ヘブライ文字(ヘブライもじ、ヘブル文字とも)とは、ヘブライ語やイディッシュ語を表記するための文字である。現代のヘブライ文字は、アラム文字より派生したアブジャドの一種で、右書き(右から左に)で書く。ヘブライ語の話者はヘブライ文字をアレフベートと呼ぶ。22文字の子音文字からなる表音文字で、うち k、m、n、p、 の5つの文字に非語末形と語末形(ソフェート)の区別がある。シリア周辺地域における考古学上の研究成果によれば、紀元前2千年紀に原シナイ文字(または単にシナイ文字)を使用していたシリア周辺の北西セム系の言語を話す諸民族は、紀元前1000 - 800年前後から原シナイ文字から派生したとみられるより線状の文字で自らの言語を筆記しはじめた。これをヒエログリフの影響がやや残りまだ象形文字的な形状のシナイ文字や楔形文字であるウガリト文字と区別して、場合によっては北西セム線文字などと称する。この時期にシリア周辺の北西セム系の諸民族、すなわちフェニキア人、ヘブライ(古代イスラエル)人、アラム人、モアブ人などの各都市国家などで使われた文字がフェニキア文字、古ヘブライ文字、古アラム文字、モアブ文字などである。これらの文字は時代を経るごとに形状が徐々に地域的な独自の変化をしていくのだが、この時期のヘブライ文字を古ヘブライ文字 ()、ないし原始ヘブライ文字あるいは古代ヘブライ文字 () などとも称する。紀元前7世紀頃から新アッシリア帝国で行政言語としてメソポタミア全土で使用されるようになったアラム語・アラム文字(帝国アラム文字)は、続く新バビロニア帝国、ペルシア帝国においても行政言語・共通語の役割を担い、周辺の諸言語にも多大な影響を残しているが、ヘブライ文字にもその直接の影響を与えている。アッシリアの北イスラエル王国の征服と新バビロニアによるユダ王国の征服、バビロニア捕囚、キュロス王による帰還政策とそれに続くペルシア帝国時代に、帝国治世下のセム系諸民族は軒並み帝国アラム文字の使用に移行したようである。バビロニア捕囚の後もイスラエル王国系の北南の地域では、一部それまでの古ヘブライ文字が使用されていたようだが、この時期からアラム文字によってヘブライ語を筆記するようになり、ヘブライ語自体も徐々に文語化し日常の口語はアラム語へと移行したのではないかと考えられている。このアラム文字に遷移した後のヘブライ文字を方形ヘブライ文字 () または単に「方形文字」と称する。ハスモン朝が成立する紀元前2世紀から紀元前1世紀に制作がはじまったと考えられるクムラン出土の死海文書では、単語末に形状を変化させる k の()カフ・ソフィート、m の()メム・ソフィート、n の()ヌン・ソフィート、p の()ペー・ソフィート、 の()ツァディ・ソフィートが出現している。しかし、これは同じ時期のパルミラ文字などの他のアラム語資料でもまったく同様の形態変化を起こしているので、方形ヘブライ文字だけではなくこの時期の西部のアラム文字系全体の変化と連動した、同一の現象と考えるべきだろう。死海文書などを見る限り、紀元前後のユダヤ人の文字は聖典、俗文書を問わずほぼアラム文字系である方形ヘブライ文字に移行したようであるが、死海文書中では神名である「YHWH」など若干の単語を古ヘブライ文字で書き分けている例が随所で見られる。また後代のラビたちもこれらの文字を「ヘブライ字()」と称しているため、バビロニア捕囚後も一部古ヘブライ文字は生き続け、この時期には現行の「方形ヘブライ文字」と「古ヘブライ文字」との峻別・併用・使用上の差異が存在したとみて間違いないだろう。蛇足ではあるが、北イスラエル王国領であったサマリア地域でも同様に古ヘブライ文字が生き続け、紀元前3世紀頃には古ヘブライ文字に装飾的な要素を加えた独自のサマリア文字の祖形が出来上がったようである。中世のサマリア文字は死海文書中の古ヘブライ文字と近似している。「方形文字」は数百年間中東において使用されたが、キリスト教(また後のイスラム教)の勃興によりそれぞれラテン文字、アラビア文字にとって変わられた。伝統的なユダヤ人の考えによれば、エズラが方形文字に貢献したことで知られるが、モーセの時代にはすでにヘブライ文字はすべて今日の文字をとどめていたと言う。ユダヤ人の口語としてのヘブライ語とアラム語の衰退に伴い、ヘブライ文字は捕囚後のユダヤ人の言語(イディッシュ語やラディーノ語)を書き留めるために受け入れられた。恐らくそのやり方で子供たちにタナッハを教える方が早かったのであろう。ヘブライ文字は、19世紀末に復活するまでヘブライ語を書き留める公式な文字として保持された。ヘブライ文字は唯一の正書法だが、いくつかの文字は語の末尾にのみ使われる特別な最終形態を有している。これは、アラビア語に似ている(ヘブライ語のほうはずっと単純ではあるが)。ヘブライ語は子音文字であり、母音は普通表さない。母音と共に単語を発音するために使われた一定の発音符号があり、…これはたとえば、子供に言葉を教える時使われる。聖書の節をどのように詠唱すべきかを示すために使われた朗読符、トーラーの巻物のみに使われた修飾「冠詞」もある。ヘブライ文字は数字としても使用されている。ヘブライ数字の記事を参照。