イアン・ペイス (Ian Pace)はイギリスの現代音楽のピアニスト。クイーンズ・カレッジ卒業後、ジュリアード音楽院で念願のジェルジ・シャーンドルに師事した。「シャーンドル・メソッド」から天啓を得たと語る彼はシャーンドルと同じく現代の作曲家へ興味を程なく移し、大量の新作初演を行った。20世紀音楽のレパートリーは1000曲以上に上っている。公式には英国現代ピアノ演奏コンクールで優勝後に演奏活動をはじめたことになってはいるが、それ以前にも多くの新作初演を手がけていた。彼は1996年にマイケル・フィニスィーピアノ作品全曲演奏会を6晩にテーマ別に分けて難なく開催し、フィニスィーのピアノ音楽における功績を改めて浮き彫りにした。この覇気に打たれたフィニスィーは5時間15分を要する「音で辿る写真の歴史」を五年かけて完成。2001年に英国王立音楽院で全曲世界初演を敢行した。非常に彼の履歴上特異な点は、多くのイギリスの現代音楽のピアニストが自国の作曲家の周辺に留まっているのに対し、ペイスは可能な限り世界中の作曲家を検索して演奏に臨んだ点が挙げられる。ヘルムート・ラッヘンマンの「ギロ」がイギリス初演であったり、ピエール・ブーレーズのピアノソナタ第3番がポーランド初演であったりしたことが判明した。後に、マーク・クヌゥプと組んだヴォルフガング・リームのピアノ作品全曲演奏、カール・ロスマンと組んだ自作など共演者としても頭角を現した。マイケル・フィニスィーのほかにも、マウリツィオ・カーヘルの全ピアノ作品、ジェイムズ・ディロンの「要素の書」全曲、ジェルジ・リゲティの練習曲集第1巻＆第2巻全曲、オリヴィエ・メシアンの鳥のカタログ全曲、ホラチウ・ラドゥレスクのピアノソナタ第1番～第4番、パスカル・デュサパンの練習曲全曲、ブライアン・ファーニホウの全ピアノ作品演奏などをライブ演奏する怪物ぶりを発揮している。現在はサウサンプトン大学音楽学部で特任ピアノ講師を務める傍ら、リサイタル活動も地道に行っていたが、音楽学者へ転身して博士号を授与された。かつて彼のHPはほぼ休み無く更新されていたが、2005年以降HPの更新が止まり続けていた。彼が所属する事務所は「HPのリニューアルは準備中です」とアナウンスを行ったが、2014年に改めて作り直された。現在はロンドン大学で教鞭をとりつつ、ピアニストとしての活動を行っている。現代音楽のみならず、ベートーヴェン-リストの「田園」とフィニスィーのイングリッシュカントリーチューンズを組み合わせるなど、レパートリーは広い。

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