ディッピング・ソナー (dipping sonar) は哨戒ヘリコプターに搭載されている吊下式ソナー。ディッピング・ソナーは、いわば、AN/SQS-56などの艦艇搭載ソナーを小型化して、ヘリコプターに搭載したものと言える。ヘリコプターに搭載したことにより、艦艇よりもはるかに迅速に進出し、また位置を転換できるようになったほか、可変深度ソナーとしての要素もあることから、変温層の下の目標に対しても有効である。艦隊に近接した位置(30海里以内)での対潜水艦戦、いわゆるインナーゾーン・プロテクトにおいては、艦艇自身が発する雑音が大きいため、ソノブイや戦術曳航ソナーによって敵の音に耳を傾けるというパッシブ戦術は不適である。この状況では、ディッピング・ソナーを装備したヘリコプター 3機による包囲戦術がもっとも効果的な対潜水艦戦術といわれており、このことから、ディッピング・ソナーは、とくに近距離で潜水艦を追跡するために有効であり、アメリカ海軍では、空母搭載の艦上哨戒ヘリコプターにおいて、潜水艦追跡の主力捜索器材とされている。ディッピング・ソナーは、小型軽量であるため、実用探知距離は約2海里程度と比較的小さいが、ヘリコプターの機動性はその短所をカバーすることができ、さらに海中のLD(海中の温度境界層)内部も捜索できるため、精度の高い捜索追尾能力を持つ。ディッピングソナー使用の第一義は、ヘリコプターの機動力を生かして次々に捜索エリアを拡大していき、音波の直接伝播域(ダイレクト・パス)内部の潜水艦捜索をすることである。浅深度では海況により、サーフェースダクト(海面反射伝播)を利用して、艦艇襲撃を伺う潜水艦に潜望鏡深度への浮上を断念させることができる。また哨戒ヘリコプターは、ソナー捜索中にレーダー、赤外線探知機、目視捜索を併用して海面制圧を実施し、潜望鏡の使用を封殺している。敵潜水艦らしい目標を捕捉したならば、直ちに短魚雷Mk46または音響警告弾を投下する。この攻撃により、敵潜水艦は、回避行動や欺瞞行動をとらねばならず、これにより実目標であるか虚探であるかを区別することができる。敵潜水艦掃討時には、ソナー吊下深度を深く下げ、深深度潜航により逃れようとする潜水艦を探知して撃滅する。ディッピング・ソナーによる捜索を受けた潜水艦は、深深度静粛潜航で距離を取りつつ、ディッピング・ソナーの発振間隔を計測し、被探知距離を逆算している。潜水艦はソナーに対しもっとも音響反射面積の小さい艦尾をむけ、逃走を図る。目標の識別には2段階ある。まず水中物体からの反響音(エコー)に含まれるドップラー効果を認識し、その反響音が安定した航跡を描いていれば水中移動物体(潜水艦、魚群、クジラ、水塊)と判断する。次に、この目標の航跡を監視すると同時に、水中移動物体に対して数種類のパルス幅の探信音を当ててその特徴を分析し、潜水艦か他の水中物体であるかを判定する。AQS-13Fソナーの場合、発信パルスには、距離分解能5m、50m、150mの3種類がプリセットされており、ソナー員は発信パルスを適宜変更し、探知中の目標が潜水艦のデータと一致すれば、目標を潜水艦と判断する。このパルス幅による目標識別には、耳でエコー聞き分けると同時に、AYK-14戦術コンピューターを介して得られた画像情報によって行なう「目標画像累積識別:探信履歴」も重要な目標判定要素となる。ソナーの使用深度は水深15m以深でなければならず、15mより浅いと自機の騒音により探知能力が著しく低下する。水深50m以深になると自機の騒音の影響はほぼ完全に消滅する。ただし機内ではソナー員が激しい機内騒音と戦いながら、ソナー捜索を行なっている。現用のディッピング・ソナーは1970年代にアメリカで開発されたAQS-13Fが主流で、アメリカ海軍のSH-60F艦載ヘリコプターに搭載されている。捜索については、探信音を発信するアクティブモードと聴音のみのパッシブモードがある。ディッピング・ソナーの聴音機能は、10KHzの高周波仕様であるため探知距離が短く、周波数分解能も低いため、聴音探知、聴音識別はあまり期待できない。浅深度で発信する場合、送受波器の外周に気泡(キャビテーション)が生じるため、水深40m以深から最大出力発信が可能になる。送受波器内部はひまし油で満たされており、これにより発振素子となるセラミックと海水との音響的接続を良好にしている。艦艇用ソナーは低周波であるため、より粘性の低い加圧した真水で海水との音響的接続を図っている。ソナー表面については、常に清浄な状態に保つ必要がある。これは、部分的な汚れがホットスポットと呼ばれる部分的キャビテーションの原因となるからである。ディッピング・ソナーの吊下速度については、吊下中も良好な探知を得るため、吊下速度が10Kt:ノット(時速18km)を越えない範囲が保たれる。