片頭痛(へんずつう, Migraine)とは、頭痛の一種で、偏頭痛とも表記する。頭の片側のみに発作的に発生し、脈打つような痛みや嘔吐などの症状を伴うのが特徴である。軽度から激しい頭痛、体の知覚の変化、吐き気といった症状によって特徴付けられる神経学的症候群である。生理学的には、片頭痛は男性よりも低血圧の女性に多い神経学的疾患である。典型的な片頭痛の症状は片側性(頭の半分に影響を及ぼす)で、拍動を伴って4時間から72時間持続する。症状には吐き気、嘔吐、羞明(光に過敏になる)、音声恐怖(音に過敏になる)などがある。およそ3分の1の人は「前兆」と呼ばれる、異常な視覚的、嗅覚的、あるいはその他の感覚の(片頭痛が間もなく始まることを示す)経験をするとされる。初期治療としては、頭痛にNSAID鎮痛剤やトリプタンの服用、吐き気に制吐剤の服用、そしてさらなる発症の抑制がある。片頭痛の原因は未解明であるが、セロトニン作動性制御システムの障害であるという説が一般的である。片頭痛には変異型があり、脳幹に由来するもの(カルシウムやカリウムイオンの細胞間輸送の機能不全が特徴的である)や、遺伝的性質のものなどがある。双子に関する研究で、片頭痛を発症する傾向への遺伝的影響が、60〜65パーセントの確率であることが分かった。さらに変動するホルモンレベルも、片頭痛と関係がある。思春期前には男女ほとんど同じ数だけ片頭痛を発症するのに対し、成人患者では実に75パーセントが女性なのである。片頭痛は妊娠中にはあまり発症しなくなると知られているが、中には妊娠中の方が頻繁に発症するという人もいる。国際頭痛学会(International Headache Society, IHS)は、「国際頭痛分類 第2版(ICHD-2)」と呼ばれる文書で、片頭痛の分類と判断の指標を提供している。ICHD-2によると、片頭痛は全部で6種類に分類できる。うち何種かは更に詳しく分類される。以下は分類リストである。片頭痛は、過小診断されたり誤診されたりすることがある。国際頭痛学会によると、前兆のない片頭痛は以下の「5, 4, 3, 2, 1基準」に照らし合わせて診断されるという。前兆を伴った片頭痛については、上のうち2つのみ当てはまればそのように診断されてしまう。「Pulsating, duration of 4–72 hOurs,Unilateral,Nausea,Disabling(拍動、4-72時間の持続、片側性、吐き気、障害)」の略であるPOUNDingという語は片頭痛の診断に役立っている。上の5つの基準のうち4つが合致した場合、その片頭痛の診断における陽性尤度比は24となる。「障害」か「吐き気あるいは過敏症」のうちどちらかが当てはまれば、感度81パーセント、特異度75パーセントの診断となる。片頭痛は、群発性頭痛などの他の頭痛の原因とは区別されるべきである。片頭痛でないものは、激しい痛みや刺すような片側性の頭痛を伴い、通常発症は15分から3時間程度続く。症状の発現はすぐで、片頭痛の特徴でもある前兆のような徴候は現れない。片頭痛の徴候と症状は患者によって異なる。そのため、患者が発症の前、発症中、発症の後に何を経験するかということは、はっきりとは言えないのである。下のリストにある4つの段階は、片頭痛患者が通常経験する症状であるが、これらを必ずしも経験するとは限らない。さらに同じ片頭痛患者でも、経験する段階や症状は、発症が起きるごとに変わる場合がある。片頭痛患者の40〜60パーセントが前駆症状を発症する。この段階の症状としては、機嫌の変化、興奮、気持ちの落ち込みか高揚、疲労、あくび、過度の眠気、特定の食材に対する欲求、筋肉のこわばり(特に首周辺)、便秘か下痢、排尿回数の増加、その他内臓に関する症状、といったものがある。これらの症状は通常、片頭痛の症状の数時間から数日前に起きるため、患者本人や家族は片頭痛の発症が近いことを予知することが出来る。およそ20〜30パーセントの片頭痛患者が前兆を伴って発症する。前兆は、発症の前か発症に伴って現れる局所的神経障害である。5分から20分かけてゆっくり段階的に現れ、普通は60分以内に治まる。片頭痛の頭痛段階は、通常この前兆段階が終わってから60分以内に始まるが、数時間ほど遅れたり、そのまま始まらずに終わったりすることもある。前兆の症状には、視覚的なものや感覚的なもの、運動神経に関するものがある。視覚的な前兆は、神経障害の中で最もよく起きるものである。これは普通、白や黒の形を成していない閃光が視覚を妨害するものである。