政見放送(せいけんほうそう)とは、日本の選挙において、公職選挙法に基づき候補者個人及び政党政治団体が政見を発表する放送番組(テレビ・ラジオ番組)である。日本の地上デジタルテレビ放送の電子番組ガイドでは「ニュース・報道」に分類されている。政見放送は、公職選挙法(以下、「法」と略す)に基づき国会議員および都道府県知事を選ぶ選挙において、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中に日本放送協会(NHK)および基幹放送事業者(法では放送法に定義するものからNHK及び放送大学学園を除くものと規定している。具体的には民間放送事業者のこと)のラジオ・テレビの放送設備により、公益のため、その政見を無料で放送することができることとなっている(法第150条第1項前段・第3項前段)。NHKおよび基幹放送事業者はその政見をそのまま放送しなければならない(法第150条第1項後段・第3項後段)。選挙運動に放送設備を使用することは政見放送や経歴放送など法で認められた場合に限られる(法第151条の5)。ラジオにおける政見放送は、戦後初の総選挙となった1946年(昭和21年)4月の第22回総選挙において実施された。これは、当時逓信院電波局長であった宮本吉夫が発案したもので、全国中継放送で政党代表の政見演説を、ローカル放送では候補者の経歴・政見を放送する構想を持っていた。連合国軍最高司令官総司令部幕僚部民間情報教育局(CIE)との折衝を重ねた結果、政党放送と立候補者政見放送の実施が認められた。放送は同年3月14日から4月8日まで行われ、夕方の30分間、各回3人若しくはそれ以上の候補者の政見を放送した。1947年(昭和22年)には新憲法(日本国憲法)の施行を前に第1回統一地方選挙(4月5日)、第1回参議院通常選挙(4月20日)、第23回総選挙(4月25日)が実施された。この時は衆参両院の選挙、統一地方選挙では46都道府県の知事と人口10万人以上の42市の市長選挙で政見放送が行われた。また県議会議員選挙と人口10万以上の市議会議員選挙でも候補者数と放送時間の関係で放送可能な局では一部地域で実施された。この結果、同年3月21日から4月29日までの長期間、ピーク時は1日8時間もの政見放送が行われた。1949年(昭和24年)1月の第24回総選挙からは選挙運動臨時特例法によって選挙放送がNHKに義務づけられ、政見放送に加え候補者紹介放送(後の経歴放送)も開始された。1968年(昭和43年)、参議院議員であった青島幸男が当時の内閣総理大臣・佐藤栄作に提案した。当時は、選挙放送の公正の確保の問題、番組編成に関する技術上の問題、いわゆるサービス・エリアと選挙区の区域の差異の問題などがあった。テレビ政見放送実施のための具体的な事項は、「公職選挙法施行令」および自治省告示に委任し、これについての「公職選挙法施行令の一部を改正する政令」(昭和44年政令第228号)および「政見放送及び経歴放送実施規程」(昭和44年9月1日自治省告示第139号)が、1969年(昭和44年)9月1日から施行された。従来のラジオ放送による政見放送のための「候補者政見放送実施規程」(昭和28年3月19日自治庁告示第7号)は廃止され、テレビ放送、ラジオ放送を通じて新しく定められた実施規程によって選挙放送が行なわれることとなった。後に、「政見放送及び経歴放送実施規程」は、平成6年11月29日自治省告示第165号にて全て改正された。選挙運動という法律に基づく番組の性格上、多くが公共放送であるNHKから放送される。候補者などにより録画・録音された内容を一切編集してはならないとされそのまま放送しなければならない。候補者の発言やその他放送内容について、放送した放送事業者は責任を問われない。そのため、奇妙な格好をしたり、対立候補に腹を切るべきと言ったり、日本国政府転覆を訴えることも許されている(ミニ政党・泡沫候補に限らず、言論の自由が保証されていることからすれば当然の帰結といえよう)。ただし法には、「政見放送における品位の保持」として「公職の候補者、候補者届出政党、衆議院名簿届出政党等および参議院名簿届出政党等は、その責任を自覚し、前条第1項又は第3項に規定する放送(政見放送)をするに当たっては、他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」という規定が設けられている(法第150条の2)。これに抵触する発言があった場合、該当する政見放送の直前に、「公職選挙法第150条の2の規定をふまえて音声を一部削除しています」との断りが入り、削除した部分は音声だけ無音となる。