中国脅威論(ちゅうごくきょういろん)とは中華人民共和国(中国)の覇権主義が他国または世界にとって重大な脅威になるとする言説。日本やアメリカにおいては1950年代から1990年代、つまり冷戦中の脅威はソビエト連邦であった。1960年には日米安保条約が締結、日米同盟による安全保障が図られた。1960年代には中国脅威論が展開され、日本は米国とともに封じ込め・反共主義戦略を展開した。その後、リチャード・ニクソン大統領の中国訪問の衝撃を経て、1972年に日中国交正常化が実現した。1980年代にはこのソ連脅威論が再び台頭するが、ソ連崩壊によって終了する(なお、この脅威論は、危機感を煽るために防衛庁(現 防衛省)によって捏造されたものである事が、後年太田述正によって暴露されている)。冷戦の終結後は、ならずもの国家の脅威が論じられ、東アジアでは北朝鮮が名指された。2000年代にはテロリズムの脅威と“ならずもの国家”の脅威が結びつく一方で、中国脅威論も再び台頭した。近年の中国脅威論では過去数十年単位で見た軍事費の伸び率の高さや不透明性、共産主義国家としての報道・言論規制、他国への侵略、抑圧的な人権政策、偏向した愛国・歴史教育、輸出の拡大による貿易摩擦、甚大な環境破壊、資源の囲い込み等から今後中国が周辺諸国の又は地球規模での脅威となっていくとする見方で、この論説は、日本・台湾・米国・オーストラリア・ベトナム・インドなどで展開されている。また米中冷戦とともに言及されることがある。21年連続2桁増で急増する軍事費、軍事費の内訳の不透明性、兵器や人員の実態の不透明性、核戦力の充実、日本の沖ノ鳥島における排他的経済水域の否定、数々の示威行為(人工衛星破壊・アメリカ海軍原子力空母至近での潜水艦浮上・日本の領海侵犯・排他的経済水域での無断調査・台湾近海でのミサイル演習)により、中国脅威論が展開されている。2006年のアメリカ国防総省の年次報告書では、軍事費の増大などを背景に「周辺諸国への潜在的な脅威になっている」と述べている。経済大国として「世界の工場」と呼ばれる中国は廉価な製品の輸出によって他国の現地産業を圧迫しているという脅威論もある。この輸出攻勢の背景には外資の誘致による工場の乱立や安い人件費の他に、中国当局が固定相場制によって人民元が輸出に有利になるよう誘導している背景があり、人民元の変動相場制への転換圧力にもなっている(人民元改革も参照)。中国は10億を超える人口を抱えていること、エネルギー効率が悪いことから石油等地下資源の確保に積極的なため、新たな脅威論の要因となっている。2005年には米国大手石油会社・ユノカルの中国企業中国海洋石油総公司による買収騒動はアメリカ議会上院が法案を出すほどの事態に発展した。この他、中国からの移民は世界各国で摩擦を生んでいる。古くから東南アジア諸国などでは華僑が国の政治・経済に大きな影響力を有しており、近年では欧米や日本への移民の急増により、各地でチャイナタウンが形成されるなど、存在感を増している。中国の軍事的な脅威として中国軍によるサイバーテロが論じられもする。ニューヨーク・タイムズは、ダライ・ラマ14世のコンピューターなど、103か国の政府や個人のコンピューターが、主に中国からのサイバー攻撃を受けていたと報じた。またF-35戦闘機の機密情報にアクセスしようというサイバー攻撃があったことを、アメリカ空軍が発表している。2010年には米国の調査機関が中国人民解放軍陸水信号部隊によるサイバー攻撃の事例を発表した。2012年3月11日のサンデー・タイムズは、中国のハッカーがF-35戦闘機のデータを盗み出すため、BAEシステムズのコンピューターに侵入していたと報じた。近年の中国における急増し続ける軍事費について、保守系の識者を中心に軍事的脅威が唱えられている。中国の軍事費は1989年度から21年連続2桁増という勢いで増加しており、その予算の内訳が明確に示されたことはない。また装備の取得・開発費や戦略ロケット部隊や人民武装警察の予算は軍事予算に含まれておらず、実態は公表されている予算の3倍の額になるという指摘もなされており、2005年8兆円(同年ロシア6.5兆円)2006年10兆円、2007年14兆円と見込まれており、これに従うならば軍事支出では世界2位で、国際関係上、旧ソ連が占めていた地位に近づきつつある。2008年3月4日、姜恩柱報道官は、中国の2008年度(1 - 12月)国防予算は前年度実績比17.6%増の4,177億元(約6兆600億円)に上ることを明らかにした。上記の通り研究開発費などを含む実際の軍事費はさらに大きいとみられるが、公表額においてもフランスを上回り、米国、イギリスに次ぐ世界3位の軍事費になった公算が大きい。