『エイリアン』(Alien)は、1979年公開のアメリカ合衆国の映画。大型宇宙船の薄暗い閉鎖空間の中で、そこに入り込んだ異星人(エイリアン)に乗組員たちが次々と襲われる恐怖を描いたSFホラーの古典であり、監督のリドリー・スコットや主演のシガニー・ウィーバーの出世作でもある。エイリアン(Alien)が「(敵対的な)異星人」を意味する単語として広く定着するきっかけともなった。エイリアンのデザインは、シュルレアリスムの巨匠デザイナーH・R・ギーガーが担当した。本作以降、続編やスピンオフが製作されシリーズ化した。 スコット自身による本作の前日譚となる3D映画『プロメテウス』が2012年6月に世界各国で公開された。1980年の第52回アカデミー賞では視覚効果賞を受賞。同年第11回星雲賞映画演劇部門賞受賞。公開時のキャッチコピーは「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。(In Space No One Can Hear You Scream.)」。西暦2122年、宇宙貨物船ノストロモ号は他の恒星系で採掘した鉱石を積載し、地球へ帰還する途上であった。乗組員達はコールドスリープから目覚め、到着も間近かと思われた。しかし、船を制御するコンピュータ「マザー」が、知的生命体からのものと思われる電波信号を受信し、その発信源である天体に進路を変更していたことが判明する。困惑する乗組員達だが、科学主任のアッシュによると雇用主のウェイランド・ユタニ社は契約書に「知的生命体からと思しき信号を傍受した場合は調査するように」と書いていた。やむなくノストロモ号は牽引する精製施設を軌道上に切り離し、発信源の小惑星に降り立つ。船長ダラス、副長ケイン、航海士ランバートの3人が船外調査に向かい、謎の宇宙船と化石となった宇宙人を発見。その宇宙人には中から何かが飛び出したような傷痕があった。調査を進めるうち船の底に続く穴があることを発見。ケインがそこに降りると、巨大な卵のような物体が無数に乱立する空間へ辿り着く。その一つに近付いた際、彼の身に予期せぬ事態が発生する。その頃、船に残った航海士のリプリーが信号を解析した結果、それは遭難信号などではなく、何らかの警告であることが判明し、彼女は不安に駆られる。3人は船に帰還したものの、異変を感じたリプリーは防疫を理由に船内に入れることを拒む。しかし、アッシュの判断によりエアロックが開けられた。そこでリプリー達が見たものは、蜘蛛のような生物(フェイスハガー)がヘルメットのシールドを溶かし、ケインの顔に張り付いた姿だった。アッシュが調べた結果、ケインは昏睡状態だがフェイスハガーは彼に酸素を供給していた。すぐに除去しようと体の一部を外科装置で切ろうとすると強酸のような体液が流れ出し、船の床を溶かし下層まで穴が空いた。危険だと判断し引き剥がすのは断念したが、フェイスハガーはその後、自然にケインの顔から剥がれ落ちて死んだ。リプリーはすぐにその死骸を捨てるべきだと主張するが、アッシュは貴重な地球外生命体のサンプルなので死骸を地球に持ち帰るべきだと主張し、ダラスもそれに同意した。リプリーはこのような大事な決定をなぜアッシュ1人に任せるのかと彼に詰め寄るが、会社の意向だと押し切られ、彼女は不満をあらわにする。船は小惑星を離陸したが、地球まではまだ10ヶ月も旅をしなければならなかった。その後ケインは意識を取り戻し、何事もなかったかのように回復したかに思われた。しかし、乗組員たちとの食事中に突然激しく苦しみだすと、やがて胸部を食い破って奇怪なヘビのような生物が出現、驚愕のあまり呆然とする乗組員の間を駆け抜け逃走する。ケインはフェイスハガーによって体内に幼体(チェストバスター)を産み付けられていた。恐るべき事態が発生したことを認識した乗組員達は船内を捜索するが、その間に脱皮し、より大型に変貌したエイリアンは機関士のブレットを襲い、通気口へ身を潜める。乗組員達はアッシュのアドバイスに従い、エイリアンをエアロックへ追い込み、宇宙空間へ放出する事に決定。追い立てるためにダラスが単身通気口に進入するが、エイリアンの能力は彼らの想像を遥かに上回っており、返り討ちに遭う。船長を失った一同は団結力を失う。リプリーと機関長のパーカーはダラスの立てた作戦を続行しようと主張するが、ランバートは船を棄てて脱出艇で逃げることを提案する。しかし、シャトルに4人全員が乗ることはできなかった。そんな中、リプリーは議論に参加しないアッシュの態度に疑念を抱き、直接「マザー」に詳細を問いかける。そこで彼女は、会社が秘密裏に「生きているエイリアンの捕獲と回収」を最優先事項としていたこと、さらに「乗組員の命が犠牲となってもやむを得ない」とプログラムされていることを知り、アッシュに怒りをぶつける。真相を知ったリプリーをアッシュが襲い殺害しようとするが、駆けつけたパーカーとランバートが阻止し、アッシュは「破壊」された。彼の正体は、会社が乗組員たちを監視するために送り込んだアンドロイドであった。リプリー達はアッシュを修理して尋問したところ、会社は最初からエイリアンの捕獲と回収を目的として乗組員を雇っており、その為にはいかなる犠牲も顧みないつもりであること、また、エイリアンは完璧な生命体であり、生き延びられる可能性はないと告げられた。