また、政見放送において当選を得させない目的をもつて公職の候補者等に関し虚偽の事項を公にした者は5年以下の懲役刑若しくは禁錮刑又は100万円以下の罰金刑、政見放送において特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をした者は、100万円以下の罰金刑と、それぞれ刑事罰が規定されている(法第235条の3)。政見放送で音声を一部削除した例としては、1983年(昭和58年)の第13回参議院議員通常選挙における雑民党の政見放送(詳しくは「政見放送削除事件」を参照)や、2016年(平成28年)の東京都知事選挙における後藤輝樹の政見放送(性器を表す言葉を繰り返し善良な風俗を害したとして)がある。放送の前後には:「(ただいまから選挙の政見を放送いたします。)この放送は公職選挙法に基づいて、候補者の経歴と政見をそのままお伝えするものです(お伝えしました)。なお、手話通訳の有無は候補者の判断によるものです」(参議院選挙区・都道府県知事の場合)「この放送(時間)は公職選挙法に基づいて、候補者届出政党の政見をそのままお伝えします(しました)」(衆議院議員総選挙・参議院比例代表の場合)「この放送(時間)は公職選挙法に基づいて、小選挙区(地域ブロック名)の候補者届出政党の政見をそのままお伝えします(しました)」(小選挙区の重複立候補者を含む衆議院議員総選挙比例代表の場合)というアナウンスが流れる。小選挙区の政見放送ではさらに「ただいまの(これからお伝えする)放送は決められた方式の中から候補者届出政党の責任で選んだものです」というアナウンスも流れる。このアナウンスと経歴放送のアナウンスについては放送する局のアナウンサーが担当する(NHK東京の場合はアナウンス室、関連団体の出向職員、嘱託職員を問わず担当)。参議院選挙の選挙区候補者は、各候補者の個人演説であるが、衆議院選挙では1996年(平成8年)に小選挙区制ができて以降、小選挙区候補者については政党単位でのプロモーションビデオのような内容となった。参議院選挙および衆議院比例代表区の政見放送は、指定されたスタジオでの収録しかできず、様式は固定されている。しかし、衆議院小選挙区の政党候補は、政党が自由に内容を自作できるようになった。それと同時に衆院選では、無所属および "政党要件" を満たしていない政治団体の小選挙区候補は、政見放送そのものに出ることができなくなった。衆院選の無所属候補が政見放送に出ないのは、要件を満たさないため法律上出られないからである。だが、このことはあまり知られておらず、政見放送を怠ったと見られてしまう無所属やその他の政治団体候補者もいる。また、政見放送の自作が認められた政党候補とは、極めて大きな格差が生まれている。なお、平成11年11月10日、最高裁大法廷判決は、政党届出の候補のみに政見放送を認める規定は法の下の平等に反せず憲法違反でないと、判示している。その一方で、都道府県知事選挙や参議院選挙区選挙では、全ての候補者が政見放送を行うことができるが、候補者本人が希望すれば、敢えて政見放送を行わないことも可能である。衆院選における諸派・無所属候補、および全ての選挙で政見放送を希望しなかった候補者については、学歴や職歴といったプロフィールのみを簡単に紹介する経歴放送が流される(参議院選挙区選挙・都道府県知事選挙では、経歴と政見演説を組み合わせて放送するか、経歴放送のみを行う場合=特にNHK=もある)。また聴覚障害者のために、衆議院の比例代表選挙および参議院比例代表選挙では手話通訳が、衆議院の選挙区選挙については手話通訳と字幕スーパーインポーズの挿入もできるようになっている。また普段、放送局の番組放送中、右上に表示される「ウォーターマーク」が、政見放送では表示されない。なお、比例代表選挙の政見放送は、衆院の比例北関東ブロックおよび東京ブロックを除いて、NHKのみでしか行われないが、選挙期間中には主要な政党・政治団体のコマーシャル(有料)が、民間放送のスポットCM扱いで頻繁に放送されている。都道府県知事の選挙候補者のそれについても、参議院選挙の選挙区候補者と同じように、各候補者の個人演説となっており、収録場所・様式も、参議院選挙の選挙区候補者の場合と同じ。泡沫候補の政見放送および選挙公報は、非常に個性的なものが多く、愛好する好事家も多い。2007年東京都知事選挙では、14名(うち1名は経歴のみ)もの東京都知事候補者が、5分程度自らの意見を述べた。そのためテレビ朝日では、全員の候補者の政見放送が終了するまで、放送時間が80分にも及んだ。2016年東京都知事選挙では立候補者が21人にも及び、日本テレビでは約1時間の放送を2回に分けて行っている(計約2時間)。選挙公示の翌々日から投票日の前々日までに放送される。最近は地上波民放テレビ局、特に関東・関西の広域局では、編成の都合上、早朝や深夜の放送終了前しか放送できなくなってきている現状である。