コンパクトカセットは、オランダの電機メーカーであるフィリップス社が、フェライトを素に1962年に開発したオーディオ用磁気記録テープ媒体の規格である。一般的に「カセットテープ」、もしくは「アナログカセット」とも呼ばれる。また1980年代終盤に登場したDCC(デジタルコンパクトカセット)に対するレトロニムとして、ACC「アナログコンパクトカセット」と表記することもある。民生用の録音規格としては、2000年代前半から若年層を中心にミニディスク (MD) にその割合を超えられ、2000年代後半からはデジタルオーディオプレーヤーやICレコーダー(リニアPCMレコーダー含む)も台頭してきた。なお、コンピューター分野ではCMT("Cassette Magnetic Tape" : カセット磁気テープ)と呼ばれていた。データレコーダ参照。当初オープンリール式であった録音用テープを扱いやすくするため、テープとリールをケースに封入した規格が数多く発表された。その中でもコンパクトカセットはフィリップスが互換性厳守を条件に基本特許を無償公開したため、多くのメーカーの参入を得て事実上の標準規格となった。このことから「フィリップスカセット」とも呼ばれる。初期はテープ幅の小ささやテープ走行速度の遅さによる性能の制約から会議録音など業務用のメディアと考えられ、語学学習などの活用も推奨されていたが、1960年代後半以降著しく性能が向上し、1970年代以後は携帯の容易な音楽用メディアとして広く普及し、手軽な録音媒体としてレコードのダビング、放送番組を録音するエアチェックなどに幅広く活用された。カーオーディオの分野においても、先行する8トラックカートリッジ方式に比べて小さなコンパクトカセットはスペースの限られる自動車のダッシュボードにデッキを配置しやすく、メディアが廉価で長時間再生に適することもあって、1970年代から1980年代にかけ隆盛を極めた。しかし欠点もあった。これらの課題を根本的に解消するのは難しく、1980年代以降CDなどのデジタルオーディオが普及し、コンパクトカセットはデジタルオーディオの安定した高音質やランダムアクセスによる容易な選曲に慣れたユーザーから次第に敬遠されるようになった。1990年代初頭にはコンパクトカセットの後継として、音声データをデジタルで記録・再生でき、コンパクトカセットとの再生互換性を持たせたデジタルコンパクトカセット (DCC) がフィリップスと松下電器産業(現 : パナソニック)との共同開発で誕生した。ほぼ同時にソニーから登場したミニディスク (MD) とポータブルオーディオ戦争を繰り広げるかと思われたが、音質ではミニディスクを凌駕していたものの、DCCレコーダーではコンパクトカセットの録音ができなかったこと、テープ方式に起因する欠点を引きずったこと、さらにMDはおろかDATに対してもポータブル録再機のラインアップが非常に少なかったことなどで結果的にMDの圧勝に終わり、DCCは姿を消した。2000年頃からポータブルMDプレーヤーなどの小型化、再生時間の長時間・大容量化が進み、発売当初の本体の巨大さや短い電池持続時間が解消され日本の若年層ユーザーはそれらの新しいメディアへ移行するようになったが、小売店では売価2,000 - 5,000円程度のモノラルラジカセ、CDラジカセと録音済音楽テープが引き続き廉売されており、取り扱いが簡易なこともあって主に70歳以上の高年齢層のコンパクトカセット支持は根強い。信頼性の高さ、録音内容をその場ですぐに聴けること、81分以上の長時間かつ手軽に録音できる同等の媒体が2010年代以降はほとんどない(CD-Rは最大記憶容量約700メガバイト・最大記録時間約80分の制限がある)こともあり、ラヂオプレスではいまだに用いられている。工事現場などでの朝礼前のラジオ体操時に使われるラジカセやワイヤレスアンプはCDよりもカセットテープ利用時の方が電池の残量が低下しにくいため現在でもカセットでの体操が多い。J-POPや洋楽などの国内向けミュージックカセットテープは国内盤だと1990年代末に、アジア圏などへの輸出向けなど逆輸入盤だと2000年代半ばに消滅したが演歌や輸入盤(ジャズ、クラシックなど)では2015年現在においてもCDとカセットの同時発売が依然として続いている。なお、2013年に入るとカーオーディオの分野からは自動車メーカー純正品(ただし輸出用は除く)、社外品に関わらず1DIN、2DIN規格ともどもカセット対応カーオーディオはラインナップから消滅している。また発展途上国や一部の先進国でも、音楽・音声用メディアとして今なお広く使われている。コンパクトディスクやMD対応デッキの普及により、車載用コンパクトカセットデッキの種類は次第に数が少なくなっていった。一方で、iPodをはじめとする大容量携帯プレーヤーをカーオーディオで聴くユーザーの間では、FMトランスミッターに比べて音質劣化や電波干渉を受けにくいコンパクトカセット型のカセットアダプターを珍重する傾向があった。