中国人民解放軍第二砲兵部隊のミサイル発射基地については軍事機密のため公開されてこなかったが、1980年代に一部公開され、2011年現在、すべてではないが一定程度公開されている。中国は核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイルDF-21とDF-3をはじめ日本を射程内に収めている。元海上自衛隊第5航空群司令川村純彦は中国のミサイル約800基のうち約100基は日本を照準としていると発言している(2006年時点)。また中国軍は台湾に照準を合わせたミサイルを2005年から2006年にかけて710基から790基に増強している。以下、日本を射程内としているものとして推定される基地について記す。中国の国防の観点からは、日本、韓国、台湾、フィリピン、およびそれら各地域の駐留アメリカ軍、およびアメリカ本土までを射程にいれている。従来、中国人民解放軍空軍は3,000機のJ-6戦闘機(中国製MiG-19)を保有していた。J-6は日本を空襲できるまでの航続性能が無いため日本の国防上の脅威ではなかったが、1990年代末からこれら旧式機が寿命更新期を迎えると、Su-27がロシアからの輸入/ライセンス生産方式で量産され始め、更に2006年からは中国国産のJ-10の年産50機程度の量産が始まった。これら新型機の導入により、中国空軍の戦闘機の世代は一気に2世代新型になって置き換わり始め、航空自衛隊の航空戦力に追いつきつつある。新型戦闘機の多くが上海周辺から沖縄/九州、又は北朝鮮の租借地から日本海沿岸を空襲できる航続性能を持っており、一部は東京空襲さえ可能となった。また、日中間海域の航空シミュレーションでも、アメリカ空軍の本格来援までは中国側が優勢を占める可能性が高い。これら中国空軍近代化により自衛隊の再編成にも影響を及ぼしている。将来的には、中国空軍は日本に航続距離が届く戦闘機2,400機を保有することになると見られている。こうした状況下にもかかわらず、当時の小泉政権は歳出削減のため、戦闘機の定数を300機から260機に削減した。空自は「量」を「質」で補うために、寿命を迎えるF-4EJ改の代替に最新鋭F-22ステルス戦闘機の導入を切望しているが、F-22は最先端技術の塊であるため、2007年7月25日の米国下院歳出委員会で禁輸措置の継続が決定された。中国空軍近代化を象徴する事件の一つとして、2011年8月中旬ごろに中国空軍のSu-27もしくはSu-30が東シナ海の日中中間線を越え、海上自衛隊の情報収集機を追尾したことが挙げられる。中間線より日本の側で、中国側による威嚇行為が行われたのはこれが初めてである。尖閣諸島へ近づかれる恐れがあると判断した航空自衛隊が、那覇基地のF-15J戦闘機をスクランブル発進させると中国軍の戦闘機は引き返した。ロシアから輸入した12隻(877EKM型2隻・636型2隻・636M型8隻、636型と636M型は改キロ級)のキロ級潜水艦の内、636M型8隻がロシア製GPS(GLONASS)誘導の3M-54E1(対艦)/3M-14E(対地)巡航ミサイルの潜水艦発射型「クラブS」の運用能力があるとされる。これは144発の巡航ミサイルで、自衛隊の指揮通信設備・航空基地・固定レーダーサイト・陸上自衛隊補給処・石油備蓄の攻撃が可能な戦力である。宋型・元型潜水艦・漢型原子力潜水艦・その他殆どの水上艦・JH-7A攻撃機・H-6爆撃機装備のYJ-8対艦ミサイルは対地攻撃型が無く、対艦攻撃型だけだった。しかし対地型YJ-85巡航ミサイルが航空機に配備されるに及んで、これの艦載用が中国海軍艦艇にも装備されれば、巡航ミサイル同時投射能力が数百-1,000本前後に激増することになり、日本の国防上懸念されている。従来は、中国人民解放軍陸軍(兵力160万人・戦車7,100両)の規模が陸上自衛隊(兵力16万人・戦車900両)を上回っていても、中国海軍の揚陸艦の数が少なかったので日本の国防上大して問題ではなかった。しかし、中国は台湾(24万人・戦車900両)を武力併合できる軍事能力を得るため、急ピッチでドック型揚陸艦を量産し、 揚陸艦隊の増強を図っている。2005年時点で戦車225両・歩兵3万人の輸送を出来る体制で、輸送能力はロシアを抜いて世界2位になった。2010年7月1日より施行された国防動員法により、有事の際の輸送・揚陸に使用する目的での民間船舶の徴用が可能になった。2015年には米太平洋揚陸艦隊と互角の戦車425両・歩兵4万人を1往復で輸送できる揚陸艦隊を持ち、3-4往復で台湾を征服するのに必要な戦車1,300両・歩兵16万人を輸送可能になると見られている。旧ソ連/ウクライナの航空母艦「ヴァリャーグ」を購入、建造を再開して2012年に「遼寧」として就役させた。