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法と正義

法と正義(ほうとせいぎ、)は、ポーランドの政党。党首はヤロスワフ・カチンスキ。略称:PiS(ピス)。1990年5月に結成された中央同盟(PC)を前身としている。1991年議会選挙では、選挙連合「市民中央同盟」(POC:Porozumienie Obywatelskie Centrum)を結成して選挙に臨み、得票率8.71%で44議席をセイム(下院)で獲得(セナト(上院)では9議席)したが、1993年の選挙では、得票4.42%に留まり、議席阻止線の5%を超えられず、国会における議席を失う結果となった。その後PCは“「連帯」選挙行動”(AWS)に参加(1997年4月)、1997年の選挙では、AWSの構成メンバーとして候補を擁立し、14議席を獲得したが、1999年11月にAWSを離脱した。その後、PCの主要メンバーであるレフ・カチンスキとドルン(Ludwik Dorn)を中心に新しい組織作りを進め、2001年4月13日にPiSが政党登録された。同年に行われた議会選挙では、セイムで得票率9.50%、44議席を獲得した。「すべての人に公正な第4共和国」をスローガンに掲げ、テレビコマーシャルやインターネットを駆使した宣伝活動を行なって支持を拡大、セイムにおいて得票率26.99%で155議席、セナトで49議席を獲得し、第一党に躍進した。選挙後、保守政党であるポーランド家族連盟(LPR)と自衛(Samoobrona)の協力を得て、マルチンキィヴィチを首班とした連立政権を発足させた。議会選後に行われた大統領選挙においても、カチンスキが市民プラットフォーム(PO)のトゥスク(Donald Tusk)を決選投票で破って当選し、首相と大統領の両方をPiSが握ることとなった(首相に関しては、2006年に大統領の双子の兄であるヤロスワフ・カチンスキに交代)。2006年5月からはLPRとSamoobronaの正式な連立政権が発足したが、Samoobrona代表であるレッペル(Andrzej Lepper)の汚職問題をきっかけに、連立政権内で対立が生じ、2007年8月にPiSをLPRとSamoobronaとの連立解消を宣言、9月には民主左翼連合(SLD)が提案した議会解散決議に賛成票を投じたことで議会が解散され、総選挙が行われた。選挙では、得票率32.11%、166議席を獲得し、結党以来最多議席を獲得したが、POがセイムで200議席以上を獲得したため、POとポーランド農民党(PSL)による連立政権が発足したことで、PiSは下野することになった。この結果、セイムと大統領の間で、与党が異なる「コアビタシオン」が生じることとなった。2010年7月の大統領選挙では、ヤロスワフ・カチンスキ前首相が立候補、大統領代行のブロニスワフ・コモロフスキ下院議長(PO候補)と争ったが、敗北。翌2011年10月の議会選挙では、得票で前回比2%減、議席数で前回比9議席減で第2党に留まり、政権奪回をすることはできなかった。また選挙後、党内改革の必要性を訴えていたジョブロ欧州議員など3名が党を除名されたことに端を発し、欧州議員らに同調する党所属の下院議員16名と上院議員1名が議員クラブ「連帯ポーランド」(SP)を結成した。2013年8月に行われた党大会で党首選挙を実施、唯一の立候補者であったヤロスワフ・カチンスキを党首に再選した。2014年5月の欧州議会議員選挙では19議席(得票率31.78%)を獲得、同じく19議席を獲得したPO(得票率32.13%)と並んだが、得票では僅差でPOに次ぐ二位となった。同年7月、2015年秋に予定されている総選挙において、PiSと同じ右派政党であるSPや「ポーランドと共に」(PR)と共通の候補者リストで選挙に挑むことで合意した。国民保守主義的、ポーランド・ナショナリズム的な政党で、キリスト教民主主義のうちでもより保守的な傾向がある明確なカトリック右派政党である。社会的・経済的にとりわけレデンプショニズムの色彩が強く、また内外問わず政治的対抗者と対決しそれに勝利することによって理想を実現させようとする。内部はヤロスワフ・カチンスキ党首の権力基盤が強い。比較的教育程度や所得の低い層や高齢者から安定した人気を得ている。典型的な保守(右派)政党であり、ノーラン・チャートでは左下の大衆主義にあたるが、同じ大衆主義でもファシズムのような排外主義でなく、確固たる多民族共存主義を採っており、いわゆる極右政党ではない。