アルス・ノトリア()は中世ヨーロッパの魔術の一種である。刻印術、印形術とも。アルス・ノトリアは12世紀頃の中世キリスト教文化の産物である。アルス・ノトリアを記したテクストは多くのラテン語写本のなかに遺されている。残存する写本群は発展段階に従って二つのグループに分類し得る。そのうち初期のものの成立年代は13世紀か12世紀後半とみられる。この術は神がソロモンに授けた聖なる術と称され、知恵や記憶力を高めたり、自由学芸や哲学の知識の習得に資するものとされた。アルス・ノトリアのテクストに記されているのは数箇月を要する禁欲的修法であり、断食、天使に向けた祈り、ノタ(nota, 複数形: notae)と呼ばれる複雑な図符に対する静観といった一連の儀式的作業を通して、天使からの知識の伝達が起こることが期待された。アルス・ノトリアの図符は複数の幾何学的図形や記号 (figura)、聖名、祈祷文 (oratio) などで構成されており、それぞれの図符は文法、修辞学、論証学、医学、音楽、占星術/天文学、哲学、神学といった特定の学芸分野に結びつけられている。13世紀の神学者トマス・アクィナスは『神学大全』第II-II部の第96問題においてこれを論じ、アルス・ノトリアの儀式 (observatio) は迷信であって不法行為であると断じた。アルス・ノトリアの書物の読者には修道士や学生がいたと推測され、特にアルス・ノトリアの祈りの敬虔な宗教的性格から、修道院の修道士たちの間で伝えられていたものと考えられる。中欧の魔術文献について研究したハンガリーの中世史家ラーング・ベネデク (Benedek Láng) は、後期中世の大学や王侯の書庫にもアルス・ノトリアのテクストが存在していたことから、中世におけるアルス・ノトリアの流布は宗教界のみに限定される周縁的な現象ではなかったと結論づけている。13世紀か14世紀に成立したと推定される天使魔術書『ホノリウスの誓いの書』 ("Liber iuratus Honorii") に収録された祈りの文句はアルス・ノトリアと密接に関連している。アルス・ノトリアに分類されるテクストを含んだ写本はヨーロッパと北米の図書館に散在しており、現存写本数は50を下らない。『フランス大年代記』によると、14世紀初頭になる修道士の作った『幻視の書』 ("Liber visionum") というアルス・ノトリア系の書物がパリで焼き捨てられた。アルス・ノトリアの刊本は17世紀に初めて出版された。1620年頃にリヨンで出版されたアグリッパの著作集 "Opera" に収録されたラテン語版がそれである。その後、イングランドで占星術師/医師のロバート・ターナーによってその英訳版 "The Notory Art of Solomon" (1657) が出版された。これらの刊本にはアルス・ノトリアを特徴づける各種図符は掲載されていない。17世紀以降の英語写本が残存する魔術書『レメゲトン』は4巻で構成されているが、第5巻として「アルス・ノトリア」が加えられているものもある。その内容は上述の1657年刊 "The Notory Art of Solomon" の抄録である。
出典:wikipedia
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