もはや会社との契約を守る意義のなくなったリプリー、ランバート、パーカーはアッシュを火炎放射器で焼却して完全に破壊、本船を切り離して自爆装置で爆破し、脱出艇で逃れて救助を待つ計画を立てる。しかし、彼らが二手に分かれて脱出の準備をしている間に、エイリアンは通気口から這い出ており、ランバートとパーカーに襲いかかる。悲鳴を聞いたリプリーが駆けつけるが、そこには2人が無惨な姿で残されていた。たった1人残されたリプリーは、深い悲しみと恐怖に襲われながらもノストロモ号の自爆装置を起動し、猫のジョーンズを連れてシャトルに乗り込もうとするが、その入口を目前にして通路上にエイリアンがいることに気づく。大慌てで脱出を中断し、自爆装置の解除を試みるが僅差で間に合わず、カウントダウンは止まらなかった。決死の覚悟でリプリーはシャトルの入口に戻るが、そこには誰もいなかった。エイリアンが通路から立ち去っていることを何度も確認し、ジョーンズと共にシャトルへ搭乗、ただちに発進させる。直後にノストロモ号は大爆発し、全ては終わったかに思われた…。※20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンの「吹替の帝王」シリーズ第7弾として、上記の全5種類の吹替版を収録したBlu-ray Disc「エイリアン 日本語吹替完全版 コレクターズ・ブルーレイボックス」が2014年11月5日に発売された。劇場公開版(117分)とディレクターズ・カット版(116分)の2種類の本編が収録されており、劇場公開版にはテレビ版2種とLD版、VHS・DVD版の4種類、ディレクターズ・カット版にはDVD・Blu-ray Disc版の吹替版が収録されている。特典としてテレビ版吹替台本2冊、幸田直子/大塚明夫のインタビュー集が付属している。また、製作35周年とH.R.ギーガー追悼記念として、シリーズ4作、本作のメイキング集とアーカイブ集、『プロメテウス』の2D版、3D版、特典ディスクを収録した9枚組「エイリアン H.R.ギーガー・トリビュート・ブルーレイコレクション」も発売されている。特典としてH.R.ギーガーアートカードセット、オリジナルコミック、オリジナル劇場ポスターセット、H.R.ギーガー追悼ブックレットが封入。コマーシャルにはテレビ朝日版でダラスを演じた大塚明夫が担当している。『エイリアン』の原案はダン・オバノンによって生み出された。南カリフォルニア大学在学中の1974年、ジョン・カーペンターと組んで『ダーク・スター』を製作したオバノンは、より本格的なSFホラーの製作を望んでおりオリジナルの脚本を温めていた。それは『メモリー』という題で、「宇宙船が未知の惑星に降り立ち、謎の生命体を発見する。乗組員がそれに寄生され、やがて体内から怪物が誕生する」という内容であった。当初は38ページに満たない未完成の脚本で、怪物の姿が漠然としていたことから展開に行き詰っていた。そんな折、オバノンに接触してきたのがロナルド・シャセットである。彼はフィリップ・K・ディックの短編作品『追憶売ります』の映画権を取得していたものの、まだ仕事がなかった。『ダーク・スター』を見てオバノンを同好の士と考えたシャセットはオバノンに会いたいと手紙を書く。南カリフォルニア大学のキャンパスで『メモリー』を読んだシャセットは「『メモリー』を完成させたら自分がロジャー・コーマンの元に持ち込むので、自分の『追憶売ります』を翻案する作業の手助けをして欲しい」と共同作業を提案した。この頃、『デューン/砂の惑星』を企画中であったアレハンドロ・ホドロフスキーから、オバノンに同作の特殊効果担当の依頼が舞い込む。オバノンは許諾し製作チームに加わった。これにより『メモリー』の脚本は一時的に宙に浮くこととなる。チームには宇宙船のデザインにクリス・フォス、コスチュームデザインとしてジャン・ジロー、さらにサダムIV世役に指名されていたサルバドール・ダリの推薦により、後にH.R.ギーガーが加わっていた。しかし『デューン/砂の惑星』は資金難から製作半ばにして中止となり、オバノンは無一文となってしまう。胃の病を発症していた彼はシャセットの家に転がり込み一週間もふさぎ込んでいたが、未完のままの『メモリー』を完成させるようシャセットに提案され、再び脚本を練り始めた。オバノンは『メモリー』とは別に『グレムリン』という脚本を構想していた。それは「東京から帰るB-17の中にグレムリンが侵入し、乗組員を一人、また一人と殺していく。怪物を倒さない限り乗組員は故郷へ帰れない」という骨子であった。その要素を応用してはどうかというシャセットの助言を受け、オバノンは『メモリー』に適用させた。すなわち舞台を爆撃機から宇宙船へ、グレムリンを異星の怪物に変更したのである。完成したそれは宇宙空間における『テン・リトル・インディアンズ』と呼べる内容となった。この時点で脚本の基本的な流れは完成版と同一であったが、乗組員が発見するのは遺棄船ではなく「ピラミッド」であることや、卵ではなく「胞子ポッド」から出てきた寄生体に襲われる、宇宙船の名前が「スナーク号」であるといった差異がある。題名は『メモリー』から『スタービースト』へと変更された。