このことや、局にスポンサー料が入らないことを配慮してか、民放(特に広域局)には放送させないことが多い。NHKの場合も以前はゴールデンタイムの19 - 20時台、および21時台後半 - 22時台にも行われたが、定時放送の視聴者確保の観点から現在はゴールデン枠に政見放送は行っていない。土曜日・日曜日には政見放送が行われないことが多い。国政選挙では大きく比例代表選挙と選挙区選挙に分けられるが、衆院比例代表選挙に関してはNHK(衆院北関東ブロックおよび東京ブロックでは民放)でブロックごとに放送され、参院比例代表選挙に関してはNHKのみで全国同一内容で放送される。また衆院小選挙区選挙および参院選挙区選挙については都道府県ごとに放送される。なお、NHKの放送でもNHKワールド(テレビ・ラジオ)およびラジオ放送のインターネット同時配信の「NHKネットラジオ らじる★らじる」では放送されない。同時放送の時間帯でラジオ放送の場合、当該時間帯は一部地域のみでの放送の場合は裏送り扱いで通常番組が放送されるが、全地域で政見放送を行う場合は前者はFM放送、地上デジタルラジオ試験放送の音楽番組を中心に別番組に差し替え、後者は独自のフィラー音楽と断りアナウンスに差し替える。テレビ放送(NHKワールド・プレミアム)の場合も国内同時放送の全国放送番組では裏送り送出により通常放送されるが、時差放送ではそのときの編成状況により対応が異なる。アナログ放送が行われていた時代、関東(山梨県除く)、東海(静岡県を除く)、近畿の広域放送圏で国会議員選挙はその地域の総合テレビジョン、都道府県知事選挙の場合は当該地区の基幹放送局(東京・放送センター、名古屋、大阪の各局)と当該都府県のNHK各局、および独立UHF放送局で放送されていた。選挙と放送の両方とも総務省管轄ということもあり、デジタル化完了によりテレビでは放送区域が厳格化され、原則として放送局が存在する都道府県の政見放送しかできなくなった。放送局と放送時間については、放送局のある都道府県の選挙管理委員会と放送局との間で協議し、各放送局で政見放送の放送時間が重ならないことを第一条件に、放送局の判断で放送時間が決定される。また、政見放送のスケジュールは法に基づいて決定しているため必ず指定された日時でないと放送することが出来ない(振替放送できない)ため、NHKの場合、総合テレビとラジオ第1で政見放送中に突発的な事件や地震などがあった場合はEテレやFMでニュース放送が振り替えられる。ただし緊急地震速報は政見放送の途中であっても割り込んで放送する。この場合は後日、緊急地震速報と被った候補者・政党のみ放送をやり直す(結果的に所定の回数より多く放送されることになる)。テレビの政見放送では、地上デジタル放送の放送開始以降も完全デジタル化まではアナログ放送・地上デジタル放送ともに同じ放送条件とする為に、4:3の画面サイズ(2010年(平成22年)頃からはハイビジョンカメラでの撮影が多くなっている)での放送となっている放送局が多かった。例えば、NHKの場合アスペクト比4:3・走査線方式1125iで放送され、地上デジタル放送では左右に灰色のサイドパネルが入り、右上に表示しているロゴマークの透かしも自粛している。また、アナログ放送では2008年7月24日から実施していた地上デジタル放送切り替え推進の為の地上波アナログ放送終了告知マーク表示を自粛していた。ケーブルテレビでデジアナ変換を実施している際に表示されるマークも選挙期間中は自粛されることが多い。なお民放では、アスペクト比16:9・走査線方式1125iの完全ハイビジョン放送を実施している場合もある。2010年(平成22年)の参議院通常選挙におけるNHKの政見放送ではデジタル放送ではアスペクト比16:9・走査線方式1125iのハイビジョン画質で放送され、アナログ放送では16:9レターボックス放送となっていた。完全デジタル化後はNHK・民放を問わず、アスペクト比16:9・走査線方式1125iのハイビジョン画質による放送となっている。候補者が障害者の内ろうあ者の場合、そのまま収録しても、特にラジオによる政見放送では一切伝わらなくなってしまう。このため、以下の手順による措置を構じている。なお、この措置は、第14回参議院議員通常選挙(1986年)に立候補したろうの候補者による収録で起きたいわゆる「無言の政見放送事件」を教訓として作られた。このようにしているのは、政見放送の中で、手話通訳者が声を出すこと(読み取り通訳)を想定していなかったからである。政見放送は著作権法第40条の定める「公開して行なわれた政治上の演説又は陳述」にあたり、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」と解される。。