コレステロール ( ) とは、ステロイドに分類され、その中でもステロールと呼ばれるサブグループに属する有機化合物の一種である。分子式は CHO と表される。室温で単離された場合は白色ないしは微黄色の固体である。生体内ではスクアレンからラノステロールを経て生合成される。名称は1784年に研究者が胆石からコレステロールの固体を初めて同定した際、ギリシア語の "chole-"(胆汁)と "stereos"(固体)からコレステリン (cholesterin) と命名されていたが、その後化学構造がアルコール体であるため、化学命名接尾辞 "-ol" が付けられて現在の名称となっている(ただし言語によっては現在も旧称のほうが一般的である。例: 、、)。いわゆる「善玉/悪玉コレステロール」と呼ばれる物は、コレステロールが血管中を輸送される際のコレステロールとリポタンパク質が作る複合体を示し、コレステロール分子自体を指すものではない。善玉と悪玉の違いは複合体を作るリポタンパク質の違いであり、これにより血管内での振る舞いが変わることに由来する。これらのコレステロールを原料とする複合体分子が血液の状態を計る血液検査の指標となっている。コレステロール分子自体は、動物細胞にとっては生体膜の構成物質であったり、さまざまな生命現象に関わる重要な化合物である。よって生体において、広く分布しており、主要な生体分子といえる。また、液晶の原材料など工業原料としても利用される。ヒトのあらゆる組織の細胞膜に見出される脂質である。ヒトを始めとした哺乳類においては、コレステロールの大部分は食事に由来するのではなく、体内で合成され、血漿に含まれるリポタンパク質と呼ばれる粒子を媒体として輸送される。コレステロールはそれを生産する臓器や細胞膜や小胞体のような膜組織が密集している細胞で構成される臓器、たとえば肝臓、脊髄、脳に高濃度に分布している。成人の体内コレステロール量である100-150gのうち約1/4が脳に集中し、約1/3が脳を含めた神経系に集中している。動脈硬化叢に形成されるアテローム(血管の内側に詰まるカスのようなもの)にも高濃度で存在する。また、コレステロールが胆汁中で結晶化すると胆石の原因となる。植物の細胞膜においてはわずかな量のコレステロールが認められるに過ぎず、他の種類のステロイド(フィトステロールもしくは植物ステロールと呼ばれる)が同様の役目を担う。コレステロールは工業製品原料として化粧品・医薬品・液晶などに利用される。これらは全て天然物から精製し原料に供される。コレステロールを多く含む高等動物の組織、あるいはイカの内臓からも抽出され、工業原料として利用される。コレステロールを多く含む天然物から抽出すると、ヒドロキシ基(OH基)の部分に脂肪酸が結合したエステル体であるアシルコレステロール、さらに他のステロイド(コレスタノールや7-デヒドロコレステロール)のアシル体などが含まれる粗精製物が得られる。この混合物から純粋なコレステロールを取り出すには、脂肪酸を鹸化して取り除いたあと、鹸化されない分画を抽出し、アセトンあるいはアルコールを用いて再結晶する。二重結合を持たないコレスタノールや7-デヒドロコレステロールなどを取り除くために、臭素付加してコレステロールの二臭素体とすることがある。二臭素体は難溶性を示すので再結晶などで容易に精製することが可能であり、そのあと二臭化物を脱臭素化してコレステロールに戻すことにより、純粋なコレステロールを得る。食物由来コレステロールのほとんどは動物性食品に由来する。たとえば、卵黄(約1400 mg/100g)、するめ(乾物; 約980 mg/100g)、エビ類(約 170mg/100g)。植物性食品(亜麻仁種子やピーナッツ)では、コレステロール類似化合物のフィトステロールが含まれ、血漿中のコレステロール量を下げるとされている。単離された純粋なコレステロールは白色ないしは微黄色の固体で味は無い。クロロホルム、ジエチルエーテルに溶けやすく、1,4-ジオキサンにやや溶けやすく、エタノール (99.5%)、石油エーテル、冷アセトンにやや溶けにくく、水にほとんど溶けない。含水エタノールからは一水和物が板状晶として析出する。比旋光度formula_1 = −31.5°(c = 2、エーテル、20 ℃)。遮光された気密容器中に保存する。分析化学において、コレステロールを同定する定性反応が幾つか知られている。これらのうちいくつかはコレステロールと同じ部分構造のステロイドに対しても反応する。日本薬局方ではサルコフスキー反応とリーバーマン‐ブルヒアルト反応とでコレステロールを同定するよう指示している。コレステロール脂質を含むいくつかのコレステロール誘導体はある種の液晶として知られており、この分子はコレステリック液晶と呼ばれる配向状態をとる。コレステリック液晶はネマティック液晶の一種であり、ネマティック液晶のダイレクタ(分子集合体の向き)が空間的に歳差運動のようにねじれながら回転していき、らせん状に配向する性質を持つ。これはコレステリック液晶分子がキラリティを有することに起因している(下図参照)。コレステリック液晶はキラルネマティック相とも呼ばれる。コレステリック相のらせんピッチは可視光線の波長と同程度であることが多く、このとき選択反射という現象が観察されて色が見える。刺身から緑色の反射光が見えることがあるのはこのためである。らせんピッチは微小な温度変化に応答するため、温度によって色彩が変化する。それゆえ、コレステロール誘導体は液晶温度計や温度応答性インキとして利用される。