ジュゴン("Dugong dugon")は、カイギュウ目ジュゴン科ジュゴン属に分類される哺乳類。本種のみでジュゴン属を構成し、現生種では本種のみでジュゴン科を構成する。インド洋、西太平洋、紅海モザンビーク北部やマダガスカルから、紅海・ペルシャ湾・インド・インドシナ半島・ボルネオ島・ニューギニア島・ニューカレドニア・バヌアツ近海にかけて分布する。北限は日本(沖縄諸島北緯30度周辺)、南限はオーストラリア(南緯30度周辺)。モーリシャスや台湾近海では絶滅したとされる。日本哺乳類学会のレッドリストでは、南西諸島のジュゴンを絶滅危惧種に指定しており、水産庁のレッドデータブックでも「絶滅危惧種」となっている。沖縄の場合、漁網にひっかかる混獲と藻場の減少などがジュゴンを危機に追い込む大きな要因となっていると見られている。2000年10月10日には国際自然保護連合 (IUCN) 総会で、「沖縄のジュゴンとノグチゲラとヤンバルクイナの保護」の決議が採択された。近年では、たびたび沖縄本島の大浦湾や古宇利島周辺で目撃され、環境省等の推測では残る個体の生息域と考えられている。。なお、かつてはこれら以外の島々での目撃例も存在し、元々の通常生息域の北限である奄美大島の笠利湾や久高島等の沖縄本島周辺海域、久米島、かつて、南西諸島最大の生息数を誇っていたとされる八重山諸島では、石西礁湖一帯や新城島周辺、西表島の西側海域に少なくとも300頭以上が分布していたと思われる。奄美大島の笠利湾においては、2002年11月~2003年4月の調査で個体が確認されていた。石垣島、西部西表島で数例、新城島等で確認がある。全長3メートル。体重450キログラム。体色は灰色で、腹面は淡色。全身は長い柔毛と短い剛毛でまばらに被われる。鼻面は下方に向かい、円盤状。鼻腔は吻端前方に開口する。眼は小型で、頭部背面付近に位置する。眼後部に耳孔が開口する。15 - 20センチメートルの牙状の切歯が2本あるが、骨の中に埋没している。臼歯の数は6本。胸鰭はしゃもじ形。胸鰭に爪がない。尾鰭は三角形。尾鰭後縁には切れ込みが入る。出産直後の幼獣は体長1 - 1.2メートル。体重20 - 35キログラム。6本の小臼歯があるが、生後1年以内に脱落し代わりに臼歯が萌出する。オスの成獣は上顎第2切歯が1 - 2センチメートル萌出する。観察例からこれは交尾の際に滑りやすいメスを扱うのに用いるとする説もある。乳頭は胸鰭基部の腹面に位置する。熱帯や亜熱帯にある浅海に生息する。季節的な回遊は行わないが、数百キロメートルを移動することもある。シャーク湾やモートン湾では季節移動を行うとする報告例もある。単独もしくは母親と幼獣からなる数頭の群れを形成することが多いが、生息数が減少した現在ではまれであるが数百頭に達する大規模な群れを形成することもある。胸鰭を使って海底を徘徊し、速く泳ぐ際には尾鰭を使う。遊泳速度は時速3キロメートルで、危険を感じた時は時速22キロメートルで逃げることもあるが長続きはしない。野生下の潜水時間は平均1分12秒から1分30秒・平均1分23秒の報告例がそれぞれあり後者では最長6分40秒の報告例もある。空中観察から水深11 - 12メートルまで潜水できると考えられている。一方でオーストラリアのクイーンズランド州では水深33メートルで食跡が発見された例もある。飼育下での潜水時間は最長13分20秒の報告例がある。人間による狩猟などがない地域では聴覚を頼りにダイバーやボートに興味を持って接近することもある。食性は植物食で、ウミジグサ属"Holodule"、ウミヒルモ属"Holophila"、ベニアマモ属"Cymodocea"、リュウキュウスガモ属"Thalassia"などの海草を食べる。昼間に採食を行うが、人間がいる地域では夜間に採食を行う。1日あたり体重の10 - 16 %の量の食物を摂取していると推定されている。摂取した食物は144 - 168時間(6 - 7日)、体内に留まった後に排泄される。飼育下でアマモ(自然下では熱帯に分布する本種と温帯に自生するアマモは同所的に分布しないため摂取しない)を与えた実験から食物の消化率は80 %以上と推定され、植物食の陸棲哺乳類よりも高い。オーストラリアでは洪水やサイクロンにより海草が広範囲で死滅することがあり(例として1992 - 1993年にハーヴェー湾では洪水とサイクロンにより海草が約1,000平方キロメートルにわたり死滅した)、そのような場合は別の場所へ移動するか繁殖を遅らせる。繁殖様式は胎生。交尾は鳥羽水族館でオスが斜め後方からメスに接近し、前肢でメスを固定した後に陰茎を挿入した観察例がある。妊娠期間は13か月。