エアバッグ()とは、膨らんだ袋体を用いて移動体の運動エネルギーを吸収、もしくは衝撃緩和する装置のことである。身近なところでは自動車の乗員保護システムの中の1つとしてエアバッグがあり、SRSエアバッグシステム(SRSは"Supplemental Restraint System"(補助拘束装置)の略)と呼ばれる。Supplemental(補助)とあるように、エアバッグはあくまでシートベルト着装を前提とした上で、その効果を最大限に発揮する乗員保護システムの1つである。したがって、シートベルトを着用していないとその効果は発揮されない。それどころか、最悪の場合はエアバッグにより死亡する場合もある(後述)。前席(運転席と助手席)に加え、一部車種では後部座席用も用意された。現在では側面からの衝突に対応するサイドエアバッグやカーテンエアバッグ、膝にかかる衝撃を緩和するためのニーエアバッグ、さらにはシートベルトを膨らませる方式のものもある。オートバイ・自転車のライダー用や歩行者用のエアバッグも販売されている。また、火星探査機が火星に着陸する際にエアバッグを利用して着陸するなど、さまざまな方面で衝撃吸収のために利用されている。なお、エアバッグは保安基準の対象外であるため取り外しても特に罰則等はない。日本のシートベルトエアバッグメーカであるタカタはエアバッグに組み込まれている部品である、インフレ―タの不具合により、リコールは日本国内とどまらず、世界にまで及んでいる。そのほか欧州などの輸入車も日本国内でリコールがなされているほか、アメリカでは死亡事故まで起きている。例えばブレーキは、車体の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収するが、エアバッグは移動体の運動エネルギーを、ガスの運動エネルギーに変換し吸収する。移動体がエアバッグに衝突するとエアバッグの容積を減少させる。この時エアバッグ内の圧力が高まるが、予めエアバッグには排出口(ベントホール)が開けられており、そのベントホールよりガスが勢いよく噴出する。(右図参照)つまり、移動体がエアバッグに衝突するとエアバッグ内のガスが外へ噴出する構成とされている。このエアバッグの中から外へ移動するガスの運動エネルギーに置換されるのである。ガスの運動エネルギーは、移動するガス重量とその速度で算出することが可能である。自動車用エアバッグの場合、移動するガス重量を25g、エアバッグに開いたベントホール(vent hole)から出るガス速度を350m/sec(高温の音速程度)とした場合、エネルギーの公式:E=mv/2に当てはめると、2000Jのエネルギーを持つものとわかる。また余談ではあるがこれらの作用はロケットやジェットエンジンが推力を発生する際の、「気体や燃料を燃焼(化学反応)させ気体を噴出し、その気体の移動による反作用を推力とする」現象と同様で、ロケットやジェットエンジンは加速、エアバッグは減速だが、用いる現象は同じ「気体を高速で移動させる反作用を用いること」である。ところで、上記のエネルギー吸収(以下EA:Energy Absorption)メカニズムは、エアバッグ内の圧力が充分高まった後にもたらされる作用で、移動体の接触直後には一定程度、空走が必要であることが知られている(右図赤線参照)。つまり、移動体がエアバッグに接触し、押し潰して容量が減少することにより、圧力が上昇するというプロセスが必要ということである。これは同じくEAを目的とするショックアブソーバーと大きく異なる点で、ショックアブソーバーは「定型の容器」と内容物にはオイル等の非圧縮体を用いることが出来るので、荷重が加わると即時に内圧が高まり、最小限のストロークで抗力が立ち上がることが出来る。またその後一定の効力を保つことも容易で、効率的なEAとすることが可能である。対してエアバッグは、形が定まっていない「不定形の袋体」と可圧縮体のガスを用いるので、接触初期には空走距離が構造的に必要で、ストロークの後半にやっと抗力が発生してEA効果を発揮することになるため、理想的なEAには程遠いものとなる。これは通常使用時に、コンパクトに収納できることとの相反で「エアバッグ」の宿命である。(右図:エアバッグとショックアブソーバーのGS波形比較。面積がエネルギー)自動車用エアバッグにおける展開初期のアスピレート(aspirate)効果について:コンパクトに折り畳まれたエアバッグは、展開プロセスの初期にインフレーターのガス圧で急に移動させられるが、この時「発生したガス量はバッグ容量よりも少ない」場合、バッグ内は負圧となる。