カナブンや玉虫のようなメタリックな色彩を示す甲虫の一部の構造色はこれによると考えられている。コレステリック液晶は表示の書き換え時にのみ電圧印加が必要となるだけで、透過状態でも反射状態でも電気を消費しない。低い電圧で横向きらせん姿勢をとるため透過状態となり、通常は背面の黒を表示する。より高い電圧を加えれば縦向きらせん姿勢をとるため反射状態となる。コレステリック液晶は色彩を反射するのでバックライトが不要であるという長所の一方、単色では1層の表示構造で済むが、擬似フルカラーでは少なくともRGBのような3層分を積層する必要があり、透過時の光損失によって表示が暗くなるという短所がある。2005年には日本の家電メーカーがコレステリック液晶の試作品を製作した。コレステロールは生体内の代謝過程において主要な役割を果たしている。まず多くの動物でステロイド合成の出発物質となっている。また動物細胞においては、脂質二重層構造を持つ生体膜(細胞膜)の重要な構成物質である。人間では肝臓および皮膚で生合成される。肝臓で合成されたコレステロールは脂肪酸エステル体に変換され血液中のリポタンパク質により全身に輸送される。コレステロールが生命維持に必須な役割を果たす物質であるという事実は、科学者以外にはあまり知られていない。むしろ、一般社会には健康を蝕む物質として認知されていることが多い。すなわち、様々なリポタンパク質コレステロール複合体の血液中でのあり方が、高コレステロール血症など循環器疾患の一因になるとの認識が強い。たとえば、医者が患者に対してコレステロールの健康上の懸念がある場合には、悪玉コレステロール(LDLコレステロール:low density lipoprotein cholesterol、いわゆるbad cholesterol)の危険性を訴える。一方、悪玉コレステロールの対極には善玉コレステロール(HDLコレステロール:high density lipoprotein cholesterol、いわゆるgood cholesterol)が存在する。この両者の違いはコレステロールを体内輸送する際における、コレステロールと複合体を作るリポタンパク質の種類によるものであり、コレステロール分子自体の違いではない。詳細は、体内輸送およびリポタンパク質、変性LDLの項を参照のこと。コレステロールの存在自体は知られていたが、20世紀に入るまでその構造は長い間不明であった。1927年にコレステロールのステロイド骨格が4つの環構造6, 6, 6, 5員環が繋がっているものであると決定したのはオットー・ディールスである。彼はセレンを使った脱水素反応を利用した炭化水素の構造に関する系統的な研究を行っている。すなわち構造が未知の炭化水素を脱水素して二重結合を生成したり骨格を切断したりして既知の炭化水素に導き、元の炭化水素の構造を推定していくのである。ステロイド骨格もその一環でディールスの炭化水素と呼ばれる化学式 CH の炭化水素から現在の立体配置を除くステロイド骨格の構造を決定した。この方法では構造変換の過程で立体構造に関する手掛かりが失われるため、コレステロールの立体構造は解明されないままであった。1930年代はステロイドホルモンの単離と構造決定が相次いで研究された。この段階ではディールスの研究では立体構造が不明なため、これらのステロイドホルモンの構造はコレステロールを化学的に構造変換してステロイドホルモンへ変換しそれによって立体構造を決定している。立体構造を最終的に決定したのはE・J・コーリーである。彼の天然物合成の研究方法に基づき、ほとんど立体構造が分からない状態から天然物の生成経路ならびに中間体の立体配座と反応機構からステロイド骨格の生成反応が立体特異的に進行することを見出した。コーリーの見つけ出したステロイド骨格(ラノステロール)の構築反応は、生体内で生じる生化学反応のなかでも非常にエレガントなものの一つである。メバロン酸経路やゲラニルリン酸経路を経て生合成されるスクアレンの2,3-位が酵素的にエポキシ化されると、逐次閉環反応が進行するのではなく、一気にラノステロールが生成する。酵素によりエポキシ酸素がプロトネーションされるのをきっかけに、4つの二重結合のπ電子がドミノ倒しのように倒れこんでσ結合となりステロイドのA, B, C, D環が一度に形成される。それだけでなく、ステロイドの20位炭素上に発生したカルボカチオンを埋めるように、2つの水素(ヒドリド)とメチル基がそれぞれステロイド環平面を横切ることなく1つずつ隣りの炭素に転位することで、熱力学的安定配座となりラノステロールが生成する。他の生物種では同じスクアレンエポキシダーゼによりスクアレン 2,3-エポキシドからテルペノイドであるβ-アミリンを生成する生合成経路も知られているので、このステロイド構築反応はスクアレンエポキシダーゼ固有の反応というわけではない。ラノステロールからさらに先はリダクターゼとP450酵素によるメチル基の酸化が繰り返されて適用される。その結果、3つのメチル基が二酸化炭素として切断される酸化的脱メチル化によって(ラノステロールから17段階で)コレステロールが生成する。リン脂質から人工的に製造した脂質2分子膜は電気容量、屈折率、水との界面張力が実際の生体膜とよく類似するが、生体膜と異なり相転移温度 "T"c を持つ。すなわち "T"c 以上では流動性を示すが、"T"c 以下では硬くなり流動性を失う。これに30–50mol%のコレステロールを加えると流動性はさらに増し、しかも "T"c が消滅することが知られている。