漢方薬 (かんぽうやく)は、伝統中国医学の一種で、日本で独自に発展した漢方医学の理論に基づいて処方される医薬品。古代中国においては、複数の生薬を組み合わせることにより、ある薬理作用は強く倍増する一方で、ある薬理作用は減衰すること(指向性の強化)が発見された。その優れた生薬の組み合わせに対し、「葛根湯」などと漢方薬(方剤)命名が行われ、後世に伝えられた。漢方医学の特徴は、伝統中国医学と同様に体全体をみるところにあり、「証」という概念を持っている。証は主に体質をあらわす。この点で西洋医学とは大きく異なる。漢方診療は「証に随って治療する(随証治療)」が原則であり、体全体の調子を整えることで結果的に病気を治していく。このため、症状だけを見るのでなく体質を診断し、重んじる(ホーリズム)。西洋医学が解剖学的見地に立脚し、臓器や組織に病気の原因を求めるのとは対照的である。同様に、漢方薬も「証」にもとづき患者一人ひとりの体質を見ながら調合される。西洋医薬は体の状態が正常でも異常でも一定の作用を示すが、漢方薬は病理状態ではじめて作用を示す。日本でいうところのいわゆる漢方薬は、中華人民共和国では中薬、朝鮮半島では高麗薬として伝統的に使われているが、日本では鎖国によって漢方医学が独自の発展を遂げたほか、医薬品医療機器等法の関係から漢方薬の成分分析が進んだため、中国では通常処方されない組み合わせでの処方が行われるようになり、日本式の処方による漢方薬を求めて中国から買い付けにくるという逆転現象すら起きている。一方、中国では現在でも煎じ薬で飲むことが多い。日本ではエキス錠が多いため持ち運びなどの利便性が良い反面、個人の証に合わせて処方を調整するのが難しいという面もある。一般的には、精油成分が粉末にする際に蒸発しやすいこと、また液体のほうが吸収しやすいことから煎じ薬のほうがエキス錠より効き目が強いといわれる。大韓民国では、漢方ではなく「韓方」「韓薬」の呼称が一般的である。これは韓国においても許浚の『東医宝鑑』等で漢方医学が独自に体系づけられたからである。同国内には韓方医を育成する韓医学部が大学におかれ、韓方医院は地方でもごく普通に存在する。漢方薬は一般的に複数の生薬をあらかじめ組み合わせた方剤をさす。この方剤により、効能が大きく変わる。甘草湯(かんぞうとう)のように甘草だけの方剤もあるが、まれな例外である。また漢方薬は東洋医学の理論に基づき処方されるのに対し、民間薬は経験的な民間伝承によるものである点で両者は異なるとされる。その効果は漢方薬においては比較的に限定的正確に働くのに対し、民間薬の効果は全般的で漠然と働くものが多いとされる。「漢方薬=生薬」という解釈をしている人も多いが、上記からわかるように、これは誤解である。日常的に、「漢方薬ではない生薬」の例は非常に多い。ゲンノショウコなりセンブリなりドクダミなりを煎じて、症状の詳細も体質も考慮せずにただ飲むだけであれば、それを漢方と呼ぶことは決してできない。東洋の薬に対する価値観は神農本草経で示されており、以下の分類に従えば西洋薬は『下品』に相当し、西洋医学では『上品』『中品』は薬とされていない。そのため、しばしば漢方薬は自然の材料を使用するから副作用が無く、安全であると誤解している人がいる。これは西洋医学と対比してという意味で、ここ数十年の間に広まったものである。東洋医学では「毒をもって毒を制す」という考えがある。猛毒を含む天然物は無数に存在し、漢方薬でもそのような原料が用いられている(例えば附子=トリカブト)。また、毒性がないとされるものでも、薬になるものは、使い方次第で「毒」にもなりうる。ただし、「漢方に副作用がない」というのはある意味で本当である。これは薬が天然のものだからという理由でなく、漢方の方法論において副作用という概念がないということによる。漢方では副作用が出た場合は誤治、すなわち診断ミスか投薬ミスとみなされる。漢方では、理論上は、副作用があって治癒できるなら副作用なしでも可能であるとされている。このことを理解するには証の概念について詳しく知る必要がある。西洋医学の視点からは、漢方薬の摂取による副作用として、甘草による偽アルドステロン症や小柴胡湯による間質性肺炎などがよく知られている(詳しくは各項目を参照)。また誤治とアレルギー反応は区別すべきである。一方、漢方医学には瞑眩(めんげん)という概念がある。