これはソナーと海水との摩擦が10ktを越えるとソナー表面の海水の乱流により音響的な境界層が発生し、急激に海水との音響的接続が低下するからである。戦争映画等では爆発音を聴知した場合、強烈な音圧により聴覚を奪われるシーンが見られるが、実際はAGC (Automatic Gain control:自動利得調整) 機能により、一定以上の音圧は減衰させてスピーカーに伝達するので、オペレーターの聴覚が奪われることはない。また、潜水艦が350ヤード以内の近距離に存在する場合は、TVG (Time Variable Gain:近距離反射低減) 機能により、探知できないこともある。ディッピングソナーによる捜索に対して、潜水艦は様々な手段で探知・追跡を逃れようとするため、以下のような対抗手段が講じられる。また、撃沈を目指す状況であれば、疑わしい反響に対して魚雷攻撃を加え、回避行動やデコイ(雑音による妨害装置)の射出で潜水艦を見分ける事もできる。潜水艦が水中で完全停止することで、潮目や水塊、魚群に反響音を偽装する。水中発音弾による警告で回避や移動を強制し、停止状態を維持できなくする他、磁気探知機を併用して水塊や魚群と見分けるのも有効となる。潜水艦が気泡を発することで、反響音を潮目や水塊、魚群に偽装する。気泡放出による欺瞞が考えられる場合、目視による海面の捜索がもっとも容易な対抗手段になる。アクティブソナーの気泡と思われるエコーと、海面に現れた気泡が同じ場所であるならば、潜水艦が放出した気泡だと推測できる。これは、夜間であっても、赤外線探知機を用いることで確認が可能。また、気泡は浮上するのみであるため、ほぼドップラー効果を生み出す要因がなく、潜水艦との音響的な類別は比較的容易である。放出した深度にもよるが、常識的に10分以上気泡が存在するとは考えにくい事も識別点となる。気泡は短魚雷も欺瞞するため、魚雷発射による威力偵察は、ホバリングへの対応ほど効果的ではないと考えられる。潜水艦が急変針することで発生する撹乱水流。潜水艦の行く手を阻むように吊り下げられたソナーに対して、潜水艦が急反転し逃走することで生じるのが典型的。音響的には水流も潜水艦もドップラー効果を生じるため、純粋な音響のみの類別は極めて困難になる。目標の動きを継続的に探知できる状態なら、捜索機から逃げるように移動する、ドップラー効果の低い目標が潜水艦であると判断される。失探知を装いアクティブソナーの発振間隔を遠距離捜索モードにするのも有効と考えられている。高速航行する潜水艦が次々にナックルを発生させると、探知が撹乱されてしまうため、高速潜水艦の追跡は進路を塞がず、後方からの追尾のみで行う。通常動力の潜水艦であれば、10ノット以上での航行が20分を超えることは殆どない。探知される事を意識した潜水艦は、性能限界まで潜航し、逃走を図る可能性も高い。深深度では、熱動力の短魚雷の航走能力が著しく低下するため、有効射程内であっても命中しづらい。ただし、潜水艦自身も深深度からの攻撃手段を持たないため、味方を潜水艦から守ることが目的であれば、哨戒機が海面付近を制圧し、攻撃可能な深度に浮上させないのも有効な戦術になる。潜水艦が雑音を発生させる形式のデコイを発射した場合、捜索位置を変更するのが対抗手段となる。ディッピング・ソナーは、ソナーケーブルを常に垂直に吊下する必要があるため、自動操縦装置とソナーケーブルの角度センサーを同調させている。この自動操縦技術の開発にアメリカは大きな時間を費やした。ソビエトではホバリング精度向上のため、二重反転ローターのKa-27シリーズを開発した。ソナーケーブルを垂直に保てない場合は、ヘリがソナーを牽引した状態に陥り、ソナーは海面で波に激しく叩かれることになる。この場合は、巻き上げウィンチを使用せず、機体そのものを垂直上昇させ、空中でソナーケーブルの振れが収まったのちにソナーを巻き上げる。これをフリーストリームリカバリーという。湾岸戦争でアメリカ海軍は、イラク軍の機雷により、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦と強襲揚陸艦を各1隻大破という大損害を出した。このため対機雷戦への脅威が問題視されてきており、ディッピング・ソナーの高周波、高精度化によって、機雷の探知及び、沈座中の潜水艦の精密解析が研究されている。現用のサイドスキャンソナーは沈没船の位置局限に威力を発揮しているが、ヘリコプターでの曳航によりさらに広域を高速掃海できるようアメリカ海軍を中心として開発が進んでいる。
出典:wikipedia
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