梅毒(ばいどく、"Syphilis"。黴毒、瘡毒(そうどく)とも)は、スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ ("Treponema pallidum") によって発生する感染症、性病。第一感染経路は性行為であるが、妊娠中、出生時の母子感染による先天性梅毒もある。梅毒の徴候や症状は、4段階でそれぞれ異なる。梅毒は、1999年、全世界で推定1200万人で新規感染したと考えられており、その90%以上は発展途上国での感染である。1940年代のペニシリンの普及以降、発症は劇的に減少したが、2000年以降、多くの国々で感染率が増加しつつある。たびたびヒト免疫不全ウイルスと併発するケースがあり、乱交、売春、コンドーム不使用、男性同士の危険な性行為に起因する。in vitroでの培養は不可能のため、病原性の機構はほとんど解明されていない。1998年には全ゲノムのDNA 配列が決定、公開されている。また、理由は不明だが、ウサギの睾丸内では培養することができる。症状は4段階で観察され、先天性での発症も起こる。その多様な症例から、ウイリアム・オスラーから偽装の達人 ("the great imitator") と呼ばれた。例えば皮膚症状以外の症状として、「頭痛、脳腫瘍(の疑い)」、「認知症」、「飛蚊症・霧視」、「ラムゼイ・ハント症候群(の疑い)」、「難聴」、「大動脈瘤破裂」、「左側腹部痛」、「胃潰瘍(の疑い)」、「急性肝炎」、「ネフローゼ」、「悪性リンパ腫(の疑い)」などが報告されている。第1期と第2期が感染しやすく、感染後約1週間から13週間で発症する。現代においては先進国では、抗生物質の発達により、第3期、第4期に進行することはほとんどなく、死亡する例は稀である。第1期梅毒の最初の数週間は抗体発生前で、検査において陽性を示さない。江戸時代に相当する遺跡からは、梅毒に罹患していた第3期以降の所見をもつ人骨が出土している。先天性梅毒は、妊娠中、または出産時に感染する症例である。感染した幼児の2/3は症状が現れない状態で産まれてくる。生後数年で、一般的に、肝臓、脾臓の増大、発疹、発熱、神経梅毒、肺炎といった症状が現れる。治療がなされない場合、鞍鼻変形、ヒグメナキス徴候、剣状脛、クラットン関節といわれる後期先天性梅毒の症状が現れる。VD(性行為感染症)である梅毒は禁欲が「最善の予防策」だが「次善の策」として、不特定多数(その中に感染者が含まれている確率がゼロではないため)との性行為の自粛、またコンドームの着用により病原菌の人体間の移動を阻止することで防ぐことが可能である(参考:セーファーセックス)。無論100%回避できるわけではなく、また接吻による口から口への感染、オーラルセックスでの感染等は防ぐことができない。梅毒トレポネーマ、"Treponema pallidum"の特徴は、らせん状形態、グラム陰性であり、活発に運動する。自然界における唯一の宿主はヒトである。宿主がいなければ数日も生きられない。これはそのゲノムサイズが小さく (1.14 MDa)、主要栄養素の合成に必要な代謝経路の遺伝子が欠落しているためである。このため、倍加時間は遅く、30時間以上掛かる。梅毒トレポネーマの近縁種もまた、3つの病気の原因となる。それぞれ、イチゴ腫(フランベジア)は亜種 "pertenue"、ピンタは亜種 "carateum"、ベジェルは亜種 "endemicum"が原因である。これら近縁種は、梅毒トレポネーマとは異なり、神経疾患を引き起こさない。主に性行為・オーラルセックスにより、生殖器、口、肛門から感染、皮膚や粘膜の微細な傷口から侵入し、進行によって血液内に進む。米国における新規症例の感染経路は、男性同士の性行為が半数以上を占める。これ以外にも母子感染、輸血血液、血液製剤を媒介とする感染もある。母子感染の場合、子供は先天梅毒となる。血液製剤については、多くの国々で検査が行われるため、感染経路となるリスクは小さい。このバクテリアは体外に排出されると急速に死ぬことから、物を介した感染は難しく、日常生活における、食器や衣類の共有、トイレの便座、入浴からの感染は一般に不可能である。日本における感染者は2010年頃より増加傾向で、2015年は2014年を上回る勢いで患者が報告されている。