クイーン・エリザベス級戦艦 (Queen Elizabeth class Battleship) は、イギリス海軍の戦艦5隻の艦級。主砲に13.5インチ(34.3cm)砲を搭載した超弩級戦艦「オライオン級」でドイツ海軍に差をつけたイギリス海軍が次なる布石として、既存の超弩級戦艦を上回る強力な火力の戦艦を配備することによってドイツ海軍への圧倒的優位を確立することを主眼において設計された。本級が設計されたときには、日米の戦艦の主砲で14インチ(35.6cm)砲を採用しており、ドイツ海軍も巡洋戦艦マッケンゼン級の主砲に35cm砲を計画していることから、それらを凌駕するものとして「Mark.1 15インチ(38.1cm)砲」が選択された。この砲は設計時には未完成であったが、当時の海軍大臣ウィンストン・チャーチルの強力なる後押しにより、主砲が未成状態で砲塔や船体の設計を始めるという弩級戦艦時代以後では前例のない方法を用い、竣工を早めた。主砲の重量増加に伴い、前級のアイアン・デューク級のように主砲塔を5基とすると重量過大となるので、中央部に主砲塔を配置するのをやめ、前部2基・後部2基の計4基の配置に改めた。中央部砲塔に充てていた空間は機関区の増大に充て最大出力を向上できた。加えて新開発の重油専焼缶を採用し高速化に効果があった。重油は石炭よりも遥かに燃焼効率がよく、同じトン数ならば航続距離を40%も伸ばせた。これも海軍大臣チャーチルの功績であった。しかし「速力こそ最大の防御」という発想に基づき防御は対13.5インチ防御の域を出ず、対15インチ完全防御とは言えなかった。これは後々にまで本級の戦闘に響いた。しかし当時の仮想敵に対して垂直防御装甲330mmは必要にして十分な厚みであり、竣工当時では最強の戦艦であった。これらの工夫により本級は戦艦でありながら高速力と巡洋艦並の航続性能も兼ね揃えた主力艦として後の高速戦艦の祖となった。本級の船体形状は長船首楼型船体を採用している。水面下に浮力確保の膨らみを持つ艦首から艦首甲板上に「Mark I 38.1cm(42口径)砲」を連装式の主砲塔に収めて背負い式に2基を配置。2番主砲塔の基部から甲板よりも一段高い艦上構造物が始まり、その上に操舵装置を組み込んだ司令塔が立つ。天蓋部に測距儀を乗せた司令塔の背後から、三脚式の前部マストが立つ。構成は頂上部に射撃方位盤室を持ち、中部に三段の見張り所をもっていた。前部マストの後部に1本煙突が立ち、左右舷側甲板上が艦載艇置き場となっており、単脚式の後部マストを基部とするクレーン1本により運用された。後部マストの後方に後部司令塔が立つ。後部甲板上に3番主砲塔の基部で船首楼は終了し、4番主砲塔は後部甲板上に直に配置する後ろ向き背負い式配置であった。本級の副砲である「Mark XII 15.2cm(45口径)速射砲」は前級同様に舷側ケースメイト(砲郭)配置である。2番主砲塔の側面から舷側に単装で前方3基・舷側3基で6基を配置し、舷側配置と別個に甲板上に防盾付きで片舷1基ずつを配置した。これにより片舷7基の計14基を装備した。この武装配置により前方向に最大で38.1cm砲4門と15.2cm砲6門、後方向に38.1cm砲4門、左右方向に最大で38.1cm砲8門と15.2cm砲7門を向けることが出来たが甲板上の2基は波浪の被害があったために後に撤去されて副砲は12基となった。新設計の「Mark I 38.1cm(42口径)砲」を連装砲塔に納めた。重量871kgの主砲弾を最大仰角20度・俯角5度で最大射距離22,850m前後まで到達させ、射距離13,582mで舷側装甲305mmを、射距離18,020mで279mmを貫通できる性能であった。装填機構は自由角度装填で最大仰角・俯角の間で装填でき、発射速度は竣工時は毎分2発であった。砲身の仰俯は蒸気ポンプによる水圧駆動であり補助に人力を必要とした。砲塔は左右各150度の旋回が可能であった。1番艦クイーン・エリザベスの主砲を管制する射撃式装置は、自艦と目標艦との間の距離変化率を求めるドゥマリック(Dumaresq)計算尺が付いたファイア・コントロール・テーブル(FCT:Fire Control Table)MkIVであった。FCTは第一次世界大戦前に英海軍士官F.C.ドライヤー(F.C.Dreyer)によって開発され、ドライヤー・テーブル(DT:Dreyer Table)とも呼ばれた機械式距離計算機である。最初のバージョンであるFCT MkIは戦艦ドレッドノートのほか、初期のド級戦艦10隻以上に装備された。19世紀末に開発された測距儀(Range Finder)は自艦から目標艦までの距離を正確に測定できる画期的な装置であったが、自艦・目標艦とも高速で移動するため、測距時と発砲時との間に変化する距離を把握必要性などから、FCTが開発されたのである。FCT MkIV*(「*」は注記の意味ではなく「Mk IV*」で正式名)が2番艦以降に装備され、クイーン・エリザベスも1920年前後に換装した。