1回に1頭の幼獣を産む。出産間隔はオーストラリア周辺では3 - 7年。授乳期間は18か月。幼獣は母親の胸鰭後方について泳ぎながら乳を飲み、母親は前肢で抱きかかえながら授乳はしない。低緯度地方では生後6年、高緯度地方では平均で生後17年で性成熟する。寿命はメスは歯の成長輪から最大73年と推定されている。日本では南西諸島で、「ざん」「ざんのいお」「ざんのいよ」「ざんのいゆ」「あかんがいゆ」などの方言名がある。宮古列島では「よなたま」「よないたま」、西表島で「ざの」、新城島で「ざぬ」といった方言名がある。有史以前から狩猟の対象とされた。聖櫃を包んでいたのは本種の皮だったと考えられている。肉が不老不死や媚薬になると信じられたこともあり、骨で作った装飾品も刃物や鉄砲に対するお守りになると信じられていた。涙も相手に付けることで恋愛成就の効能があると信じられていた。日本では琉球王朝時代に新城島では年貢として本種の肉を納めていた。西洋における人魚のモチーフとなったとする説もあるが、初めに上半身が人間・下半身が魚や海獣といった人魚のイメージができあがり、後になって本種と結びつけられたと推定されている。本種と結びつけられた理由としては本種は胸鰭の基部に1個ずつ乳頭があり、これが隆起し乳房のように見えるためとする説もある。日本の琉球地方ではニライカナイの神の現世への乗り物とされたり・助けたジュゴンに津波の襲来を教えられ恩返しされるといった伝承やジュゴン漁に関する民謡などがある。食用や油用、皮革用、牙の狩猟、海洋汚染、漁業やサメ避け用の網による混獲などにより生息数は減少している。オーストラリアではトレス海峡諸島の先住民には狩猟が許可されているが、他地域も含めて密猟されることもある。日本では生活排水・牧畜廃液・除草剤・農地開発による赤土の流出・海岸開発・モズクの養殖に伴う海洋汚染およびそれによる食物である海草の減少、定置網や底刺し網などの漁業による混獲による絶滅が危惧されている。遺跡や文献・聞き取り調査から以前は南西諸島広域に分布し、主に八重山列島に多く分布していたと推定されている。好適な環境があるのに近年の八重山列島での記録がないのは、定置網などによる漁業が盛んなため混獲により地域個体群が絶滅したためと推定されている。1960年代からは記録が沖縄島周辺(1965 - 2004年の確実な出現例は沖縄島18例で東海岸に集中、宮古島2例)に限られる。奄美大島では1960年に捕獲・撮影されて以降は確実な記録はない。一方で奄美大島の2002年11月 - 2003年4月の聞き取り調査では笠利湾で未確認だが複数の目撃情報もあるが、西表島や久米島などでの目撃例や死骸漂着例も含め国内では沖縄島周辺以外にも本種が生息しているのか迷行・移動したのかは2006年現在では不明とされる。文献によると南西諸島では1800年代後半から1900年代初頭にかけて約200頭が捕獲された。愛知県の貝塚や佐賀県の遺跡調査・江戸時代に屋久島での捕獲例などがあり本州・四国・九州まで迷行・漂着していた可能性もある。近年では2002年に熊本県牛深市沖で定置網にかかった個体が発見され放流されたが、後に死骸が漂着した例がある。2015年現在では沖縄県のレッドデータでは絶滅危惧IA類とされている。日本では1972年に国の天然記念物に指定され、2003年からは鳥獣保護法でも捕獲や殺傷が原則禁止されている。1978年および1994年現在では飼育下繁殖例はない。鳥羽水族館ではかつて2頭が飼育されていたが、オスの「じゅんいち」が2011年2月10日午前8時25分に死亡した。じゅんいちは鳥羽水族館で約31年間にわたって飼育され、世界最長飼育記録を更新していたが、それも11,475日目で途絶えた。これにより日本国内での飼育は同水族館のメス「セレナ」1頭だけとなった。属名、英名はマレー語 duyung がフィリピンで使われているタガログ語経由で入ったもので、「海の貴婦人」(lady of the sea)の意味だという。「儒艮」は当て字。日本では、生息地域である奄美群島から琉球諸島にかけての方言で、「ザン」「ザンヌイユー(ザンの魚)」などと呼ばれる。なお、後者を大和言葉化した「ざんのいを」の語形もあって、「犀魚」の字をあてることもあるとされる。「中日春秋」によれば、沖縄の人々はジャン、ザン、ヨナタマなど、さまざまな名で呼んできた。漁師の間では、「アカングヮーイュー」とも呼ばれるそうだ。アカングヮーは赤ちゃんで、イューは魚という意味だという。
出典:wikipedia
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