黄禹錫(ファン・ウソク、황우석、1952年1月29日 - )は、韓国の生物学者。2005年に世界で初めて犬のクローン()を成功させたクローン研究者であり、獣医でもある。元ソウル大学校獣医科大学教授(懲戒免職)。現在は飼い犬のクローンなどを手掛ける秀岩生命工学研究所の所長。かつてNature誌に載った2本の論文(2004年および2005年)から、世界レベルのヒトのクローン研究者とされ、ヒトの胚性幹細胞(ES細胞)の研究を世界に先駆け成功させたと報じられた。自然科学部門における韓国人初のノーベル賞受賞に対する韓国政府や韓国国民の期待を一身に集め、韓国では「韓国の誇り」 (pride of Korea) と称されたこともあった。しかし、2005年末に発覚したヒト胚性幹細胞捏造事件(論文の捏造・研究費等の横領・卵子提供における倫理問題)により、学者としての信用は地に墜ちた。この捏造の影響により、正攻法でES細胞を作り出そうとしていた民間企業が研究継続の断念に至るなど、山中伸弥がiPS細胞の生成に成功するまでの間、ES細胞や再生医療分野の研究の世界的な停滞を引き起こした元凶とされる。「科学における不正行為」をテーマとした書籍でたびたび言及される人物でもある。検証の結果、不正が認められ、韓国社会・学会・国際的な表舞台から追放された。一方、犬のクローンに関しては事実と認められたほか、黄禹錫が作製に成功したと主張していたES細胞のうち、NT-1細胞に関してだけは唯一実在が認められた。ただしクローンによるES細胞ではなく単為発生によるES細胞と結論付けられた。つまり、2004年にES細胞の作製と世界初となるヒトの単為生殖に成功していたことになるが、論文が不正であり、論文に記された作成に至る経過とは関係なく偶然できた物と検証されたため世界初とはみなされない。また、他のES細胞はそもそも存在しておらず、一つ以外すべて捏造と結論付けられた。2010年代に入り、NT-1細胞の特許がカナダやニュージーランドなど各国で認可されているほか、2014年2月にはNT-1細胞の特許がアメリカで認可された。2013年5月にはナショナルジオグラフィックチャンネルにてロシアでのマンモス復元プロジェクトの特集、2014年1月にはかつて論文不正の舞台となったNature誌でもクローン研究者として改めて特集が組まれるなど、国際的な復権の兆しがある。2013年にはイギリスで愛犬のクローンを賞品とするコンテストを行い、またしても倫理的な議論を呼んだがキャンペーン自体は成功し、2014年4月にはイギリス初のクローン犬が誕生。2014年までに500人が秀岩生命工学研究所に愛犬のクローンの申し込みを行っているという。不正事件の後は主に国外で活動しているが、いまだ韓国内に熱烈な支持者がいる。論文不正事件の後は、支持者の支援で在野で秀岩生命工学研究所を設立し、元々の専門分野である牛や犬などの動物のクローンの研究者として研究を続けており、優秀な麻薬探知犬のクローン犬Toppyやコヨーテのクローンなどの業績がある。しかしヒトの研究者としては韓国の学界からは2014年現在も追放されたままであり、当局より幹細胞研究の認可が下りない状態である。また、ソウル大学調査委員会、韓国幹細胞学会などはNT-1細胞を「黄禹錫の意図した製法ではなく偶然出来たもの」として認めておらず、特許の登録を巡って裁判で係争中である。忠清南道扶余郡出身。幼い頃に父親と死別し、母子家庭の農家で小さな頃から牛の世話をする境遇の中、牛の世界的な研究家になるという夢を持った。貧しい中から親戚の援助や奨学金を得て大田高等学校、ソウル大学校獣医科大学へと進み、1977年に卒業。研究者になって以降は1日4時間しか寝ずに働いたという立志伝中の人物であった。1979年ソウル大学校で家畜臨床繁殖学修士号取得、1982年同博士号を取得。1984年から1985年まで北海道大学獣医学部に客員研究員として留学し金川弘司に師事した。1986年ソウル大学校専任講師、1987年同助教授、1993年獣医科大学副教授、1997年同教授、ソウル大学校動物病院院長、1999年同獣医科大学副学長、2004年同碩座教授、2005年同獣医科大学学長。1993年には韓国初の牛の人工授精に成功、1999年に韓国初の牛のクローンを誕生させることに成功したと報じられ、医者などに比べて韓国での社会的関心や評価の低い獣医学という分野ながら脚光を浴びた。2003年には牛海綿状脳症 (BSE) に耐性を持った牛、さらにヒトに臓器を提供できる無菌処理をした豚を誕生させたと報じられ、世界的な研究者として認識されるようになった。2004年2月に体細胞由来のヒトクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作製することに世界で初めて成功したと発表した(サイエンス誌2004年3月12日号・電子版同年2月12日付)。それまでヒツジ(ドリー)、ウシなどの哺乳類においては体細胞由来クローン技術はある程度確立されていた。