車いすマラソン(くるまいすマラソン、英語:wheelchair marathon)は、公道コース等(公園の敷地内や空港の滑走路等を使用する場合もある)を使用して行う車いす陸上競技で障害者スポーツの1つ。参加者は3輪タイプの競技用車いすに乗り、腕の力だけで42.195kmを走り抜く。1984年のニューヨーク・アイレスベリーパラリンピック(ロサンゼルスオリンピック時)から夏季パラリンピックの正式種目に加えられた。ハーフマラソンの21.0975kmや、10km、5km等、マラソンに満たない距離であっても、トラック外で行われるものは、国内では「車いすマラソン」と呼ぶことが多いが、ここでは主に42.195kmのフルマラソンについて記述する。車いすマラソンの世界記録1時間20分14秒(1999年 ハインツ・フライ/大分国際)は、平均時速31.7kmであり、健常者のマラソンの世界記録2時間03分59秒(2008年 ハイレ・ゲブレセラシェ/ベルリンマラソン)の平均時速は、20.4kmである。(※ 以上の記事は2010年9月現在のデータによる)以下に記述するようにマラソンと同様の戦略があるが、空気抵抗を減らすために先行する選手の後ろに付くことで数台~十数台が直線的に並び、風除け役となる先頭を交代(ローテーション)しながら、体力を温存しスパートの時を窺うなど、自転車のロードレースと同様な戦略も見られる。これは車いす競技ではドラフティングと言い、異なるクラスでのドラフティングは禁じられている。早い段階で先行し、そのままフィニッシュまで逃げ切る。1990年代後半の大分国際における絶頂期のハインツ・フライにおいては逃げるというよりむしろ、付いて行ける選手がいないため、1人となってしまうということがしばしば見られた。競技場に入る前に決着を付けるという戦略である。トラック勝負は、瞬発力がどれだけあるかに懸っているし、集団となっている場合は、前に出るチャンスが生まれるかどうかは不確実であるため、確実に勝つためにはトラックに入る前に集団から抜け出す必要がある。また、障害部位により腹筋・背筋の力が弱く、トラック勝負で不利になる選手の場合は、この戦略を選択する場合が多い。瀬古利彦のようにスプリント能力に絶対的な自信がある場合は、競技場まで体力を温存し、最後に抜き去るということも可能だろうが、集団の数によっては、思い通りの進路が取れない場合も多く、勝つためには運も味方につける必要がある。自転車レースや自動車レースには、オーバルコースが採用されている。これは、カーブで急にハンドルを切ると危険であるため、徐々に曲がり方が強くなるように設計されているものである。(緩和曲線参照)しかし陸上競技のトラックは、人が足で走ることを前提に、また運動場などでラインを引きやすいように設計されているため、カーブは完全な半円である。従ってコーナーの入り口で一気にハンドルを切れば、後はその角度を維持し続ければよいことになる。競技用車いすには、前輪の角度をトラックのカーブに合わせて固定する装置が取り付けられているため、カーブの入り口でハンドル角を固定すれば、ハンドルを触らずに後輪を漕ぎ続けることができる。車いすレースにおいては、この、前輪角度の固定タイミング、直線に出た時に戻すタイミングがポイントとなる。一般のマラソン大会がスタートする5分~10分前に、同じコースをスタートする。健常者がフィニッシュするより早くフィニッシュできるタイムを持ったランナーに参加者を限定すれば、健常者と交錯することなく、交通規制を5~10分長くするだけでコースを使用できるメリットがある。1974年にアメリカ合衆国で開催されたレース(距離等不明)と、1975年に訴訟の末ボストンマラソンに参加したボブ・ホール(Bob Hall,Robert Hall)が車いすマラソンのパイオニアとして知られている。ボストンマラソンの影響が大きく、欧米諸国ではこのタイプの大会が多い。近年では日本でも東京マラソンが2007年から(ただし女子は2008年から)、大阪マラソンが2011年から車いすの部を設けており、今後さらに車いすの部を設定するマラソン大会が増えることが期待される。