証明責任(しょうめいせきにん)とは、裁判をするにあたって裁判所又は裁判官がある事実の有無につき確信を抱けない場合(真偽不明、non liquet)に、その事実の有無を前提とする法律効果の発生ないし不発生が認められることにより被る、当事者一方の不利益のことをいう。挙証責任、立証責任ということもある。民事訴訟では「証明責任」の用語が、刑事訴訟では「挙証責任」の用語が、一般的に使われることが多い。「客観的証明責任」「客観的立証責任」「形式的挙証責任」などとも表現する。法令や裁判文書、論文等において証明責任を負うことを「証明すべき」という表現で表すことが慣例であるが、「証明の必要」又は「実質的挙証責任」と誤解しやすいので注意を要する。なお、上記の法律上の用法から転じて、論理学・哲学的な文脈で、どちらが対象となる事実について証拠を挙げる、または証明を行う責任を負うか、という意味で用いられることがある。裁判で当事者が立証活動を尽くしても、争点になった事実があるのかないのか裁判官が確信できない場合がある。その場合でも裁判所は裁判を拒否することはできず、結論を出さなければならない。そのため、真偽不明であるにもかかわらず、争点となった事実の有無を擬制して裁判をする必要性が生じるのであり、その結果生じる一方当事者の不利益が証明責任である。このことは刑事訴訟でも民事訴訟でも異なるところはない。つまり、証明責任(挙証責任)は、どちらが現実に証明活動を行うかという問題とは基本的に関係はない。あくまでも、現実の証明活動は当事者双方が行うものであり、証明責任を負う方のみが証明活動をするわけではないので、この概念は、証明活動が終了した時点で真偽不明の場合に問題となるものであることに注意が必要である。個別の争点について、証明責任をどちらが負うかは最初から決まっており、裁判の途中で変わることはない。日本の民事訴訟では、原則として自己に有利な法律効果の発生を求める者は、その法条の要件事実について証明責任を負うと考えられているが、その説明に二通りの考え方がある。1つは、事実が真偽不明となった場合には、その事実を要件事実とする法条は適用されないという考え方(法規不適用説)であり、いわゆる法律要件分類説はこれに基づく。もう1つは、真偽不明の場合に事実を擬制して法の適用を可能とするための規範として証明責任規範があり、それに基づいて証明責任が生じるとする考え方(証明責任規範説)である。従前は前者が通説的地位を占めていたが、現在では後者の考え方が通説的である。後者の見解の中でも通説的とされる見解は「修正された法律要件分類説」と呼ばれる見解であり、条文の構造等を基礎にしつつも修正を認める見解である(なお、特に「修正された」わけではなく法律要件分類説自体が初めからこの程度の柔軟性を備えているとする考え方もある。)。後者の見解の中には、証拠との接近性などを考慮し、具体的な事情を利益考量したうえで証明責任の分配を決するべきとする見解(利益考量説)も有力に唱えられているが広く支持されているとは言い難い。以下では、修正された法律要件分類説の立場から「XがYに対して商品を売ったため、Yに対して売買代金を請求する場合」を具体例として、証明責任の分配を説明する。実体法の規定等によって一方の当事者が特定の事実について証明責任を負う場合に、特別規定や証明妨害の法理により反対事実について、挙証責任を負わない当事者に証明責任を負わせることをいう。不法行為に基づく損害賠償請求の場合を例にすると、加害者の過失に該当する事実は、の解釈上、権利根拠規定の要件事実として債権者である被害者側が証明責任を負うのが原則である。しかし、自動車による人身事故に起因する損害賠償請求の場合は、民法709条の特別規定として自動車損害賠償保障法3条但書が適用され、債務者である加害者が自己に過失がなかったことについて証明責任を負う。なお、裁判の途中で当事者の一方が証拠を提出したことにより裁判官が事実の存否について確信を抱くようになった場合には、他方当事者としては、それを放置するわけには行かないので反対の証拠を出す必要が出てくる。この現象に対して証明責任が転換されたと表現される場合もあるが、正しくない使用法である。証明妨害の法理とは、挙証責任を負わない当事者が挙証責任ある当事者の立証を困難にする(立証妨害または証明妨害をする)ことをいい、これについては法律に規定のある場合もあるが、それに限られない。刑事訴訟では、「疑わしきは被告人の利益に」の原則が妥当する。つまり、犯罪事実については原則として訴追側(検察官)に挙証責任があるとされ、合理的な疑いを入れないまでに立証されない場合は被告人は無罪となる(無罪の推定)。日本の法令にはこの点に関する明文の規定はないが、法定手続の保障について規定した日本国憲法第31条が無罪の推定原則を要求すると解されること、刑事訴訟法336条が「被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない」と規定していることから、犯罪事実については検察官が挙証責任を負うことになるとされている。また、犯罪事実のほか、刑事責任の存在や範囲に直接影響する事実(行為の違法性・有責性を基礎付ける事実、処罰条件、刑の加重減免事由)、量刑に関する事実についても、検察官に挙証責任がある。違法性阻却事由や責任阻却事由については、それが存在することについて被告人側に挙証責任があるとする見解もあったが、現在では、それが存在しないことについて検察官側に挙証責任があることに争いはない。もっとも、阻却事由の存在を疑わせるような事情が主張されたり、証拠(被告人の供述でもよい。)が法廷に提出されたりしない限り、阻却事由がないことについての立証活動がされるわけではない(講学上は争点形成責任又は証拠提出責任として論じられる。)。以上のように検察官に証明責任を負わせる配分となっているが、これは、市民の自由を保障する機能を有するとともに、刑事訴訟においては、検察官には、被告人または弁護人には認められない捜査権限を認めることで高い証拠収集能力を付与することで犯罪が可及的に処罰されるような構造になっている。もっとも、後述のように例外的に被告人が証明責任を負うものもある。なお、刑事裁判において被告人を有罪とするためには、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要である。ここに合理的な疑いを差し挟む余地がないというのは、反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうものではなく、抽象的な可能性としては反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても、健全な社会常識に照らして、その疑いに合理性がないと一般的に判断される場合には、有罪認定を可能とする趣旨である。そして、このことは、直接証拠によって事実認定をすべき場合と、情況証拠によって事実認定をすべき場合とで、何ら異なるところはないというべきである(最決2007年10月16日)。個別的に被告人側が例外的に挙証責任を負うとされる事項がある。この実質的な理由は、検察官にとっての立証困難性にあるが、犯罪事実の成否にかかわる事実である以上、単にそれだけで挙証責任の転換が許容されるわけではない。被告人側への転換が許されるためには、被告人に挙証責任を負わせる事実が、検察官に挙証責任がある他の事実から合理的に推認される事情があること、被告人が挙証責任を負うとされる部分を除去して考えても、なお犯罪として相当の可罰性が認められることなどの、特別の事情が必要となる。日本の刑法や特別刑法の規定では、以下の点が例として挙げられる。
出典:wikipedia
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