幅がある。秋の高水温は産卵を遅らせるが比較的温暖な地域では秋から冬にかけて繁殖行動が行われるが、低水温な地域(例えば、摩周湖では6月に産卵)では春から初夏にかけて繁殖行動が行われる。また、希に養殖環境下では年2回産卵を行う個体も存在する。生まれてから2から4年目の間に成熟する例が多く、他のサケ属の魚(シロザケなど)とは違い、成熟後は1回の繁殖行動では死なず、数年にわたって繁殖行動を行なう。自然繁殖が成立する条件として、仔魚の浮上時期の増水が小規模、短期間、低頻度などの条件が整う必要がある。ニジマスの亜種および近縁種は、北アメリカ大陸の西岸(太平洋岸)にある河川、ならびに湖沼にその多くが生息している。カルフォルニア・ゴールデントラウトやリトル・カーン・ゴールデントラウトは、滝などの地質構造の変化や氷河などによって氷河期末期に河川の下流域から隔離され、高山地帯の河川の最上流域(源流域)に陸封された完全な淡水型のマスである。これらゴールデントラウトの自然分布域上流は、現在としてにより管理、および保護されている。なお、上記の天然生息域以外のシエラネバダ山脈の河川や山上湖、および他州の高山地帯の一部河川や山上湖には、ゴールデントラウトに良く似た姿や色合いの個体が棲息している。これらは、過去の受精卵(発眼卵)や稚魚の移植によるゴールデントラウトの個体群の子孫であるが、移植時の個体群が既にニジマスとの雑種であった事が後に判明している。また、現時点でのこれら個体群のほぼ全てが、同様な方法で過去に移植、又は放流されたニジマスとの交雑化が更に進行した個体群と考えられている。ニジマスの天然分布域の北には、近縁種のカットスロートトラウト (Cutthroat Trout, "Oncorhynchus clarki") が概ねロッキー山脈までの内陸部の河川上流部、ならびに湖沼に生息する。ニジマス同様、河川・湖沼残留型(陸封型)と降海型があるが分類上別種である。日本での歴史は関沢明清により1877年(明治10年)にアメリカ合衆国カリフォルニア州から移入されたのが最初とされている。これ以後、各地の渓流や湧水地帯で養殖、放流が盛んに行なわれた。その個体の一部が、北海道知床半島、摩周湖、幌内川などのような一部の地域で自然状態で定着した外来種となっている。カリフォルニアからの複数回の移入により原産地の遺伝的多様性を受け継いでいる。また、富士宮市は養殖が盛んでその量は日本一を誇っている淡水でも容易に人工繁殖することから、有用食用魚としての養殖研究の歴史が長い。特に、他のサケ・マス類との交雑種が研究され、食味向上や高成長率、耐病性向上により養殖効率をあげるための研究がされ、一部は商品化され流通している。なお、自然界に逃げ出し天然魚と交雑することによって既存生態系の遺伝情報に交雑種の遺伝子が組み込まれるのを避けるため、養殖目的で人工的に作出す交雑種は、3倍体メスを利用する。その手法は、1.変異個体の系統選別育種、2.異種交配、3.染色体操作などである。これらの方法は、サクラマス養殖などにも応用されている。系統選別育種は、一定の特徴を持った個体を選別し系代飼育することで系統固定する手法である。現在の異種交配は、不妊化により養殖魚が場外流出し在来魚種に与える影響を軽減する目的で、ホルモン処理による全メス化と後述の倍数体個体との交配を併用する方法がとられている。ニジマスにおける染色体操作とは、受精初期の未分化卵を通常の自然界ではあり得ない圧力や温度環境下(例:26℃20分間)に受精卵を置くことで、減数分裂を抑制し倍数体個体を作出する方法である。これらの技法により不妊化魚(生殖能力がない事から生殖の為のエネルギー消費がなく短期間で大きく成長する)三倍体個体の作出や採卵後の性転換技術がニジマスだけでなく、ヤマメ、イワナ等でも確立されている。三倍体雄魚は性成熟するが三倍体雌魚は性成熟しないとされるため、成長が早く年間を通じ食味の変化が少ない。また、作出された種や系統は登録商標として登録されている場合が多い。実際の作出例は、ニジマスが産卵床を形成する際にイワナ類の産卵床を掘り返す(ニジマスは日本の渓流魚の代表であるイワナ、オショロコマより産卵時期が遅い)事や餌の競合により在来種の生息に悪影響をあたえるため、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律において要注意外来生物に指定されている。しかし、現在も公的機関の主導のもと養殖事業として日本各地に導入されており、ときには一部の釣り団体が私的に放流するケースもある。