『スタービースト』の内容はロジャー・コーマンの目を引いたが、企画が形になる前に、二人の友人であった独立系映画監督のマーク・ハガードが『スタービースト』の脚本を評価し、出資者探しを買って出ることになった。オバノンは視覚的な側面からプレゼンテーションを行うために、『ダーク・スター』で知己であったロン・コッブにイラストを依頼する。コッブはこの時点ではまだ『スタービースト』を『ダーク・スター』のような低予算映画になるだろうと楽観視しており、何枚かのイラストを提供した。商業的な映画に相応しいものとして、オバノンは思案をめぐらせ『エイリアン』というタイトルをひねり出した。1976年、ハガードは「ブランディワイン・プロダクション」という会社と契約を成立させ、『エイリアン』の脚本は買い取られた。ブランディワインはゴードン・キャロル、デヴィット・ガイラー、そしてウォルター・ヒルの3人によって運営される制作会社であった。ヒルは脚本の内容を酷評しながらも一部のシーンに可能性を見出し、他の二人と共に20世紀フォックスの製作主任であったアラン・ラッド・ジュニアにこの脚本を売り込む。スリラーに定評のあるヒルが売り込んだということでラッドは少しだけ興味を示したが、映画化決定の許可は下りなかった。ラッド自身はこの映画が作られる見込みはほぼないと考えていた。しかし、1977年に同社配給の『スター・ウォーズ』やコロンビア映画の『未知との遭遇』が公開され、ヒットしたことで状況は一変した。SFは売れないB級という定説が覆され、一大ブームが到来した。そんな時、フォックスの手元に唯一あったSF作品の脚本が『エイリアン』であった。こうして同年10月31日に、『エイリアン』の製作許可が降りた。ヒルとガイラーが行ったのは脚本の手直しであった。7名いたクルーは全員男性だったが、2名が女性に変更され、全員の名前が変更された。原案にあったシーンはほぼそのままであったが、台詞の口調を抑えたものにするといった変更がなされた。また、アッシュをアンドロイドにしたのも二人のアイディアである。リプリーにあたる役を女性にするよう提案したのはラッドであった。改稿は8回にもおよんだ。これらの改変にオバノンは終生不満を漏らしたものの、視覚デザインコンサルタントとして映画に携わることはできた。またシャセットはエグゼクティブプロデューサーに任命された。しかしラッドはオバノンを重要人物とみなさず、一時は映画のセットに立ち入ることすら許可しなかった。そのためオバノンは原案者でありながらこっそり現場に忍び込むこともあったという。しかし肩書きがどうであれ、オバノンにとって一流のスタッフとの仕事がエキサイティングな経験であることは確かであった。1977年7月11日、オバノンはギーガーに電話をかけ、新しい映画製作に携わっていることを伝え、要となる未知の生物のデザインを依頼した。オバノンが1000ドルの小切手と共にギーガーに送った手紙には、まず人間に幼生を産み付ける第1形態、人間の体を突き破って現れる第2形態、そして成長した第3形態へと変化するアイディアが記されており、初期段階からエイリアンのアイディアは固まっていた。監督は当初ヒルが自ら務める予定であったが、SF映画向きではないことを理由に辞退し、『ロング・ライダーズ』の監督を務めることになった。そこでブランディワインは監督の候補を捜し始める。ピーター・イェーツ、ロバート・アルドリッチ、ジャック・クレイトン、そしてリドリー・スコットの4名が候補に挙がった。イェーツは20世紀フォックスに推されていたが、彼は格下のB級映画とみなし断った他、アルドリッチもクレイトンも価値を見出さず監督就任を拒否した。なお、原案者であるオバノンは監督候補には入っていなかった。その中でスコットは当時既にCM映像監督として成功を収め、自身の制作会社である「リドリー・スコット・アソシエーツ(RSA) 」を設立し活躍していたが、映画監督としては『デュエリスト/決闘者』を撮ったのみだった。同作で共同プロデューサーであったイヴォール・パウエルは熱心なSF愛好家でもあり、その撮影中スコットにSFコミック雑誌『メタル・ユルラン(ヘビーメタル)』を貸して読むよう薦めた。『2001年宇宙の旅』を除けばSFに関心はなかったスコットであったが、その世界観に魅了され特にジャン・ジローの『アルザック』を好んだ。パウエルから「監督第2作目の作風が今後作る3作分の内容に影響を及ぼす」とアドバイスされたスコットは、次なる作品として『トリスタンとイゾルデ』を題材に選び、パラマウント映画の下で映画化の準備を進めていた。彼の脳裏には『トリスタンとイゾルデ』の中で『メタル・ユルラン』の荒涼とした様式美溢れる世界観を実現させようという構想があった。だが、当時公開されたばかりの『スター・ウォーズ』を初週に鑑賞し衝撃を受ける。そこにはまさに彼が撮ろうとしていた映像表現が存在していた為であった。スコットは同作を絶賛しつつも、先を越されたことに強い挫折感を味わった。一方、カンヌ映画祭で『デュエリスト/決闘者』を観覧し、スコットの才能を評価した人物がいた。フォックス・ヨーロッパの社長サンディ・ライバーソンである。彼はフォックス内で使えそうな企画を探し、監督の定まっていない『エイリアン』の企画を発見、スコットの手元に送って監督してみないかと誘いをかける。