また、その妨害が色とりどりの光によるものであったり(光視症)、まぶしいジグザグの線によるものであったりする(閃輝性暗点:城の銃眼付き胸壁のように見えることが多く、「要塞スペクトル」や「閃輝暗点症」とも呼ばれる)。患者の中には、まるで厚いガラスかスモークのかかったガラスを通して見ているかのような、チラチラ光る、ぼやけた、曇った視界を訴える者もいれば、場合によっては視野狭窄や片側視野欠損を訴える者さえいる。体知覚の前兆には、体の同じ側(右側など)の手や腕、鼻や口がチクチクするように感じる手掌口症候群などがある。このチクチクする感じは腕から顔の方へ拡大していき、唇や舌に達する。前兆の他の症状には、幻聴や幻臭、一時的な不全失語症、めまい、顔や四肢のチクチク感や無知覚、感覚過敏といったものがある。典型的な片頭痛は頭の片側だけで、ズキズキして、中程度か激しい痛みを伴い、身体運動で悪化することがある。ただしこれらの特徴の全てが当てはまるわけではない。発病時から両側が痛むこともあれば、片側から始まってもう片方へ痛みが移動する場合もあるし、発症ごとに痛む側が変わることもある。発症は普通、段階的に起こる。痛みはピークに達した後ややおさまり、その後大人は4時間から72時間、子供は1時間から48時間、痛みが持続する。発症頻度は人によって非常に様々であり、人生で数回しかない人から週に数回もある人までいるが、平均的には月に1回から3回ほど発症するとされる。頭痛の激しさも人によって様々である。頭痛は必ず何か他の症状を伴って現れる。吐き気は約90パーセントの人に現れ、嘔吐は約3分の1の人に起こる。多くの患者は、羞明(光に過敏になる)、音声恐怖症、におい恐怖症、などとなって現れる感覚の過剰興奮を伴い、暗く静かな部屋を探そうとする。頭痛の間は、視界のぼやけ、鼻づまり、下痢、多尿症、顔面蒼白、発汗、といった症状が顕著になる。顔や頭皮に限局性浮腫が出たり、頭皮の圧痛、こめかみの血管の隆起、首の凝りや圧痛といった症状が起きたりもする。気分や集中力の障害が出ることも普通である。四肢は冷たさやじっとりした感じを感じることがある。めまいも起きるが、これは典型的な片頭痛の一つである前庭片頭痛と呼ばれるものである。疲労、「二日酔い」のような症状と頭痛、認知障害、胃腸症状、機嫌の変化、虚弱、といった症状が後発症状として表れる。リフレッシュした気分になったり幸福感に満たされる人もいれば、気分の沈下や不快感に悩まされる人もいる。大抵は食欲喪失や羞明のような、頭痛段階の軽微な症状が続く。5時間から6時間ほどの仮眠を取れば痛みが軽減される人もいるが、それでも急に立ったり座ったりした時にちょっとした頭痛が起きることがある。そうした症状は十分な睡眠を取ればなくなると思われるが、その保証はない。発症の仕方や解消の仕方が他とは違う人もいるのである。片頭痛は低血圧の女性に出現しやすく、高齢で軽減する発作性頭痛を示す慢性機能性疾患である。診断基準に含まれない特徴もあり個体差も大きい。典型例で認められる特徴を簡単にまとめる。片麻痺性片頭痛(HM)は家族性片麻痺性頭痛(FHM)と孤発性片麻痺性頭痛に分類される。海外における検討では有病率は0.01〜0.03%と稀少疾患である。典型的な片頭痛よりも発症は早期であり10〜20歳とされる。運動性の前兆が認められるのが最大の特徴である。前兆の出現中もしくは前兆出現後60分以内に頭痛がおこる。持続性の小脳失調や精神発達遅延を伴う例も報告されている。血管収縮薬は使用禁忌であり、それ以外は前兆のない片頭痛と同様の治療方針となる。FHM1は脊髄小脳変性症であるSCA6や反復発作性運動失調症2型(EA-2)と同じCACNA1Aが原因遺伝子である。近年、トリプタン治療を行なっても安全であろうという検討も見られるようになった。脳底型片頭痛(BM)は片頭痛の前兆の責任病巣が脳幹または両側大脳半球あるいはその両方と考えられるものである。運動麻痺が前兆のものは含まれない。脳底型前兆で最も多いものはめまい感である。血管収縮薬は使用禁忌である。これはトリプタンの治験が血管攣縮を増悪させる恐れがあるという懸念から脳底型片頭痛を除外して行った経緯からである。片頭痛の原因は多岐にわたるが、それらは行動によるもの、環境によるもの、伝染によるもの、食物によるもの、化学作用によるもの、ホルモンによるものにそれぞれ分類される。これらの要素は、医学文献では「誘発因子」として知られている。例えば「The MedlinePlus Medical Encyclopedia」では、以下の要素を片頭痛の原因として挙げている。片頭痛は明らかな原因無しに起きることもある。