食物繊維(しょくもつせんい)とは、人の消化酵素によって消化されない、食物に含まれている難消化性成分の総称である。その多くは植物性、藻類性、菌類性食物の細胞壁を構成する成分であるが、植物の貯蔵炭水化物の中にはグルコマンナンやイヌリンの様に栄養学的には食物繊維としてふるまうものも少なくない。化学的には炭水化物のうちの多糖類であることが多い。従来は、消化されず役に立たないものとされてきた。後に有用性がわかってきたため、日本人の食事摂取基準で摂取する目標量が設定されている。ただし、定義から明らかなように栄養素ではない。ヒトの消化管は自力ではデンプンやグリコーゲン以外の多くの多糖類を消化できないが、大腸内の腸内細菌が嫌気発酵することによって、一部が酪酸やプロピオン酸のような短鎖脂肪酸に変換されてエネルギー源として吸収される。食物繊維の大半がセルロースであり、人間のセルロース利用能力は意外に高く、粉末にしたセルロースであれば腸内細菌を介してほぼ100%分解利用されるとも言われている。デンプンは約4kcal/g のエネルギーを産生するが、食物繊維は腸内細菌による醗酵分解によってエネルギーを産生し、その値は一定でないが、有効エネルギーは0~2kcal/gであると考えられている。また、食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で19g/日以上、成人女性で17g/日以上である。食物繊維は、大腸内で腸内細菌によりヒトが吸収できる分解物に転換されることから、食後長時間を経てから体内にエネルギーとして吸収される特徴を持ち、エネルギー吸収の平準化に寄与している。大腸の機能は食物繊維の存在を前提としたものであり、これの不足は大腸の機能不全につながることになる。食物繊維をNSP(non‐starch polysaccharide,非デンプン性多糖類)と呼ぶこともある。1918年、医師であるジョン・ハーヴェイ・ケロッグは『自家中毒』という著書を出版し、腸内で細菌が未消化タンパク質から作る毒が健康を害するという自家中毒説をもとに、未消化の肉には細菌が繁殖しやすいが、食物繊維は腸を刺激して活発にさせるので毒が作られにくいという理由で菜食をすすめた。しかし、一方で栄養学では「食べ物のカス」ともされ、長年役に立たないものと認識されていた。たとえば、栄養学の創設者である佐伯矩は、玄米は栄養が多いが未消化物が多いので消化吸収の効率が悪いなどとして、ある程度精白した米である七分搗き米をすすめていた。1960年代の南アフリカのジョージ・オットル(George Oettle)が、食物繊維と大腸がんの関連の研究をしていた。1967年に、インドのマルホトラは食物繊維の摂取が多い場合、がんのリスクが減るという報告をしている。1970年前後、バーキットはオットルの研究を発展させランセットなどで研究報告を行い、食物繊維が少ないと腸内の疾患のリスクが上がるだろうという説が広く知られるようになっていった。1975年にバーキットはトロウェル (Hugh Trowell)と共著で『精製炭水化物と病気-食物繊維の影響』を出版し、精白していない穀物である全粒穀物の食物繊維が有益であると述べ、このことは科学的研究によって確認されていった。日本では2000年の「第6次改定日本人の栄養所要量」から摂取量について目標量が設定されている。大きく水溶性食物繊維 (SDF : soluble dietary fiber)と不溶性食物繊維 (IDF : insoluble dietary fiber)に分けられる。水溶性食物繊維(海藻に含まれる水溶性食物繊維)不溶性食物繊維不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の特性をあわせ持つもの熟した果物などに含まれている水溶性食物繊維(難消化性デキストリン)は、食後の血糖値の急激な上昇の抑制や、コレステロールの吸収を抑制する作用が報告されている。野菜や穀類、豆類等に含まれている不溶性食物繊維は、大腸の蠕動運動を促す。食物繊維の効用として、脂質異常症予防、便秘予防、肥満予防、糖尿病予防、脂質代謝を調節して動脈硬化の予防、大腸癌の予防、その他腸内細菌によるビタミンB群の合成、食品中の毒性物質の排除促進等が確認された。長寿地区住民の高齢者の食物繊維摂取量と同一人の腸内細菌叢を分析することによって、食物繊維の摂取量が多いと、働き盛りの青壮年なみに有用菌(ビフィズス菌等)が優勢で老人特有の有害菌(ウエルシュ菌等)は抑えこまれていることが実証された。さらにこの有用菌は腸内腐敗防止、免疫強化、腸内感染の防御、腸管運動の促進といった作用のあることがわかった。消化管内の必須栄養素であるカルシウムと結合し腸管からの吸収を阻害する働きもある。日本では、特定保健用食品(トクホ)と表示が認可されている。2003年、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)による「食事、栄養と生活習慣病の予防 」("Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases") では、肥満、2型糖尿病、心臓病のリスクを下げると報告し、野菜や果物や玄米のような全粒穀物からの摂取をすすめている。リード (N.W. Read) とティムス (J.M. Timms) による「トンネルの向こうに光は見えるか」という論文では「食物繊維によって重症の便秘が軽減する事は少ない」と著されている。2007年11月1日の世界がん研究基金とアメリカがん研究協会によって7000以上の研究から分析したがん予防の報告書では、結腸や直腸のがんの予防との関連がありうるとしている。食物繊維摂取量との関連が検討された生活習慣病は多岐に及び、心筋梗塞の発症ならびに死亡、糖尿病の発症との間に負の関連を認めたとする研究報告が数多くある。また、循環器疾患の強い危険因子である血圧並びに血清(または血漿)LDLコレステロールとの間でも負の関連が示唆されている。さらに、肥満との関連を示した疫学研究も多数存在する。一方、がん、特に、大腸(結腸並びに直腸)がんとの関連については、最近の疫学研究の結果は必ずしも一致していない。ハーバード大学公衆衛生学部は、「食物繊維の摂取は、健康効果のある健全な食事としてもてはやされ、心臓病、糖尿病、憩室疾患、便秘を含む様々な疾患のリスクを減少させていた。多くの人が信じていたにも関わらず、食物繊維には大腸がんのリスクの減少の効果はほとんど認められなかった。」と発表している。海藻、全粒穀物、豆などに食物繊維が多く含まれる。実際の含有量は、産地、収穫時期、品種等で異なるため代表値である。
出典:wikipedia
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