リン酸(リンさん、燐酸、)は、リンのオキソ酸の一種で、化学式 HPO の無機酸である。オルトリン酸(おるとりんさん、orthophosphoric acid)とも呼ばれる。リン酸骨格をもつ他の類似化合物群(ピロリン酸など)はリン酸類(リンさんるい、)と呼ばれている。リン酸類に属する化合物を「リン酸」と略することがある。リン酸化物に水を反応させることで生成する。生化学の領域では、リン酸イオン溶液は無機リン酸 (Pi) と呼ばれ、ATP や DNA あるいは RNA の官能基として結合しているものを指す。純粋なリン酸は斜方晶系に属す不安定な結晶、またはシロップ状の無色の液体。融点 42.35 ℃。水・アルコール・エーテルに可溶。生化学において最も重要な無機オキソ酸といっても過言ではなく、DNA、ATP を構成するため非常に重要。生化学反応では、低分子化合物の代謝においてリン酸が付加した化合物(リン酸エステルなど)が中間体として用いられることが多い。またタンパク質の機能調節(またそれによるシグナル伝達)においてもリン酸化は重要である。これらのリン酸化は多くの場合 ATP を用い、特定のリン酸化酵素によって行われる。このほか、肥料・洗剤の製造、エチレン製造の触媒、清涼剤(コーラの酸味料など)、歯科用セメント、金属表面処理剤、ゴム乳液の凝結剤、医薬、微生物による廃水浄化など用途は幅広い。純粋な無水リン酸は常圧で融点 42.35 ℃ の白色固体であり、融解後は無色透明な液体となる。液体無水リン酸は高い電気伝導性を示し、またかなり強い酸性媒体であり、ハメットの酸度関数では "H" = - 5 を示す。オルトリン酸という別名があるが、この別名が用いられる場合はポリリン酸類と区別するという意味で用いられる。オルトリン酸は無機物であり、3 価のやや弱い酸である。極性の高い化合物であるため、水に溶けやすい。オルトリン酸を含むリン酸類のリン原子の酸化数は +5 であり、酸素の酸化数は -2 、水素の酸化数は +1 である。75 – 85 % の純粋な水溶液は、無色透明で無臭、揮発性のない粘性液体である。この高い粘度はヒドロキシル基による水素結合によるものである。一般的には 85% (d = 1.685 g/cm)、モル濃度は 14.6 mol/dm、規定度は 43.8 N の水溶液として用いられることが多い。高濃度では腐食性を持つが、希薄溶液にすると腐食性は下がる。高濃度の溶液では温度によりオルトリン酸とポリリン酸の間で平衡が存在するが、表記の簡略化のため市販の濃リン酸は成分の全てがオルトリン酸であると表記されている。3 価の酸であるため、水と反応すると電離して 3 つの水素イオン H を放出する。1 段階目の電離により発生するアニオンは HPO である。以下同様に 2 段階目の電離により HPO が、3 段階目の電離により PO が発生する。25 ℃ における平衡反応式と酸解離定数 "K" , "K" , "K" の値は上に示す通りであり、pKa の値もそれぞれp"K" = 2.12, p"K" = 7.21, p"K" = 12.67(各 25 ℃)となる。1 段目はやや強く解離し 0.1 mol/dm の水溶液では電離度は約 0.27 であり、3 段目の解離はきわめて弱く、中和滴定曲線でも第三当量点は現れない。p"K" の値からも分かるように、オルトリン酸の共役塩基は幅広い pH に渡って存在することができる。この性質を利用し、リン酸塩としたものが緩衝溶液に用いられている。リン酸塩類は生物学の分野においても多々登場しており、特に DNA や RNA、アデノシン三リン酸などのリン酸化された糖がよく知られている。詳細については記事リン酸塩を参照のこと。酸解離に関する標準エンタルピー変化、ギブス自由エネルギー変化、エントロピー変化の値が報告されており、解離に伴いエントロピーの減少がおこるのは、電荷の増加に伴いイオンの水和の程度が増加し、電縮が起こり水分子の水素結合による秩序化の度合いが増加するからである。オルトリン酸を加熱すると脱水反応が起こる。150 ℃ で無水物となり、200 ℃ で 2 つのオルトリン酸が反応し徐々にピロリン酸(二リン酸)HPO が生成する。