S-3は、アメリカの航空機メーカー・ロッキード社(現・ロッキード・マーティン社)が開発した艦上対潜哨戒機である。愛称は「Viking(ヴァイキング)」。1960年代後半、アメリカ海軍は“VSX”(次期固定翼対潜機)としてS-2トラッカーの後継機となるべき機体の開発計画を国内航空メーカー各社に提示した。1969年にロッキード社が製造契約を獲得したが艦上機の経験が浅く、F8Uクルセーダー艦上戦闘機やA-7コルセアII艦上攻撃機など第二次世界大戦前から艦上機の経験が深いヴォート社(LTV社)を従契約社として開発が行われた。主契約社のロッキード社は兵器システムとしての本機の開発/生産の主体として航空電子システムの統合や最終組立などを行い、航空機としてのそれはヴォート社に委ねている。試作機は1972年1月21日に初飛行し、S-3Aの名称で量産が開始された。派生型として対潜装備を降ろして電子装備を増設したSIGINT(信号情報収集)機型のES-3A、対潜装備と電子機器を撤去して乗員区画後方に6名分の座席を増設できる貨物区画を設けた艦上輸送機型のUS-3Aがある。また、16機のS-3Aが電子戦に対応するためにES-3に改装された。ES-3は2009年までに全機退役している。S-3Aは1974年から部隊配備が開始され、1975年以降S-2トラッカーを装備する部隊に後継として配備が行われた。部隊配備は1978年8月に完了している。1981年からは電子機器と兵装運用システム及び対潜機材を改良する“兵装システム改良計画”が行われ、既存のS-3Aは全てこの改良を行ったS-3Bへと改造されている。冷戦が終結すると、ソビエト連邦の原子力潜水艦を探し出し攻撃する任務を主目的に作られた本機は対潜哨戒機としては任務を陸上機のP-3に譲る事になり、航空母艦搭載の艦上機としては対潜哨戒任務ではなく艦載機への空中給油任務と副次的な汎用攻撃任務に就いていたが、F/A-18E/F戦闘攻撃機の配備が進み、S-3は逐次退役することとなった。尚、S-3は1991年の湾岸戦争において初の実戦を経験しているが、その任務は通常爆弾を用いた陸上陣地に対する爆撃と対艦ミサイルによる艦艇攻撃であり、実戦において対潜水艦攻撃を行った例はない。2003年5月1日、カリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋に浮かぶ原子力空母「エイブラハム・リンカーン」をジョージ・W・ブッシュ大統領が訪問する際に、乗機として第35対潜飛行隊(VS-35)のS-3が使用され、この機はアメリカ海軍史上初めて大統領座乗機に付与される“ネイビーワン”のコールサインで呼ばれたアメリカ海軍航空隊機となった。S-3は2016年1月11日にアメリカ海軍から完全に退役したが、アメリカ航空宇宙局(NASA)では海軍の退役機を取得し各種試験機として運用している。艦載対潜機という特殊な機体であり、P-3やアトランティックといった地上対潜哨戒機が出現していた事から海外への輸出は実現せず(下記も参照)、運用はアメリカ海軍に留まった。ただし、カナダのCP-140 オーロラはP-3系統の機体であるが、対潜システムはS-3と同じ物を導入している。ほぼ四角断面の機体に大きな単垂直尾翼と高翼配置の主翼を持つ。主翼前縁は浅い15度の後退角を持つが、後縁には角度が付けられていない。主翼の翼端部にはESM装置が装備されている。主機である TF-34-GE-400 ターボファンエンジンは主翼下にポッド式に装備しており、機体後部には対潜用電子機器が消費する電力を賄うために補助動力源(APU)としてラムエアタービンを搭載している。垂直尾翼の根元前方にはこのタービンのためのラムエアスクープが開口されている。航空母艦に搭載する艦上機という性格上、主翼や垂直尾翼は大きく折り畳むことができ、主翼は上方に、垂直尾翼は側方に折り曲げるようになっている。MAD(磁気異常探知)センサーのセンサーブームは胴体内引き込み式になっており、使用時には尾部から機外に展伸して使用する。