脂質2分子膜上では次のように埋め込まれる。すなわち、親水性を示すコレステロールのヒドロキシ基は外向きに配置されリン脂質の燐酸基部分と水素結合する。そして嵩高いステロイド骨格と炭化水素側鎖は内側のリン脂質の脂肪酸鎖の間に埋め込まれる。コレステロールは高等動物の細胞膜の必須成分であるが、植物細胞の細胞膜には別のステロールであるフィトステロール類(シトステロール、スチグマステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロールなど)も含まれ、真菌では別のステロールであるエルゴステロールも含まれる。一方細菌の細胞膜にはコレステロールは含まれない。コレステロールは生体の細胞膜の必須成分であり、また動脈硬化症の危険因子として、ヒトにおけるコレステロールの生理学は注目を集めている。まず、コレステロールが含有することでリン脂質より構成される脂質二重膜は、生体膜特有のしなやかさを発現する。そして、コレステロールから代謝産生されるステロイドホルモン類は、細胞核内の受容体タンパク質と結合して転写因子となり遺伝子の発現を制御する。複雑な体制を持つ多細胞動物の体内では、コレステロールは胆汁酸、リポタンパク質など輸送分子と共に複合体を形成して移送される。そして、どの輸送分子と組み合わされているかによって、どの組織からどの組織へ移送されるのかが制御されている。コレステロールに関する研究ではコンラート・ブロッホ、フェオドル・リュネンがコレステロールと脂肪酸代謝の調節機序を解明した功績で1964年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。コレステロールは細胞膜の構築や維持に必要で、広範囲の温度帯で膜の流動性(粘性度)を安定にする働きがある。いくつかの研究によるとコレステロールは抗酸化剤としての作用を持っている。コレステロールは(脂肪の消化を助ける)胆汁酸の産生も助けている。胆汁酸は、肝臓にてチトクロムP450の作用でコレステロールを酸化することにより産生される。胆汁酸は、タウリン、アミノ酸であるグリシンと結び付いて、あるいは硫酸塩、グルクロン酸と抱合して、脱水により塩にまで濃縮されて胆嚢に蓄えられる。人においては、コレステロール7-α-水酸化酵素により、ステロイド環の7の位置にヒドロキシ基(水酸基)が付加され 7α-ヒドロキシコレステロールが合成される反応が律速反応となっている。胆汁酸の生合成は、コレステロールの代謝によるものが一般的である。人体では1日あたり 800mg のコレステロールを産生し、その半分は胆汁酸の新たな生成に使用されている。毎日、合計で20-30gの胆汁酸が腸内に分泌されている。分泌される胆汁酸の90%は回腸で能動輸送され再吸収され再利用され、腸管から肝臓や胆嚢に抱合胆汁酸が移動することを、腸肝循環と呼んでいる。ビタミンA、D、EおよびKなど脂溶性ビタミンの代謝にも重要な役割を果たしている。ビタミンDは、コレステロールが7-デヒドロコレステロールに変化し、これに紫外線が当たることによって生成される。そしてコレステロールはビタミン以外にも色々なステロイドホルモン(コルチゾール、アルドステロンなど副腎皮質ホルモンやプロゲステロン、エストロゲン、テストステロンや誘導体など性ホルモン)の合成の主要な前駆体である。最近、コレステロールが細胞シグナル伝達に関与していることが発見された。それによると、原形質膜で脂質輸送の役割を果たし、原形質膜の水素イオンやナトリウムイオンの透過性を下げる働きがあることが示唆されている。脳、神経系にコレステロール全量の1/3も多く含まれているのは、神経細胞から伸びた神経伝達を司っている軸索を覆っているミエリン鞘にコレステロールが大量に含まれているためである。コレステロールは、ミエリン鞘の絶縁性を保持する役割を果たしている。絶縁されたミエリン鞘の切れ目であるランヴィエの絞輪ごとでの跳躍伝導により高速の神経信号伝達に寄与している。実際、哺乳類である豚や牛などでは脳総重量の2-3%がコレステロールで占められている。脳の灰白質は、中枢神経系の神経組織のうち、神経細胞の細胞体が存在している部位のことである。これに対し、神経細胞体がなく、神経線維ばかりの部位を白質と呼ぶ。白質は明るく光るような白色をしているのに対し、灰白質は、白質よりも色が濃く、灰色がかって見えることによる。これは、有髄神経線維のミエリン鞘の主成分として大量に存在しているコレステロールやミエリンが白い色をしているためで、白質には、灰白質に比べて、有髄神経線維が多いからと考えられている。カベオラ依存エンドサイトーシスやクラスリン依存エンドサイトーシスにおいて、カベオラやクラスリン被覆ピットを構成したり陥入する作用にコレステロールは必須である。これらのエンドサイトーシスにおけるコレステロールの役割は、コレステロール欠損原形質膜とメチルベータシクロデキストリン (MβCD) とを使って研究されている。コレステロールは哺乳類の細胞膜において正常な細胞機能を発現するために必要であり、コレステロールはいくつかの細胞や組織でアセチルCoA を出発原料として細胞内の小胞体で合成されるか、食事から取り込まれ、コレステロールのアシルエステルは LDL により血流を介して輸送される。そして、受容体関与エンドサイトーシスによりクラスリン被覆ピットから細胞内に取り込まれ、リソゾームで加水分解される。まず、コレステロールの供給については胆汁酸と複合体を形成して腸管より吸収される外因性コレステロールと、主に肝臓において、アセチルCoA からメバロン酸、スクアレンを経由して生合成される内因性コレステロールとに大別される。