音楽制作の現場では、テープを片面方向のみに使用し、両面それぞれの左右チャンネルの合計4チャンネル、あるいは特殊なヘッドで8チャンネルの再生・録音を可能にしたマルチトラック・レコーダー (MTR) の記録媒体として重宝された。またコンパクトカセットは、1980年前後を中心に、初期のパーソナルコンピュータの記憶メディアとして個人ユーザーを中心に広く利用され、専用の製品も発売されていた(データレコーダも参照のこと)。しかしその後、本格的なデータ用メディアであるフロッピーディスクの低価格化と普及に伴って利用されなくなった。1980年代前半に人気のあったMSXではカセットテープでのゲーム発売なども行われており、近年の復刻が困難になる一因となっている。オープンリールテープと同じく交流バイアス法による磁気記録が主流である。録音は録音ヘッドで電気信号を磁気に変換し、磁性体を塗布した磁気テープを一定速度で摺動させ磁化させることで記録する。この際、音声信号のみでは直線性が悪いためバイアス信号が重畳される。再生は同様に再生ヘッドで磁気を電気信号に変換して行う。なお良好な録再特性を得るためには録音ヘッドにはギャップ長が広めのもの、再生ヘッドにはギャップ長が狭めなものをそれぞれ用いるのが電磁気的に望ましい。実際には録音ヘッドと再生ヘッドを一つのヘッドで兼用する録音機が多い。また録音の際には消去ヘッドによる消去も行われる。消去ヘッドは据え置き型デッキなどの高音質録音・再生モデルでは、発振器からの信号を消去ヘッドに伝達してテープの消去を行うが、廉価なCDラジカセや会話録音用のポータブルレコーダーなどは、磁石を近づけるとテープの内容が消える性質を用いた、永久磁石押し当て式の消去ヘッドを用いているものも多い。しかし、永久磁石押し当て式消去ヘッドでは、消去した部分のテープヒスノイズが大きい傾向がある。周波数特性をフラットに保つため再生時にイコライザーが必要で、互換性のため時定数が規定されている(実際には録音時にもイコライザーが用いられる)。録音・再生時のテープ速度は 4.76 cm/s (1 7/8 in/s) 。カセットハーフに設けられた孔に一定速度で回転するキャプスタンを通し、間にテープを挟んでゴム製のピンチローラーを押し当てることで、テープ位置により変化するリール巻径にかかわらず 4.76 cm/s のテープ速度を得ている(テープカウンターは単純にリール軸の回転と連動しただけのものが多く、進む速さは一定でなく互換性もない)。高音質や長時間録音のための倍速や半速の機器もあるがあくまで独自仕様である。テープ速度は速いほど諸特性が向上するが、当然テープ消費量が増え記録時間は短くなる。 4.76 cm/s という速度は家庭用オープンリールでよく用いられた速度 9.53 cm/s (3 3/4 in/s) の半速であり、本来、音質より小形と簡便さを重視した規格である。録音時と再生時のテープ速度が異なっていると音の高さとテンポが変わるので、テープ速度偏差は互換性上重要である。メーカーによって仕様としているテープ速度は、4.7~4.8cm/sの範囲で誤差がある(どのメーカーもきっちり4.76cm/sで統一されているとは限らない)ため、録音したデッキと再生したデッキでメーカーが違う場合、速度偏差が大きくなりピッチやテンポがずれることがある。逆に速度を微調整することでピッチをコントロールできるようにしたデッキもあり、楽器系の機器に多くみられる。また、録音したデッキとの速度偏差を再生機側によって、再生時に微調整して解消する目的でも使用される。ほとんどはピッチコントロールが効くのは再生時だけで、録音は規定速度で行われる。トラック構成は2トラック/1チャンネルのモノラルまたは4トラック/2チャンネルのステレオで、表裏に当たるA/B(メーカーによっては1/2表記もある)各面を、テープ終端になった時点で裏返して使用する。テープ幅は3.81mmで、例えばステレオ(片チャンネル分)の場合、ここからA/B面間 (0.3mm) と左右チャンネル間 (0.66mm) の遊び(クロストークを低減する為のガードバンド)および両端部を除いた約0.62mmが実際の録音に使用される幅となる。このA/B各面に、モノラルの時には1トラック/1チャンネル、ステレオの時には2トラック/2チャンネル(右/左)が割り当てられる。モノラルの1トラックと同じ部分にステレオの場合は左右各チャンネルが分割して録音される方式のため、ステレオ録音のテープでもモノラルのデッキ(レコーダ)で再生でき、その逆も可能である。これは、当初はモノラルのみで製品化されて後に音楽用途に合わせてステレオが追加された経緯から、互換性を図ったものである。ただし、初期のLL機では、2トラック2チャンネル(B面用のトラックを第2トラックとして使用)も存在した。