独立した大会であるため、車いすの部よりも関門時間を多少、長くすることが可能であるため、重度の障害者も参加できるメリットがある。ボストンマラソンなどに刺激を受け、日本でも既存のマラソン大会に参加しようとする動きがあったが、当時の日本では、車いす使用者がマラソンの距離を安全に完走できるという確証がなかったため、実験的な大会として、単独開催せざるを得なかった。1981年に開始された大分国際車いすマラソン大会によって車いす使用者がマラソンの距離を完走することが可能であり、また無理をしなければ健康を害することもないということが広く認知されるようになった1990年頃からは、全国各地で同様の車いす単独の大会が開催されるようになった。1980年代は障害者の社会参加という福祉的な意味合いが大きかったが、国内各地で車いすマラソン大会が開催され、パラリンピックの正式種目にも加えられるなど、競技性が高まり、海外のレースを転戦するプロ選手も現れた。2010年代頃からはボストンマラソンで日本人が優勝した際も、競技スポーツとして報道されるようになった。基本的な部分は日本陸上競技連盟のルールに則って行われるが、障害者スポーツとしての特殊な部分(競技用車いすの規格や障害の程度に応じたクラス分けなど)は、大会規模や大会の目的に応じて「IPC ATHLETICS競技規則」や、「日本身体障害者陸上競技連盟競技規則」に則って行われる。またこれらの団体から記録を公認されるためには、大会自体が公認を得るとともに選手自らも選手登録しておく必要がある。障害程度に応じて、T51、T52、T53/54等に分けられる。Tはtrack(トラック)、10の位の5は脊髄損傷、1の位は障害程度の重い順に1~4で表される。T54は腹筋が機能する。T53は腹筋が機能しない。T51は握力や腕を伸ばす力が弱く、ほとんど腕を曲げる力だけで走る。黎明期である1970代半ばは、まだ足で走る速さには及ばなかったが、1980年 Curt Brinkman(アメリカ)が、ボストンマラソンにおいて、1時間55分00秒で優勝し、健常者の記録を抜き去った。現在の世界記録1時間20分14秒(1999年 ハインツ・フライ/大分国際)は、平均時速31.7kmであり、100mを11.4秒のペースで走り続けたことになる。「障害者スポーツ」の世界では、過去においては国際ストーク・マンデビル車椅子競技連盟(ISMWSF=International Stoke Mandeville Wheelchair Sports Federation )が、現在では「国際パラリンピック委員会(IPC/1989年設立)」が競技や記録のルールを統括しているが、ボストンマラソンでの世界新記録は、IPC公認の世界新記録とはならない。従って、車いすマラソンには、二つの世界記録が存在する。一つはIPC公認大会の記録、もう一つは、ボストンマラソンの記録である。これは、平地のレースとダウンヒルレースの2種目あると考えると分かりやすい。例えばテニスにおいても、芝コートのウインブルドン選手権と、クレーコートの全仏オープンとを同列に比較できないのと同じように、ボストンマラソンとそれ以外のマラソンとでは、記録を単純に比較することはできない。2004年、国際陸上競技連盟(国際陸連=IAAF)は、大会ごとに条件の異なるコースの規格を統一し、記録の比較を容易にするためにマラソンの基準を設定したが、その内容はスタート地点とフィニッシュ地点の直線距離が全長の半分以下(フルマラソンでは21.0975km)で、高低差が1/1000以内(42.195kmのマラソンでは、42m以内)等であったが、ボストンのコースはほぼ一直線で折り返し点がなく、スタート地点よりもフィニッシュ地点の方が140m低い下り坂であり、ボストンのコースには当てはまらないものであった。なお、障害者スポーツが誕生する何十年も前から存在し、既に権威であるボストンマラソンが、歴史の浅いIPC等の公認を得るメリットは多くないと認識しているであろうことは想像に難くない。ただし、公認記録にはならないといっても「他の大会と同じカテゴリーの中の世界新記録としては扱わない」というだけであり、記録をないものとする訳ではなく、勝利を軽んじるというわけでもない。