その生合成量は外因性コレステロール量の変動を吸収するように調節されている。外因性コレステロールは 1, 200–1, 300mg が吸収されるが、食事由来のものは 200–300mg ほどであり、他は肝臓から胆汁に分泌されたものの再吸収である。したがって、体内で循環しているコレステロールの50%ほどが血流中に存在していることになる。ヒトで体内の全コレステロール量はおよそ 100 - 150g ほどである。殆どが細胞膜に取り込まれたものであるが一部が代謝循環している。すなわち内因性コレステロールの生産量は低コレステロール食摂取時にはおよそ 800mg/日程度であることがしられており、体内を循環するコレステロールのおよそ20%–25%が肝臓で合成される。皮膚においても肝臓に次ぐ量のコレステロールが産生されており、皮膚で 7-デヒドロコレステロールからビタミンD が光化学的に生成される。7-デヒドロコレステロールは、ヒトを含むほとんどの脊椎動物の皮膚中で大量に生成される。ビタミンD は、肝臓で C25 の位置でヒドロキシ化の代謝を受け 25-ヒドロキシコレカルシフェロール(別名 25(OH)D 、カルシジオール)へと変化し肝細胞に貯えられ、必要なときに α-グロブリンと結合しリンパ液中に放出される(詳細はビタミンDを参照のこと。)。ヒトを含む哺乳類においては、皮膚以外の組織で必要とされるコレステロールあるいはステロイドホルモンなどコレステロール誘導体は生合成されるのではなく、肝臓から血漿中を輸送されるコレステロールエステルを含むリン脂質複合体を利用する デノボ合成により産生される。また体内における貯蔵について述べると、コレステロールを貯蔵するための特別な形態は存在しない。たとえばブドウ糖はグリコーゲンへ、アセチルCoA はトリグリセリドへと転換されることで蓄積される。しかし、コレステロールはそうではない。このため輸送途中のリポタンパク質(LDLコレステロール)などは体内におけるコレステロールのリザーバーとしての役割もある。末梢組織にリン脂質とともに運ばれたコレステロールエステルはリソゾームで加水分解を受けてコレステロールに戻り、さらに利用される。このような動態を持つためコレステロールの食事からの吸収や肝臓での生合成は必須である一方、コレステロールの過剰による高コレステロール血症も問題となる場合も多い。高コレステロール血症は、食事による外因性コレステロールの増大だけでなく、末梢組織での LDLコレステロール受容体機能の抑制も大きな因子である。家族性高コレステロール血症では遺伝的に末梢組織の LDL受容体が変成することで、結果として末梢でのコレステロール取り込みが減り、高コレステロール血症が発生する。また、先天的要因だけでなく後天的に脂質代謝異常も発現していると考えられ、そういった糖・脂質の複合的な代謝異常という意味でメタボリックシンドロームが注目を集めている。なお、植物油に含まれるフィトステロールがコレステロールの吸収を減少させる作用を有する(詳細はフィトステロール#コレステロールの低減を参照)。フィトステロールは小腸の粘膜細胞において一旦は吸収されるが、能動輸送によってフィトステロールが細胞外に排泄される。この時、コレステロールも一緒に排泄されるので摂取したコレステロールの吸収が減少することになる。食事のうちトリグリセリド(中性脂肪の一種)の摂取量は 50–125g/日であるのに対して、コレステロールは200–300mg/日程度である。高等動物種の場合、コレステロール単独で輸送されることは無く、脂質の成分比率は様々であるがトリグリセライドなど他の脂質と共にリン脂質のミセルを形成し輸送される。脂質を輸送するリン脂質にはアポリポタンパク質が含まれ、リン脂質とアポリポタンパク質を総称してリポタンパク質と呼ばれる。リポタンパク質にはいくつかの種類が存在し、比重、ミセルの大きさやアポリポタンパク質の種類で分類される。(詳しくは記事 リポタンパク質を参照のこと)つまり、水にわずかしかに溶解しないコレステロールを水を主成分とする血流に乗せるために、リポタンパク質がミセルを形成し、スーツケースのようにコレステロール(エステル体)や中性脂肪を格納することで血流を介して輸送するのである。リポタンパク質の表面のアポリポタンパク質が細胞のコレステロールを運び去るのか、受け取るのかを決定する。すなわちヒトにおけるコレステロールの輸送はそれぞれの場面において固有の役割を担うリポタンパク質などキャリヤーの存在が重要である。コレステロールの輸送は肝臓を中心として胆汁酸とリポタンパク質より形成されるキロミクロンとにより輸送される、と、LDL や HDL が介するとに大別される。言い換えると、肝臓から末梢へのコレステロール輸送は LDL が担当し、組織(おもに遅筋)から肝臓への輸送はHDLが担当する。その役割の違いから LDLコレステロール複合体(LDLコレステロール)は「悪玉コレステロール」、HDLコレステロール複合体(HDLコレステロール)は「善玉コレステロール」と呼ばれることがある。キロミクロン (chylomicron) と呼ばれるリポタンパク質脂質複合体はリポタンパク質の総量の大部分を占め、主に小腸粘膜と肝臓の間で脂肪を輸送する。キロミクロンは主に中性脂肪とコレステロールを肝臓に輸送し、肝臓で中性脂肪と一部のコレステロールを放出する。