賃貸借(ちんたいしゃく)とは、当事者の一方(貸主、賃貸人)がある物の使用及び収益を相手方(借主、賃借人)にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することを内容とする契約。日本の民法では典型契約の一種とされる()。賃貸借は当事者間で有償で物を貸し借りする契約類型である。典型例としては、賃貸マンション、レンタカー、レンタルビデオなどがある。農地の賃貸借については小作農も参照のこと。賃借人が賃貸借契約に基づいて目的物を使用収益する権利を賃借権といい、賃貸人がある物を賃貸借契約の目的物とすることを「賃借権を設定する」という。賃貸借は消費貸借や使用貸借と同じく貸借型契約(使用許与契約)に分類される。また、不動産賃借権は地上権や永小作権と同様の経済的機能を果たすものとしても扱われるが、本来的に債権である点で地上権や永小作権とは異なる(ただし、賃借権の物権化により地上権に近い効力が認められるようになっている)。所有と利用の分離が進む現代社会において、賃貸借の中でも特に土地(宅地や農地)や建物の賃借権については国民の生活基盤となるものであるが、民法の借主の権利保護は十分とはいえず、借主は土地や建物に投下した資本や労力を回収できないままに追い出される立場に置かれるという問題を生じた。そのため、日本はヨーロッパと同じく借主保護立法が重ねられたが、アメリカやオーストラリアではむしろ貸主保護に傾いているといわれている。そして、日本で宅地・建物については建物保護に関する法律、借地法、借家法及びそれらを一本化した借地借家法が制定され、また、農地については農地法など特別法による強化が図られ、その結果、賃貸借には物権に類似した効力が与えられるようになった。これを賃借権の物権化あるいは債権の物権化という。具体的には、借地権の存続期間、借地契約の更新、借地権や借家権の対抗力などを中心とする。従来、賃借人が借地上の不法占拠者などを排除しようとする場合、債権者代位権()を流用して、賃貸人の所有権に基づく物権的妨害排除請求権を、賃借人が代位行使するという法律構成がとられてきた。しかし、判例は、対抗力のある不動産賃借権については、賃借権の物権化を理由として、賃借権に基づく妨害排除請求権を認める方向にある(最判昭和30年4月5日民集9巻4号431頁)。日本の民法は、賃貸借を意思表示の合致により成立する諾成契約として規定している。外国では一定の賃貸借契約については書面を要求する要式契約として規定している立法例も多い。日本の民法では賃貸借の存続期間の最短期間について規定を置いていない。日本の民法では賃貸借の存続期間の最長期間を20年としている(1項前段)。この規定は民法の起草者において20年を超えるときは地上権や永小作権が設定されるものとみており、また、所有権が長期間にわたって賃貸借により拘束されることになれば改良が進まず社会経済上の不利益となる点が理由とされる。中華民国民法、中国契約法では20年である。韓国では堅固建築物などの例外をのぞき20年である。一方、フランス民法典には規定がない。ケベック州民法典では100年である 。イングランドでは存続期間の定めがない場合契約が無効であるとされるが、存続期間に規制がない。先述のように日本の民法は、賃貸借を意思表示の合致により成立する諾成契約として規定しているが、現実には日本でも特に不動産賃貸借については書面が作成されることが多い。なお、借地借家法上の定期借地権(借地借家法22条)や定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)の設定については公正証書など一定の方式を要する。農地及び採草放牧地への賃借権設定については原則として農業委員会あるいは都道府県知事の許可を要し(農地法3条1項)、また、農地及び採草放牧地の賃貸借契約について当事者は書面によりその存続期間、借賃等の額及び支払条件その他その契約並びにこれに付随する契約の内容を明らかにしなければならない(農地法21条)。処分につき行為能力の制限を受けた者(被保佐人、被補助人など)、又は、処分の権限を有しない者(不在者財産管理人、権限の定めのない代理人など)が賃貸借契約を締結する場合には、以下の期間を超えない範囲でのみ契約をすることができる()。このような短期の賃貸借契約を短期賃貸借という。短期賃貸借も更新することができるが、その期間満了前、土地については1年以内、建物については3ヶ月以内、動産については1ヶ月以内に、その更新をしなければならない()。 なお、以前は、短期賃貸借は、その期間の範囲で先に登記された抵当権にも対抗(優先)することができた(旧395条)。しかし、執行妨害で悪用されるなど弊害が目立ったため、現在は、対抗できるとしたのを改め、6ヶ月の明け渡しの猶予期間を認めている()ただし、民法上の賃貸借の存続期間の規定は借地借家法や農地法など特別法による修正を受けている。旧借地法・旧借家法は借地借家法の施行により廃止されたが(借地借家法附則第2条)、その廃止前に両法によって生じた借地権・借家権の存続期間については原則として借地借家法ではなく旧借地法・旧借家法の適用を受ける(借地借家法附則第4条)。