さらに高次の縮合リン酸 HPO も生成し、300 ℃ 以上では 1 つのリン酸ユニットにつき 1 つの水分子が脱離してメタリン酸(ポリリン酸)(HPO) が生成する。メタリン酸はオルトリン酸が脱水縮合した化合物とみなすことが可能である。いずれも複数の PO 四面体を酸素原子を架橋として連結した構造であり、ポリリン酸は一般的に PO 四面体が環状に連結したシクロリン酸(しくろりんさん、cyclophosphoric acid)である。このような加熱により生成するポリリン酸の混合物は、高温において金属などに対する作用も激しくなり、ガラスでさえ侵すようになり、強リン酸(きょうりんさん)と呼ばれることもある。それ以上の脱水は非常に難しいが、脱水したら五酸化二リン(十酸化四リン)が生成する。五酸化二リンは水と激しく反応する固体であり、乾燥剤としても用いられる。リン酸と無機ハロゲン化物を反応させると、対応するハロゲン化水素ガスが発生する。これは研究室レベルでハロゲン化水素を入手する簡単な方法である。リン酸は錆びた鉄の表面に存在する酸化鉄を不溶性のリン酸塩へと変換し、皮膜を生成することができる。この廃液処理は環境に配慮する必要がある。リン酸塩としたものが食品添加物として用いられている。リン酸塩が身体に与える影響について、様々な議論が交わされている。リン酸は窒素、カリウムと伴に肥料の三大要素であり、量的には肥料としての消費量が圧倒的に多い。リン鉱石を硫酸で処理しリン酸を可溶性とした、過リン酸石灰が最も多く生産されているが、硫酸イオンを含まずリン酸の含量の多い重過リン酸石灰も普及している。赤外線を吸収する性質を利用して赤外線吸収リン酸塩ガラス、赤外線吸収フィルム用樹脂、UV カット化粧品などに用いられている。また、この性質を利用して軍用では水和蒸気を煙幕として発生させる白リン弾や赤リン発煙弾がある。2008年度日本国内生産量は 152,976 t、消費量は 37,625 t である。リン酸の第一段階電離により、リン酸二水素イオン(りんさんにすいそいおん、dihydrogenphosphate(1-), HPO)、第二段階解離によりリン酸水素イオン(りんさんすいそいおん、hydrogenphosphate(2-), HPO)、第三段階解離によりリン酸イオン(りんさんいおん、phosphate, PO)を生成し、それぞれリン酸二水素塩、リン酸水素塩、リン酸塩の結晶中に存在する。リン酸イオンは正四面体型構造であり、P—O 結合距離はリン酸アルミニウム結晶中で152 pmである。リン酸塩(りんさんえん、phosphate)には正塩、および水素塩/酸性塩(リン酸水素塩、hydrogenphosphate / リン酸二水素塩、dihydrogenphosphate)が存在し、リン酸ナトリウム NaPO 水溶液は塩基性(pH~12)、リン酸水素ナトリウム NaHPO 水溶液は弱塩基性(pH~9.5)、リン酸二水素ナトリウム NaHPO 水溶液は弱酸性(pH~4.5)を示す。アルカリ金属塩、アンモニウム塩は水に可溶であるが、アルカリ土類金属塩をはじめとしてその他のものは極めて難溶性であることが多い。生物の作用によるもの、ペグマタイトなどに含まれるものなどがあり、希土類元素、ウラン、トリウムなどを含むものが多い。コーラなどの飲料・食品に酸味を与えるための廉価な添加物としてクエン酸などの代用に使われるが、これらによるリン酸の摂取と骨の密度の低下とが結びつけられている。逆にリンの摂取が少ないと骨密度が下がるという研究もあるがこの研究は腸内でのリン酸とマグネシウム、カルシウムの結合の影響は考慮せず体内に吸収されたリンの量での研究である。またリン酸を含む飲料が尿によるカルシウム排出量に影響しないという研究がある。リン自体は人体に必須のミネラルであり、厚生労働省が定めた摂取基準によれば 18 – 49 歳の成人の 1 日あたり目安量は男性 1050 mg、女性 900 mg、上限量は男女とも 3500 mg とされている、しかしリン酸でなくても野菜、肉など生物に由来する食物に普通に含まれる元素である。
出典:wikipedia
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