宗谷トンネル(そうやトンネル、仮称:ロシア語:)は、将来、北海道とサハリン(日本名:樺太、以下サハリンと表記)の間に建設される可能性のある海底トンネル。稚泊トンネル(ちはくトンネル)という名称が用いられることもある。これは青函トンネルの名称が青森と函館を結ぶ青函連絡船から採られたように、北海道の稚内と樺太の大泊との間に運行されていた稚泊連絡船に因む名称である。また、日本とロシアを結ぶことから日露トンネル(にちろトンネル)、またシベリア鉄道の北海道延伸とも表現される。北海道の最北端・宗谷岬とサハリンの最南端・クリリオン岬(日本統治時代の名称:西能登呂岬)の間は約43kmで、この直線上で宗谷海峡(ロシア名:ラペルザ海峡)の最深部は約70mである。北海道とサハリンでは、地質には大きな違いがなく、技術的な側面では、トンネルの建設は青函トンネルよりも難しくはないと見込まれる。さらに、タタール海峡(日本名:間宮海峡)にも海底トンネル(サハリントンネル)を建設すると、線路の上では枕崎駅からヨーロッパまでつながることになるため、日本の鉄道とバイカル・アムール鉄道、シベリア鉄道との直通運転のみならず、モスクワからさらに西側の西欧方面とも直通運転を行い、上野発パリ・ロンドン行きなどの欧亜直通列車に組み込み、一大物流網の中継地とすることも視野に入れられている。実際、スターリン時代に間宮海峡トンネルの建設が開始されたが、その後、建設は中断され現在に至っており、近年、建設再開の動きもある。さらに、ロシア側としては将来的にベーリング海峡にトンネルを掘り、アラスカと結ぶことでカナダ、アメリカ合衆国への鉄道貨物輸送構想も打ち出している。2000年代末 - 2010年代に入ると、本計画についてはロシア側から度々議題にあがり、ロシア側によれば「日本と協議している(あるいは協議中)」「話し合いたい」などと発表しているが、日本政府やJR関係者などからは本計画に関して何ら声明が発表されておらず、事実上無視されている状態となっている。そもそもサハリン州自体の人口が減少の一途をたどっており、2010年以降島全体の人口が50万人にも満たず、ガス田開発以外の産業基盤が弱いサハリンにトンネルを築造してもまるで採算性が合わないため、これまでのところ、このトンネルの建設について日露政府間で公式に話し合われたことはないが、建設推進の動きとして、シベリア鉄道国際化整備推進機構発足準備委員会(山口英一会長)によるものなどがある。日本と欧州を結ぶルートとして比較すると、日韓トンネルと比べても、はるかに建設費が安く済み、また、効果も大きいとされている。ロシア側では、2009年1月16日にロシア運輸省のアンドレイネドセコフ運輸次官が当該のトンネル建設に関しての可能性を目下検討していると述べた。なお、トンネルではなく橋とする構想もある。2011年12月15日にプーチン首相が会見において間宮海峡から架橋した上で、「日本までトンネルを建設することも可能で、われわれは検討中だ」と表明し、「シベリア鉄道を日本の貨物で満載することにつながる」と期待感を示した。しかし、先述の通り、日露間政府で検討している事実はないとされている。また、2013年6月には、ロシア極東発展省が2016年にサハリンと大陸を結ぶ橋を着工する方針を明らかにした。そのうえで、同区間の構想についても言及した。ロシアの地元報道によると、イシャエフ極東発展相は5月下旬にユジノサハリンスクを訪問した際に、「大陸との橋の建設はサハリン州の発展に重要なポイント。将来的には日本とも結ばれる可能性もある」と発言、さらにサハリン州と日本の国土交通省が同構想についてすでに協議したと報じられているが、日本側からは本議題に関して政府・JR関係者ともに何も声明を発表しておらず(公然と無視されていると言わざるをえない状況である)、事実関係は不明である。2013年9月4日には、サハリン州のホロシャビン知事が、宗谷海峡で隔てられている北海道とサハリンを橋かトンネルで結ぶ構想について、ロシア側が可能性を「現在、研究している」と語った。ロシアのソコロフ運輸相が今後訪日する際に、日本側と計画の実現性について「話し合う」と述べたが、具体的な日程などには言及しなかった。ポロシャビン知事は毎日新聞の書面での取材に対し、「投資プロジェクトの鍵は、経済効果と投資の採算性」と回答している。日本側の度重なる無視にも関わらず現在でもロシア側から話題に上がっている。2015年7月に東京で行われた第9回世界高速鉄道会議でも、ロシア鉄道のウラジミール・ヤクーニン総裁が日本の代表団と本計画について討議し、「日本側の反応は興味を抱かせるものだったが、ロ日間の平和条約の不在がプロジェクトの実現を妨げている」「我々は皆、いくつかの政治問題、特に平和条約の不在が、経済協力を押しとどめている点をよく理解している。しかし私は、もし日本の今の指導部が、別の角度からグローバルな状況を見る可能性を見出したならば、このプロジェクトは、大変重大な刺激を得るだろうと思う。」