近鉄5800系電車(きんてつ5800けいでんしゃ)は、1997年8月に登場した、近畿日本鉄道の電車(通勤用の一般車両)。愛称はL/Cカー。大阪線や名古屋線では長距離輸送のため、積極的にクロスシート車が運転されてきた。2600系・2680系・2610系では通勤型と同様の片側4扉でありながら対面式固定クロスシートを導入したが、シートピッチが狭いという理由で旅客から敬遠されるようになってきたため、2680系・2610系は車体更新の際に順次ロングシート化を行ってきた。1988年に登場した5200系も3扉転換クロスシート車であり、2600系列に比べると居住性は向上したが、3扉車のためラッシュ時の運転には適さないものであった。このためだけではないが、近鉄と近畿車輛は大量輸送と長距離着座輸送を1つの車両で実現できるように、ロングシートとクロスシートに自由に変更できるデュアルシート車の開発を進めてきた。1996年1月に2610系・2621FをL/Cカーの試作車として改造し、同年2月から大阪線で、翌3月から名古屋線で運転した。輸送品質の向上が利用客から好評を博したため、さらに増備すべくL/Cカーの新造が行われた。それが当系列であり、混雑時は窓に平行して座席が並ぶロングシートに、閑散時は回転式クロスシートに変更される「デュアルシート」を配置している。大阪線、名古屋線のみならず、西日本旅客鉄道(JR西日本)関西本線(大和路線)で運転されている大和路快速との対抗上、従来ロングシート車のみ投入してきた奈良線にも投入されている。1998年まで6両編成7本と4両編成1本の計46両が製造され、奈良線系統には6両編成5本30両が、大阪線には6両編成2本12両、名古屋線には4両編成1本4両が投入された。5800系以後に登場した新規形式はすべて、デザインが全く異なり、IGBT素子VVVFインバーター制御となったシリーズ21に移行した。このため、1981年の1400系と8810系に始まり、20年近く使われ続けた近鉄一般車の基本デザイン(3200系・5200系を除く)は、本形式が最後である。また、1984年の1420系に始まり、10数年に渡って使われ続けたGTO素子VVVFインバーター制御も、本形式が最後となった。2016年4月現在、奈良・京都線用として、西大寺検車区に6両編成5本(5801F - 5805F)が配置されている。電算記号はDH。5820系および9820系、1026系1026F - 1029Fと共通運用で、奈良線および阪神線直通列車を中心に運用されている。基本的には京都線・橿原線・天理線も含めた一体的な広域運用をしているため京都線系統での運用もある。座席運用については奈良線や阪神なんば線・阪神本線で運用される場合は、クロスシート運用とロングシート運用が混在しており、京都線・橿原線・天理線では貸切列車を除く全列車がロングシートで運用される。2013年11月2日には、五位堂検修車庫と高安検修センターで「きんてつ鉄道まつり2013」の開催に伴い、5802Fがモト78形+モト77形の中間に挟まれる形で併結した8両編成で団体臨時列車「マンモス号」に充当され、それぞれの会場最寄り駅である五位堂駅 - 高安駅間で4往復運転された。2016年4月現在、高安検車区に大阪線用として6両編成2本(5811F・5813F)が配置されている。電算記号はDF。5820系との共通運用とされ、運転距離や種別を問わず主に6両編成以上で運転する運用に就くが、ラッシュ時は他形式併結の8・10両編成運用もある。基本的には大阪線大阪上本町駅 - 鳥羽線五十鈴川駅間での限定運用であるが、混乱時には鳥羽線鳥羽駅や名古屋線に入線することがある。検査代走は2610系・2800系2817F (ロングシート車) 、1400系1407Fが行う。2016年4月現在、富吉検車区に名古屋線用として4両編成1本(5812F)を配置している。電算記号はDG。