しかし、ヒトはおろか、サルなどの霊長類においてすら体細胞由来クローンの成功例はなく、世界中の生物学会を驚愕させた。2005年5月には、患者の皮膚組織から得た体細胞をクローニングして、そこから患者ごとにカスタマイズされたES細胞11個を作製したと発表し(サイエンス誌2005年6月17日号・電子版5月19日付)、脊椎損傷やさまざまな病気を抱える世界中の患者に希望の光を与えた。この際に使用した卵子が184個に過ぎないという異常な効率の良さも脚光を浴び、技術の実用化への可能性が高まったとされた。2005年11月前後を境に、韓国国内で人卵子売買、不法卵子での人工授精手術や代理母などのブローカーの存在が明らかになり出し、ブローカーや産婦人科病院などにも警察の捜査が入ることとなった。その中には、黄禹錫教授と共に長年幹細胞研究を行い2005年論文の共著者でもあった盧聖一(ノ・ソンイル)ミズメディ病院理事長も含まれていた。2005年11月10日、2005年論文の共著者の一人である米ピッツバーグ大学の教授が、ソウル大学黄禹錫教授が卵子を「違法に入手している」とメディアに公表したのが発端となり、研究対象となる卵子を入手した方法が倫理基準に照らして問題があることが判明してスキャンダルとなった。2005年論文に添付された培養細胞の写真が2個を11個に水増しした虚偽のものであった(本人はコピーミスとしている)ことが問題となった。2005年12月15日、卵子提供で協力関係にあり、黄教授とともにES細胞の論文を発表した盧聖一・ミズメディ病院理事長が韓国文化放送 (MBC) テレビのインタビューで「黄教授は論文の内容が虚偽だったことを認めた」事実を明らかにした。これにより「サイエンス」誌で発表された論文のES細胞に対する疑惑が高まり、その後の調査の過程で完全な捏造であることが確定し、サイエンスに発表されたES細胞に関する2つの論文(2004年2月・2005年5月)は、2006年1月にサイエンス編集部の判断で全て撤回 (Editorial Retraction) された。当該論文の共同執筆者であったジェラルド・シャッテンは、「重大な疑惑がある」として2005年に掲載された論文から自分の名前を削除してほしいとサイエンス誌に申請したが、却下されている。ヒトクローン胚作製の成功、ヒトES細胞の作製の成功だけではなく、BSE耐性を持つとされるクローン牛、これまで難しいとされてきた犬のクローンなどを成功させたと発表していたが、調査により犬のクローン以外は全て捏造であると報告された。これにより、『クローニングによってES細胞の製造ができる』という前提の下に行われていた研究は一時期すべて灰燼に帰したも同然となった。再び幹細胞と再生医療の研究に光明が射し始めたのは、山中伸弥のチームなどの日米の独立した3チームがそれぞれヒトiPS細胞の樹立に成功・発表した2007年のことである。2004年の論文発表以降、韓国社会は黄の成果に熱狂した。生化学研究・再生医学の世界的中心が韓国になることやその経済効果への期待、自然科学部門のノーベル賞を韓国社会にもたらすことへの期待が膨らみ、研究チームに対する国民の支持や政府・企業からの支援が増大した。たとえば、韓国科学技術部は、黄を「最高科学者」の第1号に認定し、黄が提唱する「世界幹細胞バンク」に多額の援助を行い、「黄禹錫バイオ臓器研究センター」を設立するなど支援を惜しまなかった。別途「最高科学者」の研究費として年間30億ウォンの支援が行われる予定もあった。韓国情報通信部はヒトクローン胚作製を記念した記念切手を発行した(後に販売中止、および回収)。黄は韓国警察庁によって、民間人としては初めて24時間体制の3府要人(大法院長、国会議長、国務総理)級警護の対象となり、韓国文化体育観光部によって「韓国国家イメージ広報大使」に任命された。また2006年度から使用される予定だった小・中・高校用の教科書にも早くも黄の業績が大々的に掲載され、忠清南道では「黄禹錫記念公園」を造成する構想も持ち上がった。民間からは、ペ・ヨンジュン、チェ・ジウ、キム・ヨナなども受賞している韓国報道人連合会認定「誇らしい韓国人大賞」が授与され、大韓航空のファーストクラスに10年間乗り放題の権利が与えられ、業績を記念して5メートルを超す巨大な「黄禹錫石像」が建立され、インターネットでは数々のファンクラブも生まれた。さらに数々の出版社から黄の伝記や漫画が発売されるまでに至った。こういった熱狂の渦の中、黄禹錫は国民的英雄に祭り上げられていった。韓国国民はその研究における卵子入手などの倫理問題を指摘した韓国文化放送 (MBC) の報道調査番組『PD手帳』に対して「国益を損じた」とスポンサーへの不買運動を展開。韓国のインターネット社会では MBC を「非国民」と断ずる論調にあふれた。結果、PD手帳からすべてのスポンサーが降板、放送休止に追い込まれた。本来、こうした倫理問題や論文の真贋性を調査し報道する役割であるはずのメディアは、業界を挙げて MBC の報道姿勢とその取材手法に問題を掏り替えてしまった。