片頭痛患者は、頭痛の発生を記録する「頭痛日記」をつけ自分の頭痛の誘因を特定するようアドバイスされることがある。また、誘因となる食物を避けるため、食事制限をするようにもアドバイスされることがある。注意すべきは、誘発因子の中に量が関係するものがあるということだ。例えば、小さなブロックのダークチョコレートは片頭痛を引き起こさないだろうが、厚板半分なら、頭痛を引き起こすこともある。2つ以上の誘発因子に同時に接触することで、発症率が高くなりうる。例えば気温、湿度、ストレス過多、睡眠不足、誘発因子である飲食物の摂取が重なることで、片頭痛を発症することがある。正確な頭痛日記をつけ続け、自分に相応しい方法でライフスタイルを変化させていくことで、患者の生活の質は少なからず良くなるとも言える。回避可能な誘因を限定(制御)することで、発症頻度を減少させうる。。しかし、さらなる研究が必要とされている。回避することで片頭痛の発症回数が減ったり片頭痛自体が治ったりすると証明された食物が、グルテンである。セリアック病やその他のグルテン過敏系の病気を患っている患者は、グルテンアレルギーの症状として片頭痛を発症するともされる。ある研究結果によると、片頭痛患者は一般の人よりもセリアック病患者である割合が10倍も高く、そうした患者はグルテンが含まれない食事を続けることで片頭痛が減少あるいは治癒したという。最近症状が悪化したり、治療への抵抗性があったりする慢性頭痛の患者10人を調べたところ、10人全員がグルテンに対して過敏症状を示したとする研究結果もある。MRIスキャンによって、各患者は中枢神経系にグルテンアレルギーによる炎症があることも分かった。それらの患者のうち、グルテンを含まない食事療法を続けた9人中7人が、以後完全に頭痛を発症しなくなったという。アスパルテームは人工甘味料として知られる物質である。このアスパルテームが片頭痛を引き起こすと信じている人もいるし、事例証拠もあるが、この件に関しては医学的には証明されていない。これは頻繁に誘発因子として報告されている。プラセボ対照試験で、頭痛を含む反対の症状が出る頻度は、プラシーボ(偽薬)を投与した時よりも空腹時に2.5グラムのMSGを投与した時の方が高いことが判明した。しかし他の対照試験では、食事と一緒に3.5グラムのMSGを投与しても何の反応もなかったとされる。アメリカ頭痛財団はチラミンの理論に基づいた誘因物質の具体的なリストを出しているが、ある2003年の批評記事は「チラミンが片頭痛に何らかの影響を与えるという科学的証拠は一切ない」と結論づけている。しかし、東京都健康安全研究センター(東京都立衛生研究所)の研究年報第55号(2004年)では関与が指摘されている。チラミンを含むものとしては、上のリストに加えてココア、柑橘類がある。2005年のある文献レビューで、現在ある食物の誘発因子に関する情報のほとんどが、患者の主観評価に拠るものであることが分かった。食物の誘発因子がまさに片頭痛の発症を引き起こすか促進するようだと考える人もいたが、ほとんどの人はそれが片頭痛を引き起こすとは立証されていないだろうと考えた。そのレビューの筆者は、アルコール類の摂取やカフェインの服用中止、食事を抜くことが最も重要な食物の誘発因子であることや、脱水症の方がより注目に値すること、そして赤ワインへの過敏性を持つ患者もいることを発見した。よく知られた疑わしい誘因であるチョコレート、チーズ、ヒスタミン、チラミン、硝酸塩といったものが片頭痛と関係あるという証拠は全くと言っていいほどない。しかし、筆者は「一般的な食事療法(制限)が片頭痛治療に効果的であるとは証明されていないが、確実に片頭痛の原因だとされてきた食物を避けるのは、個人にとっては有益なことだ」ともしている。いくつかの研究により、片頭痛の中には天候の変化によって引き起こされるものもあることが分かった。ある研究では、被験者の62パーセントが「天候が原因である」と考えていたが、実際には被験者の51パーセントだけが天候に敏感であったという結果が出ている。天候の変化があった間に片頭痛が発生した被験者は、実際に記録された気象データとは違う天候の変化を選んでいる。最も片頭痛を引き起こしやすいのは、順に以下の通りである。暖かなチヌック風が片頭痛に与える影響を検証した別の研究では、チヌック風が吹く直前や吹いている間に、多くの患者が片頭痛の発症回数が増えたと報告したとしている。片頭痛の発症を報告した患者の数が多かったのは、チヌック風の暴風日だった。この原因は、大気中の陽イオン量が増加したことだと考えられた。ある研究により、インドの片頭痛患者の中には風呂の中で髪を洗うことが誘因となる人もいることが分かった。