なお、オープンリールテープの場合は音質優先(クロストーク忌避)のためにステレオとモノラルのトラック配置が異なっており、再生時の互換性はない(モノラルで録音したテープをステレオのL側ヘッドで再生することは可能)。特殊な用途向けに独自の録音方式、または特殊なテープも開発された。テープはベーステープと呼ばれる薄いプラスチック製テープ上にバインダと呼ばれる接合剤(糊)で磁性粉を接着している。また70年代後半以降はテープ表面に鏡面仕上げを施し、テープの走行性を保ち、ドロップアウトやヘッドの摩耗を防ぐことが多い。ハーフもしくはシェルと呼ばれるプラスチック製ケースの中に、ハブというリールに巻かれた状態で入っている。テープはオープンリールと同じように再生開始および終了時の伸びにより劣化することがないよう、リーダーテープとよばれる録音ができないテープが両端に付属している。リーダーテープにはヘッドのクリーニングを兼ねた、クリーニングリーダーテープと呼ばれるものも存在する(ヘッドが摩耗することはない)。また、リーダーテープは乳白色や無色透明のテープを用いるものが多く、現在、ソニーもそのタイプでハブとの接合部付近のみ着色されたリーダーテープが付いているが、ソニーのカセットテープは1970年頃、リーダーテープそのものにも色がついていた。ハーフとテープの間には走行性を維持するためにスリップシートと呼ばれるポリプロピレン、和紙製のシートが挟まっている。またヘッドが押しこまれる部分にはヘッドとのタッチを良好に保ちなおかつテープ裏面に付着した磁性粉を清掃するためにフレッシャーパッドと呼ばれるパッドがつく。またヘッドから巻かれているテープへ磁気の影響が及ばないよう、遮磁板がある場合が多いが省略しても問題はない。カセット本体やインデックスカード、タイトル記入シールを収納し、かつホコリやカビ、衝撃からカセット本体を保護するためにケースが付属する。収録時間は、“Cassette”の頭文字“C”に両面の公称総収録時間を付けて表示される(主に1970年代後期頃からは省略されることが多い)。標準的な製品は、それぞれC-30からC-120と呼ばれる、両面で30分 - 120分(=片面で15分 - 60分)録音できるもの。収録時間によってテープの厚みが異なり、標準タイプのC-60以下で約17 - 18m(ベース厚13.5m)、長時間タイプのC-64 - C-90でその約2/3の11 - 12m(ベース厚7.5m)、超長時間タイプのC-120で半分の9m(ベース厚4.5m)…と段々薄くなる。なお、この数値は磁性層4.5m(メタルテープは3.5m)を含んだ厚さであり、テープの長さが変わっても磁性層の厚さは変わらず、ベースフィルムの薄さにのみ影響する。このため、長時間録音になればなるほど耐久性は当然悪化し、高温下で伸びやすく、又は過剰なテンションによって切れやすくなる。温度変動が大きい高負荷環境にあるカーステレオや、緻密な走行制御を要する高級テープデッキでC-90以下の使用を推奨しているのはこのためである。規格としてはTDKの輸出モデル等にC-180やC-240もあるが、耐久性の問題(テープ厚はC-180で6.5m、C-240で5m。ベース厚はそれぞれ2m、0.5m=物理上の限界値)もあり製品としてはほとんど存在しない。特殊用途を除く一般的な収録時間は、過去に国内で発売されたものだけでもC-5・C-6・C-8・C-9・C-10・C-12・C-15・C-16・C-18・C-20・C-22・C-30・C-36・C-40・C-42・C-45・C-46・C-48・C-50・C-46+5・C-52・C-54・C-55・C-60・C-62・C-64・C-65・C-60+5・C-70・C-74・C-75・C-76・C-80・C-84・C-90・C-92・C-94・C-90+5・C-100・C-108・C-110・C-120・C-120+5・C-150と多岐にわたる。当初はC-60に始まり、短時間用のC-30、長時間用のC-90、超長時間用のC-120が追加された。やがて音楽専用タイプが発売された1970年代中頃には、当時の一般的なLPアルバムを収録するのに丁度良いC-45(C-90の半分)が追加されたが、片面の収録時間が22.5分と中途半端で録音時間とテープスピードの誤差に対してあまり意味を持たなかったため、1970年代後期にはほぼ全てC-46へ置き換わった。1970年代までは各社ほぼこの5種類であったが、すでに多様化の兆しもみられ、1970年代中期には富士写真フイルムがFXで初採用したC-80、後に同じくC-80を採用したDENONの、C-45に余裕を持たせたC-50およびやや短めのC-42、ナガオカ産業による+5minシリーズ(各時間に5分の余裕を持たせたもの)等が現れており、1970年代後期にはTDKのADに追加されたC-54、ソニーが“ジャンル別音楽テープ”と銘打った音楽ジャンルに的を絞った収録時間 (C-54・C-74・C-84) など、ピンポイント的ではあるものの、後代で一般化する収録時間はこの頃までにほぼ出揃っている。