南部の街オポーレのドイツ系ポーランド市民が長年享受している政治的・社会的な「民族特権」のこれ以上の維持については明確に反対の立場を採り、こういった特権を廃し一般のポーランド人としての通常の権利を賦与すべきだと主張しているが、ドイツ国営国際放送ドイッチェ・ヴェレはこれをもってこの政党が排外主義的で反ドイツ的な「国粋主義レトリック」を用いる政党と解釈をした報道の仕方をしている。大統領権限の拡大を志向しており、大統領が自由に法案を提出し、議会が反対しても大統領の一存で法律を成立させられる、フランス型の大統領制に向けての法改正を求めている。同党の最大のライバル政党である市民プラットフォーム党とは経済政策と外交政策の方向性のほか、このように政治制度をめぐって激しく対立している。逆に、市民プラットフォームは、ドイツやイタリアのような議院内閣制共和政体の充実(内閣の権限の拡大と、大統領の権限の更なる縮小)を提唱している。脱共産化による民主主義を主張しており、共産党時代(1945年~1989年)の遺産の除去や、国外の政治勢力と連携した共産主義への取り締まり運動に積極的である。共産党時代に内務省人民部などと通じていたものを社会から全て追放するための政策を多く打ち出している。そのため、与党時代(2005年~2007年)には数多くの政府組織を立ち上げた。下野した後も、2009年には「共産主義の標章を禁止する法案」を提出し、これが可決された。「法と正義」が最もその力を集中している項目は社会政策である。汚職の追放を最優先課題としている。政治資金などといったいわゆる金銭問題にはクリーンな傾向を持っており、これによって国民から一定の支持を得ている。国民保健制度は公立病院の医療費が原則無料である従来の制度を堅持。同性愛や安楽死には反対で、一切の妥協を許さない。男女は人間として平等であっても家庭や仕事において性の違いによる役割の区別はあるべきだ、という伝統的な家族観の堅持とその道徳的普及に努め、性や暴力の表現に関してはマスメディアの統制も辞さない構えである。少子化対策に積極的で、子ども手当、若い夫婦向けの低価格の住宅の提供、結婚している女性への産休期間の長期化と所得保障、日曜と祝日における小売店の休業の強制化(従事者が家族と過ごすことができるため)、人工授精の援助などを打ち出している。男女の機会平等や女性の社会的進出を推し進めるなどといったことよりも、女性の健康や現在の社会的立場を保護する政策を採る傾向を持つ。この政党が他国の右派政党と最も異なる点は、自民族中心主義とは明確に距離を置いていることである。民族差別や人種差別を嫌うのは中世を通じて多民族国家で黄金時代を築いたポーランドの旧シュラフタ(武家)社会の伝統文化の枢要な部分であるとの考えを堅持し、カトリックのコスモポリタニズムに基づいた保守主義を貫いている。外国人出稼ぎ労働者の受け入れには積極的で、ウクライナやベラルーシ、そしてロシアのカリーニングラードなどといった欧州連合(EU)外の近隣国からの出稼ぎの制限を緩和している。特に積極的な親ユダヤ主義政党であり、世界中のユダヤ人やイスラエルとの友好関係構築を重視している。党首のヤロスワフ・カチンスキは自身の子供の頃、戦後の社会に一時的に吹き荒れた共産主義と国粋主義の混じった風潮で当時の自分の大切な親友であった何人ものユダヤ人たちが国外移住を余儀なくされたこともあり、現在でも共産主義と反ユダヤ主義を激しく憎んでいることが広く知られている。一方、イスラーム教及びムスリムに対しては厳しい姿勢を貫く。2015年に欧州へと大量に流入しているシリア難民に対してカチンスキ党首は難民たちが「ギリシャの島々にコレラを、ウィーン(Vienna)に赤痢を、そしてさまざまな種類の寄生虫を持ち込んでいる」などと反難民姿勢を強く表明し支持の獲得に努め、総選挙での圧勝に導き8年ぶりの与党へ返り咲いた。一定の市場経済化を進めるものの、政府主導による所得再分配を条件し、国民の最低所得の引き上げに積極的である。所得税の減税によって経済を活性化させようとする一方、累進課税を強化して高所得者の税負担を強化、積極財政で低所得者への給付の増額を行おうとする。財政支出については公共投資よりも社会保障、そしてそのうち公共投資もインフラ整備や職業教育よりも公営企業や小中学校への補助金、という考えである。