その誘因による影響は、洗った髪がその後どのように乾かされるかにも関係するのだという。強い香水も潜在的な誘因として考えられており、前兆の影響として匂いにより敏感になったと報告する患者もいる。片頭痛はかつて、血管の問題のみが原因で起きるものだと考えられていた。片頭痛の血管説は今や脳機能不全に次ぐものと考えられており、人々から疑われてきてもいる。発痛点は少なくとも原因の一部であり、頭痛の多くを持続させる。片頭痛の病理生理は未だに科学的根拠を持った理論が存在せず、さまざまな仮説が提唱されている。主な症状である頭痛が終わってからも、片頭痛の症状は数日間持続する。多くの患者は片頭痛があった部分に痛みを感じており、片頭痛後の思考障害を訴える患者もいる。双方共に不安障害によって引き起こされることから、片頭痛は甲状腺機能低下症の症状であるとも考えられている。メラノプシンがベースの受容器は、光感受性と片頭痛の痛みの関係性に関連づけられている。皮質拡延性抑制(CSD)と呼ばれる現象が片頭痛を引き起こすとする説。皮質拡延性抑制では、神経活動が脳皮質のとあるエリアにおいて抑圧される。この状況は脳神経根、特に顔や頭の大部分に感覚情報を運ぶ三叉神経の炎症を引き起こす、炎症性メディエータの発生を引き起こすことになる。この考え方は神経画像検査技術によって裏付けられており、片頭痛はまず脳の機能不全(神経系)であり、血管の機能不全(血管系)ではないことが明らかになっている。脱分極の拡大(電位変化)は発症の24時間前に始まり、脳の最大エリアが脱分極された頃に頭痛が始まる。2007年のフランスのある研究で、ポジトロンCT(陽電子放出型断層撮影法・PET)の技術によって、初期段階で視床下部が脱分極エリアに決定的に含まれることが判明した。片頭痛は脳内の血管が不適切に収縮・拡張する時に起きるとする説。これは脳の後ろ側の後頭葉から冠動脈攣縮として始まる。皮質視覚中枢は後頭葉にあるため、後頭葉からの血流の減少は前兆を引き起こし得るのである。収縮がおさまって血管が拡張すると、今度はそれが広がりすぎてしまう。そして血管の硬い壁が浸透性を持つようになると、血液の一部が漏出してしまうのだ。この漏出は周辺組織の血管にある疼痛受容体によって知覚される。その反応として、体は当該エリアに炎症を起こす化学物質を投入する。1回の心拍ごとに、血液はこのエリアをズキズキする痛みを引き起こしながら通り過ぎるのである。前述の通り、片頭痛の血管説は、今では脳機能不全に次ぐものと考えられている。セロトニンは神経伝達物質の一種、あるいは神経細胞間でメッセージを伝達する「伝達化学物質」である。セロトニンは特に血管の収縮・拡張と同じように、気分や痛覚、性行動、睡眠を制御するのを助ける。脳内のセロトニンレベルが低いと、片頭痛を引き起こすことになる血管の収縮・拡張をもたらしてしまうのだ。トリプタン(片頭痛の特効薬)にはセロトニン受容体を活性化させ、片頭痛の発生を止める作用がある。脳内のある神経やあるエリアが刺激されると、片頭痛が引き起こされるとする説。刺激への反応として、体は血管の炎症を引き起こす化学物質を放出する。これらの化学物質が神経や血管のさらなる炎症を招き、結果として痛みが発生するのだ。P物質(サブスタンスP)は最初の炎症とともに放出される物質の一つである。このP物質は脳に疼痛信号を送るのを促進するはたらきがあるため、放出されると痛みは増すことになる。血管と神経のどちらも片頭痛を引き起こすとする説。片頭痛の予防的治療は、片頭痛の疾病管理において重要な要素である。そのような治療には、ある種の薬やサプリメントを摂取する方法から、運動量を増加させたり誘発因子を取り除いたりして生活スタイルを変化させる方法まで、実にさまざまな形がある。予防療法の目的は、片頭痛の発症頻度や痛み、発症時間を減少させたり、頓挫療法の効果を高めたりすることである。こうした目的を持つのは、片頭痛患者によく見られる薬剤誘発性頭痛(あるいは反跳性頭痛)を避けるためでもある。この種の頭痛は鎮痛剤の過剰使用などによって起こり、最終的には慢性日常性頭痛を引き起こすと考えられているのだ。予防療法の多くは非常に効果的である。プラシーボ(偽薬)ですら、4分の1の患者の頭痛発生頻度が半分以下に減少する結果となったのだから、実際の治療となればそれ以上である。巷には片頭痛を予防したり、発生回数や長さ、痛みを減少させたりする薬が多く出回っている。そういった薬は片頭痛の合併症も予防できる可能性がある。よく使われる薬としては、プロパノロール、アテノロール、メトプロロール、フルナリジン、バルプロ酸ナトリウム、トピラメートなどがある。