中国海軍は2010-2017年に65,000t通常動力大型空母を3隻、2015-2022年に10万t原子力空母3隻を建造し、旧式フリゲート艦40隻を3-4目標同時処理能力を持った防空フリゲート艦36隻に更新予定である。又、艦載機や戦闘機、潜水艦、各種戦闘艦艇などをロシアから大量に購入中である。接近阻止・領域拒否の構想のもと、2020年には第一列島線、第二列島線以内の制海権の確保を目指しているといわれている。度重なる示威行為も中国脅威論を助長する一因となっている。実際に中国原子力潜水艦が日本の領海を侵犯をしたり(漢級原子力潜水艦領海侵犯事件)、中国軍艦艇が日本の排他的経済水域で度重なる無断調査を行ったりするなど、日本への挑発行為を繰り返している。また、尖閣諸島の領有権を主張し、自らの排他的経済水域を日中中間線を大きく越えた沖縄トラフまでであると主張し、沖ノ鳥島の日本領有を否定するなども日本側の警戒心を喚起している。また、琉球独立運動の標榜を中国が利用する危険性を、青山繁晴ら複数の専門家が指摘している。中国側から見て、沖縄県周辺は中国海軍の太平洋への出口であり、米原子力潜水艦が中国に巡航ミサイル攻撃をしたり、米空母が近寄ってくるのを防ぐ前線飛行場として、韓国/台湾を海上封鎖するための対艦ミサイル設置区域として、またアメリカ軍が使用した場合は台湾/上海空爆の拠点として極めて重要な要衝である。日本民主党の沖縄2000万人ステイ構想(移民ではない)は保守層から批判された。さらに日本側の抗議にもかかわらず日中中間線をまたぐ形で海底のガス田を開発中で、日中間の懸案事項となっている。2010年10月24日、自衛隊の中央観閲式に出席した菅直人総理大臣は、「軍事力の近代化を進め、海洋における活動を活発化させている中国にみられるように(情勢は)厳しさを増している」と中国の強大化について初めて名指しで言及した。1995年、中国軍部副参謀総長熊光楷は「もし米国が台湾に介入したら、中国は核ミサイルでロサンゼルスを破壊する。米国は台北よりロサンゼルスを心配した方がよい」と、台湾海峡での武力紛争に米国が介入した場合、中国はロサンゼルスに対して核攻撃する可能性があると表明した。なお中国は伝統的に1964年から核攻撃先制不使用を自国の核戦略としてきている。2005年7月6日には、朱成虎少将が「米国政府が台湾海峡での武力紛争に介入した場合、核攻撃も辞さない」と海外メディア記者会見において発言した。この朱成虎発言に対してアメリカ国家安全保障会議報道官のショーン・マコーマックは7月15日、朱成虎発言は「極めて無責任で、中国政府の立場を代表しないことを希望する。非常に遺憾」と非難し、7月22日にはアメリカ議会下院は、発言撤回と朱成虎少将の罷免を求める決議を採決した。また、台湾高等政策研究協会執行長官、楊念祖は朱成虎発言はアメリカと日本に向けられたもので、中国政府は米日両国の反応を試しているとした。日本共産党は、米中・日中間の経済的相互依存関係の強まりや、中国の対外政策に照らせば、中国を「脅威」とする考えには根拠が無いと主張している。また、中国脅威論とは中国の軍拡で公共の場所での軍事的権益を脅かされる可能性が出てきたアメリカが声高に中国の脅威を主張し、日本もそれになぞっているだけであると主張している。石破茂は、「中国の軍事費の伸びだけで『脅威』とは言えない。軍人の給与上昇にかなりの部分が使われている事実がある」と2009年12月8日のシンポジウムで述べた。また、2009年まで内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当」を務めた柳沢協二は「冷戦時代のソ連とは体制的な対立関係があったが、中国とは(経済発展という)同じ方向を向いて競争しており、相手を滅ぼす動機がない。中国が日本を滅ぼしたら中国の経済は成り立たないし、米中関係でも同じことが言える」と、2010年4月20日の国会内の講演で述べている。ただ、この柳沢や日本共産党などが主張する「グローバル化で経済関係が密接だから、戦争を仕掛けると自分が損をするから戦争は起きえない」という「資本主義の平和」論には異論もある。実際第一次世界大戦に於いて英独両国は緊密な経済関係を持ちながら開戦したし、中野剛志は「国家は必ずしも合理的に行動しないことや、合理的に行動したとしても戦争が起きる可能性がある」と著書で述べている。また、この平和論はグローバル化への警戒感が少ない日本で特に根強く信仰されている考え方だという。
出典:wikipedia
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