この時、ベントホールより周辺の空気をバッグ内へ吸引するアスピレート現象が発生し、インフレーター出力よりも多くのガスをエアバッグに取り入れることがある。自動車用エアバッグにおいてベントホールの無いものもある。一般的なカーテンエアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ等がそうであるが、これらは袋体の厚みが運転席・助手席用に比べて薄いため、ベントホールを付けることが出来ず、袋体の容量も小さいため袋体内のガス移動によるEA効果も期待できない。そのためエネルギー吸収効果はほとんど無く、バッグを圧縮して上がった圧力は、ゴムボールのように再度移動体を跳ね返す仕事に変換される。しかし、これらは車室内構造物に直接接触するのを防ぐ事で衝撃を緩和し、ピークGの低減に貢献している。また、膨らんだ後にしばらく(数秒〜十数秒)形状を保持する製品もあり、その形状(カーテン状等)が機能として衝突安全に寄与するものもある。非自動車用途では、落下する物体を受け止めるためのエアバッグが存在するが、これらはスペース的な制約があまり無く、バッグの容量も自動車用に比べると非常に大きいため、バッグ内だけのガス移動のみで、エネルギー吸収が可能である。(参考:)技術者でありアメリカ海軍に所属していたJohn W. Hetrickは、現在のエアバッグにあたる安全クッションを1952年に設計し、翌年1953年に特許を取得した。彼は魚雷で用いられている空気圧縮技術を応用して、自動車事故の安全性を高めることを思いついた。Hetrickはアメリカの自動車会社でも働いていたが、会社側は彼の発明を製品化することに興味を示さず、この発明から10年以上たつまで市場に出ることはなかった。Allen K. Breedは衝突検知の技術を発明し、開発した。Breedコーポレーションは、1967年にこの技術をクライスラーの車に搭載し初めて市場に出た。同様の衝突抑制器 "Auto-Ceptor" はEaton YaleとTowne Inc.によって開発され、フォードに搭載された。この技術はすぐにアメリカで自動車安全システムとして販売された。一方、イタリアのEaton-Liviaカンパニーはこれを改良したローカライズされたエアバッグを販売していた。現在、一般的に世界中で広く各社に使用されているエアバッグは上記のエアバッグではなく、日本人の発明である。日本でのエアバッグの発明は1963年に遡る。特許申請事務代行業のGIC(グッドアイデアセンター)を経営していた小堀保三郎が、航空機事故などで、衝撃を緩和させ、生存率を改善させる装置として考案した。後に一般的に搭載されるようになったエアバッグではあるが、当時としてはあまりに奇抜な発想だったため、発表の場では、日本人の関係者からは失笑を買い、相手にされることはなかった。また、エアバッグが、火薬の使用が当時の日本の消防法に抵触してしまうことから、日本でエアバッグが開発されることはなかった。一方、欧米の企業では、エアバッグの研究、開発が進められ、それにあわせて法規も整えられていった。開発が進むにつれ、その有用性が認められ、1970年頃からは日本でも本格的な開発が始まった。現在、エアバッグは、世界中の自動車で、ほぼ標準装備となっているが、小堀が特許を有していた間は、実用化されていなかったため、特許による収入がなく、研究費などで借金を抱えていた。なお小堀はエアバッグの世界的な普及を知ることなく、1975年8月30日、生活苦から夫婦でガス心中を遂げている。エアバッグが最初に実用化されたのは、1970年代中盤のアメリカ合衆国においてである。当時のアメリカでは、シートベルトの着用義務付けを法制化することに対し、「ロマンがなくなる」などという理由から反発があった。そのため、シートベルトを締めずとも死なないシステムをメーカーは用意する必要があった。1971年、フォード社が顧客の車両にエアバッグを取り付け、モニター調査を行った。1973年にはゼネラルモーターズ(GM)が、キャデラック、ビュイックなど数車種でのオプション装備を可能とした。GMはこの装備を"Air Cushion Restraint System"と銘打っている。特にキャデラックでは、運転席と助手席ともにエアバッグを装備することが可能だった。ただし極めて高価であり、加えて誤作動による事故が発生したため1976年モデルを最後に姿を消している。1980年には、ダイムラー・ベンツ社が、高級車Sクラス(2代目モデル)にオプションとして装備した。同社が開発時に取得した特許は安全はすべてのメーカーが享受すべきという信念のもと、無償公開された。