そしてキロミクロン粒子は LDL粒子へと変換されて肝臓から他の組織へと中性脂肪とコレステロールを輸送する。もう一つのリポタンパク質脂質複合体であるHDL粒子はコレステロールを肝臓に逆輸送し、肝臓から分泌させる。この作用は大変興味深い作用で、巨大HDL粒子の数が多いほど健康に寄与するところが大きい。このようにリポタンパク質の種類により役割が分化する理由は、細胞への取り込みがリポタンパク質の種類を細胞膜表面にあるリポタンパク質受容体が識別してエンドサイトーシスが生じて取り込みが起こるためである。取り込まれた小胞はリソゾーム代謝を受け、細胞に利用される。ヒトにおけるコレステロールの排泄は、肝臓でコレステロールが水酸化されて胆汁酸を生成し、胆嚢からビリルビンとともに胆汁として分泌される。その際にコレステロールの一部が胆汁酸と複合体を形成して十二指腸に排泄される。胆汁の中のコレステロールは胆汁酸により分散安定化されているが、胆嚢で胆汁が濃縮される際に何らかの原因で遊離しコレステロールの結晶が成長すると、胆嚢あるいは胆管においてコレステロール胆石症の原因となる場合もある。胆石の他の原因であるレシチンやビリルビンによる結石は稀である。胆汁は胆管を経由して、十二指腸で腸管内に分泌排泄される。しかし大部分は小腸において再吸収されることになる。食物繊維を多く含む食事は食物繊維が胆汁酸を吸着するのでコレステロールや他の脂質も巻き込んで排泄される。それゆえ、脂質吸収を抑制するのに役立つと考えられている。また、皮膚あるいは髪の毛など上皮細胞が脱落するとその細胞膜のコレステロールも失われることになる。コレステロールの生合成量は体内コレステロールレベルが直接が調節している。しかしコレステロール恒常性について判明していることはごく一部である。まず食事から吸収する量が増大すると生合成は抑制され、吸収量が減ると反対に作用する。主要な調節機構は次の通りである。この機構のほとんどは1970年代にマイケル・ブラウンとジョーゼフ・ゴールドスタインによって解明され、彼らは1985年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。昆虫では体内で必要とするコレステロール合成ができないため、肉食性の昆虫では食物からすべてのコレステロールを得ている。草食性の昆虫では食物となる植物細胞の構成要素となるステロールの主体がシトステロールなどであり、コレステロールの量がわずかであるため必要量を満たせない。そのためシトステロールを体内でコレステロールに変換していることが知られている。(教科書を含む)多くの書籍では植物にはコレステロールが含まれないという誤った記述が見られる。この誤解の多くは、米国の食品医薬品局が食品中のコレステロール含有量が一回の食事当り2mg以下の場合にラベル表示をしなくても良いとしていることに起因する。植物性食品にも多少のコレステロールは含まれる(ベールマン (Behrman) とゴパラン (Gopalan) によると動物性食品では5g/kgなのに対し、植物性食品では総脂質のうち 50mg/kg がコレステロールであると指摘している)。コレステロールは動物の生理過程において不可欠の物質であるが、血液中をリポタンパク質によって循環する量が過剰となることで高脂血症を引き起こし、血管障害を中心とする生活習慣病の因子となることが知られてきた。よく血液検査でコレステロールが調べられるが、TC または T-CHO の略号で血液中の総コレステロール、LDLC または LDL-C での略号でいわゆる「悪玉コレステロール」、HDLC または HDL-C の略号でいわゆる「善玉コレステロール」を表すことが多い。人間の体内にあるコレステロールのうち、およそ3割前後は肝臓で合成されている。コレステロールを多く含む食事の摂取が増えても、生体には恒常性を保つ調節機構があり、健康な人間であれば体内におけるコレステロール量は一定に保たれている。しかし、生合成の出発点となるスクアレンはアセチルCoAから合成されるため、食事からコレステロールを取らなかったとしても脂肪や炭水化物を摂取すれば体内でコレステロールに転換されることになる。従来はリノール酸はコレステロールを下げる働きがあるとされていたが、長期的には TC(総コレステロール)値に変化がないとの結果が出ている。臨床検査分野における標準となるLDL測定法はアメリカ疾病予防管理センターのベータ測定法であるが、コスト上の問題で、一般には血中LDL値はフリードワルドの公式で算出することがある。その式はである。この計算式の基となる理論は総コレステロール値が HDL, LDL および VLDL の合計で定義されることを利用する。この理論に基づき、実際に測定する総コレステロールから測定する HDL値と中性脂肪値から導き出されるVLDL値を差し引くのである。そして VLDL値はおよそ中性脂肪値の5分の1であることが経験的に知られている。このような背景から特に次の点に留意すべきである。コレステロール値とことなり中性脂肪値は直近の食物の摂取や内容により大きく変動する。そのため、血液検査前は最低8–12時間、完全に影響を排除するには 12–16時間の絶食が必要である。臨床事例増加により分かったことは、直接 LDL と HDL の濃度とサイズとを測定する方法に比べて、総コレステロールと HDLコレステロールとを測定し式より導かれる値で LDL の決定する方法は実際に直接 LDL を測定する方法に比べLDL値が大きな値を推定することが示されている。