近鉄奈良線列車暴走追突事故(きんてつならせんれっしゃぼうそうついとつじこ)とは1948年(昭和23年)3月31日に近畿日本鉄道(近鉄)奈良線河内花園駅付近で発生した列車衝突事故である。衝突が起こった地点から花園事故、また、事故の原因となったブレーキ故障が生駒トンネル内で発生(発覚)したことから生駒トンネルノーブレーキ事故とも呼ばれる。近鉄奈良線の近畿日本奈良(現・近鉄奈良)発上本町(現・大阪上本町)行き急行電車が、生駒トンネルを走行中にブレーキが効かなくなり、トンネル内からの下り坂を加速・暴走し、河内花園駅を発車しかけた前方の上本町行き普通電車に、70 - 80km/hで7時51分または52分頃に追突した。衝突した側である急行電車の各車は木造車であったために衝撃で大破し、特に先頭車であったモ9は、車体が半分以上前後の車両に食い込んで原形を留めず、2両目以下も相互の連結部分を中心に大きな破損が発生した。また、衝突された側の普通電車は鋼製車であったため大破は免れたが、それでもモ9と衝突したモ307は運転台部分が潰れ、さらにモ9の台枠以下が床下に潜り込んで車体が大きく持ち上がるという、凄惨な被害状況を呈した。この事故により乗客・乗員合わせて49名が死亡、282名が負傷した。戦中戦後の酷使の結果、老朽状態で放置されていたブレーキホースに用いられていたゴムの劣化による破損が原因とされる。事故車両は、本来非常弁付き直通ブレーキ搭載車であり、フェイルセーフ性確保のために自動空気ブレーキと同様の機構による非常ブレーキ装置を搭載していた。だが、戦中戦後の混乱期にはゴムなどの物資不足が原因で、非常直通ブレーキ搭載車について非常ブレーキ機能を殺し、そのブレーキ管を非接続とすることでブレーキホースの使用を節約するといった危険な「対策」が近鉄を含む各社で横行していた。そのため、ブレーキシリンダーに直接空気圧を送ってブレーキを動作させるための直通管(SAP管)と呼ばれる空気管のホースが破損すると、まったくブレーキが効かなくなった。また事故車には主電動機を発電機として使用し、運動エネルギーを一旦電力に変換後、抵抗器で熱エネルギーとして放出することで減速する発電ブレーキが備わっておらず、更には集電装置のパンタグラフが暴走によって架線から外れてしまい、マスコンの主回路を逆転させて電動機を逆方向に回転させ、その抵抗力で減速し停車させる非常制動(逆転制動)が使用できなかったことも被害を大きくした。その他、戦中に徴兵された年配の職員がまだ職場復帰しておらず、21歳という経験不足の運転士が電車を運転しており、事故車両が当日の奈良行き列車として使用された際に額田駅で、そして折り返しとなったこの電車でも事故直前にも生駒駅でオーバーランを起こしたにも関わらず、問題ないと判断して運転を継続させたことも事故発生原因の一つとされている。この当時は、近鉄のみならず各社で整備不良・資材不足による事故が頻発しており、特に生駒トンネルではこの事故以前に、終戦後2回も以下のような大事故が発生していた。事故当時、電車はどの車両もほぼ満員の状態であり、それでいて事故の規模の割には死傷者が少なかったのは、生駒トンネルを抜けた時点で運転士が異常に気づき、この先に連続下り勾配が控えていることが乗客に周知されたこと、更に乗客の中に通勤途中の警察官や国鉄職員、近鉄社員が居合わせ、乗客の動揺を静める、衝突に備え身を伏せるなどの体勢を取らせる、各車の手動ブレーキをかける、空気抵抗を増して減速させようと窓を開ける、などの可能な限りの協力を行ったことなどの要因が重なった結果であると指摘されている。事故発生地点手前の瓢箪山駅では、急行が停車するはずの石切駅を通過したという通報を受けたため、先行して走り同駅を通過する予定であった準急電車を急遽待避線に入れ、ポイントを切り替えたところで問題の電車が猛スピードで通過して行ったという話も残っている。事故を起こした列車は、瓢箪山駅が下り勾配の最終点で、それ以降は平坦線となる事から、瓢箪山駅を通過した頃が最も速度を出していたと推測されるため(100km/h程度)、もし準急電車に衝突していれば更に死傷者数は増えたかも知れないとも言われている。当該列車の運転士と先頭車両に居合わせた近鉄社員は、衝突のその時まで先頭車両から退避することなく運転席に留まり続け、運転士は顎の骨を折るなどの重傷を負い、近鉄社員はブレーキを握りしめたまま死亡した。この近鉄社員は当時存在していた高安工場の職員であったという。以上の理由により、未曾有の大惨事にもかかわらず、乗客・乗員が一体となって犠牲を最小限に食い止めたと言う美談として語られることがある。事故後、事態を重く見た近鉄は、奈良線で生駒越え運用に投入される車両について、ブレーキ装置をA動作弁による自動空気ブレーキへ統一する工事を1950年頃までに急ピッチで実施した。自動空気ブレーキであれば、仮に本事故のように各車間のブレーキ管が断裂した場合でもブレーキ制御弁がブレーキ管の減圧を検出、その場で非常ブレーキが作用して安全に停車できるためである。
出典:wikipedia
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