その後、1970年代後期からのカラオケブームを受けて、1980年代初頭には各社“カラオケ専用”と銘打ったC-8・C-10・C-15・C-16といった超短時間用も発売された。1980年代初頭までは、音楽専用は主にC-46/60/90、一般用はそれに加えてC-10/30/120が追加、稀にC-54・C-80といった中間型、というラインナップが多勢を占めていたが、1981年にCDが発売され、やがて音楽ソフトの主流が徐々にアナログレコードからCDに移行していった1980年代後期には、従来のLPアルバムから逸脱したCDの収録時間に対応するため、ラインナップが爆発的に増加していった。その先駆的な製品として、That'sが“CD専用”と銘打った高級タイプのCDシリーズ (CD, CD II, CD IV) では、当初はC-46/54/70というラインナップであった(後に同価格帯のXシリーズと統合されC-60/90なども追加)。なお、この製品は日本で初めて"CD"を冠した名前が付けられたカセットでもある。その後他社にも追随の動きが見られ、ソニーのCDix (C-50/70) を皮切りに、各社“CD**”と銘打った“マルチ・タイム・バリエーション”と称される多様な収録時間(10種 - 15種程度)を持つ廉価な音楽専用シリーズが一般化する。代表的な製品にソニーのCDix、TDKのCDing、マクセルのCDカプセル、やや遅れて富士フイルムアクシアのJ'zなどがある。これらは後代、ラインナップの整理統合に伴い各社の主力モデルへとシフトしていった。この時期に、旧来のC-50・C-54・C-74・C-80といった中間の収録時間が一般化していき、さらにC-64・C-70といったCD対応のために新たに加わった収録時間と併せて、各社で様々なラインナップが現れる。一例としてソニーでは、CDixに続くハイポジCDixIIでラインナップ中のC-50からC-80までは全て5分刻みの収録時間(C-50・55・60・65・70・75・80、他にC-20・40・46・90)として、ほぼ全てのCDの収録時間に対応可能と謳った。ただし、次モデルからはC-54・64・74といった他社と同様に偶数の収録時間に改めている。また、1980年代末期に発売された8cmサイズのCD(シングル)の総収録時間に対応したC-20・C-22といった短時間タイプ、あるいは高級タイプやメタルポジションにもラインナップされたC-100 - C-110といった音楽専用の超長時間タイプ等が現れたのもこの頃で、さらには、長くC-46/60/90のみを堅持していた高級タイプにもC-54・74といった中間帯が徐々に加わり始めている。収録時間のバリエーションとしては、この1980年代末のCD普及期から、音楽メディアの主役がMDなどへシフトする1990年代前期まで(いわゆるバブル全盛期)が最も多彩であった。変わり種のタイムバリエーションでは、いわゆる“リールタイプ”専用とも言えるC-52がある。1980年代中期に流行したオープンリール状のハブを持つリールタイプでは、リール側面を固定する“のりしろ”のために通常よりハブ中心部が大径となり、C-60のテープ厚ではC-52が収納限界となったためである。なお、大径形のハブは走行安定性の向上という観点から、オープンリールタイプ以外にもおおむねノーマル最高級・ハイポジ中級クラス以上と全てのメタルテープのC-46で大径ハブが採用されていた時代が長くあり、メーカーによってはC-54以下で大径ハブを使用できるよう、オープンリール状のハブよりも僅かに直径を狭めた大径タイプのリールを採用しているメーカーもあった。また、SANYO、National、TEAC等がC-46の2倍ということで採用したC-92、That'sがハブの小径化によってC-90テープ厚で限界の収録時間を達成したC-108などもあった。C-150は最も後期になって追加された久々の超長時間タイプで、カセットが音楽用メディアとしての主流を他へと明け渡しつつあった1990年代に発売された。当然ながら用途は会議録音用などで、当時は他に手軽な長時間録音に適したものがほとんどなかったこともあり、ある程度の需要があった。カセットの生産がほとんど海外へ移行した2000年代以降も、C-150のみ国内生産であった。なお、特殊用途として、C-0(補修用のハーフ+リーダーテープ)、エンドレステープにC-3/6/10などの製品があった。また、製品自体は通常のものと変わらないが、1980年代中期にはコンピュータプログラム記録用にC-10・15・16などの製品があった。業務用のバルク品などはそれ以外にもさまざまな長さの製品が存在していた。