『ヘビーメタル』のようなSFのデザインを表現したかったスコットにとってまさに格好の題材であること、さらに機能的で無駄のない粗筋や、地位による待遇の違いに嘆く労働階級の姿が描かれている点なども好印象であった。1978年2月、ライバーソンの仲介でラッドと面接したスコットは正式に監督として契約を結んだ。当初組まれた予算は420万ドルに過ぎなかったが、スコットは自ら絵コンテを描いて会社と交渉し、850万ドルの予算を勝ち取った。またパラマウントに対しては『トリスタンとイゾルデ』の企画から手を引くことを告げた。キャスティングの選考はアメリカで行われ、スコットとキャロルが面接した。通常このようなSF映画にはB級俳優を配するのが普通であったが、スコットは個性的な役者を集めることで一段高い演出を目指した。SF映画に出ることを懐疑的に思った俳優を引き止めるようなことはせず、ウィリアム・ハート、ジョン・ハード、サム・エリオットは出演を見合わせた。シャセットの意向で、多国籍的な雰囲気を出すため配役のうち2人(ハートとホルム)はイギリス人となった。撮影は1978年の7月5日から10月21日のおよそ3か月半に渡って行われた。オバノンの薦めで『悪魔のいけにえ』(1974年)を見たスコットはこの作品を目安としてデザイナーに指示を与えた。また、もっとも感銘を受けたホラーとして『エクソシスト』(1973年)を挙げ、何度も見直し研究を重ねた。ほか、『2001年宇宙の旅』にも影響を受けている。スタジオはイギリス、ロンドンの郊外にあるシェパートン・スタジオが使用された。ハリウッドに比べ費用が安く済むこと、イギリスには優れた美術スタッフや、製作に必要なプラモデルメーカーがいることなどが理由であった。撮影のためにスタジオ内のA、B、C、D、Hの5つのサウンド・ステージが使用され、ノストロモ号のセットはCに、遺棄船のセットはHに造られた。Hは当時ヨーロッパ最大級のサウンド・ステージであり、60m × 100mもの広さがあった。スコット側からは、『デュエリスト/決闘者』に引き続きパウエルが共同プロデューサーとして、撮影にデレク・バンリント、プロダクション・デザイナーにマイケル・シーモアなどRSAに縁のある人物が参加した。そのほか、編集にはテリー・ローリングス、『スター・ウォーズ』で美術監督を務めた、セットを製作したロジャー・クリスチャン、衣裳を担当したジョン・モロ、『キングコング』の造形に携わったカルロ・ランバルディ、特殊効果担当として『スペース1999』に参加していたブライアン・ジョンソンとが加わった。またオバノンはコッブに加えて『デューン』で製作を共にしたフォスとギーガーらデザイナーを企画に呼び集めた。撮影は徹底した秘密主義の下で行われ、いたるところに「見学者立ち入り禁止」の立て札、張り紙が掲示された。予算圧縮のためフォックス上層部からの圧力に晒され続けたスコットは不機嫌な精神状態が続き、時には八つ当たりでセットを破壊してしまったこともあった。多くのスタッフが製作現場を緊張に満ちて不愉快だったと証言している。後年スコットは「あの時の自分は余裕がなかった。撮影現場に緊張感をもたらした原因の一つは自分の突き放した態度にもあっただろう」と当時を振り返っている。監督に着任したスコットにとって目下最大の懸念事項は、主役であるエイリアンのデザインであった。既にコッブがおこしたデザインが存在していたものの、その内容はと言えば、2本足で立ち、鉤爪のついた4本の腕があり、頭部からは触角と目が突き出るように生えているという奇妙な外見で、スコットを満足させるものではなかった。1978年2月8日、オバノンはスコットにギーガーの画集『ネクロノミコンIV』を見せる。そこに描かれていた機械とも生き物とも似付かぬ存在にスコットは衝撃を受け「このデザインを形にすることができれば映画は成功する」との確信を抱いた。スコットはスイスに飛び、ギーガーを招聘。2月14日からギーガーは交渉を開始した。彼は「この映画はエイリアンこそが主演俳優なのだ」と主張しデザイン料として然るべき高額なギャラを要求したため、フォックスとの間で長い話し合いがもたれた。契約が成立したのは3月30日のことであり、この日から製作に加わることとなる。しかし、ギーガーが描く異質な世界に拒否感を示した者もおり、キャロルは当初「ギーガーは異常だ」と評している。撮影中のギーガーは常に黒ずくめの服を着ていたため、一部のスタッフは彼を「ドラキュラ伯爵」と渾名した。彼の指揮する美術チームは150人にもなる大所帯で、「モンスター部門」と呼ばれた。ギーガーは異星人の遺棄船やエイリアンのデザインを受け持つことになったが、徹底した完璧主義者であり、自身の作品に強烈な自負を持っていた彼は製作現場で度々スタッフと衝突し、上層部に対しても自分の要求を曲げなかった。4月5日になってこの対立は決定的となり、フォックスはそれまでのギャラを支払いギーガーを解雇した。契約成立から1週間のことである。これについてギーガー自身は、契約では彼のサインした契約書がなければセットの製作はできなかったが、必要なデザインが既に仕上がっており、サイン済みの契約書が手元にある以上もはや用はなかったのだろう、と推測している。しかしギーガーは自分がすぐに必要とされることを予見して、チューリッヒでデザイン作業を続行した。その予測は的中し、指揮者のいない現場は早速迷走をはじめ、本来のデザインとは程遠いセットになっていった。