2610系・2800系改造L/Cカーや1200系1211F・1212Fと共通運用で、他形式の2両編成車と併結した6両編成で近鉄名古屋駅 - 鳥羽駅間の急行を中心に運用されている他に準急、1列車のみ山田線普通、1往復のみ大阪線急行でも運用される。検査代走は大阪線所属車同様に2610系などのロングシート車が行う。デュアルシートを配置した扉間は2人掛け3列のクロスシート、あるいは6人掛けロングシートとなる。車端部は4人掛け固定ロングシートとしているが、例外としてトイレの向かい側は、着席者の視線がトイレ入り口に向くのを防ぐため、2人掛け2列のクロスシートとしている。デュアルシートは、ロングシートとクロスシートの自動変換可能な電動転換機構を脚台に装備。電動転換機構は、シートを通路側にスライドさせる機能と、180度回転させる機能をあわせ持っている。座席の切り替えは運転台の総括制御スイッチにてロング/クロスシートの切り替えを行う。ロング時はシートは固定され、クロス時は足下の足踏みペダルで手動で180度回転可能としているが、このスライド機構は18400系で初採用された、現在の近鉄特急車標準の偏心式回転リクライニングシートと同様の構造である。クロス状態では足踏みペダルにてシートを180度回転し、座席を向かい合わせにしたり、進行方向やその逆方向に向かせることも可能である。足踏みペダルの仕様は製造時期によって差があり、初期車の足踏みペダルは小型であったが、増備車の5803F・5812F以降は大型のペダルに変更された。シートのモケットは横柄のラベンダーブルーを採用し、形状はクロス時を基本としている。背もたれを曲面形状の頭部まである高いものとし、その上にヘッドレストを取り付けている。肘掛けはアルミ製のものを採用している。寸法は、全高1120mm、全幅960mm(1人当たりの占有幅480mm)で、クロス時のシートピッチは975mmと特急車並みとしている。固定ロングシート部の1人当たりの占有幅は490mmとデュアルシート部よりもやや余裕があり、モケットの色をデュアルシートに合わせている。なお、固定ロングシート部にもヘッドレストを備えるが肘掛けは省略された。明るいグレーを基調とした化粧板と床敷物を採用し、シートの色に合わせることにより、落ち着いた雰囲気を醸し出している。床敷物は耐摩耗性の向上したものを採用し、省メンテナンス化を図り、出入口付近はノンスリップ加工を採用している。側扉の横には幅610mmの仕切を設けており、立ち客用の握り棒と背もたれ用のクッションを備えている。つり手は形状を五角形に変更し。高さはロング時を基準にして設置しているが、扉間は通常の高さのものとやや高いものの2種類が交互に並べている。カーテンはフリーストップタイプを採用し、上げ下ろし時にヘッドレストが邪魔にならないようにしている。トイレは大阪・名古屋線用のみ設置されており、トイレ前の一区画はクロスシートとなっているが、車端部の座席はクロス状態で固定されて乗降扉側の座席のみ転換でき、この区画の座席はロングシートに変換できない。なお、デュアルシートには、かつて日本国有鉄道(国鉄)がクハ79形で同種のアイデアに基づくロング/クロスシート可変機構を試作搭載して実験した、という前史が存在する。こちらは機構的な洗練度が低く、また当時の輸送事情では導入が困難であったために実用化は見送られたが、4扉通勤車でラッシュ時の収容力確保と閑散時および長距離客の快適性の両立を図るこの構想は、実は国鉄で発案されたものであった。車体材質は先代系列といえる5200系では普通鋼製だったが、本系列は1620系1641Fや1026系1029Fがベースになっていることから、両系列と同一のアルミ車体を採用している。ただし妻面の窓は縮小し、編成先頭以外の貫通扉の窓は拡大された。連結部の通路板は従来の2枚板式から3枚板式に変更され、Tc車正面部の通路板は大型化された。1998年度に増備された5804F・5805F・5813Fでは製造時から乗降扉上部に雨樋を取り付け、連結部に転落防止幌が設置されている。