当初は音声用途から普及したが音楽用途が求められるにつれ、周波数特性やダイナミックレンジの拡大を目的に、さまざまな種類のテープが開発された。テープには使用する素材の磁気特性により複数の種類があり、主なものとしてノーマル (Type I/NORMAL)、クローム/ハイポジション (Type II/CrO2)、メタル (Type IV/METAL) の3種類がある。ダイナミックレンジの広さはメタル>ハイポジション(コバルト被着酸化鉄タイプ。以下同じ)>ノーマルの順であるが、中低域の実用最大出力レベル (MOL) はメタル>高級ノーマルテープ≥ハイポジション、ノイズ特性はハイポジション>メタル>ノーマルの順で優れている。録音レベルを手動で設定できるデッキでメタルテープを使用する場合、録音レベルを通常より+3dBほど高く設定することが推奨されていたのは、この特性を活かすためである。この他に、まだテープの性能も低かった1970年代中期にクロームと通常のγ三酸化鉄を二層に塗布して両者の長所を生かそうとしたフェリクローム (Type III/Fe-Cr) が開発された(ソニーの「DUAD(デュアド)」など)が、製造過程に由来するコスト高、取り扱いの煩雑さ、対応機器の少なさ(但しノーマル用機器でも使用自体は可能であったが)、更にメタル登場以降は性能面での優位性に基づく存在意義が薄れ、1980年代以降は事実上廃れているといってよい。コンパクトカセットのダイナミックレンジは、技術面や仕様などからくる制約によりメタルテープでも最大63db程度で頭打ちとなっていたため、ノーマル・ハイポジの高性能化が進むとダイナミックレンジの面においてはメタルテープの優位性は縮小していった。しかし、低音域から中高音域にかけての再生レベルの落ち込みはノーマル・ハイポジに比べてメタルテープは極めて少なく、より原音に近い音質で録音することを目的とするならばメタルテープに一日の長があった。しかしメタルテープに求められた性能は後にDATやMD、一部のリニアPCMレコーダーを含む携帯型デジタルオーディオプレーヤー、更にPC(パソコン)を介したUSBオーディオキャプチャーユニットなどによるデジタル録音・デジタル再生に取って変わられたため結果的に2001年までにメタルポジション用カセットテープが生産中止となり、また、それを追うような形でハイポジション(クロームポジション)用カセットテープも2011年までに生産中止となったが、2013年8月頃にダイソーのC120のみハイポジション用カセットテープが復活した。ただし、ダイソーのC120以外のハイポジション用カセットテープは2013年8月現在の時点においてもごく一部に限られるが在庫分に限り入手可能となっていた。これらは全てIEC(国際電気標準会議)で正式に策定されている。録音時の磁気特性(主に録音レベル)を決定するバイアス量と、録音・再生時の周波数特性に関わる補正値であるイコライザー (EQ) の時定数がポジションで異なり、本家本元のType Iのバイアス量を100%とすると、一般的にType II=160%、Type III=110%、Type IV=250%(この値は標準的なもので、デッキの機種、メーカー、時期、製品により変動がある)。また再生イコライザーは、Type Iのみ120s(マイクロ秒)、他は全て70s。Type Iと比較すると他の70sEQのタイプはノイズレベルが低いが、これは特に高域の補正量が大きいことに起因している(ごく一部の高級デッキでは、高性能テープのために補正値を50%程度に調整可能な機能を持つものもあった。当然、IECの規格外であるため、基本的に自己録再が前提となる機能である)。なお、イコライザーは録音・再生両方で合わせなければならないが、バイアスは録音時のみで良く、メタルテープが録音できないハイ(クローム)ポジション対応のみのデッキでもメタルテープが再生できるのはこのためである。また、異なるバイアス・イコライザーでの録音・再生(例えばType Iしか録音・再生できないカセットデッキでType II - Type IVのカセットテープを使用した場合)も一応可能であるが、音質の変化や消去が十分にされないなど本来の性能を発揮できないばかりか、テープやカセットデッキのヘッドの寿命を縮める恐れがあるため推奨されない。実際にノーマルポジション(Type I)用テープしか扱われることが少なかった頃(主に1970年代)のノーマルポジション専用カーオーディオで無理矢理クローム(ハイ)ポジション(Type II)以上のテープを何回か再生するとヘッドの読み取り面が磨耗した事例もある。