米国において、コレステロール教育プログラム (National Cholesterol Education Program, NCEP) の1987年報告書で成人治療部会では血中総コレステロールレベルで<200 mg/dL (<2mg/ml) を正常値とし、200–239 mg/dL を境界域、>240 mg/dL を高コレステロール血症と位置付けている。とくに問題になるのは酸化された LDL濃度が上昇することである。リポタンパク質粒子の粒子形が小さいと、HDL であれ LDL であれ、大きなものより酸化されやすいことが研究により判明している。特に小粒子LDL は酸化型が多い上に末梢で取り込まれるため、動脈壁においてアテロームの形成の原因となる炎症反応を引き起こす。あるいは、血管内皮組織でマクロファージが酸化型LDL を異物と認識して貪食することにより、マクロファージの泡沫化を促進すると考えられている。このような病変はアテローム性動脈硬化症として知られている症状に繋がる。アテローム性動脈硬化症は冠動脈疾患や循環器疾患の主要な原因である。それとは別に、HDL(特に大粒子HDL)はアテロームからコレステロールを除去する唯一の因子であることが知られている。HDL濃度の増大は、アテローム形成の促進を低下させ、アテロームからの回復をももたらすと期待されているが実際のところよく分かっていない。LDL, IDL あるいは VLDL といったリポタンパク質粒子の種類もアテローム生成に関与していると考えられる。総コレステロール量が高いということよりも、LDL や HDL など、どのリポタンパク質の濃度レベルが高いかがアテローム性動脈硬化症の拡張や重症化に関係している。逆に総コレステロール量が正常値以内であっても、小粒子LDL や小粒子HDL が大半を占めているとアテロームの成長する速度は早いままであると考えられる。しかし LDL の量(特に大粒子LDL の量)が少なかったり、HDL の占める比率が大きいと、総コレステロール濃度がどのようであれ、アテローム生成の速度は通常は低下ないしは縮退することが期待されている。臨床試験にてアミノ酸の一種であるNアセチルLシステイン(別称:アセチルシステイン、またはNAC)の摂取により、LDLの酸化を防ぐ作用がある事が証明された。またNACの摂取により、肝機能向上によって、ホモシステイン量が減り、結果的に血管内の垢(高血圧、心筋梗塞など様々な症状の原因とされる)の発生を防止する。NACの抗炎症作用により血管の炎症なども抑えられ、様々な症状の軽減、または完治が臨床試験にて証明されている。また、心臓、循環器関連の病気の予知に現在最も重要視され始めてきている血中リポプロテインa lipoprotein a (Lp(a) の量を下げる。リポプロテインaは近年の循環器病の予知にてコレステロールよりも正確なバロメーターとして考えられている。NアセチルLシステインは他の薬、食事療法とも比較にならないほどの高い効果がある事が証明された。血液中のコレステロール値 (TC) は動脈硬化症と単純に結び付けて語られることが多かったが、現在はTC値が高いことは動脈硬化の危険因子(リスクファクター)の1つということになってきている。日本動脈硬化学会が2002年に更新したガイドラインでは、いくつかの危険因子が重なったマルチプルリスクファクター症候群の重要性を強調している。米国心臓・肺・血液研究所 (National Heart, Lung, and Blood Institute, NHLBI) は、を危険因子として挙げている。コレステロールは、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞等)の危険因子である。アメリカ心臓学会では心疾患リスクと血中総コレステロール値に関するガイドラインを提唱している。しかし、今日での臨床検査では LDL(悪玉)と HDL(善玉)のコレステロール値を分けて測定する方法が通常であり、アメリカ心臓学会が提唱するような総コレステロール値だけを見る単純化された方法はいくぶん時代遅れである。後述の HPS試験計画などによれば、リポタンパク質を区別して測定し、望ましくは LDLレベルを100 mg/dL (2.6 mmol/L) 以下にすべきであり、高リスク患者ではさらに厳しく< 70 mg/dL にすべきであるとされている。そして総コレステロールにおける HDL量は他のコレステロール量と比べて5対1以下にすることで健康を維持するのに適当な値である。特に子供は成人とは HDLレベルが異なることに注意すべきであり、子供の平均的な HDLレベルは 35 mg/dL である。米国で最近行われたヒトでの冠動脈疾患とそのリスク評価に関する、よく計画された無作為抽出評価である Heart Protection Study (HPS) 試験計画や PROVE-IT試験計画、および TNT試験計画により研究されてきた。これらの試験計画は LDL低減による HDL 向上の効果や、LDL低減療法が血管内超音波カテーテルによるアテローム治療と同等以上かどうかを調査するものである。この試験結果では少数の症例で LDL低減したことが冠動脈疾患の進行を抑止したということが確認された。しかしリポタンパク質の構成比の異常が治療により成功しても、アテローム動脈硬化の治療の必要性が無くなった症例はごくわずかであった。また高コレステロール血症治療薬の HMG-CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン)の複数の臨床試験結果からも動脈硬化に対するリポタンパク質の影響が明らかになっている。