また、L/Cの字間に転換をイメージしたグラフィックロゴを製作し、カラーシールを先頭車運転席後部戸袋部と「デュアルシート」を配置した2連窓下部に、エッチング板を先頭車運転台窓下部に取り付けているが、2010年以降は車体側面のL/Cマーク撤去が行われている。走行機器は概ね大阪線所属の1620系、名古屋線所属の5211系と同一の構造、部品を使用した三菱電機製のGTO素子による1C4M制御のVVVFインバータ制御装置搭載で、主電動機は三菱電機製MB-5035B(出力165kW)を装備し、歯車比は5.73である。台車は1620系や5211系、1026系と同様の片押し踏面ブレーキ式近畿車輛KD-306型で、Tc・T車はディスクブレーキ (当初から1軸1ディスク) を併設する。1436系や1254系で搭載された滑走検知装置は搭載されていない。車輪径は動輪・付属輪共に860mm、ホイールベース間隔は2,200mmである。M車に主制御器・集電装置を、T車に東芝製補助電源装置・電動空気圧縮機を搭載。また、増解結作業を簡素化するための自動連結解放装置を搭載し、他系列との併結を考慮してブレーキ装置は従来と同様の抑速ブレーキ・回生ブレーキ併用電磁直通ブレーキ(HSC-R)が採用されている。SIV (静止形インバータ) は東芝製INV094と三菱電機製NC-FATが混在しており、CPもHS-10とC-1000LAが混在している。さらにモ5400形とサ5500形には車庫の検査ピットが4両編成対応であったことから編成を4両と2両に分割するための簡易運転台と前照灯を設けてある。この際のブレーキ指令が電気指令となるためHSC-Rに読み替えるブレーキ読替装置を床下に設置した。なお奈良線用編成については、検査ピットの6両編成対応化工事の完成で車庫内での編成分割が不要となったため、5803F以降は簡易運転台を設置せず準備工事のみに留められている。両端先頭車の運転台は5200系や1620系などの在来車と同一仕様であるが、本系列以降に登場したシリーズ21車両では横軸ハンドルの運転台に移行したため、1972年から続いた近鉄標準型の運転台を搭載する最後の車両形式になった。車両性能面では5211系や1620系、1026系と同様で、起動加速度2.6km/h/s、営業最高速度は105km/h(奈良線系統)および110km/h(大阪線・名古屋線)を確保し、全駅のホーム有効長が6両編成以上であれば標準軌全線で運用可能な性能を有する。2002年から2014年にかけて全編成にバリアフリー化工事を行い、ク5300形・ク5310に連結部注意喚起装置の取り付け、ドアチャイムと車内案内表示器を乗降口上部に設置し、5801F - 5803F・5811F・5812Fは連結側に転落防止幌を取り付けているが、5811Fや5812Fの転落防止幌は5200系などに設置された段違いタイプの防止幌となっている。2007年から2008年にかけて奈良線所属の5編成は阪神電気鉄道乗り入れ対応の改造を行った。改造内容は運転室に阪神用ATSと列車種別選定装置(東芝製で、東芝の旧ロゴである傘マークが付いている)、救援用のブレーキ読み替え装置など阪神線での走行に必要な機器や行先表示幕の交換を施工し、前述のブレーキ読み替え装置の搭載に伴い連結器は他のシリーズ21と同じ2段式電気連結器に交換されたため、排障器の形状が変更されている。乗り入れ対応編成は蝶々に類似したマークを前面運転台下窓と側面乗務員室扉横に貼り付けられている。2014年には全編成に対して老朽化したヘッドレストの新品取り替えを行うとともに、座席モケットも5820系や5200系更新車と同一デザインのモケットに交換されている。一部編成はロールカーテンがシリーズ21と同一品に交換された。座席の背面形状と転換装置、足踏みペダルは従来のままで存置されている。注釈出典
出典:wikipedia
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