北海道では1920年に支笏湖に放流されたのにはじまり、今では72の水系に定着している。在来魚種への影響として知床半島の幾つかの河川では、ニジマスの侵入により生息域を奪われた在来種のオショロコマの生息が確認できなくなっているほか、良留石川では残留型サクラマス(ヤマメ)を駆逐し優占種となっている。本州以南の多くの河川では放流しても定着しにくい魚という評価があり、同じ外来種のブラックバスと比べて導入について寛容的な自治体が多い。定着しない理由として、放流してもすぐに釣られること、さらに梅雨時の増水で繁殖ができなくなることが挙げられる。また、世界の侵略的外来種ワースト100、日本の侵略的外来種ワースト100の双方に選定されている。こうした外来種としての問題を重要視する釣り団体の中には放流を自粛する動きもみられる。さらに、外来種のニジマスではなく在来種のサケ・マス類の利用に転換し、地域の自然を見直すべきとの意見もある。しかし、現状では多くの地域でニジマスの水産資源としての価値を優先し、活発に放流され続けている。このような問題は、ブラウントラウト、カワマス、レイクトラウト、シナノユキマスといった他の外来サケ・マス類でも同様に存在する。日本以外にも世界中へ移入されており、生態系に深刻な影響を与えている。アメリカでは、競争や遺伝子汚染によりサケ類を駆逐している。なお、日本国内の水域で自力繁殖を繰り返すという意味での定着はしにくいニジマスであるが、 釣魚、食用魚としてのニジマスは国民の間に文化的定着が完了している。ザリガニにおけるアメリカザリガニと同様、20世紀末の時点で既に単に「マス」といえばニジマスを指し、「マス釣り場」=「ニジマス釣り場」を意味するようになっている。養殖し成長させた成魚から採卵・孵化させた稚魚を生産する完全養殖が、淡水で行われる。海面養殖されたニジマスは、サーモントラウト、トラウトサーモンとも呼ばれ販売されている。1926年(大正15年)、長野県明科町(現在の安曇野市)で日本国内の養殖が開始された。1943年(昭和18年)には500トンの生産が記録されている。戦後は山形県、長野県、静岡県などで多く養殖され、1953年以降本格的にアメリカやカナダにも輸出され1971年に3,084トンまで増加した。しかし、1973年の為替変動により輸出主導から国内向けに転換し1982年に過去最高の18,200トン余りを記録したが、2004年8,800トン余りまで減少している。受精卵は10℃で30日程度で孵化し、孵化から60日程度を経過したら餌付けを開始する。孵化から4ヶ月を経過すると3g程度まで成長する。食用魚の養殖は食味や生産性を考慮したものが必要で養殖適水温は13 - 18℃が望ましく、溶存酸素量は生育に大きな影響を与えるため、曝気用に水車を設置する場合が多い。水温が高いほど成長は早くなるが感染症の危険も高くなる。日本で最も多く需要のある大きさの23cm程度まで育てるには、孵化後1 - 2年が必要。冷凍輸出用や採卵用、遊漁用として、30 - 60cm以上まで育てられる場合もある。2006年現在では静岡県が生産量として最も多く、続いて長野県、山梨県の順に生産量が多い。静岡県では富士宮市が、市町村単位では日本一のニジマス生産量を誇っている。富士山の麓に位置し、養殖に必要な湧水が非常に豊富なことが養殖を可能にしている。また、長野県では安曇野市(前述の明科町)などで、山梨県では富士吉田市などで生産量が多いが、これらも北アルプスや富士山からの湧水が豊富な地域である。山梨県養殖漁業協同組合は独自に策定した登録要領をクリアする養殖ニジマスを「甲斐サーモン」と名付けてブランド化している。なお、「甲斐サーモン」はあくまで当該漁協の品質基準に依拠するブランド名であり、品種として一定の遺伝的特質を持つよう作出されている個体群などではない。一部の管理釣り場等でこの「甲斐サーモン」が種名や品種名であるかのように紹介されているが、そうではないので注意が必要である。現在市販されるニジマス用配合飼料は、白身魚(スケトウダラ)を主とする動物性タンパク質を約55%、小麦粉などの穀類や糟糖類を約35%、ビタミンやミネラルが添加され蛋白質量は43%以上という物が主流で、給餌直前に油を添加する。飼料の粒の大きさは成長度合いに合わせ複数有り、適切な大きさの物を選択し与える。後述の赤系色素を配合した餌を与えることで、サケに似た薄紅色の身をもつニジマスが成長する。年間を通じ入手することが出来るが、春先から夏に店頭に出回ることが多い。100–140グラム程(20 - 23cm程度)のサイズは、白身で塩焼きやムニエル、甘露煮として食べる。