識字(しきじ)()とは、文字(書記言語)を読み書きし、理解できること、またその能力。文字に限らずさまざまな情報の読み書き、理解能力に言及する際には、日本語ではリテラシーという表現が利用される。識字は日本では読み書きとも呼ばれる。読むとは文字に書かれた言語の一字一字を正しく発音して理解できる(読解する)ことを指し、書くとは文字を言語に合わせて正しく記す(筆記する)ことを指す。この識字能力は、現代社会では最も基本的な教養のひとつで、初等教育で教えられる。生活のさまざまな場面で基本的に必要になる能力であり、また企業などで正式に働くためには必須である。また、この項目を読み、内容が理解でき、何らかの形式にて書き出すことができる者は、少なくとも日本語に対する識字能力を持ち合わせているとみなすことができる。文字を読み書きできないことを「非識字」(ひしきじ)または「文盲」(もんもう)ないし「明き盲」(あきめくら)といい、そのことが、本人に多くの不利益を与え、国や地域の発展にとっても不利益になることがあるという考えから、識字率の高さは基礎教育の浸透状況を測る指針として、広く使われている(「識字率が低い」場合は「文盲率が高い」とも言い換えられる)。なお、「文盲」や「明き盲」は視覚障害者に対する差別的ニュアンスを含むことから、現在は公の場で使用することは好ましくないとされている。第二次世界大戦後、世界の識字率は順調に向上しているが、まだ世界の全ての人がこの能力を獲得する教育機会を持っているわけではない。主にユネスコなどが識字率の向上を推進している。全ての文化で文字があるわけではなく、文字を読み書きできない非識字(illiteracy)と読み書きを流暢にできる段階(full fluency)の間に、初歩的な読み書きはできても、読み書きを社会参加のために満足に使いこなせない段階が存在する。これが機能的非識字(functional illiteracy)であり、1956年にウィリアム・グレイ()は識字教育に関する調査研究報告書の中で、「機能的識字(functional literacy)」の概念を明確にして、識字教育の目標を機能的識字能力を獲得することに設定すべきと提言した。識字率は、初等教育を終えた年齢、一般には15歳以上の人口に対して定義される。識字率を計算する場合、母語における日常生活の読み書きができることを識字の定義とする。全世界の識字率は約75%で、母語と公用語が異なる場合(公用語が2言語以上存在する場合)や、移民が多い国ほど識字率は低下する傾向がある。例えば、アメリカ合衆国の場合、英語に限ると識字率は50%しかないといわれている。この点で、識字率を国際的に比較するには大きな注意を払う必要がある。1443年に朝鮮通信使一行に参加して日本に来た申叔舟は、「日本人は男女身分に関わらず全員が字を読み書きする」と記録し、また幕末期に来日したヴァーシリー・ゴローニンは「日本には読み書き出来ない人間や、祖国の法律を知らない人間は一人もゐない」と述べている。日本の識字率は極めて高く、江戸時代に培われた高い識字率が明治期の発展につながったとされる。近世の識字率の具体的な数字について明治以前の調査は存在が確認されていないが、江戸末期についてもある程度の推定が可能な明治初期の文部省年報によると、1877年に滋賀県で実施された一番古い調査で「6歳以上で自己の姓名を記し得る者」の比率は男子89%、女子39%、全体64%であり、群馬県や岡山県でも男女の自署率が50%以上を示していたが、青森県や鹿児島県の男女の自署率は20%未満とかなり低く、地域格差が認められる。また、1881年に長野県北安曇郡常盤村(現・大町市)で15歳以上の男子882人を対象により詳細な自署率の調査が実施されたが、自署し得ない者35.4%、自署し得る者64.6%との結果が得られており(岡山県の男子の自署率とほぼ同じ)、さらに自署し得る者の内訳は、自己の氏名・村名のみを記し得る者63.7%、日常出納の帳簿を記し得る者22.5%、普通の書簡や証書を白書し得る者6.8%、普通の公用文に差し支えなき者3.0%、公布達を読みうる者1.4%、公布達に加え新聞論説を解読できる者2.6%となる。したがってこの調査では、自署できる男子のうち、多少なりとも実用的な読み書きが可能であったのは4割程度である。ただし、近世の正規文書は話し言葉と全く異なる特殊文体によって書かれ、かなりの習熟が必要であった。近世期「筆を使えない者」を意味する「無筆者」とは文書の作成に必要な漢字を知らない者を意味しており、簡単なかなを読めることはどの庶民の間でも常識に属し、大衆を読者に想定したおびただしい平仮名主体の仮名草子が発行されていた。義務教育開始以前の文字教育を担ったのは寺子屋であり、かなと簡単な漢字の学習、および算数を加えた「読み書き算盤」は寺子屋の主要科目であった。