かつて第二次世界大戦後の1948年以降大きく減少していたが、1967年、1972年、1999年、2008年に小流行を起こし、2010年までは500例から800例で(人口10万当たり発生率は0.4〜0.6程度)推移していたが、2012年以降増加傾向に転じ2013年の梅毒総報告数は1,226例、2014年 1275例が報告され、人口10万当たり発生率は 0.96 と上昇している。また感染者の約80%は男性で男性の人口10万当たり発生率は1.6ある。なお、様々な診療科で鑑別診断が行われず、梅毒患者が見逃されていることを指摘する医師もいる。1978 - 1999年の22年間に東京都多摩地区で行われた健康な人を対象とした抗原検査結果によれば、45,614例中1,017件 (2.23%) が脂質抗原検査陽性で、このうちTPHA法、FTA-ABS法によるトレポネーマ抗体の検査陽性は639例 (1.40%)。陽性率は1978 - 1999年まで概ね1 - 約2%の間で推移し、梅毒の潜在的な感染例は減少していない。また、陽性例中の493例 (約77%) は60才以上であった。後記する検査を参照のこと。男性の場合は泌尿器科・性病科、皮膚科、女性の場合は産婦人科、皮膚科、性病科を受診。特に皮疹がある場合は皮膚科がよい。保健所であれば無料、かつ匿名で検査が行える。ペニシリン系の抗生物質の投与で治癒する。投与期間は第1期で2〜4週間、第2期では4〜8週間、第3期以降は8〜12週間。胎児(母体)に対し、エリスロマイシンを使用した場合には、新生児は出産後改めて治療する必要がある。なお、感染してから1年以内の梅毒を治療した場合、治療初期に38度台の高熱が出ることがある(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)。菌が一気に死滅するための反応熱であり、初回治療の場合は、病院でしばらく観察する必要がある。かつて、クロラムフェニコールが使用されたが、副作用が強いため現在では使用されない。16世紀、ヨーロッパで蒸気の吸入や軟膏の塗抹などによる水銀療法が用いられた。これにより多くの水銀中毒が出たため、水銀療法肯定派 (mercurialist) と否定派の間での論争が行われた。梅毒の水銀療法は清や日本でも行われ、日本では杉田玄白やシーボルトらが記載している。水銀療法によって水銀中毒となった者には土茯苓を服用させ、解毒を試みた。ヒ素剤であるサルバルサンも一時使われたが、ヒ素の副作用もあり使用されない。梅毒トレポネーマは高熱に弱いため、梅毒患者を意図的にマラリアに感染させて高熱を出させ、体内の梅毒トレポネーマの死滅を確認した後キニーネを投与してマラリア原虫を死滅させるという荒っぽい療法がかつて行われていた。この治療法はサルバルサンの効かない第4期患者にも有効であったため、最後の手段として用いられていた。ただし、この療法は危険度が高いため抗生物質が普及した現在では行われていない。感染症法における取り扱い、5類感染症全数把握疾患 保健所に届け出が必要である。梅毒が歴史上に突発的に現れたのは15世紀末であり、そのため本病の由来については諸説ある。は、1932年から1972年にかけて、アメリカ合衆国アラバマ州のタスキーギで黒人梅毒患者を対象に行われた人体実験。600人の被験者が参加しており、うち400人は告知されることなく梅毒に感染させられ、治療されないまま経過観察と死後の生体解剖の対象となった。この実験は、1941年にペニシリンの有効性が確認されて以降も継続された。被験者の多くは教育水準の低い貧しい小作人であり、温かい昼食や移動費・埋葬費用などの見返りにより集められていた。1972年に実験の存在が発覚すると、人権を無視した人体実験であるとして、連邦議会に調査委員会が設置された。この時設置された「タスキーギ梅毒研究特別委員会」は、1973年の最終報告書において、この実験は「反倫理的で正当化できない行為」であるとしている。その後、1997年5月16日、当時の大統領であるビル・クリントンより、「非人間的で残酷極まりない間違った行動」であったと正式に謝罪がなされた。日本語のサイト
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