結局、彼の必要性を上層部も認めざるを得ず、5月末になってギーガーは現場に復帰している。出来損ないのセットは放置されず、現場の美術スタッフのモチベーションを高めるため、そして新しいセット製作の準備が整うまでの時間稼ぎのため、あえて完成まで製作された後でスクラップ処分になった。これはギーガーにとってはまったく理解に苦しむ出来事であったという。宇宙服のデザインはジャン・ジローが手がけた。彼は次の仕事のためフランスに帰るまでという条件付であり、参加していた期間は数日程度だった。実物の製作はジョン・モロが担当している。リプリーの衣装に限り、実際にNASAで使われていた古着の軍用フライトスーツを流用している。冒頭におけるタイトルデザインは骨や肉を組み合わせたデザインが考案されていたが使用されなかった。実際に採用された「一文字ずつ完成していくタイトルロゴ」は広告との整合性を考えスコットが依頼したもので、スティーブ・フランクフルトとリチャード・グリーンバーグがデザインしている。ノストロモ号の外観はロン・コッブとクリス・フォスの2名がそれぞれデザイン案を起こした。フォスの描く宇宙船は現実の要素を取り入れた物が多く、豊かな色彩と流線型が特徴だった。フォスはノストロモ号の外観や内装、遺棄船など数多くのデザイン案を描いたが、結局すべて未採用に終わった。フォスはギーガーと共に解雇され復帰することはなかったが、コンセプト・アーティストとしてクレジットには名を連ねている。 名称は「スナーク」「リヴァイアサン」など変遷したが、スコットによって「ノストロモ」と命名された。一方でコッブは機能性とリアリティを重視し、直線的なデザインを好んだ。ギーガーの生物的なデザインと完全な対称性を示すことも考慮され、彼のデザインが採用された。ノストロモ号の形状は逆さの台形のような形状を経て、最終的に精製設備を備えた巨大工場のようなデザインにまとめられた。尖塔のような外観は子供のころに見た工場の風景をヒントにスコット自らが追加した。船内のデザインもコッブの手によって行われ、この案を元にロジャー・クリスチャンが造形した。航空機やヘリの廃材、パレットを活用してノストロモ号の内部を作り上げた。この出来はコッブを満足させ、ウィーバーも「ロケ地で撮影しているかのようだった」と賞賛した。ノストロモ号のセットは意図的に天井のある状態で作られた。これは俳優に圧迫感を与えることでよりリアルな演技を引き出すためである。セットは全てが繋がっており、外に出るには長い通路を歩く必要があった。ノストロモ号の構造は3階層、あるいは5 - 6階層を想定されていたが、予算の制約からセットは1層のみで作られ、拡張は断念せざるを得なかった。また船の離着陸のシーンにおいては俳優が自ら椅子を揺らし、カメラも揺らして撮影されている。狭い通路のために照明機材を置けず、セットの間接照明を利用して撮影されたこともあった。撮影に使用されたミニチュアモデルは全長約5m、重量250kgにもなるもので、ブライアン・ジョンソンが製作した。。規模は本体が全長240m、精製施設が全長3.2km、全幅2.4kmとの想定で撮られた。製作には既製のプラモデル・キットが大量に使用され手間を省いている。精製施設と本船を繋ぐジョイント部分には『スター・ウォーズ』のR2-D2の脚部の予備が使用されている。小惑星はセットとミニチュアを組み合わせて撮影された。セットでは砂塵として巻き上げたバーミキュライトがスタッフを痛めつけ、スモークを作るために使用されたドライアイスのせいで二酸化炭素が充満した。宇宙服は手足が非常に動かしにくかった上、当時の技術では呼吸しやすい衣装を製作できず、スケリットやカートライトらは呼吸困難に悩まされた。特にハートの消耗は激しく、常に看護師が待機し非常時に備えていた。映像中のヘルメットの曇りはそのためであるが、リアルであると考えたスコットの意向で特に対策はとられなかった。セットは最初に1.5インチ/1フィートの縮尺で雛形となる模型が作られた。これを石膏で型取りし、一定間隔で均等にスライスする。それぞれのパーツを方眼紙の上で24倍の大きさに拡大し、木製の模型を作る。模型同士に網を被せて間を補完し、細かい部分は発泡スチロールで形を整える。最後に石膏を染みこませたジュートの布を掛け、左官ごてで仕上げるという手順で製作された。小惑星および遺棄船のミニチュアはピーター・ボイジーが製作した。ボイジーは優れた腕を見せ、レベルの高いギーガーの要求を過不足なく実現させていった。小惑星のミニチュアは骨やパイプをプラスティシン(塑像用粘土の一種で、カルシウム塩、ワセリン、脂肪酸を合成して製造したパテ状のもの)で埋め合わせ作られている。宇宙葬にされるミニチュアのケインの遺体もボイジーが製作した。宇宙から見た小惑星の外観においても工夫が施された。複数の塗料をタンクに流し、混然とした色合いになったものを撮影し特殊シートに現像する。このシートを白く塗装したボールに投影して立体的な質感が表現された。ギーガーのデザインした異星人の遺棄船は、「目立たないし、機能的ではない」とオバノンには不評であった。彼が気に入っていたのはフォスが描いた「青銅のロブスター」と通称されるデザインである。だが、スコットはその異質さ、背景と一体化してゆっくりと姿を見せる点を気に入り採用した。