鞭毛(べんもう、英:flagellum)は毛状の細胞小器官で、遊泳に必要な推進力を生み出す事が主な役目である。構造的に真核生物鞭毛と真正細菌鞭毛、古細菌鞭毛とに分けられる。動植物の精子から、クラミドモナスやミドリムシといった藻類や原生生物にまで広く見られる。長さは数μm〜数十μm、横断面の直径は200〜300nmほどである。通常の明視野型光学顕微鏡でも確認できるが、位相差顕微鏡や暗視野顕微鏡、微分干渉顕微鏡であればより明瞭に観察する事ができる。真核生物の鞭毛は、鞭毛それ自体が能動的に屈曲し、運動する能力を持つ。鞭毛の断面を電子顕微鏡で観察すると、9+2構造と呼ばれる微小管配置が観察される。鞭毛の中核を成すこの部分を軸糸(axoneme)と呼ぶ。この微小管の間にはダイニンというタンパク質分子モーターが存在する。ダイニンがATPを加水分解してエネルギーを取り出し、これが微小管(A小管とB小管)同士の滑り運動に変換されることで、鞭毛の屈曲が引き起こされると考えられている。鞭毛の表面は細胞膜である。さらにその外側に、種々の修飾構造を持つ生物もいる(後述)。微小管は、α-チューブリンとβ-チューブリンが交互に並んで構成された13本の繊維から成る構造である。真核生物特有の構造で、原核生物には存在しない。ここに列挙した構造やタンパク質は一例で、実際にはさらに多くの要素を含む。鞭毛の根元の基底小体と、それに付随する種々の鞭毛根その他の構造を合わせてこう呼ぶ。生物によっては、パラバサリアの副基体(parabasal body)やハプト藻類のハプトネマなど、鞭毛以外の構造の基部を含む場合もある。基底小体だけで200種以上、鞭毛装置全体では300種以上のタンパク質を含むと言われる。鞭毛装置は分類群毎の多様性と適度な保存性とを兼ね備える。従って鞭毛装置の形態は、真核生物ほぼ全体の分類に対して通用する、数少ない形態形質である。鞭毛の動作は大きく二種類の運動、鞭毛運動と繊毛運動とに分かれる。基本的に後者が可能な生物は前者も可能であり、運動の切り替えはカルシウムイオン濃度により制御されている。渦鞭毛藻やユーグレナ植物はいずれにも属さない独特の運動を行うが、その動作原理は未だ明らかでない。従来、真核生物のは鞭型と羽根型(両羽/片羽)の2型に分類されていた。しかし「羽」と呼ばれて一括りにされてきた修飾構造には、分類群毎の差異がある事が電子顕微鏡の普及と共に判明してきた。従って、鞭型鞭毛や羽根型鞭毛という表現は、単に鞭毛の形状を表した便宜的なものにすぎない。明瞭な修飾構造を持たない分類群オピストコンタ(後生動物、菌類)、アメーボゾア、ケルコゾア、緑藻類など。修飾構造を持つ分類群渦鞭毛藻と同じアルベオラータである繊毛虫が持つ繊毛は、機能的、構造的に真核生物鞭毛と同じものである。大腸菌をはじめとするバクテリア表面にみられる。直径20ナノメートル、長さ約十マイクロメートルのねじれた繊維。暗視野顕微鏡などの光学顕微鏡で観察することができる。フラジェリンというタンパク質が重合して伸びた繊維からなる。真核生物の鞭毛と異なり、この繊維自体に運動能力はない。それぞれの繊維の付け根には回転モーターがあり、細胞内外のイオンの透過に共役した電気化学的ポテンシャルを運動エネルギーに変換することで回転する。そのためこのモーターの回転にはATPは必要ない。このモーターの機構は電子伝達系によって駆動するATPaseと共通する部分が多い。フラジェリンのらせん状の繊維がこのモーターで回転すると、こうした微小な世界ではレイノルズ数が小さく水の粘性が高くなっているため、いわば粘っこい水の中にコルク抜きをねじ込むような形になり、細胞は高速で前進する。回転モーターを除く鞭毛部分はIII型分泌装置とほぼ同様である。III型分泌装置を持つ真正細菌は比較的狭いグループに限られることから、鞭毛がIII型分泌装置に進化したとする見方が一般的だが、その逆とする説もある。鞭毛繊維部分はIII型分泌装置が細胞外にたんぱく質を放出する際と同様の機構で先端から構築される。真正細菌鞭毛は、真核生物鞭毛と区別するために慣用的に「べん毛」と書かれることもある。広範囲の古細菌に存在する。繊維部分は真正細菌よりもやや細い直径10-15nm、全長10-15μmのねじれたタンパク集合体である。これも真正細菌と同様の機能を持ち、回転により移動力を得る。顕微鏡下では真正細菌鞭毛と殆ど見分けがつかないため、1990年代中ごろまでは両者は同一の構造とみなされていた。しかしながら、鞭毛を構成するタンパク質に共通点は一切なく、両者は異なる起源を持つと考えられる。古細菌の鞭毛を構成するたんぱく質は、古細菌自身やグラム陰性細菌が持つIV型線毛と類似が見られ、同様に根元から構築される。IV型線毛は付着のための器官で回転力は一切与えないが、これに回転モーターなどが追加され鞭毛を成している。駆動トルクはATPの加水分解により得ているが、エネルギー変換効率は水素イオンやナトリウムイオン濃度差をエネルギー源に利用する真正細菌に比べて著しく低く、6~10%程度と見積もられている。"Halobacterium salinarum"において正確な周期と角度で同期回転することが観察されている。
出典:wikipedia
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