インヴィンシブル級航空母艦()は、イギリス海軍が建造した軽空母の艦級。公式の艦種呼称はCVS(対潜空母)とされている。世界で初めてスキージャンプ勾配によるSTOVL運用を導入した艦級であり、フォークランド紛争において実戦投入された際には、搭載するハリアー・シーハリアーによる戦闘空中哨戒・近接航空支援で活躍した。ソ連海軍のキエフ級航空母艦とともに、現代的な軽空母の先駆者として高く評価されている。第二次世界大戦で、ドイツ海軍のUボートに苦しめられたイギリスは、戦後も対潜航空戦力を重視した。第二次世界大戦中に建造・就役した空母の老朽化に伴い、1960年代にはCVA-01級が計画された。しかし大英帝国の衰退に伴う財政難を受けて、現用の「イーグル」の排水量(53,060トン)を超えることがないよう強い制約を受けており、また、最終的に、予算上の問題を克服できず、1966年末にはキャンセルされた。これにより空母の保有は断念されたが、依然として対潜戦用の艦隊航空兵力は必要とされていたことから、1967年より指揮巡洋艦(CCH)の研究が開始された。これは現用のタイガー級ヘリコプター巡洋艦(12,080トン、ヘリコプター4機搭載)の後継として計画されており、基本的には同級と同様の巡洋艦艦型で、排水量12,500トン、ヘリコプター6機搭載とされ、艦対空ミサイルによる防空能力とヘリコプターによる対潜戦能力を重視して計画された。しかし航空機運用の合理性を勘案して、1970年代前半には全通甲板巡洋艦(Through Deck Cruiser, TDC)に発展しており、満載排水量も17,500トン、ついで19,500トンと拡大された。一方、当時イギリス空軍は、初の実用垂直離着陸機としてホーカー・シドレー ハリアーの開発を進めており、1970年には初の実戦飛行隊の作戦能力獲得に至っていた。同機は、航続距離や兵装搭載量で通常型の実用機に劣る点が多かったものの、Tu-95「ベア」のような洋上哨戒機に対する要撃機としては有望と考えられたことから、イギリス海軍は、1969年よりその艦載機版の研究に着手、1972年11月にはマリタイム・ハリアー(後にシーハリアーに改称)として、正式な開発が発注された。19,500トン型TDCの案では、シーキング9機とシーハリアー5機を主船体内のハンガーに収容可能と考えられたこともあり、1973年4月、ヴィッカーズ社に対して建造が発注された。同年7月、1番艦「インヴィンシブル」が起工された。建造途上の1975年5月にはシーハリアーの導入が正式に決定され、これに伴い、発艦支援設備としてスキージャンプ勾配が同艦に追加されることとなった。これらの設計変更の影響もあり、同艦の就役は予定より2年遅れの1980年7月にずれ込むこととなった。船型としては全通甲板型が採用されており、上部構造物は右舷側に寄せたアイランド方式とされている。ガスタービン主機をシフト配置している関係から、アイランドはかなり長大なものとなった。また英空母の通例として、アイランドは右舷いっぱいに寄せられてはおらず、その外側には車両等が通行できる程度の通路が残されている。なお、建造費と維持費を抑えるため、商船の設計方法が導入されている。LB比(水線長/幅)は約7で、決して高速艦の艦型ではない。ただし、機関部はダブル・ハルとされるなど抗堪性には意が払われており、また後に数次に渡る改修による重量増(1990年前後の第1次改装のみで250トン)を許容できるなど、設計には十分な余裕が見込まれていた。小型の空母なので艦の動揺軽減のために船底に固定式のフィン・スタビライザーを2組備えることで、艦載機の離着艦の安全をはかり、シーステート7という荒れた海でも33km/hで航走して70%の時間で動揺を5度以内に収める設計となっている。本級は、当時としては世界最大のガスタービン推進艦として知られている。主機関としては、21型フリゲートで高速機として採用されていたロールス・ロイス オリンパスTM3Bの単機種構成とされ、COGAG方式で2基ずつ4基、両舷2軸に配している。抗堪性向上のため機関はシフト配置とされており、前部機械室が右舷軸、後部機械室が左舷軸を駆動する。なお、後のガスタービン推進艦は、いずれも可変ピッチプロペラ(CPP)によって逆進時の操作を容易にしていたが、本級ではまだ固定ピッチ式であったため、逆転時のクラッチなどのギヤ操作が複雑となり、減速機が重く大きなものとなった。全通飛行甲板は長さ183m×幅19.8mを確保しており、その左舷側には、船体中心線と平行に、長さ168m×幅12.2mの発艦レーンが設けられている。また「インヴィンシブル」の艤装開始後の設計変更で、シーハリアーの短距離離陸(STOL)での発艦支援設備として、発艦レーンの前端部にスキージャンプ勾配が設けられた。