初稿では遺棄船のほかにピラミッドが登場し、エイリアンの卵はそこで見つかることになっていたが、映画の長さが3時間を越えてしまうため圧縮された。小惑星表面のミニチュアは質感がアップに耐えられるものではなかったため、遺棄船の外観はミニチュアをスコットの古いビデオカメラで撮影し、それをスクリーンに映したものを撮影した。遺棄船のセット製作にはシーモアの助手として参加したレスリー・ディリーが腕を振るった。生物的な内装を表現するため、セットには食肉処理場へ特注した大量の動物の骨が使用されている。遺棄船入り口のセットは長さ18m、高さ10.5mで、木製の枠と石膏で作られた。内部のセットは高さ12m、長さ21mで、木とファイバーグラスで製作された。この大規模セットのため、予算は1100万ドルにまで増大した。それでも時間や予算の関係から妥協を余儀なくされることが多く、「通路」のセットの天井は遺棄船外観のセットをそのまま流用して手間を省き、「卵貯蔵室」へと続く「シャフト」のセットは未完成のままで製作が中止となった。また「操縦室」と「卵の貯蔵室」は同じセットを使いまわしており、操縦室から座席とターンテーブルを取り去って造られている。貯蔵室においても「妊婦の腹の膨らみ」をイメージした丸みのある部分は再現されず、ギーガーの不興を買った。エッグを覆う青いレーザーの幕はザ・フーのボーカリスト、ロジャー・ダルトリーが関係している。彼はたまたまシェパートン・スタジオの隣の別荘でツアーに使うレーザーを試していたところであり、それが縁で機材を提供した。現場ではアントン・ファーストがレーザーを使った演出を担当した冒頭に登場する化石化した異星人「スペースジョッキー」はロンドンのシェパートン・スタジオで撮影した。全長8メートルあるこの異星人は、映画の冒頭でいきなり得体の知れない恐怖感を煽る重要な役割を果たしたが、その後のプロットに直接的には関係がないうえに製作費がかかりすぎることから、20世紀フォックス側はスコットに登場シーンをカットするべきだと進言したが、彼は断固拒否し、最終的には製作が決定した。スコットのほか、ギーガーを異常だと評したキャロルもこの時には彼の腕を認めるようになっており、賛成に廻っている。製作には50万ドルが費やされた。スペースジョッキーは石膏で造った原型を透明ポリエステルで型取りし、表面はラテックスで仕上げられている。望遠鏡や砲台のような部分は発泡スチロールと発砲プラスチックで造られた。また、ギーガーがすべての塗装を直接エアブラシで手掛けるほどこだわっていた。この場面ではプロップを大きく見せるために、宇宙服姿のノストロモ乗員は子供が演じている。因みに演じた子供の内2人はスコット監督の実の子供(ジェイクとルーク)で、それぞれがダラスとケインを演じている。ランバートはカメラマンの子供が演じた。エッグは当初オーソドックスな鶏卵の形でデザインされ、卵を保持する台座はスイスの卵パックの形状をそのまま流用していた。次に改められたデザインは完成稿に近かったが、卵の開口部は女性器を模しており、陰核や陰唇にいたるまで作りこまれており、その露骨な形状にスタッフからは苦笑が起こったほどであった。結局開口部は十字型に変更され、花のように開く仕組みとなり、そのキリスト教的な暗示が含まれたようなデザインはスタッフの好評を得た。エッグは当初6個のみ製作される予定だったが、ギーガーの主張もあり最終的には130個が製作された。フェイスハガーが収まる「主役」のエッグは石膏の原型を元に、開口部はラテックス、本体は透明ポリエステルで作られた。開口部は油圧で動作し、内部には新鮮な羊の内臓が、フェイスハガーが飛び出すシーンには長さ12mの豚の腸が使用されている。背景となるその他のエッグは石膏もしくはポリエステルで製作されている。一部のシーンはカメラを置く関係から、逆さまにして撮影された。ケインにフェイスハガーが襲い掛かるシーンの直前で、エッグから滴る水が上へ登るのはこのため。エッグチェンバーの中で蠢くフェイスハガーのシルエットは、スコット自身が手にゴム手袋をはめて再現している。最初の構想では卵から尾をバネのように使って飛び出す機能を持っており、ギーガーは「邪悪なビックリ箱」と名づけていた。当初のサイズは人間の上半身ほどもあったが、何度かの改稿を経て人の頭を覆う程度の大きさに落ち着いた。美術スタッフのロジャー・ディッケンは気難しい性格でギーガーのデザインを受け入れず、「不快なほどに発育不全」と評した。この評価に憤慨したギーガーはフェイスハガーの造形を自ら買って出作業に取り掛かったが、上からエイリアン本体の製作に取り掛かるよう命じられたため、結局フェイスハガーとチェストバスターの造形はディッケンの担当となった。フェイスハガーの作業にはシャセットも携わった。彼はギーガーのデザインを元に立体化作業を開始したが、本体と指の繋がり方に悩み行き詰まった。助けを求められたコッブは短時間でフェイスハガーの仮想の骨格を書き上げ、造形作業を助けた。着色の段階になり「人間の肌の色をした異星生物は斬新ではないか」と考えたシャセットの提案により、そのままの色で完成となった。死んだフェイスハガーの内側を観察するシーンでは、プラスチックで作った外殻に新鮮なカキやハマグリの身を敷き詰めて生々しさを表現している。