片頭痛の場合は30%程度発作頻度が減少することが期待できる。予防薬は1ヶ月ほどで効果が出現するが3ヶ月を超える頃から効果が減弱する傾向がある。理想としては効果があった場合は徐々に減量し、一度休薬する、発作頻度が増えてきたら再開するといった流れを繰り返す形になる。また前駆症状(視覚異常の他に筋肉性の張りなど)の段階でドンペリドン(ナウゼリン®)やトリヘキシフェニジルTrihexyphenidyl(アーテンArtane®)、クロナゼパム(リボトリール®)の服薬で頭痛を予防できることもある。従来の治療法は3つのエリアに焦点を合わせていた。すなわち、誘発因子の回避、対症的コントロール、予防の薬理的薬である。片頭痛患者は、推奨されている治療法は片頭痛を予防するという点において100パーセント効果的であるとは限らない、あるいは全く効果的でないかもしれないことにしばしば気がつく。薬物学的治療は、片頭痛の発生頻度や痛みを50パーセント軽減できれば"効果的"であると考えられているのである。子供や若者はまず薬物療法を施されるが、食生活の改善の重要性も見落としてはならない。ホットドッグ、チョコレート、チーズ、アイスクリームなどの食物の誘発因子の摂取を改善する助けになる食物療法日記をつけ始めることで、片頭痛の症状が緩和される可能性もある。安易な鎮痛剤の反復服用は薬物乱用頭痛をまねくため計画性が求められる。再発性片頭痛だと診断された患者にとっては、片頭痛予防薬は症状を治すのに使用できる。その場合、一旦発症してしまってから服用すると効果が薄れるので、できるだけ早く飲む方が効果的であり望ましい。発症の際に治療することで、その発症がひどくなる前に治められるだけでなく、次の発症までの頻度も軽減できる。一次的治療には、市販されている予防薬の使用がある。患者自身は、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、その他緊張性頭痛に有用な単純な鎮痛薬などから使い始めることが多い。制吐剤を経口摂取することにより、吐き気を解消したり嘔吐を防いだりする効果が期待できる。加えて、中にはメトクロプラミドのように、胃内容排出(片頭痛発症中には機能が弱まる)を助ける消化管運動賦活薬でもある制吐剤もある。制吐剤入りの鎮痛薬は、早く飲めば飲むほど効果的である。患者の中には、吐き気防止の性質を持つ、他の鎮痛抗ヒスタミン剤を服用することで痛みが和らいだと感じる者もいる。スマトリプタンや関連したセロトニン受容体刺激薬は、ひどい片頭痛や、非ステロイド系抗炎症薬やその他の市販薬では太刀打ちできないような片頭痛に効果的だ。トリプタンは典型的な片頭痛患者に最適な中期治療である。トリプタンは特殊な片頭痛やひどい片頭痛、変容型片頭痛、片頭痛発作重積(72時間以上続く)といったものには作用しない場合がある。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はアメリカ食品医薬品局によっては片頭痛の治療薬として承認されていないが、臨床コンセンサスでは効果的であることが判明している。トリプタンは服薬のタイミングが重要であり前兆期には効果がなく、頭痛が強くなりすぎても効果がない。虚血性心疾患、脳血管障害、末梢血管障害例には慎重投与となる。半減期が約二時間と短いため、服薬後2時間で効果が不十分な場合はさらにもう50mgの追加が可能である。皮下注射薬、点鼻薬も存在する。効果出現時間はスマトリプタンよりやや遅いものの代謝産物も片頭痛改善作用を有するため効果の持続時間は長い。最高血中濃度到達時間が1時間程度と短く半減期も3時間と長めである。即効性と持続性ともにトリプタンの中では良好である。最高血中濃度到達時間が1時間程度と短い。最高血中濃度到達時間が2.5時間と長く即効性は期待できないが、半減期が5.5時間と長いため再発例に有効と考えられている。三環系抗うつ薬は長い間、非常に効果のある予防的治療としての地位を確立してきた。しかし三環系抗うつ薬は、不眠症、鎮静、性機能障害などの好ましくない副作用も引き起こす可能性がある。選択的セロトニン再取り込み阻害薬の抗うつ薬は、三環系抗うつ薬よりは片頭痛予防薬としての地位を確立してこなかった。抗うつ薬は片頭痛治療薬としてアメリカ食品医薬品局の認可を受けていないが、一般的に広く処方されている。三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬に加え、抗うつ薬のネファゾドンも、5-HT2A受容体や5-HT2C受容体に対する拮抗作用があるため、片頭痛の予防に役立つ可能性がある。