カロチノイドの一種である赤系色素のアスタキサンチンと蛋白質が結合したカロテノプロテインを主として構成される外殻を持つエビやカニ等の甲殻類を配合した、魚粉が主体の飼料で2 - 3年程かけて2 - 3キログラムほどに育てたものは、薄紅色のサーモンピンクの身になり、刺身や寿司などの生食がメインとなる。飼料にもよるが、輸入物の鮭鱒に比べて脂ののりが薄く、さっぱりとして癖が無いのが特徴となる。通常の輸入鮭鱒と比べても高価な部類に入る上に、生産量が少ない為、一般的に消費者の口に入る機会は少ない。店頭にてサーモントラウト、トラウトサーモン、トラウト等と表示される切身は、ノルウェー、チリ産の海面養殖されたニジマスである。これらの名前は商品名であり、魚種を示す名前ではない。国産の養殖の大型ニジマスはこれらに比べて、生産量や人件費の関係で比較的高価であり、輸入物のサーモントラウトと比較すると2–3倍の価格であることが多いようである。また、「サナダムシがいる為に生食が出来ない」という認識は国内の養殖ニジマスに関しては誤りである。過去20年間に渡り、養殖ニジマス6,306個体を検査した結果、サナダムシは発見されていない。サケ科魚類に寄生しているアニサキスやサナダムシ(日本海裂頭条虫)は鯨を終宿主とし、オキアミやイカ類を中間宿主としている。サケ科魚類にこれらの寄生虫が寄生するのは、寄生虫が宿るアミやイカ類が生息する北極圏付近の遠洋を回遊中のことであるから、国内で養殖する際には寄生されない。(図式はこうである:アミやイカ → 魚 → 鯨)ニジマスは、釣りの対象魚としても人気がある。管理釣り場では初心者や子供も手軽に釣りを楽しめる。管理釣り場のニジマスは肥満した個体や30センチ以上の大型のものも多いので竿も引きに負けない強度がある万能竿などが適する。浮子(ウキ)を使い、糸も太めでよい。エサ(イクラやブドウ虫(ブドウスカシバやハチノスツヅリガ等の蛾の幼虫)など)をつけ、ニジマスの数メートル前に落とす。アタリは明確なことが多い。アタリが来たら竿をあげる。ただし、ハリを飲み込まれることが多いので注意すべきであり、できれば針を外すために針外し(Disgorger)か鉗子(フォーセップ)を用意したい。ニジマスは食いつきもよく、引きもなかなかで、味もよい。管理釣り場の場合、アユのヤナと同様に食堂が併設されている事が多いので家族そろってのレジャーに最適である。河川での釣りは渓流釣りとなる。ウキ釣り (float fishing) ではなく、浮子の代わりに毛糸などの目印をつけたミャク釣りで行う。糸も細くし、エサもトビケラ、カワゲラ、ミミズなど河川に生息する虫を使うと良い。釣法はヤマメ・イワナなどに準ずるが、釣り上げるのがやや容易である。そのため、渓流釣り師の間では入門魚として見られ、ヤマメ・イワナなどの前座のような扱いにされることが多い。ただし河川でもやや大型が多いことを考慮したい。ダム湖や標高の高い山岳地帯にある火山性の湖沼、本流(上流域の下流部)には40センチを超える大物もみられる。中でも、50cmを超える大型で肉付きも良く、ダイナミックなファイトをするものは、スーパーレインボーと呼ばれ、釣り人に人気のターゲットとなっている。また、一部の湖ではレイクトローリングによって超大型を狙える。野生化すると小魚や、水生昆虫、落下した昆虫などへの反応もよくなり、格段に激しいファイトをするのでフライフィッシングやルアーフィッシングで盛んに狙われるゲームフィッシュとなっている。なお、一般にゲームフィッシングで、基本的に魚を釣り上げても持ち帰らずに逃がすキャッチ&リリースが理念・思想のひとつとなっている。フライパターンなどを探るため、ストマックポンプという専用器具を利用し、魚を殺す事なく腹の内容物を採取し観察することもある。ただしゲームフィッシングにおいても、明らかに魚が生存不能であると判断した場合(デッドリリース)のみ、供養の意味もこめて食すことがある。毛鉤を使った日本の伝統的なテンカラ釣りも行われており、こちらもヤマメ・イワナなどへの入門魚のような感覚で釣られている。テンカラ釣りは、もともと、漁師が、手返しよく釣るために行われた釣りである。フライフィッシングほどゲームフィッシングというイメージが定着しておらず、日本古来からの伝統芸のような雰囲気を持つが、簡単な服装で行うことができることなどから徐々に注目されてきており、テンカラ釣りの専門誌も多数発行され、普及ぶりはフライフィッシングを凌ぐ勢いである。
出典:wikipedia
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