初期のエアバッグは、一部の限られた高級車にオプション装備として搭載されるのみであったが、次第に乗用車のほとんどでオプションとして搭載されたり、上級モデルには標準装備されるようになった。一時期、エアバッグ設定のない自動車でも装備できるよう、後付の機械式エアバッグ(レトロフィット エアバッグ)を製造・販売した会社もあったが、あまり売れず、現在は入手不可能となっている。そのため、ユーザーが、自らの好みに合わせて汎用の市販ステアリングホイールに変更した場合、原則として運転席エアバッグが装備できないことになる。日本車初のエアバッグ搭載市販車は、1987年にホンダが発売したレジェンド(運転席のみ)で、日本車で最初に運転席側を全車に標準装備としたのは1992年発売の同社のドマーニである。日本車では1990年代中盤から急速に普及した。1999年までに販売された車種のエアバッグの火薬には人体に有害なアジ化ナトリウムが使用されていたが有害なことが問題視され、2000年以降の販売車両には使用されていない。2009年現在では一部の安価な車種を除き、日米欧の大手自動車メーカーのほぼ全ての車種の運転席・助手席に標準装備されている(それ以外は、現在もオプション装着のものが多い)。唯一、ボルボでは、車の購入時に助手席エアバッグを装備しない選択もできる。また、助手席エアバッグの作動を一時的にキャンセルする機能や、車の購入後でも助手席エアバッグを作動しない状態にするサービスがある。これは、助手席に小さな子供を乗せて走るユーザーへの配慮である。また、運転席・助手席の座席サイド部分に内蔵されているサイドエアバッグ、ルーフライニングのサイド部分に内蔵されているカーテンエアバッグ、インパネ下部に内蔵されている下股部を保護するニーエアバッグも搭載されるようになった。その後、乗用車はもちろん、軽自動車、貨物自動車、バスにも搭載されている。しかし、欧州メーカーと比較すると多くの日本メーカーはサイド・カーテンエアバッグの標準搭載が遅れており、廉価グレードではオプションですら選択できないことも多い。そればかりか、マイナーチェンジを機にオプション設定からはずされてしまった車種も存在する。軽自動車では現在においてもサイド・カーテンエアバッグの設定がない車種が多い。昨今発売されている新型車では、ハンドルや助手席エアバッグに外から見て盛り上がりや切れ目のない(つまり、装備されていないように見える)車種が増加した。その理由として、質感の向上やドライバーの視線の妨げにならないようにすることを目的としている。部品モジュール化やCAD技術の発達、ドイツ製レーザーカット機の導入によるところが大きい。なお、機械式エアバッグ内蔵ステアリングホイール(例:エアバッグ搭載が始まった頃のトヨタ・カリーナ、トヨタ・コロナ等)ステアリングの場合、ステアリングホイールに関わる整備(取り付け・取り外し含む)の際の衝撃による意図しない作動を防ぐための安全装置(デアーミング機構)がステアリングホイール本体に設置されている場合が多いので、取り扱いの際には注意を要する。昨今エアバッグというと、自家用車に代表される高速移動体の乗員周辺に装備されるものがまず想像されるが、例えば車椅子のような低速移動体の転倒障害防止装置や、各種スタント行為の障害防止用クッション、さらには惑星間移動体の着陸衝撃の緩和装置にも利用される(下記)ほど、広範な利用価値を持つ。ここでは自動車用エアバッグを中心に、説明をすすめる。人間の眼からは、この動作が一瞬のうちに行われているように見える。エアバッグは、事故の衝撃から乗員の生命を守るためにきわめて強い圧力で瞬時に展開する。そのため、エアバッグとの接触により、かすり傷や打撲などの軽傷を受けることがあり、シートベルト非装着や小さな子供が助手席に座らせている場合は最悪死亡する恐れがある。また、ステアリングにもたれかかるようなエアバッグ装置に近づきすぎた姿勢で乗車しているとエアバッグの衝撃により命にかかわるような重大な傷害を受ける恐れがある。テレビなどでエアバッグの動作風景が放送される場合は、高速撮影とスローモーション再生の映像であるため、一見すると柔らかなクッションが上体を優しくキャッチしているように見える。しかし実際は、急速に膨らむバルーンに突っ込むわけであるから、ビーチボールや浮き輪で顔や胸をいきなり突かれるような衝撃がある。ステアリングやダッシュボード、あるいはフロントガラスに頭から突っ込む場合より被害を軽減するべく作られているが、高速での衝突時などでは完全に衝撃を吸収することはできない。エアバッグは、火薬を使って急速に膨らませるため、作動時には車内の気圧が急激に上昇する。窓を閉め切っていた場合などは、この急激な気圧の変化により、鼻血が出たり鼓膜を傷めたりする。