主な磁性体の材料としては、まずType I には当初から存在し現在でも廉価タイプに用いられるγ酸化鉄(γ-ヘマタイト、マグヘマイト γ-FeO)、主に高級タイプに用いられた、Type III に倣った発想で、特性の異なるγ酸化鉄を二層塗布したもの(富士写真フイルム/Fx-Duo・Range6、日本コロムビア=DENON/初期DX3・DX4)、例は少ないが四酸化鉄(マグネタイト FeO)のもの (TDK/ED)、そして1980年代に入って開発された、γ酸化鉄の生成時の内部空孔(ポア)をほぼなくして磁気効率を改良した無空孔(ノンポア/ポアレス)酸化鉄(TDK/初期AR、日立マクセル=maxell/初期UDI)およびそれのコバルト被着タイプ(前掲機種の後期型)がある。また、Type I内にも複数のランク分けが存在する。詳しくはノーマルポジションを参考のこと。後にType IIの主流になったものの、最初はType Iの高性能タイプ用に用いられたものに、コバルトドープ酸化鉄 (Scotch/HighEnergy) やコバルト被着酸化鉄 (maxell/UD-XL) がある。特にコバルト被着酸化鉄はその調整の容易さと高域特性改善の面からTypeIでも並行して用いられ、1970年代後期から高級タイプ (TDK/AD-X,maxell/XLI-S) の、1980年代中期以降は普及タイプ(富士写真フイルム=AXIA/PS-I、太陽誘電=That's/RX)にも多用された。Type II用としては、最初期こそ代名詞ともなった二酸化クロム(CrO; デュポンが発明)が主流だったが、日本国内でめっき工場の廃液などの公害問題(六価クロム廃液)の余波で次第にフェードアウトし、特許のライセンス問題もあったので、一部で用いられたコバルトドープ酸化鉄(Scotch/Master70、DENON/初期DX7)等を経て、現在では殆どがコバルト被着酸化鉄磁性体(Co-γ-FeO;酸化鉄の表層にコバルトフェライトが結晶成長したもの)となっている (TDK/SA、maxell/XL II)。これはコバルトフェライトの被着量をコントロールしやすい、すなわち磁気特性の調整が容易な点が大きく、家庭用ビデオカセットやフロッピーディスクなど、幅広く使用された。1980年代終期、この酸化鉄の代わりに前述のマグネタイトを核に用いたものもあり、日立マクセル、日本コロムビア等が採用した(maxell/最終XL II-S、後期UD II)。※マグネタイトにコバルトを被着したテープはビデオテープの方が先行しており、3M、マクセル、ビクター、コニカ、パナソニック等多くのメーカーが採用していた。マクセルの“ブラック・マグネタイト”の名称などが知られている。VHSテープの場合はテープの磁気特性重視ではなく、おもにコストダウンのために採用された経緯がある。VHSテープではエンドサーチに赤外線センサーを用いており、透明なリーダーテープがセンサーを通過したときストップをする機構であった。ところが高性能化、すなわち微粒子化に伴い、赤外領域では光透過率が規格を満たさないようになったため核晶が黒色のマグネタイトの磁性粉を採用するに至った。核晶がγ-ヘマタイトより磁気特性が良いのでテープの磁性層も薄くできるのでコストダウンが可能となった。ちなみに初期のVHSテープはT-120換算で磁性粉の使用量は約40g、核晶がマグネタイトの磁性粉を使用して設計した場合、約20gに可能になった。また、磁性層のカーボンを低減して磁性粉の密度を上げることも可能になった影響も大きい。Type IVとしてはいわゆるメタル(主成分はα-Feとコバルトなどの合金)であるが、これも酸化に弱いという欠点を克服すべく、各社工夫していた。表面にマグネタイトを形成する方法が一般的だがまったく充分ではない。還元時の焼結防止も兼ねてシリカ、酸化アルミニウムなどを析出、被覆し酸化防止をしている。このメタル磁性体も、1980年代初期よりイコライザーが同じTypeIIへの転用が図られ、極めて高出力な特性を買われて主に高級タイプ (TDK/HX、DENON/DX8) に用いられたが、中には低価格タイプ (That's/EM) も存在する。このメタルパウダーの成分はNiを合金としており、ハイポジションの保磁力に近づけるように設計をしていた。これは言い方を変えればメタル磁性粉をパーマロイ化して保磁力を下げたといってよい。俗にLow Hcメタルとも呼ばれ、ハイポジションの欠点であった低音域のパワー不足を大幅に向上させた。Type IIIは基本的に下層に中低域用のγ-ヘマタイト、上層に高域用の二酸化クロムを塗布するが、他にも上層をコバルト被着酸化鉄にしたり (DENON/DX5)、特性の異なるコバルト被着酸化鉄の二層塗布とするものも存在した。そのType IIIがほぼ死滅した1980年代中期、松下電器が「オングローム」ブランドで投入した蒸着テープが存在した。通常の塗布層の上にさらに金属コバルトを蒸着させるという、発想自体は極めてType III的な製品だった(ポジションは当初Type II、後Type I・IVを追加)。