数字としての文字の使用はゲマトリアとして知られる慣行でカバラ(ユダヤ教神秘主義)に使われている。ヘブライ語の歴史も参照のこと。現代ヘブライ文字の基本字母22字は、以下の通り。(記号(ニクード)によって区別される子音の内、重要なものは、背景を黄色で示す。)"注意"ベート、カッフ、ペーには二つの音が当てられており、これは文字の位置と母音による。母音記号が使われた時、硬音 はダゲッシュと呼ばれる内部の点で示され、軟音 は点が無い。 音は普通ヘットと同音で、ベートの 音はヴァヴと同じである。"シン"の2音は同様には区別されていない。 音のほうが非常に一般的である。母音記号をつけた文章内では上の点で区別されている。 音はサメフと同音である。テトとタヴはともに である。コフはアラビア語に近い、古い 音を保持する者を除き、 と発音する。レーシュは伝統的には有声口蓋垂摩擦音だが、現代のイスラエルに移住する前に住んでいた地域により歯茎ふるえ音や歯茎接近音などでも発音する。ヘブライ文字には、ך ם ן ף ץという5つの語末形があるが、そのヘブライ語の語末形のことを「ソフィート」という。すなわち、ךは「カフ・ソフィート」、םは「メム・ソフィート」、ןは「ヌン・ソフィート」、ףは「ペー・ソフィート」、ץは「ツァディー・ソフィート」という。ヘブライ文字には、子音を区別したり、母音を表現したりするための、ニクード(ニクダー)と呼ばれる記号がある。これらは通常の表記には用いられず、教育・説明用のテキストでのみ用いられる。主な用法を以下で説明する。子音の区別に用いられるニクードは、2〜3種類程度あるが、現代の弁別において重要なのは、事実上、ダゲッシュと呼ばれる中点「」のみ、それも「」(bet) と、「 , 」(kaf) と、「 , 」(pe) の3文字に付く場合のみである。ダゲッシュ「」がこれらの子音字に付くと、「破裂音」、すなわち をそれぞれ表す。したがって、付かない場合は、もう一方の を表すことになり、区別される。なお、子音区別の記号(ニクード)で、もう一つ特徴的なものとして、「」(shin) の左上や右上に付いて、 と を区別する点がある。一応取り上げておくが、しかし、現代においてはこれらの区別はあまり意味を持たない。母音の表現は、形式上は長母音、短母音、最短母音などの区別があるが、現代においては、母音の長短は区別されない。 の5母音の区別を押さえておけばいい。表記の前後関係で細かな例外はあるが、基本的な記号の用法を以下に示す。大まかな傾向を書いておくと、横棒()はア 、点1つ()はイ 、中点()や斜め点()はウ 、横2点()はエ 、近左上点()はオ 、といった格好になる。また、かつての最短母音は、それらの右脇に縦2点のシュヴァー()を添えて表現したので、現在でもそのような記号が見られる。なお、下掲のように、母音の表現には、かつての長母音表記の名残りで、記号のみならず「」(yod) や「」(vav) といった字母が、補助的に用いられることもある。上記のために言われた音における変化のうちのいくつかは古代のヘブライ語の系統的な特徴による。,,, の六子音はその位置により異なって発音される(詳細は複雑なのでここでは概要を述べるにとどめる)。音節の始め、あるいは二重になったとき、これらは破裂音として発音される。母音が先行した場合は、摩擦音 ,,, として発音される。閉鎖音と二重発音はダゲッシュと呼ばれる点で示されている。現代ヘブライ語では , は , となり、 は 及び となったので、この3文字のみが音の変化を示すのである。ヴァヴはドイツ語の ではなく、英語の半母音の である。ヘットとアインは喉の摩擦音であり、ツァディーは強い であり、そしてコフは である。これらはよくあるセム語の音である。スィン(シンの変化形 )はシンとサメフからともに独立した別の物であるが、母音を示す方法が考案された頃、サメフと同音になった。ヘブライ文字のための8ビットの文字コード国際規格にISO/IEC 8859-8がある。この符号化文字集合では文字および双方向テキスト処理のためのRLM/LRM(1999年に追加)を含んでいるが、ニクダーは含まれない。MS-DOSのコードページ862、Windowsコードページ1255もヘブライ文字用である。Unicodeでは U+0590 - U+05FF、FB1D - FB40 に収録され、文字・合字・連結発音区別符号・句読点が含まれている。注: のコードはイディッシュ語で用いられた。ヘブライ語では用いられなかった。このほかに、双方向テキストを処理するための RLM / LRM などの記号を使用する。聖書ヘブライ語ではさらにゼロ幅非接合子(ZWNJ)や図形素結合子(CGJ)が必要になる場合がある。アレフ-ベート母音と特殊文字(ニクダー)Windowsにおけるヘブライ語キーボード。音声学において、ヘブライ文字の名称が国際音声記号の呼び名として使用されているものがある。(例:ヨッド、シュワーなど)
出典:wikipedia
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