寺子屋の入門率から識字率は推定が可能であるが、確実な記録の残る近江国神埼郡北庄村(現・滋賀県東近江市)にあった寺子屋の例では、入門者の名簿と人口の比率から、幕末期に村民の91%が寺子屋に入門したと推定される。第二次大戦終結後、1948年(昭和23年)に「日本語は漢字が多いために覚えるのが難しく、識字率が上がりにくいために民主化を遅らせている」という偏見から、GHQのジョン・ペルゼルによる発案で、日本語をローマ字表記にしようとする計画が起こされた。そして正確な識字率調査のため民間情報教育局は国字ローマ字論者の言語学者である柴田武に全国的な調査を指示した(統計処理は林知己夫が担当)。1948年8月、文部省教育研修所(現・国立教育政策研究所)により、15歳から64歳までの約1万7千人の老若男女を対象とした日本初の全国調査「日本人の読み書き能力調査」が実施されたが、その結果は漢字の読み書きができない者は2.1%にとどまり、日本人の識字率が非常に高いことが証明された。柴田はテスト後にペルゼルに呼び出され、「識字率が低い結果でないと困る」と遠回しに言われたが、柴田は「結果は曲げられない」と突っぱね、日本語のローマ字化は撤回された。漢字廃止論も参照。かつてのヨーロッパでは、文字が読めるとは「ラテン語ができること」「俗語の文章を読めること」「自分の名前を書けること」などさまざまな定義が採用されていた。もっとも、ヨーロッパの騎士階級においては、読み書きその他の教養は、尚武の気風に反して格好悪いとみられており、そもそも字を覚える意思のない者が多かった。カール大帝など、偉大な実績を残した君主たちの中でも字を書けない者もいた。イスラーム世界では、クルアーンの暗誦とアラビア文字の学習が重視されていることから、イスラーム世界全域にわたって、クッターブによる教育により、初歩的な読み書きは広く行き渡った。しかし、それでもなお非識字者も多かった。15世紀にハングルを創製して表音文字を導入した朝鮮では、ハングルのみを知っている人間は庶民にも少なからずいたが、初歩的な漢字以上の漢字の知識を持つものは非常に少なく、知識人や富裕な商人に限られていた。ベトナムでは、ついに表音文字を自力で開発しなかったため、複雑なチュノムと漢字を知ることができる層と、それ以外とに分かれ、庶民は文字を知っていても、少数の漢字とチュノムを書けるだけという例が多かった。中国本土では革命後、識字率を引き上げる目的で簡体字を採用し、多くの漢字を9画以内に収めた。インドは、近代的な教育が行われる以前にも、インドにおいては各地で教育が行われていた。バラモンは紀元前1000年より前から、ヴェーダの学習を文字なしに暗誦して継承し続けた。その後発達した宗教・哲学・論理学・文学・文法学・法学・経済学・政治学・数学・天文学・医学・美術・建築などの多岐にわたる知識も、基本的に師匠から弟子へ、韻文に乗せられた知識を暗誦して代々伝える形式の教育が、20世紀に入っても行われ、21世紀に入った現在でもわずかながら続けられていて、インドにおいては近代科学の知識以外については、この形式の教育を受けた者たちの博学さは他の追随を許さない。より大規模に行われる教育は、インドでは仏教の精舎のようなものが起源である。日本でも知られる祇園精舎はこれの一つであり、学校ではないが、家を出て知恵を求める修行者たちが集まって居住し、師の教えである説法を聞きながら、修行生活を営んだ。後には大寺院において学校のような組織が作られたと考えられ、玄奘も北インドのナーランダー寺院に学んだ学生の一人であった。ヒンドゥー教の僧院は、8世紀前半のヴェーダーンタ学派の大哲学者シャンカラが初めて創設したと言われ、宗教・哲学などの知識継承の拠点となって現代にも受け継がれている。学校のような組織は上記のナーランダーのほか、仏教では1203年にイスラム教徒の軍勢により破壊されたヴェクラマシーラ寺院があり、他に医学の研究が盛んであったタクシラー、天文学の研究が盛んであったウッジャイニー(現ウッジャイン)などにもあったことが分かっている。18世紀には、多くの宗教の寺院・モスクなどの施設や大きな村に学校があり、インド全土に普及していたことが、英国側の記録に残っている。読み書き、算数、神学、法学、天文学、形而上学、倫理、医学、宗教について教育が行われていたようである。さまざまな階層の学童がいたことも記録されている。1813年、英領インドの初代総督ウォーレン・ヘースティングズ はインド人は一般に「ヨーロッパのどの国の国民よりも、読み書きと算術の知識で上回っている。」と記している。大英帝国側により、近代的な教育が導入された。伝統的な教育は排除され、これ以後は識字率は衰退した。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。