ネファゾドンは片頭痛予防として一般に使われる三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンよりは好ましい副作用を伴う。抗うつ薬は、合併うつ病を伴う片頭痛患者の治療に効果を発揮する。1991年にスマトリプタンが導入されるまで、麦角誘導体(エルゴリン)は片頭痛抑止として用いられる主要な経口薬だった。麦角薬は予防療法と頓挫療法のどちらにも使える。しかし、酒石酸エルゴタミン錠(カフェイン含有)は、非常に効果的で長く持続するのだが、麦角中毒の問題のために人気が落ちてしまった。エルゴタミンの経口錠の吸収作用は、患者が吐き気を催していても確かなものである。吐き気止めを投与する場合はエルゴタミン座薬が用いられる。麦角薬自体は非常に吐き気を催す性質があるので、初めてこれを使う患者は、この影響に対抗するために何かを手に持って服用することが望ましい。エルゴタミン・カフェイン合剤の1/100mg錠(カフェルゴットなど)はトリプタンよりも頭痛1回あたりのコストが安く、アジア地域やルーマニアでも一般的に手に入れることが出来る。エルゴタミン・カフェイン合剤は、カフェインが睡眠を妨害するため、通常は夕方から夜間にかけて発症した片頭痛の抑止には使えない。純粋な酒石酸エルゴタミンは夕方から夜間の発症に非常に効果的である。注射か吸入によるジヒドロエルゴタミンは酒石酸エルゴタミンと同じくらい効果的だが、価格はカフェルゴット錠よりも更に高い。最近のメタ分析で、通常の治療に加えてデキサメタゾンを1回分静脈内投与すると、頭痛の再発率が26パーセント減少することが分かった。また頭痛発作が止まらない時にヒドロコルチゾン1000mg程を点滴投与することもある。頭痛発作が止まらないときはトリアゾラムなどの睡眠薬を用いて眠ると覚醒時は和らいでいることが多い。市販薬が効かなかったりトリプタンが高すぎて買えなかったりという場合には、多くの医者は次に、ブタルビタール(バルビツール酸系催眠薬)、パラセタモールあるいはアセチルサリチラート酸(アスピリンとしてよく知られる)、カフェインの混合薬であるフィオリセットやフィオリナールを処方する。中毒の危険性は低いが、ブタルビタールは毎日服用するとクセになる(習慣性を帯びる)ことがあり、場合によっては反跳性頭痛を引き起こすこともある。ヨーロッパ諸国の多くでは、バルビツール酸系催眠薬は手に入らない。Amidrine、Duradrin、Midrinはアセタミノフェン、ジクロラルフェナゾン、イソメテプテンの混合薬であり、これらは(アメリカにおいては)片頭痛患者によく処方される。最近の研究で、これらの薬は片頭痛の治療においてスマトリプタンよりも効果的かもしれないということが分かった。制吐剤は嘔吐が症状の大半を占める場合には、座薬か注射によって投与される必要がある。最近になって、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が片頭痛に伴って起こる痛みの発生の一因となっていることや、トリプタンがその放出や作用を抑制することが分かった。オルセゲパント(olcegepant)やテルカゲパント(telcagepant)などのカルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬が、片頭痛治療薬として試験管内や臨床研究の場において詳細に調べられている。片頭痛発作重積は、片頭痛状態が72時間以上続き、その間に4時間以上痛みから解放されることが無い場合の症状名である。片頭痛発作重積の治療では、併存疾患の管理(食欲不振や吐き気/嘔吐が原因の、片頭痛発作重積によく付随して起こる電解質異常の治療など)や、頭痛を抑止するための非経口薬の投与などが行われる。文献には片頭痛発作重積の治療に関して多くのケース報告があるが、一次治療としては、静脈内輸液、メトクロプラミド、トリプタンあるいはジヒドロエルゴタミンが使用される。カナダ頭痛学会は複数の研究を元に、救急外来での片頭痛の第一選択治療としてはプロクロルペラジン(製品名ノバミン)を推奨している。(ただし日本では保険適応ではない。)ハーブのナツシロギク(feverfew)はいくつかの研究において偏頭痛の予防に効果を示すとされているが、アメリカ国立補完統合衛生センターはさらなるエビデンスが求められているとしている。アメリカではサプリメントとして、ナツシロギクとショウガと合わせて舌下で服用するための片頭痛用の薬としてGelStat社が市販している。