と結論づけているが、日本側の関係者からは何のコメントも得られていない。ロシア側としては、間宮海峡の最狭部で海底トンネルまたは橋でロシア本土に鉄道網を結び付けたい計画であるが、サハリン州とロシア本土のみの交通需要だけでは経済的には引き合わないとしてプーチン大統領を初め政府高官やサハリン州関係者は本計画を積極的に推進している。2016年秋にもロシア側から日ロ平和条約の締結に関連した提案があったとされるが、ロシア側の強力な推進もあってか日本政府はようやくコメントを発表したものの、その内容は政府関係者の一人が「まるで夢物語」と語ったのみであり、更に当事者となるJR北海道やJR貨物関係者も何らコメントを発表しておらず、またも事実上の無視を決め込んでしまった。ここまで日本側がロシアの提案を無視する理由として、日本政府は日米同盟を基軸とする外交姿勢から、アメリカとの関係性への配慮があるものと思われる。また、JR関係者から見ても政治的な問題を無視しても、技術的・予算的側面から実現可能性が低く、コメントにも値しないと判断しているものと思われる。ロシア政府の専門家の調査と試算によれば、間宮海峡の連絡橋及びそこからの支線の建設費用が20億ドル、サハリンの鉄道の刷新費用が25億ドル、宗谷トンネルの費用は80億 - 100億ドルと試算され、本計画及びそれに付随する計画の投資額の総額は120 - 150億ドルと見積もられている。建設工事は7年かかる見込み。ロシア側はプーチン首相の発言などから日本との貨物列車による物資輸送による貿易活性化によってサハリン州や極東地域の経済の活性化を期待している。本計画が実現した場合年間400 - 600万個のコンテナが日本とヨーロッパの間で輸送され(日本とヨーロッパの間の総コンテナ個数の15 - 20%)、さらに年間1800 - 2000万トンの貨物が日本とロシアの間で輸送される可能性があると試算し、これらの輸送から得られる年間収益は30 - 40億ドルになると見積もられている。シベリア鉄道およびバイカル・アムール鉄道沿線地域からの鉱物資源、木材、その他の自然の開発や輸出を活発化させることが可能になると考えられている。一方、日本側では政府や当事者である北海道旅客鉄道(JR北海道)と日本貨物鉄道(JR貨物)は本計画に対して何の見解も表明していない(先述のようにロシア側は日本と交渉しているというが、日本側は無視を決め込んでいる)ため、費用対効果に見合うかどうかといった面も含め、どのような効果が見込まれるかは不明である。従来は北海道以南の在来線とサハリンの鉄道の大半は線路の幅(軌間)が同じ1067mm(狭軌)で敷設(サハリン内については、日本統治時代にさかのぼる)されたため、トンネルが建設されてしかるべき設備の建設や車両の導入がなされれば、技術的には鉄道の直通運転が可能になるとされていた。しかし、現在サハリンではロシアと同じ1520mm軌間(広軌)への改軌を進めており、これが完成するとサハリンと北海道の間で台車交換もしくはフリーゲージトレインもしくは北海道旅客鉄道が開発中のトレイン・オン・トレインの導入、貨物の積み替え基地の建設といった対策が必要になる。現在日本貨物鉄道の貨物列車の北限は北旭川駅となっており、同駅以北の宗谷本線には貨物列車が乗り入れておらず、名寄駅までの第二種鉄道事業の許可を有しているが、合理化のために1996年9月以降トラック輸送に切り替えられている(詳細は「名寄駅」の項目参照)。そのため(貨物列車が通ってないため当然といえるが)宗谷本線は現在貨物列車の運行を前提としておらず、ダイヤ上のボトルネックになることは確実である。これらの問題点の解決には設備の増強が不可欠である。これらの増強費用は巨額になる上に、JR貨物にとっても稚内付近の貨物ターミナルの建設費用や樺太・シベリア方面への専用の機関車・貨車の建設費用、宗谷本線の貨物列車の乗務員の育成費用なども無視できない存在となる。さらに、現時点で利用客数が少なく大幅な赤字の続く宗谷本線は廃線の危機にあり、特に稚内駅 - 名寄駅間は線形も悪い上に、JR北海道が示した廃線可能性区間の候補に載ったことから、宗谷トンネルが完成した場合でも宗谷本線が既に廃線となっている可能性も否定できず、その場合は鉄路が寸断されてしまう可能性がある。そのため、宗谷トンネルの建設決定がなされた場合、宗谷本線の改修費用だけではなく、宗谷本線そのものの維持費用だけでJR北海道の重荷となってしまう可能性がある。こうしたことから、仮に宗谷本線が廃線になっていなかったとしても、そうした投資に経営そのものが危機に陥っているJR北海道や、経営基盤の弱いJR貨物が耐えられるのか、補助金などで対処するとしても、巨額の投資に見合うリターンが存在するのか疑問の声が上がっている。
出典:wikipedia
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