TypeIIIと異なる点は、低域 - 中高域のテープ特性の大部分は下の塗布層に由来しており、上の蒸着層は超高域(スピーカーで言うスーパーツィーター)のみを担当する。そのために高域特性を大幅に改善したものの、塗布層自体の性能が他社の同価格帯と比較して見劣りしていたこと、その強力な高域特性のためデッキによって相性の相違が激しく、また製造コストの高騰からくる価格設定の高さもあり、短命に終わった。この技術は、蒸着層の超高域信号(ビデオの映像信号)への対応能力を買われて、後にビデオカメラ用テープの技術として開花することとなる(Hi8のMEタイプ、その後のテープ式デジタルビデオの規格DV (ビデオ規格)|DVC)。Type IIクロームテープ、Type IVメタルテープにはカセットハーフの上部にテープポジション検出孔(画像参照、クロームは誤消去防止ツメの隣り、メタルはそれに加えて中央部)が設けられ、これによりデッキはバイアス、イコライザなどを自動設定する。ただし最初期のメタルには中央の検出孔が存在しない製品もある。Type IIIフェリクロムは発売当初から検出孔がなかったが、ソニー案としてType IVの検出穴(ハーフ中央部)1カ所のみが開口していれば他のTypeと独立して明確な検出が行える案を確認できる(日本放送協会出版カセットデッキ阿部美春著126ページに4種類。Type Iは検出穴なし、Type IIの検出穴は外側1カ所、Type IIIの検出穴は中央1カ所、Type IVは外側と中央の合計2カ所に検出穴を開けた図示が見られる)。その後JIS C 5568:1997(IEC94-7に適合させるための改正)にてType IIIテープ用検出穴を規定しないことが明文化された。この2者は基本的に手動の対応ポジションセレクターを持つデッキで使用するのが前提(フェリクロム策定元のソニーが当初IECにハーフ中央部をType III用の検出孔として申請していたものの認可されなかったという噂がよく聞かれるが、虚実は不明。)。検出穴を自動的に読みとる機構が装備される以前のテープセレクトの方法は手動によるスイッチ式が全盛だったため検出孔の必要性があまりなかった。Type IIIは磁気特性がType Iに近い(バイアスが+10%)ため、うまく調整すれば高性能ノーマルとしての使用も可能であるむねメーカーも謳っていた。ただしこの場合、補正カーブが異なるために音質のバランスが変わってしまう可能性が高い。そのためか、1970年代にわずかながら存在したバイアスとイコライザーを個別設定できるデッキでは、バイアスをノーマル・イコライザーをクロームに設定することを推奨した例があった。※2016年(平成28年)10月現在。太字…ハイグレードタイプ、印…ハイポジション。(日本国内での正式販売はないので、輸入問屋などを通じるなどして購入可能)※ 下記はOEM商品も含む。磁気テープが実用化された当初から、磁性体としての性能は酸化鉄より純鉄(酸化していない鉄)のほうが優れていることは判っていたものの、酸化しやすい(安定性が悪い)点や製造コストなどの点から実用化は遅れていた。元々はデータレコーダ用高密度記録用磁性体として開発されており、それを音楽用に転用した製品が 、1978年、米国3M社から「Metafine」として発売され、後にIECで正式にTypeIVとして制定された。磁気性能としては、それまでにあった高性能ノーマルやクローム(ハイポジション)を凌駕し、最大残留磁束密度がほぼ2倍、保磁力もノーマルの約3倍、クロームの約1.5倍になり、結果として全帯域での録音レベルが高く、かつてのオープンリールテープに迫るダイナミックレンジを持つと言われた。このテープの登場をもって、コンパクトカセットは本格的なHiFi音楽用としても完成の域に達したといえる。反面、その高性能ゆえに消去されにくく、一度録音したものの上から直接録音すると前の音が残留してしまうなどの問題もあり、取扱いに注意を要することと、元々が高価格であったため(後に低価格化されたが)、長らく愛好家(マニア)向けというイメージがあった。ラインナップは当初、各社の最高価格帯に設定され、基本的に1社1品種(TDKのMA-Rはハーフのみ異なる番外的な製品)であったが、後にメタル磁性体の量産体制が整うと低価格化されて、1990年代にはノーマルやハイポジションの低価格帯と同等までになった。同時にグレードも多岐にわたり、最盛期となる1980年代終盤には国内大手メーカーで高級機から普及機まで3 - 4グレードを擁していた。自動ポジション検出孔は、ハイポジションと同様に録音防止検出孔に隣接した場所に加えてハーフ上辺中央部にもあり、この2か所でメタルポジションとしての判別を行うが、IECの規定が無かった最初期の製品ではハイポジションと同じもの(3M,TDK以外の全社)か、全くないもの(3M「Metafine」,TDK「MA-R」) もあり、これらはテープポジションを手動設定できるデッキでのみ使用可能となる。