まず、スタチンを投与するとリポタンパク質の分布を不健康型から循環器疾患の発生が低下するようなより健康な型へと変化させる。そして健常人であってもHDLを増やすように作用する。しかし心疾患が無かったり、心臓発作病歴の無いなどの無症状患者において、スタチンを投与してコレステロール値を低下させても、その後の経過において心疾患による死亡率を低減させる作用があるかどうかについて調査すると、その結果はスタチン治療しない場合と統計上の有意さは無いことが分かっている。したがって現状の知見においては、動脈硬化を発症している患者については高コレステロール血症は明らかに症状を悪化させる因子である。しかし、低いコレステロールが冠動脈疾患や動脈硬化を改善するかどうかは明確になっていない。それとは別に糖尿病を罹患している患者は、糖尿病による高血糖は血管内皮細胞を障害するし、耐糖能異常があると血糖が低くても高インスリン血症を引き起こすので血管内皮細胞に悪影響を及ぼす。したがって耐糖能異常があるとすでに動脈硬化や冠動脈疾患のリスクを抱えていることになる。それゆえ、そのような患者や患者予備軍は高コレステロール血症や低HDL血症については注意を払う必要がある。このように理由により、糖代謝と脂質代謝が同時平行的に複合的に異常を起こすメタボリックシンドロームが注目されている。コレステロール摂取量と卵巣がんや子宮内膜がんに正の関連が認められている。肺がん、膵臓がん、大腸がん、直腸がんにおいても、正の関連を認めた報告が多くある。血中での正常値を下回るコレステロール値を示す症状を低コレステロール血症(低脂血症)と呼ぶ。この病態の研究は比較的限られたものであり、いくつかの研究によりうつ病、がん、神経ホルモンと関連が示唆されている。コレステロールは副腎や生殖腺でステロイドホルモン(副腎皮質ホルモンと性ホルモン)に合成される。体内で合成される副腎皮質ホルモンにはアルドステロン、コルチゾン、コルチゾール、デスオキシコルチコステロン等がある。体内で合成される性ホルモンには、テストステロン、AMH、インヒビン、エストラジオール、エストリオール、エストロン、ゲスターゲン、プロゲステロン等がある。これらすべての原料がコレステロールである。LDLコレステロール異常低値では家族性低コレステロール血症、低βリポ蛋白血症、無βリポ蛋白血症、甲状腺機能亢進症、慢性肝炎、肝硬変、腎疾患、アジソン病、肝実質細胞障害、消化吸収不良症候群などが疑われる。リポタンパク質は細胞の生命維持に必須のコレステロールがアポタンパク質と結合したものである。無βリポ蛋白血症は常染色体劣性遺伝疾患で、コレステロールが低下し、LDLコレステロールは検出できず、超低比重リポタンパク (VLDL) とLDLを介して抹消組織に送られるビタミンEにも重度の欠損が起こる。血漿中にアポBがないことで確定診断される。治療には高用量 (100~300mg/kg) のビタミンE、食物脂肪、その他の脂溶性ビタミン補充を行う。低βリポ蛋白血症は常染色体優性遺伝疾患あるいは相互優性遺伝疾患である。LDLコレステロール欠損の病態には無βリポ蛋白血症と同様の治療を行う。低アルファリポタンパク血症の治療も同様である。カイロミクロン停滞病は常染色体劣性遺伝疾患である。治療は脂肪、脂溶性ビタミン補充を行う。コレステロールを原料にした副腎皮質ホルモンおよび性ホルモンの異常値で疑われるのは、先天性副腎低形成(原発性副腎低形成)、下垂体機能低下症、副腎酵素欠損症、クッシング病、偽性低アルドステロン症、原発性アルドステロン症、グルココルチコイド抵抗症などである。リポイド過形成症ではProtein (Steroidogenic acute regualtory protein、StAR) 蛋白の異常とコレステロール側鎖切断酵素に欠損がみられる。副腎酵素欠損症の一つであるP450オキシドレダクターゼ欠損症では、P450オキシドレダクターゼ(POR) の異常によって、細胞内のコレステロールの低下と様々な骨奇形、Antley-Bixler症候群、ステロイドの異常値が起きる。一般に血中コレステロール量は加齢により変動し、通常は60歳代まで徐々に増大する。またヒトにおいてはコレステロールレベルの季節変動が認められ、冬季には平均よりも高くなる。また、高コレステロール血症が循環器疾患を引き起こす危険因子であるので、血中コレステロール値の大小で寿命が影響を受けると考えられてきた。それゆえ、寿命とコレステロールの関係については注目されてきており、すでに米国で大規模な疫学調査 MRFIT (multi risk factor intervention) が実施されている。その結果は予想に反して、コレステロール値は高すぎても、低すぎても寿命を短縮するというものである。MRFIT の解析結果によると、血中総コレステロールが 200mg/dL 以上では冠動脈疾患による死亡率が急速に増大し、180mg/dL 以下では冠動脈疾患による死亡率は低減せずほぼ一定になることが判明している。一方、血中総コレステロールが180mg/dL以下では冠動脈疾患以外による死亡率が増えるため、結果として血中総コレステロールが 180–200mg/dL が最も死亡率が低下することが判明した。米国での MRFIT 以外にもヨーロッパや他の地域でも同様な疫学調査がなされており、同様な結果が得られている。