MBC 全体へのデモも無数に行われ、MBC の看板ニュース番組や他の番組にもスポンサーへの不買・視聴拒否運動が拡大し、黄禹錫に対する批判は許さないという風潮が作り上げられていった。この影響で MBC の全番組の視聴率が低下した。当初提示された疑惑は卵子入手の倫理問題だけであったために、「ボランティアで卵子を提供したい」と1000人以上の女性が申し込みを行った。問題点が卵子入手時の倫理問題から論文の捏造、さらにすべての業績に疑いが及ぶに至ってこういった黄禹錫を支持する声も尻すぼみに終わり、ボランティアの募集も打ち切られることとなった。当初は「精神的ストレスによって」入院した黄禹錫がベッドの上で苦悶の表情を浮かべる写真を掲載するなど、社を挙げて徹底的に黄禹錫擁護を展開していた中央日報も、のちに反省文を掲載した。冷静さに欠ける世論と理性を欠いた韓国メディアのありかた、さらには世間の誤解を追い風にノーベル賞受賞振興教育制度をもくろんだ政府の姿勢を国内外に示して事件は終息したかにみえるが、その後も捏造事件そのものを「敵対組織の陰謀」として信じようとはせず、熱狂的なまでに黄禹錫を擁護する韓国人も多く、研究継続を訴え抗議の焼身自殺をする者まで現れた。このような熱狂は、黄禹錫が「貧乏な家に生まれ、親孝行をしつつ苦学して大成する」という朝鮮民族の理想的な英雄像にぴったりと当てはまるためでもあった。2005年12月24日付の産経新聞は『韓国、過剰な「愛国」暗転』と題したコラムの中で、本件が発生した背景について言及している。韓国の過剰な愛国主義に対しては、韓国日報が「黄の『偉大な成果』を韓国の民族性と結びつけた『お箸技術論』が韓国社会で持て囃された原因は、文化的独創性と先進性に異常なまでに執着してきた韓国的集団意識によるもの」と説明した上で、「最古・最高に執着するのは、歴史的に中国中心の北東アジア文化圏の辺境で暮らしてきた集団的コンプレックスから旧石器捏造事件を捏造した日本人くらいなもので、我が国はそんな意識に染まる理由はない。たとえ2等でもはるかに下は多い。黄禹錫神話の崩壊とともに我々の強迫観念も一緒に解消するよう期待する。」と、日本人を揶揄しながら反省している。また、捏造が発覚して最終的に反省文を発表した中央日報をはじめとした韓国主要メディアのサイトには「科学・技術」関連のカテゴリーが存在せず、本件を科学的に考察する報道姿勢もほとんど無く、最初から黄禹錫という「偉大な韓国人」にまつわる愛国主義的な政治・社会記事として報じられていた。また、日本人が自然科学系のノーベル賞を受賞する度に、韓国の主要新聞やテレビなどのマスメディアは「日本人は~人も受賞したのに、なぜ我が国は一人も受賞できないのか」といった様な社説や論評を載せ、韓国国民の愛国的対日民族意識を鼓舞していた。これらの韓国のメディアの発信をうけ、インターネット上で韓国のネチズンが烏合の衆と化して黄禹錫に対する狂信的な世論をますます醸成した。このような韓国メディアの報道に対して、マスメディア出身の姜亨澈(カンヒョンチョル)淑明女子大学校教授は、「韓国の言論機関は、植民地時代に日本メディアから学んだ権威主義を受け継ぎ、 軍事独裁時代には権力と同化した怖い存在だった。民主化されても大衆を啓発しようとする。愛国心とナショナリズムが強く、英雄(黄禹錫)を客観的に見ることができなかった」と、原因の一因は日本にもあると弁明している。また、本件までの韓国人のノーベル賞受賞者は、2000年の金大中の平和賞以外に無く、自然科学分野でノーベル賞を狙えるとされた韓国人科学者は黄禹錫が最初であり、韓国国民の彼の業績への期待は並々ならぬものがあった。さらに韓国国家情報院の情報官が、金大中が平和賞を受賞した理由となった南北首脳会談は北朝鮮への不正送金により実現したものであり、受賞も工作活動によるものであることを暴露していたことから、韓国国民は「正当な成果」によるノーベル賞受賞を渇望していたということも事件の背景にあった。また、韓国政府は、世界に貢献できる研究者を対象に幅広い支援体制を整えるべきであるとは考えず、捏造事件後においても、あくまで「国威宣揚」のためノーベル賞受賞者を生み出すべく、科学分野でノーベル賞を受賞するに値する科学者を選定し、10年間で一人当たり最大20億ウォンの政府支援をするというスター・ファカルティー (Star Faculty) 支援事業を本格化させているが、国際社会からは、こうした学問的精神から遠くかけ離れた見当違いの政策が莫大な国家予算の無駄遣いを生み、様々な欲望が絡んだことが、世界的捏造事件を引き起こした温床ではないかと批判されている。日本の島津製作所の一サラリーマンである田中耕一がノーベル賞を受賞したことによる衝撃などから、韓国内でもこうした政策に対して懐疑的な見方が少なくない。
出典:wikipedia
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