現に、ボストンで出した記録は、IPCが公表する年間ランキングに掲載される。また、ボストンマラソンが歴史上初めて車椅子使用者を「ランナー」として公式に認めた偉大な大会であり、最も伝統と権威あるマラソン大会であることには変わりないため、IPC公認世界記録とはならないとしても、ボストンマラソンの記録を更新したという偉業については、最大級の賛辞を持って讃えられることには変わりない。座る、もしくは正座するような態勢で乗り込む。車体は完全なオーダーメイドであり炭素繊維のディスクホイールなど、車いすというよりは、プロ選手用ロードバイクの3輪版である。後輪は体格に合わせ26~27インチ、前輪は、主に20インチが使用される。全長1700mm~1850mm程度。ホイールベースは、1200mm程度。一般的に、ホイールベースが長ければ長いほど真っ直ぐ進みやすく、曲がりにくい(直進安定性が高い)ので、思い切って漕ぐことができるため、スピードを出しやすい。なお、車輪を回すためのハンドリムを摩擦により押す(叩く)ために、個人の腕力に応じたグローブを自作して使う。車いすマラソンにおける車いすの進化は概ね以下のようになる。車輪で進む乗り物において運動性能を向上させるには、前・後輪の重量バランスが、50:50であることが理想的だが、手こぎの競技用車いすでは、極端に後輪寄りに位置している。そのため、発進・急加速時に前輪が浮き上がり、直進安定性が極端に低下するという欠点を持っているが、乗車位置を前にすると、ハンドリムが身体の後方になってしまい、力を入れづらくなるというジレンマを抱えている。直進安定性は、ホイールベースの長さによるため、前輪の輪の数には左右されない。コーナーリング性能は4輪の方が圧倒的に有利だが、マラソンにおいては直線部分が大部分であるため、マラソンに限れば総合的には3輪が有利と言えるだろう。 ホイールアライメントにおけるキャンバー角(ネガティブキャンバー)が付いている状態であるが、いわゆるホイールアライメントという考え方とは別な出発点からマラソン競技用車いすには採用された(本来旋回性の向上がネガティブキャンバーの目的)。すなわち最初から「傾ける」ことを狙った訳ではなく、タイヤ上部の幅を腰に合わせて狭く、タイヤ下部の幅を安定するよう広くした結果、「ハの字」になったものである。従って、使いやすい角度や幅には個人差がある。以上の3つのことから、オーダーメイド化を進めると、必然的にハの字になる。しかし、偶然の産物とはいえ、各競技においてはそれぞれに異なるメリットがあった。1980年代初頭は、車輪は転がり抵抗が最小となる垂直に取り付けられていたが、二の腕付近が車輪に触れることで皮膚が擦り剥け出血するため、皮膚を保護するためのテーピングをしてレースに臨む選手が多かった。しかし車いすのオーダーメイド化が進むにつれ、結果的にハの字になった。なお接地面が大きくなり、転がり抵抗が増える欠点は、空気圧を高くしタイヤの変形を小さくすることで、カバーしている。※ なお車輪が斜め回転することにより、直進を妨げるような力が発生することはないと考えられる。(「地球ゴマ」参照)。従って、曲がりやすくするために車輪を斜めに取り付けているというのは誤解である。小さく動かしただけで大きく動くような過敏な設定だと、思った以上に回りすぎてしまうため、狙い通りの角度でボールに向かうことが難しくなる。しかし前述したように、タイヤの接地点が描く円周は生活用車いすよりも、ハの字にしたものの方が長くなる。つまり、同じ体の回転角度を得るためには、生活用車いすよりも車輪の回転量を多くする必要がある。反対に、大きく動かしても少ししか回転しないため、回転のしすぎを回避できる。つまり、生活用車いすに比べて、角度の微調整が容易であるということである。ひらがな表記の「車いす」が大会名に多く使われているのは、過去、「常用漢字表」に「椅」の文字がなく、公用文等に使用できなかったためである。なお常用漢字表に「椅」が加えられたのは、2010年11月30日である。
出典:wikipedia
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