ある非盲検試験ではその治療法の有効性を証明する暫定的な証拠がいくつか上がったが、未だ科学的には完全に研究されていない。であったが、近年ナツシロギク(フェーバーフュー)の主要成分であるパルテノライドにセロトニン抑制作用があるとわかり近年開発された新薬セロトニン作動薬に近いメカニズムが作用した結果と考えられる。イギリスにはフィーバーフュー専門の医療機関も存在する。なを、フィーバーフューの語源は直訳すると「熱が無い」となり、解熱作用を期待して発熱時に使われていた事に起因する。日本でもフェーバーフュー単品のハーブサプリメント製品は多数販売されているが品質の差が激しいので選ぶ際は注意が必要。アサ属の植物は、予防効果に加えて片頭痛発症中の痛みを軽減する効果があるとして知られている。片頭痛の発症を抑止する薬の相対的な有効性に関し、2004年のプラセボ対照試験で、高用量のアセチルサリチラート酸(1000mg)、スマトリプタン(50mg)、そしてイブプロフェン(400mg)は痛みの軽減という点で同等の有効性があることが分かった。このうちスマトリプタンは患者の痛みや片頭痛関連の症状から完全に解放したという点において、他の薬よりも優れていた。なお、50mgのスマトリプタンは通常処方される量の100mgの半分なので、この対照試験で完全に対照出来たわけでもないことに留意してほしい。治験薬製造会社による他のプラセボ対照試験では、スマトリプタン(80mg)とナプロキセンナトリウム(200mg)の混合薬は、どちらか片方のみを服用するよりも効果的であることが分かった。最近、スマトリプタン(80mg)とナプロキセンナトリウム(500mg)の混合薬が有効であることが明らかになり、初期治療パラダイムにおいても片頭痛の急性期治療として良好な耐用性を示した。この混合薬による無痛効果は早ければ30分で現れ、2時間から24時間ほど持続する。服用2時間後と4時間後の試験で、この混合薬は従来の片頭痛関連の症状(吐き気、羞明、音恐怖症)や従来無い症状(首の痛み、不快、副鼻腔痛、圧迫)の発生を抑制する効果があることが分かった。片頭痛の予防と治療に関するビタミンBサプリメントの効果についてのグリフィス大学の研究も、期待できる結果を残している。片頭痛患者は、脳卒中のリスクが一般の2倍から3倍も高まる可能性がある。特に若い成人患者やホルモン避妊薬を使用している女性患者は、特別なリスクにさらされている。どの関連性のメカニズムも明らかになってはいないが、脳血管緊張の慢性的な異常が関係すると考えられている。前兆を経験したことのある女性患者は、経験したことのない患者や一般女性に比べ、脳卒中や心臓発作のリスクが2倍も高いことも分かってきている。片頭痛患者は血栓性脳卒中と出血性脳卒中のどちらにもなるリスクや、一過性脳虚血発作(TIA)になるリスクがあると考えられる。「女性の健康イニシアチブ(アメリカの組織)」により、前兆を伴う片頭痛の患者は心血管系が原因で死亡する確率が高いという研究結果が出たが、これを裏付けるにはさらなる調査が必要だとされている。片頭痛は12〜28パーセントの人の人生に何らかの影響を与えるとみられているほど、非常に一般的な疾患である。しかし、この生涯有病率の数字は、ある時点において実際に片頭痛を患っている患者が何人いるかという事実を明らかにするものではない。したがって通常は、年間有病率(前年に片頭痛を1回以上発症した人の率)によって、ある人口中にどれだけの片頭痛患者がいるかを判断する。実態を明らかにする3つ目の資料は出現率だ。これはある年齢で初めて発症した人の数を示すもので、どのようにその疾患が成長・収縮していくのかの理解を助けるものである。数ある研究により、片頭痛の年間有病率は男性で6〜15パーセント、女性で14〜35パーセントと開きがあることが分かっている。この値は年齢で大きく変わってくる。12歳以下の子供ではおおよそ4〜5パーセントが片頭痛を発症するが、男女間の有病率の明白な違いはほとんどない。思春期後になると女の子の方で出現率に急速な伸びが見られ、これは青年期の終わり頃まで続く。中年の初期(40歳過ぎ頃)までに、25パーセントもの女性が1年に1回は片頭痛を経験するようになる。これは男性が10パーセント未満であることを考えると、比較的高い数値である。更年期を過ぎると女性の発症率は劇的に減少し、70歳を超えると男性と変わらないくらいになり、有病率は5パーセント前後まで戻る。年齢を問わず、前兆なしの片頭痛は前兆ありの片頭痛よりも多く、その比率は 1.5:1 から 2:1 の間くらいである。