治療中に一時的に病状が悪化し、その後に完全に回復するような状態を指す。漢方医学以外の代替療法や民間療法などで「好転反応」という言葉を耳にすることがあるが、ほとんど同じ意味である。これは副作用とは異なると説明されるが、実際に症状が出ている時点での区別は困難で、事後的にのみ確認できる。結局は医師の経験によって見分けるしかなく、あまり当てにならないので、瞑眩らしきものがあればただの誤治だったと考えるほうが無難である。この概念は日本独特であり、かつ日本でも江戸時代はあまり認知されていなかった。また、漢方医学でも古方派の瞑眩を積極的に歓迎する立場は、副作用の考えに近い。特に作用の強力な薬剤として副作用に注意するものには、地黄・麻黄・大黄・附子・芒硝・桃仁が挙げられる。厚生労働省の薬務局で発表される医薬品の副作用モニター調査結果などに、漢方薬の名も掲載されることがあるという。例えば、小柴胡湯(しょうさいことう)や八味地黄丸(はちみじおうがん)、葛根湯などの名である。だが、これらの"副作用"として報じられたものが、果たして化学薬のサリドマイドの催奇形やストレプトマイシンの難聴のような副作用と同じものとして扱っていいかというと、「まったく違うのではないか」と大塚恭男は述べている。というのは、「もし、小柴胡湯や八味地黄丸を正しい診断のもとに使った結果、好ましくない作用が生じたとすればそれは副作用といっても仕方ないことだが、必ずしも適正に使用されなかったのではないか疑問がある」と大塚恭男は述べている。「使うべきでない状態の患者に間違って使用した場合、好ましくない副作用が出て当然だと思われる」と指摘している。近年、世界の伝統医学の生薬、薬草の現代医学の視点からの作用機序の研究がすすめられており、漢方薬についても例外ではない。一例として、抑肝散のセロトニン神経系への作用や葛根湯のサイトカインへの作用、六君子湯の食欲増進ホルモン「グレリン」を分泌作用などある。長い歴史の中で経験的に作られた、漢方の薬理作用が分子レベルでの研究が進められている。漢方薬は、他の漢方薬や西洋薬との飲み合わせに問題がないという誤解がしばしば見受けられるが、これは正しくはない。他の薬の効果に影響し、悪い作用をもたらすこともある。特に同じ効能を持つ薬との重複は禁忌である。例えば、甘草は漢方方剤の約7割に含まれており、重複して漢方方剤を服用したことにより偽アルドステロン症を起こしやすくなるなどがある。また、特定の食べ物との組み合わせが禁忌とされている場合もある。このような飲み合わせ、食べ合わせに関する禁忌事項は、一般に、中国国内で販売されている漢方薬には明記されていることが多いが、日本国内で販売されているものには記載されていないことが多い。昭和42年(1967年)、武見太郎(日本医師会会長)の尽力により漢方薬は薬価に収録された。新薬で行われる通常の臨床評価試験を経ず、文献上の資料のみを元にして収録されたため、今後の効用再評価が求められる。漢方薬(方剤)の名称の最後の文字には、次のようなものがある。「湯」が最も多く、「散」がそれに次ぎ、その他は比較的少ない。漢方薬(方剤)の名称には、時に次のような文字が入ることもある。日本で販売される市販薬の中には、漢方薬を錠剤あるいは顆粒などの形にし、場合によっては2種類以上混ぜ合わせて商品名を付けたもの珍しくない。以下にその例を示す。日本の漢方薬では、似て非なる生薬がしばしば混同されていることがある。例として白朮と蒼朮の混同、桂皮(肉桂)と桂枝の混同などがあり、生姜と乾姜の中国医学と日本漢方との定義揺れなどの問題もある。西洋薬(医療)を主としている日本では、漢方薬学を中心として講義する大学はごく僅かである。中国や韓国では西洋医学、伝統医学について医師、薬剤師は教育課程が別であり、免許も別である。一方、日本では医師免許、薬剤師免許は一本化されており医師免許を持っていれば西洋薬も漢方薬も処方でき、薬剤師免許を持っていれば西洋薬も漢方薬も販売、調剤できる。これは一つの免許でどちらにも対応した総合的な医療に対応できる反面、漢方薬も含めた東洋医学の知識が少ない医師を生み出しているという面もある。
出典:wikipedia
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