コレステロールの値が高いほど心筋梗塞のリスクが高まり、コレステロールの値が低いほど脳卒中のリスクが高まり、血中総コレステロールが 180–200mg/dL が最も死亡率が低下し、長寿であることが指摘されている。この結果や前述の説明のように血中コレステロールの総量よりはその種類(LDLコレステロールとHDLコレステロールあるいは酸化型リポタンパク質の存在)などコレステロールの質が寿命と深く関わっていると考えられている。日本での疫学調査としては、1986年度から1989年度までの福井市で行われた調査がある。26,000人を対象に住民検診の結果を福井保健所長であった白崎昭一郎医師がまとめた結果、男性ではコレステロール値が低い人ほどガンなどで死亡した人が多く、女性でもコレステロール値が低い群が死亡率が高かった。感染症、がん、肝疾患、気管支炎、胃潰瘍および貧血の基礎疾患をもった人は血清総コレステロール値が低くなるので、死亡率が高くなるためと考えられている。低コレステロールは、脳卒中のリスク要因でもある。2003年の世界保健機関による生活習慣病予防に関する報告書では1日のコレステロールの摂取目標を 300mg 未満としている。米国農務省・保健社会福祉省の"Dietary Guidelines for Americans 2010"によると健康な人の場合 300mg である。Mサイズの鶏卵 (60g) には 252mg のコレステロールが含まれている(殆ど黄身に存在する)。コレステロールは肉や魚など他の食物にも含まれており、総摂取量の半分を鶏卵からとすると日本での一日当たりの成人の鶏卵の摂取目標量上限は2個以下、米国ガイドラインの場合は健康な人で1個以下となる。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」によるとコレステロールの摂取目標量の上限は成人男性で1日当たり750mg、成人女性で 600mg であり、摂取目標量の下限は無い。1日200mg 未満にするという勧告には十分な根拠がある。「心疾患リスクが上昇する」とする見解と「リスクは変わらない」とする相反する見解がある。心疾患リスクが上昇するとする見解は、2010年の論文によると1日に卵を1個摂取している場合、週に1個未満のものと比較して、糖尿病のリスクが2倍以上であるとしている。この見解などを根拠としてアメリカ合衆国などでは、食事性コレステロールを1日300mg未満に抑えるよう推奨している。上昇しないとする見解は、オーストラリア The University of Sydneyの"Nicholas Fuller" により、第50回欧州糖尿病学会で発表された。報告によれば、年齢18歳以上で、BMIが25kg/m²以上の前糖尿病状態および2型糖尿病患者140人を対象とした調査で。朝食時に2個 × 6日 = 12個の卵を食べる高卵食群(72人)と、週に卵を2個未満の低卵食群(68人)に振り分け、3カ月続けた。なお、両群のタンパク質の摂取量を一致させるため低卵食群は赤身の動物性タンパク質を摂取し、主要栄養素と熱量を一致させ、試験期間中の体重を維持した。このような条件下による試験(調査)により、卵の摂取量が多くても、2型糖尿病患者の脂質プロファイルには悪影響を及ぼさないとしている。日本では一般にコレステロール値が高いと言うのは総コレステロール値が220以上の場合を指す。これは日本動脈硬化学会が作成した「動脈硬化性疾患診療ガイドライン」が大きく影響している。これは動脈硬化性疾患をスクリーニングための診断基準としている。ガン検診でガンの疑いがあるとされても、いきなりガン治療を始めるわけではないのと同様に、スクリーニングでは220以上でも多くの患者が特に治療を必要とはしないケースがあるとされている。一般にスクリーニングは、精密検査を必要とする患者予備軍を簡単な検査によって精密検査前に絞り込むことが求められる。しかし、総コレステロール値が220以上をすべて患者予備軍としてしまうために、男性では26%、女性では33%が要精密検査と判定されている。動脈硬化による主な病状は心筋梗塞があるが、コレステロール値を検査することで動脈硬化と心筋梗塞へ至る症状の予防が求められるのに、現状では心筋梗塞が男性に比べて1/2から1/3の女性の方が多くの割合で要精密検査となってしまう。1980年代まではこの基準が250から240になっていたが、これは95%の人がこの基準値以下で健康であったためである。1987年に日本動脈硬化学会が「コンセンサス・カンファレンス」で基準値を220としたためこれ以降は220が使われている。220が科学的な妥当性を欠いているという意見は決定以降も多数あり、6年間・5万人を対象に行われた「日本脂質介入試験」の結果も240を境に有意に心臓の冠動脈疾患のリスク上昇を示していたが、結果として2007年現在も220が基準とされている。一度は1999年に240への改定の直前まで行ったが、日本動脈硬化学会内の改定反対派の主張する「220がすでに定着しており、変更すれば医療現場に混乱が起きる」という意見が通り見送られた。240を採用すると患者数が半減するため、病院経営の危機を招くとしての判断が働いたのではないかとする見方がある。また、220の基準でスクリーニングに掛かって診察を受け、動脈硬化疾患などの病気と診断された後は治療目標値がなぜか240といきなり緩和される逆転現象が起きてしまうという、不合理な状況にある。
出典:wikipedia
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