政府は積極的に中央銀行の金融政策に関わるべきだとし、2005-2007年に政権を担当していた時には金融ハト派の人物でカチンスキ党首子飼いの人物であるスワヴォミル・スクシペク(2010年4月10日、ポーランド空軍Tu-154墜落事故にて死去)をポーランド国立銀行総裁に据えた。財政支出拡大派かつ金融ハト派であるため、財政規律の厳格化と明確なインフレ対策を条件とする欧州連合(EU)の共通通貨ユーロの導入には消極的。財政について給付と負担の関係について詰めが甘いため金融市場からの評価は低く、2010年の大統領選挙の歳には、もし党首のヤロスワフ・カチンスキが当選すれば投資家がポーランドから逃げてしまう可能性が指摘されていた。非民主的な諸国に対しては典型的なタカ派外交を展開する。欧州連合(EU)の統合には懐疑的で、アメリカ合衆国と北大西洋条約機構(NATO)との連携に積極的で、米国が行っている対テロ戦争を支持し、アフガニスタンやイラクにポーランド軍を派兵した。イスラエルとの関係強化にも積極的である。欧州議会においてはイギリスの保守党と統一会派を組んでいる。ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、グルジアといった東欧諸国の民主化の援助に積極的で、時に強権的な手法を使うため関係国と軋轢を起こすこともある。2010年に起こったレフ・カチンスキ前大統領が死亡したスモレンスク航空機事故のあと、ロシアが官民挙げて捜査への協力とポーランド人への哀悼を惜しまなかったことで党首のヤロスワフ・カチンスキはそれまでのタカ派姿勢から一転、ロシアの全国メディアを通じて演説し、その際にロシア人を「われわれ(ポーランド)の友人」と呼んで深く感謝するとともに、ロシアとの関係修復と相互の友好発展に積極的に取り組む姿勢を約束した。一方、2010年の大統領選挙の際、ベラルーシでポーランド系住民が政治的に迫害されていることに関して、大統領候補者のカチンスキ党首がポーランドとロシアの二カ国で直接協議をしてこの問題を解決すべきと述べたことは、こういう問題はまず欧州連合(EU)を通じた多国間で取り組み、決してポーランド単独で行うべきではないとする最大のライバル政党市民プラットフォームとの外交政策の方向性の違いを改めて浮き彫りにした。世界市民的なカトリック保守主義を党の最も主要な理念とする同党は人種や民族による社会的差別には断乎として反対している。外国からの移民、難民、出稼ぎの受け入れに積極的。これはファシズム等の過激で排他的なナショナリズムとは決定的に異なる点の1つである。外国のマスメディアは同党があたかも人種差別主義のファシスト政党であるかのような誤った紹介を頻繁にするため、イギリスのデイヴィッド・ミリバンド外相までもがそれに影響されて誤解し、2009年、欧州議会における同党代表ミハウ・カミンスキ議員を反ユダヤ主義者のネオナチだと名指ししたことがあるが、ポーランド国内のユダヤ教の最高指導者(チーフ・ラビ)マイケル・シュードリックが出てきて、カミンスキ議員は反ユダヤ主義者であるどころか最もユダヤ人とイスラエルに親しい人だ、ミリバンド外相はポーランドを全く理解していない、とイギリスに抗議し、野党であるイギリス保守党のデイヴィッド・キャメロン党首が「ミリバンド外相はポーランドとカミンスキ議員に公式謝罪すべきだ」と詰め寄る騒動となった。つまりこの政党は、ポーランド民族のエゴを押し通して他者を排除する民族主義(nationalism)や自民族至上主義(ethnocentrism)ではなく、民族によらずポーランドという国家の主権を守ろうとする愛国主義(patriotism)の理念を強く持っている。同党の標榜するEUへの主権移譲に対する慎重論はこの愛国主義から来ているものであってファシズムとは関わりがないのであるが、党がしばしば取る対決的姿勢(confrontationalism)のため多くの場面で理念上の誤解を招いている。一方、2015年に起きたEUのシリア難民受け入れ問題に対しては「非ヨーロッパ的価値観が入り込む」等、選挙では有権者にムスリムに対する警戒心を煽り、ハンガリーやスロバキアなどと共にシリア難民受け入れに断固反対する姿勢を示すなど、依然として排外主義の政党であるとの警戒感は根強い。

出典:wikipedia

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