勾配角はもともと「インヴィンシブル」と「イラストリアス」は7度、「アーク・ロイヤル」が12度であったが、「アーク・ロイヤル」以外の角度が小さいのは艦首のシーダート連装発射機と干渉するためで、後に「インヴィンシブル」を12度に、「イラストリアス」を13度に改修した。スキージャンプにより、シーハリアーの搭載量・航続性能は20%以上に及ぶ利得を得るともされている。飛行甲板とハンガーを連絡する艦載機用エレベーターとしては、長さ15m×幅9mのものが中央前部と中央後部に1基ずつ、いずれもインボード式に設置されている。空母としては比較的艦型が小さいため、デッキサイド式とした場合、荒れた外洋では格納庫まで波をかぶってしまうことが懸念されたためであるが、このために実質的な格納庫の容積は少なくなっている。なおこのエレベーターは、アメリカ海軍の空母と違い構造が単純で、2本のY字型アームを油圧で動かすことで昇降させるものである。ハンガーは長さ152×幅22.6×高さ6.10mを確保した。艦載機は最大で20機(3番艦のみ22機)とされ、当初はシーハリアーFRS.1艦上戦闘攻撃機×4~5機とシーキングHAS.5哨戒ヘリコプター×9機が標準的な構成とされていた。しかし「インヴィンシブル」がフォークランド紛争に派遣された際には、シーハリアーFRS.1×12機とシーキングHAS.5×11機が展開しており、この経験を受けて、1989年から1991年まで第1次改装が行われ、シーハリアーFA.2×10機、シーキングHAS.6×9機、シーキングAEW.2×3機を搭載可能となった。1990年代中盤には第2次改装が行われ、艦首のシーダート連装発射機を撤去した跡に、空軍所属のハリアー GR.7A/9Aを搭載・整備するスペースを追加した。またAEW型のシーキング ASaC.7、マーリン HC.1等も運用可能となった。その後、2006年までにシーハリアーが運用を終了したことから、2007年時点では、ハリアーGR.7A/9A×16機とマーリンないしシーキング×6機が標準的な構成とされていたが、2010年には空軍型ハリアーも退役し、F-35の就役までは、固定翼機をもたないヘリ空母として活動することになった。元来のコンセプトが巡洋艦であったこともあり、本級は、航空母艦としてはかなり強力な個艦戦闘機能を備えている。飛行甲板前端の艦首には、当時の主力防空艦であった42型駆逐艦と同型のシーダート艦隊防空ミサイルの連装発射機が搭載されており、バックブラストが飛行甲板上に影響を与えないよう、その後方には大型のシールドが設置された。ただし後に、航空艤装拡張のため、これらのシーダートの運用設備は撤去された。また当初の計画では、エグゾセ艦対艦ミサイル4発の搭載も検討されていたが、これは断念された。本級は当初CIWSを搭載していなかったが、フォークランド紛争の戦訓から、当時艤装の最終段階にあった「イラストリアス」は、急遽アメリカから提供されたファランクスを装備した。当初の搭載数は2基であったが後に3基に増備され、また1・2番艦も同様の要領で搭載した後、より大口径のゴールキーパーに換装された。1980年6月「インヴィンシブル」竣工。竣工当初は退役したコマンド母艦「ブルワーク」と「アルビオン」の代替も兼ねていた為、ヘリコプター揚陸艦「オーシャン」の就役までは、海兵隊1個大隊と装備をヘリコプターで揚陸する任務も与えられていた。一時期、「インヴィンシブル」をオーストラリアへ売却する予定だったが、1982年のフォークランド紛争では小型空母とシーハリアーの組合せが戦闘で有効であることが判明し、売却は中止された。1番艦の「インヴィンシブル」は2005年7月に退役しモスボール化された。2010年まで有事には現役復帰することになっていたが、運用はされず、2010年11月にオークションに出品された。また同年中に、国防費の大幅縮減を受けて、イギリス軍におけるハリアーの運用が終了した。3番艦の「アーク・ロイヤル」は、同じく国防費の大幅縮減のため、2011年3月11日に退役した。インヴィンシブル級の後継としてクイーン・エリザベス級が計画されているが、のこる2番艦の「イラストリアス」はその配備を待たず2014年に退役した。緊縮財政を強いられている英国防省は、2013年10月15日、「イラストリアス」の買い手を探し始めた。企業や慈善団体、財団などからの入札を受け付けるとしている。入札者は英国籍保持者に限らないが、艦体の全部もしくは一部を歴史遺産として英国内に残すことが買い取りの条件となっている。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。