デザインにあたり、スコットはギーガーにフランシス・ベーコンの『キリスト磔刑図のための3つの習作』を参考にするよう要請したが、これを受けて上がってきたデザインは「退化した丸裸の七面鳥」と形容されるものであった。このデザイン案は没となり、以降は『ネクロノミコンIV』のデザインを基本とした造形が行われた。ケインの胸からチェストバスターが飛び出すシーンでは、「このシーンをリアルに撮れなければ映画の存在意義がない」とするスコットの意向で、細心の注意が払われた。3台のカメラを用意し、あらかじめどのカメラでカットを繋いでいくかを綿密に設定した。また出演者達には何が起こるか詳細を意図的に伝えておらず、彼らから本物の驚きを引き出そうとした。特にランバート役のカートライトは驚きの余り足がおぼつかなくなり、足元に溜まった血糊で足を滑らせて転倒している。また、ケインの血が彼女にかかったのは全くの偶然だった。最初のテイクではシャツが破れず中断されたが、次のテイクでは成功した。そのため一連のシーンはワンテイクだけで成功している。チェストバスターは胸を突き破るシーン、クルーを見回すシーン、走り去るシーン用の3種類が製作された。尾はフェイスハガーのものが流用されたが、ギーガーはこれを「恐竜のようだ」とあまり好まなかった。操演はディッケンとアルダーの二人が担当した。時間が押し迫っていたため、デザインはほぼ『ネクロノミコンIV』のそれを踏襲しており、何度かデザインが起こされたものの、皮膚の細かいディティールや背中の突起が寝ていることを除けばほぼ変化はない。なお、昆虫のような楕円形の目だけはスコットの提言を受け削除された。画面の中で怪物が伸し歩き人間を追って襲うという手法は既にマンネリ化しており、エイリアンの持つ不気味さを強調させるために本作では全体像は映さず部分や影だけが映るだけに留まり、全体像が現れる場面も撮影されていたが編集段階でボツになった。スーツの仕様に関してはいくつか案が出された。大道芸人や空手家の起用や、一つのスーツの中に子供と大人が入り別々に腕を動かすというアイディアは問題が多過ぎ実現しなかった。全自動のロボットにするという案は俳優が負傷する恐れがあり却下された。スコットがエイリアンのスーツに入る人間として望んだのは、レニ・リーフェンシュタールが撮影したヌバ族の写真のような、高身長で細身の人間であった。だが実際の候補者探しは難航した。そんな折、キャスティングディレクターはたまたま酒を飲んでいたパブで見かけた長身のアフリカ人(出自についてはナイジェリア人、ケニヤのマサイ族、ツチなど諸説ある)、ボラジ・バデジョに目をつけ、出演を依頼した。彼はグラフィック・デザインを学んでいた当時26歳の大学生で、身長が208cmもあり、また太極拳とパントマイムの心得があった。劇中のエイリアンのゆったりした歩行は彼のその技術が反映されている。また、スタントシーンではエディ・パウエルとロイ・スキャメルがエイリアンを演じた。黒人の代役を白人が務めるということで、スタントシーンの撮影をバデジョは楽しそうに観覧していたという。スーツの製作はギーガー自身が担当した。ボイジーは多忙を極めていたため、助っ人としてエディ・バトラーが加わり、のちにパティ・ロジャーズ、シャーリー・デニーの二人が作業を補佐した。スーツは構想段階では半透明で、骨格や消化器官が透けて見える予定であった。時間の許す限りギリギリまで試行錯誤が繰り返されたが、スーツや鋳型の耐久性に問題があり、すぐに破損してしまう問題があった。金属製の鋳型を用いれば解決する問題であったが、製作している余裕がなかったため半透明の構想を断念し、ラテックスを用いることに決まった。スーツはバデジョの体から石膏型をとったほか、スタントマンの体型にあわせた複製も製造された。複雑なエイリアンのギミックを実現させるため、頭部の製作はカルロ・ランバルディが担当した。作業はシェパートン・スタジオではなくロサンゼルスにあるランバルディの仕事場で行われた。フード内に見える人間の頭蓋骨は本物であり、ギーガーが自ら埋め込んだ。これにファイバーグラスを巻き、アルミニウムで内部の支えをつくった。顔の筋肉はケーブルで、特徴的な2重顎はエアシリンダーでそれぞれ動作する。歯茎と顎をつなぐ腱はコンドームが使われている。別個に製作されたにも拘わらず、ランバルディの手による頭部はギーガーの要求を充分に満たす出来栄えであり、イギリス側で作られた予備の頭部との差は歴然であったという。頭は機械が仕込まれたものが一つ、仕込まれていないものが二つ、完全自動式兼遠隔操作可能なもの、半自動式、プラスチック製のスタント用の計6種が製造された。脚本上の問題点として、オバノンは「なぜクルーがエイリアンを殺さないのか」という疑問点を指摘していた。そこでコッブは「エイリアンの血が強酸性である」という設定を考案し、容易に殺せない理由を付加した。フェイスハガーの血液によって船体が溶けるシーンはクロロフォルム、アセトン、酢酸を混ぜた液体を使い、床に見立てた銀色に塗った発泡スチロールを溶かして撮影された。ポストプロダクションに突入した時点ですら、スコットは満足せず、ノストロモ号のミニチュアモデルの撮影をやり直した。10月から11月にかけて撮り直しや追加シーンの撮影が17日間行われた。