なお、バイアス値は専用であるものの、イコライザの補整量はハイポジションと同じ70sのため、再生機器がハイポジションに対応していれば、再生のみは可能。東芝(東芝エルイートレーディング)のCUTE BEATというCDラジカセのフルロジック機ではカセットテープ判別リーフスイッチをメタル孔に設置しているためメタルテープ再生は不可となる。理由としては録再ヘッド保護と思われる。やむをえず再生する場合自己責任にてセロハンテープなどでメタル孔を塞ぐことで再生できる。※印は低価格タイプ、太字は高級タイプ。1970年初頭の頃までの音楽用テープは、高域は伸びるが低域に弱いクロムと、逆に中低域は強いが高域が弱いノーマルがあり、両者を併せることで弱点を補完しようという発想から生まれたものがフェリクロムである。1973年、ソニーから初の二層塗布テープ「Duad」が発売され、後にIECで正式にTypeIIIとして制定された。当初は下層に低域用のγ酸化鉄、上層に高域用の二酸化クロムを使用していたためにフェリクロム(Ferric+Chrome、鉄クロム)と呼称されるが、メーカーによってはコバルトドープ酸化鉄(上層)、コバルト被着酸化鉄(上層または両層)を採用する製品もあった。高級音楽用として、1970年代には各社の最高価格帯の製品として君臨したものの、製造工程の複雑さや専用のバイアス・イコライザが必要ではあるが自動ポジション検知は構造上できない等の使用時の煩雑さ等もあり、発売したメーカーは多くない。日本でも大手のTDK、日立マクセル、富士写真フイルム等は採用せず、同価格帯には高級ノーマルポジションを置いていた。1978年に3M社よりメタルテープ (TypeIV) が発売された後は、最高級音楽用としての役割はそちらに置き換えられて各社とも撤退し、日本で1980年代まで発売を継続していたのは開発元のソニーのみであったが、それも1980年代後期にはカタログ落ちしている。ソニー製デッキでも対応デッキはオートテープセレクターが主流となると消滅している。最高価格帯の製品でもあったためか同時期には1社1グレードのみで、価格帯としては同時期のクロムと同等かやや上、メタルよりは下となる。フェリクロムのランクは全てリファレンスである。1970年代初期に登場。当初、殆どの製品はCrO2(二酸化クロム)を使用したクロムテープであるが、中低域の弱さや六価クロムの環境問題、当時のデッキに使われたパーマロイヘッドはクロムに硬度で負けてしまい摩耗する等の問題が多かったため、1970年代後半 - 1980年代初頭にコバルト系のハイポジションへと移行した。コバルト系ハイポジションはクロムでは成し遂げれなかった中低域の強化や低ヒスノイズ化、高域MOLの向上が図られ、1980年代には音楽用テープの代名詞となった。ただし1990年代前半まではラジカセなどの取り扱い説明書や本体にはCrO2と記載されており2014年現在でもティアックのカセットデッキの説明書にもクローム(クロム)という名称が用いられている。※は低価格タイプ、太字は高級タイプ。初期のものはオープンリール用スタンダードテープを使用したものが存在する。LN(Low Noise)ランク、LH(Low-noise High-output)ランク、SLH(Super Low-noise High-output)ランクと性能がハイポジションやメタルテープよりも細分化され、種類も多い。本来高域には弱いテープではあるが、1980年代初期にコバルトを添加し高域性能を向上したり2層コーティングで保磁力を高める等改良したものが登場し、CD録音/ディジタル録音対応を謳ったものも数多く登場した。一般用、音楽用、高性能音楽用(中級ノーマル)、超高性能音楽用(高級ノーマル)が登場した後、中域MOLがメタル並という性能を持つテープも存在した。90年代以降は低価格化やコストダウンが目立ち、一般用と音楽用のみの販売となっている。TDKのAD、日立マクセルのUD・UDΙは数多くのデッキメーカーのリファレンス(基準)テープとして用いられている。※は低価格LN(ローノイズ)タイプ、太字は高級タイプ。アイワ以外にもスタンダード(マランツ)などの音響機器メーカーがモノラル据置型のレコーダーを発売していた。しかし会議録音用の小型機器は1970年代前半にならないと市場には出回らなかった。ソニーのコンパクトカセットレコーダー第一号機は、1966年発売の「TC-100」(マガジンマチック100)。宇宙船アポロに持ち込まれたカセットレコーダーはTC-1010であった。とはいうもののカセットレコーダーを大手メーカーが続々と発売し始めたのは1975年ころからである。絵文字が Unicode 7.0 にて収録された。
出典:wikipedia
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