場合によっては鼓膜が破れることもある。なお、火薬を使うのは、エアバッグを高速で展開するため。二酸化炭素などのガス膨張では間に合わない。初期のエアバッグでは、バッグが開いた時に顔面に当たる衝撃で死亡する事故が発生し、アメリカでは裁判にもなっている。日本国内で1999年までに装備されていたエアバッグの火薬(ガス発生剤)は有毒なアジ化ナトリウムが使用されていた。爆発(膨張)音の軽減やエアバッグの膨張〜収縮の時間差が工夫されるなど改良が加えられているが、あくまでも乗員の生命保護を第一としていることもあり限界はある。日本では、お笑いタレントの松本人志がテレビ番組「ダウンタウンのごっつええ感じ」内の企画でのエアバッグ使用によって、顔面に大ケガを負う事故が発生している。整備作業時に不適切な扱いをすると誤動作する危険性が有り、その結果、人員もしくは機材に著しく重大な損害を与える可能性が有る。衝突の瞬間、乗員の身体は大きく前方へ移動する。シートベルトを着用していなければ、エアバッグの展開範囲に近づきすぎてしまい、エアバッグが膨らむ衝撃により、死亡または重大な傷害に至るおそれがある。小さな子供を助手席に座らせている場合も同様である。衝撃の加わり方・強さの関係でセンサーが衝撃を感知しない場合(このことはマニュアルに明記されることもある)やシステムの不具合など何らかの原因でエアバッグが作動しない場合もある。ただ、その場合でもシートベルトを着用していれば傷害を軽減できる。エアバッグは火薬を使用する火工品であるが、「火薬類取締法施行規則第1条の4第7号の規定に基づき、火薬類取締法の適用を受けない火工品を指定した件」(平成17年経済産業省告示第346号)によって火薬類取締法施行規則(昭和25年通商産業省令第88号)第1条の4第7号の規定に基づく、火薬類取締法(昭和25年法律第149号)の適用を受けない火工品に指定されている。使用済自動車の再資源化等に関する法律施行令(平成14年政令第389号)第3条において、使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)(平成14年法律第87号)第2条第6項に掲げる「指定回収物品」として定めている。乗員保護用のエアバッグ以外に、歩行者保護用のエアバッグの開発も行われている。日野自動車は同社が発売する小型トラックデュトロのフロントバンバー下にエアバッグを展開し、歩行者の巻き込み事故を防ぐ装置を2004年に発表した。乗用車では2012年にボルボ・V40のオプションとして搭載された。衝突と同時にボンネット上部の隙間からU字型のエアバッグを展開し、歩行者の頭部がフロントガラスに衝突することを防ぐ。オートバイ用のエアバッグも開発されている。現在市販化されているのは、無限電光が製造しているヒットエアーのみである。このヒットエアーは車両本体に装着される自動車のエアバッグと異なり、着用するジャケットに装着される。エアバッグジャケット/ベストのアイデアは1976年にハンガリーの特許を申請しタマーシュストラウブによって発明された。多くのオートバイの事故の場合、乗員は車両から放り出されることから、乗員が車両から放り出された時にジャケットに内蔵されたエアバッグが作動するというもので、これを応用した乗馬用ジャケットも製造されている。車両本体側に装着するエアバッグは、2005年に本田技研工業が試作モデルを発表し、2007年に世界初の二輪車用エアバッグを搭載したホンダ・ゴールドウイングを発売した。自転車用のエアバッグは、スウェーデンのAnna HauptとTerese Alstinが卒論プロジェクトでデザインした、HOVDING(ホーブディング)が販売されている。このHovdingは襟巻のように首に巻くことで装着される。追突などの衝撃で自転車の運転者が飛ばされ、自動車や路面などに頭部を打ちつけて負傷・死亡することがあるが、こうした状況においてもスカーフに内蔵されたエアバッグが作動して頭部を覆うことで、衝撃を緩和し重症・死亡から守ることができる。1997年、火星探査機『マーズ・パスファインダー』はエアバッグで火星に着陸した。着陸直前に24個のエアバッグが開き、探査機全体を包み込む構造だった。雪崩対策としてエアバッグが有効である。雪崩で最も恐ろしいのは雪中に埋まってしまうことなので、エアバッグの浮力によりそれを防ぐことができる。ザック型の背負い装備、またはザックに装着する装備として販売されている。作動は手動である。
出典:wikipedia
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