撮影終盤にはスタッフは1日17時間、週に6 - 7日間働き通しであったという。またオバノンはクレジットの表記について、ガイラーとヒルの名を入れるべきかどうかについて全米脚本家組合(WGA)を巻き込み仲裁調停を引き起こした。WGAはオバノンの主張を支持したものの、周囲のスタッフは二人の名前を入れるべきだと説得した。最終的にオバノンはこれを受け入れ、ガイラーとヒルは脚本家としてクレジットされることになった。リドリー・スコットは楽曲に組曲『惑星』、それも冨田勲が編曲したシンセサイザー版の起用を望んでいたが、ラッドの勧めでジェリー・ゴールドスミスに依頼することになった。最初にゴールドスミスが作った曲は瑞々しいものだったが、それゆえに没になった。次に作られた曲は静的で不気味なものであり、スタッフを満足させた。作曲に要した時間はわずか10分に過ぎなかった。目覚めのシーンではゴールドスミスの過去の作品である『フロイド/隠された欲望』の曲が流用されている。また、クレジット画面ではハワード・ハンソンの『交響曲第2番 ロマンティック』が使用されている。これを不満としたゴールドスミスはフォックスに説明を求めたが、結局覆ることはなかった。なお冨田の『惑星』は撮影現場で使用された。テンションの高い演技が必要とされるウィーバーのため、スコットは現場にスピーカーを配置し、『惑星』の「火星」を流して聞かせた。一方、音を後で全て付け直さなければならなかったため、音声係の負担は増大した。ゴールドスミスは試写を独りで観たが、ブレットが猫を追いかけるシーンが最も怖かったと述べている。スコットは脱出艇でのラストシーンの追加撮影のため、4日のスケジュール延長を会社に要求した。会社は難色を示したものの、彼は今までの定石を引っくり返すと会社を説得した。スコットの目論見通り「事態が解決したと見せかけてさらにもう一幕がある」という手法は成功し、以降のホラー映画に新しい定番をもたらした。本人の意向により、ウィーバーは次に何が起こるのか知らされずに撮影が進められた。全裸のリプリーを目の当たりにしたエイリアンが己との違いに気づき、彼女に見入るといったシーンも予定されていたものの、アイディアだけで終わった。下着姿で宇宙服を身につけるシーンはその名残である。結末は当初3種類あり、「エイリアンの存在にリプリーは気付かず(もしくはジョーンズに寄生した状態で)一緒に地球に帰還する」、「エイリアンとともに宇宙の藻屑となる」そして採用案である「エイリアンを倒し地球に帰還する 」のそれぞれが用意されていた。アメリカでは第1案の結末で劇場公開された映画館もある。ホラーSFである『エイリアン』には、性的・恋愛要素がほとんどないにもかかわらず、妊娠・出産のメタファーを中心に「濃厚なセクシュアリティが漂っている」ことが指摘されている。内田樹はこの生殖のメタファーを「体内の蛇」のモチーフをもちいて考察している。それによると本作における「宇宙船のクルーがエイリアンの幼体からその子孫を体内にうえつけられ、それが体を破って外に出てくる」という流れは、ヨーロッパ全域で流布している「体内の蛇」と呼ばれる民間説話をなぞったものであり、この説話をフェミニズムに結びつけたことにオリジナリティがあるという。本作でのエイリアンは男性社会のメタファーであり、男性器のような頭部を持ち、口から精液のような粘着性の液体をしたたらせている。エイリアンは女性を妊娠させようとする男性の性欲の象徴であり、主人公のリプリーはそれに対抗するフェミニズム志向の女性の役割を果たしている(リプリーを襲ったアッシュにとどめを刺すのも女性のランバートである)。リプリーはそれまでのSF映画のヒロインのような「強い男に付き従う弱い女性」ではなく、男性クルーと対等に渡り合い、会社の陰謀を探り、1人で怪物と対峙する「強い女性」として描かれている。リプリーの姿は1970年代後半に製作された女性の自立や台頭を描いた映画『結婚しない女』『クレイマー、クレイマー』などとともに語られることがあり、また、本作はそれまでのSF映画にはなかった新しい(アクションの担い手としての)役割を女性に与えた先駆的な映画としても語られる。映画公開当時、男性に依存しない勇敢な女性が自力で(男性性の象徴である)エイリアンを退治するというこの映画を、女性たちはフェミニズムの勝利の物語として賞賛したのだ、と評価されることが多かった。しかし内田は、本作は女性からだけでなく保守的な(反フェミニスト的な)男性からも支持されていることを指摘し、「戦闘的フェミニストの勝利」という劇的な結末を演出するために結末以前の部分では「ヒロインがエイリアンから徹底的に陵辱される」という描写で埋め尽くされていると述べている。映画のクライマックスで下着姿のリプリーに襲いかかろうとするエイリアンは男社会に虐げられてきた女性の縮図であるとされる。原案でリプリーにあたる役を男性から女性に変更した際、性別を意識した台詞の改変はほとんど行われなかった。ウィーバー自身はリプリーがフェミニズムに関連付けて語られることには慎重であり、「いいキャラクターはいいキャラクター、性別なんて関係ない」と述べている。
出典:wikipedia
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