たとえば、特定の候補者の政見放送のみをアップロードすることにより公平性が担保できなくなる、などである。第16回統一地方選挙の際、東京都選挙管理委員会は、投票期間中にAmebaVisionとYouTubeにアップロードされていた東京都知事選挙の政見放送の削除を両動画共有サイトに対して依頼したのも、これを理由としている。NHKラジオのインターネット同時配信である「NHKネットラジオ らじる★らじる」においては、政見放送を配信できないものとしている。そのため、先述のように政見放送の時間帯は全国放送時の一部地域差し替えの場合、裏送り送出でそのまま通常番組が配信されるが、ローカル枠放送時間帯はフィラー音楽に差し替えられている。また、民放ラジオのインターネット同時配信である「radiko」でも、政見放送の時間帯は別の内容に差し替えられている。無投票当選となり投票が行われない場合には政見放送は放送されない(法第151条の2第1項・第2項)。政見放送は、法により映像内へのテロップ挿入や中断しての臨時ニュースなどが放送できない。NHKの場合、他の放送波(Eテレ)で臨時ニュースを伝えるなどの代替策が講じられる。しかし、大規模災害時や災害が予想される場合は、この限りではなくなる事例がある。NHKの“7波全中”(国内放送全7系統同一放送)による編成条件として、「震度6弱以上の観測」「東海地震の警戒宣言が発令されたとき」「気象業務法第15条第1項に規定される警報(津波警報など)が気象庁から発表された場合」「災害対策基本法第57条に基づく都道府県知事や市町村長からの要請」など、J-ALERT相当の緊急を要する場合、政見放送と臨時ニュースが重なることがある。また7波全中とならない場合でも、災害報道というNHKの責務を果たすために地震情報など必要最低限のテロップが送出される場合もある。また2007年(平成19年)10月からテレビ・ラジオでの運用が始まっている緊急地震速報も、放送局の人間の手を介さずそのまま放送されてしまうため、政見放送の途中であっても速報が流れてしまう。なお法では、「天災その他避けることのできない事故その他特別の事情により、政見放送又は経歴放送が不能となった場合においては、これに代わるべき政見放送又は経歴放送は行わない」(法第151条の2第3項)としているが、選挙管理委員会の判断により再放送されるケースもある(後述)。2010年(平成22年)の参議院議員選挙において、たちあがれ日本が比例区で出馬していた足高慶宣候補を選挙期間中に除名、比例名簿から削除した。この時の同党の政見放送では、党幹部が比例候補の名前を読み上げ、候補者紹介を行っており、足高の名前も紹介されていた。政見放送の収録は1回のみであり、放送局側で内容を改変できないことから、足高の名前が削除された後も同党の候補として紹介され続けた。日本国憲法の改正手続に関する法律第106条に基づき、憲法改正の国民投票の際、国民投票広報協議会と賛成・反対の政党等(一人以上の衆議院議員又は参議院議員が所属する政党その他の政治団体であって両議院の議長が協議して定めるところにより国民投票広報協議会に届け出たものをいう)が、憲法改正案の広報のための放送をテレビとラジオによりNHKまたは民放で放送することとなっている。国民投票広報協議会が行う放送は、憲法改正案及びその要旨その他参考となるべき事項の広報を客観的かつ中立的に行うものとされ、政党等は、憲法改正案に対する賛成又は反対の意見を無料で放送することができる。その際、憲法改正案に対する賛成の政党等及び反対の政党等の双方に対して同一の時間数及び同等の時間帯を与える等同等の利便を提供しなければならず、政党等は、当該放送の一部を、その指名する団体に行わせることができる。NHKと民放はそれぞれの放送局が放送対象地域の政見放送を流すことになっているが、一部のNHKについて地域外の政見放送を流すことがある(出入中継と呼ばれる)。これは、過去に複数の都府県にまたがる広域放送を行っていた時代の名残や、地理的な事情から本来管轄外となる放送局が日常的に受信されていることから行われる措置。この特例は、ラジオ中継局の整備やテレビ放送のデジタル化など電波環境の変化で徐々に解消されているものの、一部は現在でも特例が引き継がれている。以下は2014年(平成26年)時点における地域特例の状況。なお、これらの特例を解消するために放送対象地域を厳密に守るようにすることは技術的には可能である一方、管轄外放送局を受信する習慣が深く根付いている地域も多く、すべての特例が前述の北九州局のように解消するかどうかは不透明である。
出典:wikipedia
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