出現率の資料によれば、再生産年齢にある女性にみられる過度の片頭痛は、前兆なしの片頭痛によるものであることが分かる。このように、15歳から50歳までの女性と比べると、思春期前と更年期後の女性の方が、前兆ありの片頭痛をいくらか発症しやすいのである。つまり、年齢、性別、片頭痛のタイプの間には大きな関係性があるのだ。片頭痛有病率の地理的な差については明らかになっていない。アジアと南アメリカの研究では、その地域での有病率は相対的には低いものの、ヨーロッパや北アメリカの研究で見られるような値域からは外れない。片頭痛の出現率は、家族内のてんかんの出現率に関係がある。家族にてんかん患者がいる場合は有病率が2倍になり、自身がてんかん患者である場合はさらに有病率が高い。穿孔術(頭皮を切開して頭がい骨に穴を開ける療法)は、9,000年(あるいはそれ以上)前から実践されてきた。学者の中には、洞窟壁画や、17世紀ヨーロッパでは穿孔術が歴史的な片頭痛治療法だったという事実から、この思い切った手術は片頭痛治療のためだったのではないか、と推測する者もいる。片頭痛の内容に一致する初期の明細書は、古代エジプトで紀元前1200年頃に書かれたエーベルス・パピルスの中にある。紀元前400年、ヒポクラテスは、片頭痛に先立って発生することがある視覚的前兆と、嘔吐中に起こりうるその緩和について説明した。カッパドキアのアレタイオスは2世紀に、吐き気を伴って現れる片側性の頭痛の症状について、症状の間の痛みのない時間についても含めて説明しているため、片頭痛の「発見者」だと認められている。ペルガモンのガレノスは "hemicrania"(半分の頭)という言葉を用いていたが、これは後に英語で片頭痛を意味する "migraine" という言葉が生まれるきっかけとなった。彼は吐き気や嘔吐がしばしば発症に伴って現れることから、胃と脳の間には関係があるのではないかと考えたのである。アンダルシア生まれの医師で、アブー・アル=カースィムとしても知られるアブルカシスは、頭に熱した鉄を当てることや、寺で切開してもらった部分にニンニクを入れることを提唱した。中世においては、片頭痛は分離性の内科的疾患と考えられており、治療法も熱した鉄を使うものから瀉血、挙げ句の果てには魔法まであった。ガレノスの弟子たちは、片頭痛は悪性の胆汁が原因であるとした。イブン・スィーナーは自身のテキストで、片頭痛は「...小さな動き、飲食、音などが痛みを引き起こす...患者は話し声や光に耐えられず、暗闇に一人で休むことを好む」ものであるとした。アブー・バクル・モハマド・イブン・ザカリヤ・ラージーは、「...そしてそのような頭痛は、出産や中絶の後や、更年期や月経困難症の間に起こるものである」として、頭痛と女性の生涯の出来事との関連性に言及した。アナトミカ図書館に蔵書されている、1712年にロンドンで発行された本では、標準的な片頭痛と考えられる "Megrim" を含む主要5種類の頭痛タイプが解説されている。グラハムとウォルフは1938年に、片頭痛の解消には酒石酸エルゴタミンが良いとする研究論文を発表した。1950年にはハロルド・ウォルフが片頭痛研究の実験的アプローチを発展させ、趨勢が再び神経説に傾くにつれて批判を受けることになった、片頭痛の血管説の詳細を詰めた。慢性的片頭痛の発症は、痛みや苦しみの主な原因であることに加え、「医療費」と「生産性の損失」の主要な原因でもある。EC(欧州共同体)では、片頭痛は1年あたり270億ユーロ以上と、最も費用のかかる神経疾患であると推定されている。1988年のある研究で、6ヶ月間の患者一人あたりの医療費は平均107ドル(米)で、生産性の損失を含めた代償となると平均313ドル(米)であることが分かった。また、片頭痛による生産性の損失で雇用主が被る代償は、患者一人あたり3,309ドルであると見積もられている。アメリカでの片頭痛関連の医療費は1994年に10億ドルにも上り、生産性の損失も1年あたり130億ドルから170億ドルと推定された。雇用主は、職場におけるさらなる理解を促進するため、片頭痛の影響について勉強すると良いだろう。9時から17時まで週5日働く職場モデルは、片頭痛患者には実行できないかもしれないのだ。教育と理解をもってすれば、雇用主は双方にとって実行可能な解決策を作ることで、雇用者と妥協できるのである。片頭痛一般片頭痛の要因治療'トリプタン'経済的影響臨床像
出典:wikipedia
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