目標を照準する方位盤も第一次大戦頃には現代の方位盤に近い形態で完成しており、測距儀とともに前檣および司令塔上に設置された。さらにFCTを小型化したタレット・テーブル(Turret Table)と称する装置及び測距儀が各砲塔に装備され、中央射撃指揮所の管制を受けずに、各砲塔が独立して射撃する事も可能であった。クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアントの3艦については、1937~1940年の改装時に砲塔をMkIからMkI/Nに改修して最大仰角が30度になり、最大射程は30,000ヤード(27,420m)前後に延伸した。1942年初めまでに主砲管制用284型射撃指揮レーダーが装備され、さらに高角砲管制用に測距儀/285型射撃指揮レーダー付き方位盤が装備されている。副砲については参戦前に2度の改装で大きく変更されている。副砲は「Mark XII 15.2cm(45口径)速射砲」を14基(クイーン・エリザベスは16基)採用した。その性能は重量45.36kgの砲弾を最大仰角14度で射距離12,344mまで届かせる事ができる性能であった。装填機構は自由角度装填で仰角14度から俯角7度の間で装填でき、発射速度は竣工時は毎分5~7発であった。砲身の仰角は15度・俯角5度で動力は人力とした。旋回角度は120度であった。および3インチ(7.6cm)単装高角砲2基を装備した。一部の艦ではこれらを撤去し、俯仰角範囲が広くて(最大仰角80度)、高発射速度(12発/分)の45口径4.5インチ(11.4cm)連装両用砲または45口径4インチ(10.2cm)連装高角砲で対空防御を強化している。その他に対戦艦用に53.3cm水中魚雷発射管を単装で4門を装備した。1912年度計画の本級は25ノットの高速戦艦として計画され、アイアン・デューク級の2.6倍にあたる75,000馬力の主機関が必要とされた。攻防力完備の戦艦に大出力機関を搭載するため、主力艦として初めて重油専燃缶を採用して主機関の大出力化と重量・スペースの軽減を図った。主缶の蒸気性状は圧力235PSI/飽和温度で、従来艦と変わらない。本級以降の英主力艦の主缶はすべて重油専燃缶になった。重油専燃缶はすでに駆逐艦では実用されていたが、大艦での実用試験を経ず本級に採用したのは、フィッシャー提督の強い主張によるものだった。重油専燃方式は前記の利点に加えて次のメリットが挙げられる。主缶は大径水管缶24基でクイーン・エリザベス、マレーヤ、ヴァリアントの3艦はB&W缶を、バーラムとウォースパイトはヤーロー缶を搭載した。これらは前方から順に設けた第1~第4缶室に、各室6基ずつ設置された。主機は直結タービン2組(4軸推進)で、クイーン・エリザベス、マレーヤ、ウォースパイトがパーソンズ式を、残りの2艦がブラウン・カーチス式を搭載した。英国ではレーダーの発達や空母搭載機の威力増大を背景に、戦艦の航空兵装を否定する意見が強く、他の戦艦と同様に本級も1943年前後には水偵を陸揚げしている。本級は戦時中に建造される主力艦ということもあり当初は4隻だけの計画であったが、英領マレーからの献金により「マレーヤ」が追加建造され計5隻となった。本級5隻は第一次大戦中に竣工し直ちに第5戦艦隊を編成してグランド・フリートに配属され、ユトランド沖海戦では、戦艦でありながら巡洋戦艦並の俊足を活かして英国巡洋戦艦部隊の危機にかけつけ、ドイツ巡洋戦艦部隊に一矢を報いている。以降はグランド・フリートの中核としてワシントン海軍軍縮条約後も保有が続けられた。1926年から1927年にかけて第1次近代化改装を行った。1937年5月20日のスピッド・ヘッド沖で行われたジョージ6世戴冠記念観艦式に地中海艦隊のパウンド大将旗艦として本国艦隊旗艦のネルソン等とともに参列し、天皇名代秩父宮雍仁親王夫妻を招待した。クィーン・エリザベスとヴァリアントは同年8月にポーツマス工廠で姉妹艦ウォースパイトに準じた第2次近代化改装に着手。しかし工事は第二次世界大戦の勃発と独空軍による空爆で遅延し、バーラムとマレーヤの改装は中止された。第二次世界大戦においては、1941年11月25日、バーラムが独潜U-331の雷撃により撃沈され、1941年12月19日、アレクサンドリア港内に停泊中のクイーン・エリザベスは姉妹艦ヴァリアントとともにイタリア潜水艦シーレから発進した人間魚雷「ピグ」SLC-223の攻撃を受けて港湾内部で大破着底、1943年6月にようやく修理が完了して戦線に復帰した。終戦後、残存艦4隻はスクラップとして売却された。本級の主戦場は地中海だったが、各種レーダーを筆頭に優秀な装備を活用してイタリア艦隊に常に積極的作戦を展開し、戦局を有利に導いた功績は大きい。イギリス戦艦の中で最もよく働き、最も消耗したクラスである。
出典:wikipedia
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