また、機首左下面にはFLIR(赤外線前方監視装置)を機体内引込式に装備している。胴体内の兵装庫に魚雷や爆雷を搭載できる他、翼下のエンジン外側のパイロンにも空対艦ミサイルや対地、対潜用の各種爆弾を搭載でき、増加燃料タンクの他に“バディシステム”と呼ばれる空中給油装置を搭載しての空中給油能力を持つ。S-3自身は機体上部前端、キャノピーの中央部に収納式の空中受油ブームを装備している。乗員は4名であり、主操縦士、副操縦士兼センサー員(Co-Pilot/COTAC)、戦術航空士(TACOO)、音響センサー員(SENSO)となっている。座席配置は並列座席の2列配置である。座席は全て射出座席となっている。後部座席は機内にあるが、頭上の機体上部外板を破砕して座席ごと射出される。乗員区画の後方は電子機器室になっており、乗員区画から中央の通路を通じて機内から機器のメンテナンスが可能である。機内の乗員区画は与圧されており、高高度でも乗員は個別に酸素マスクを着用せずに活動できる。与圧状態を保つため、及び電子機器が発生させる大量の熱を冷却するために「ECS(環境コントロールシステム)」と呼ばれる装置が備えられており、S-3では前任機のS-2で不十分とされた居住性を大幅に向上させることに成功している。S-3には掃除機の吸出し音のような独特のエンジン音からのあだ名がつけられていた。日本の海上自衛隊は第4次防衛力整備計画(4次防)に於いて、近距離、浅海面での対潜哨戒を行う沿岸対潜哨戒機としてS-2 あおたかの後継としてS-3の導入を計画し、調査のため幹部が秘かに訪米するなどしたが、オイルショックによる4次防自体の規模縮小によって導入計画は見送られた。軍事評論家の田岡俊次はこの計画について「海自にはジェット機保有願望があり、S-3を導入して米海軍の空母で離着艦訓練する計画まで立てていて、私も相談された。いずれは自前の空母で運用する気だったのではないかと思う。」と岡田春夫との対談で述べている。その後、海上自衛隊の対潜哨戒機整備計画はP-3Cの100機導入により長時間の哨戒が可能な大型機に一本化する方針に転換したため、S-3の導入計画が復活することはなかった。韓国海軍はP-3Cを16機、およびリンクス対潜ヘリを保有しているが、2010年の天安沈没事件を教訓に北朝鮮の潜水艦対策を強化するため、両者を補完する短・中距離用の哨戒機として利用していたS-2トラッカーの後継としてS-3の購入を希望していた。アメリカ海軍を退役してモスボールされている機体を改修の上、20機購入する予定だったが価格交渉が難航し、導入数を12に減らすなどしたが最終的に折り合わず交渉が中断した。ロッキード・マーティンは、アメリカ海軍のC-2グレイハウンドを代替する次期空母艦載輸送機計画にS-3を改修して艦載輸送機化したC-3を提案していた。この計画は過去に存在した艦載輸送機型のUS-3Aとは異なり、胴体を新規に設計されたものと交換することで、4.5トンの貨物あるいは兵員28名を輸送可能な艦載輸送機に改修する計画であった。ロッキード・マーティンは、デビスモンサン空軍基地でモスボールされている91機のうち、87機が再生可能で、平均で9,000時間の残存飛行時間があるとしており、C-3は次期主力艦上戦闘機であるF-35Cが搭載するプラット・アンド・ホイットニー F135をそのまま搭載でき、S-2の退役後、艦載給油機の任務を担っているF/A-18を開放することが可能であるとアピールしていた。このほか、ノースロップ・グラマンがE-2Dの技術を取り入れたC-2のアップデートを ベル・ヘリコプターおよびボーイングがMV-22Bオスプレイの艦載輸送機仕様を提案していたが、アメリカ海軍および海兵隊は、2015年1月5日に、MV-22の艦載輸送機仕様をCMV-22Bとして導入する契約を結んだ。
出典:wikipedia
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