旧借地法では、借地権の存続期間について堅固な建物の所有を目的とするものについては原則として60年、その他の建物の所有を目的とするものについては原則として30年とされていた(旧借地法2条1項)。旧借家法では、1年未満の期間を定めた賃貸借は原則として期間の定めのないものとみなされた(旧借家法3条の2)。また、建物の賃貸人は自ら使用する必要がある場合その他正当の事由がある場合でなければ、賃貸借の更新の拒絶や解約の申入れは許されないとしていた(旧借家法1条の2)。借地借家法上の借地権には通常更新される普通借地権と更新のない定期借地権とがある。借地借家法上の借家権には更新の拒絶や解約について制限のある普通借家権と更新のない定期借家権とがある。農地又は採草放牧地の賃貸借についての民法第604条 (賃貸借の存続期間)の規定の適用については、同条中「二十年」とあるのは、「五十年」とされる(農地法19条)。農地又は採草放牧地の賃貸借について期間の定めがある場合において、その当事者が契約期間満了前の一定期間内において、相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは、原則として従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなされる(農地法17条)。また、農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならないとされている(農地法18条)。日本では、不動産を賃貸する際に、賃貸物(特に建物)の引渡しに先立って賃借人の債務、具体的には賃料の支払や後述する原状回復のための費用を担保する目的で、一定額の金銭を賃貸人に寄託(消費寄託)させるのが通例である。この金銭を、敷金(しききん)とか保証金(ほしょうきん)という。なお、賃借権を新所有者にも対抗できる場合、敷金返還債務も新所有者が引き継ぐとした裁判例がある。このため、このことを逆手にとって、強制執行を妨害することが企てられる場合もある。つまり、所有している不動産について差押えを受けそうになった者が、第三者と通謀して、賃貸人にとって非常に不利な賃貸借契約を結んでしまう。具体的には、極めて高額の敷金を差し入れ、極めて低額の賃料を設定し、長期間の賃貸借契約を締結したように仮装するのである。すると、たとえ差押えがされてその不動産が競売に付されて落札されたとしても、もれなくその非常に不利な賃貸借契約が付随してくることになるため、その不動産の買受申出を躊躇させることが期待できるのである。もっとも、このような濫用的賃貸借は、民事執行法の改正や判例の努力等により、現在では少なくなった。賃借人に賃貸借契約締結そのものの対価(謝礼)を支払わせることも多く、この対価を礼金(れいきん)という。契約が成立した際、敷金以外に支払われる金銭のことを総称して、権利金ということもある。契約を更新する際に金銭の支払をすることが合意されていることもあり、更新料と呼ばれる。賃貸人が賃貸借の目的物を譲渡した場合、賃借人は(後述の対抗要件を有しない限り)新所有者に対して賃借権を対抗できない。したがって、新所有者が賃借権を承認しないときは、賃貸借契約は終了する。これがローマ法以来「売買は賃貸借を破る」の法格言によって表されてきた原則である。目的物が不動産である場合には、賃借権設定登記することで新所有者に対しても賃借権の存在を対抗でき、継続して賃借することができる()。ただし、民法上は特約のない限り、賃借人は賃貸人に対して登記請求権を有しない(通説・判例。判例として大判大10・7・11民録27輯1378頁)。そこで、建物保護に関する法律や借地法、借家法が制定され、もっと容易に賃借権を新所有者に対抗できるような制度が整備された。その後、これらの規定は、に吸収されている。罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された当時から、引き続き、その建物の敷地又はその換地に借地権を有する者は、その借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これを以て、昭和21年7月1日から5年以内において対抗力を有する(罹災都市借地借家臨時処理法10条)。本来、罹災都市借地借家臨時処理法は戦争により空襲等を受けた罹災都市の借地借家関係を定めた法律であるが(罹災都市借地借家臨時処理法1条参照)、その後、この法律は政令で定める火災、震災、風水害その他の災害のため滅失した建物についても準用されている(罹災都市借地借家臨時処理法25条の2)。この場合において対抗力の起算時は「昭和二十一年七月一日」から「第二十五条の二の政令施行の日」と読み替えるものとされている。したがって、火災や震災、風水害などの災害のため罹災都市借地借家臨時処理法の準用を受ける場合、その建物の敷地又はその換地に借地権を有する者は、、その借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、同法25条の2に基づく政令施行の日から5年以内において対抗力を有することになる(罹災都市借地借家臨時処理法10条・25条の2)。農地又は採草放牧地の賃貸借は、その登記がなくても、農地又は採草放牧地の引渡しにより対抗力を認める(農地法16条。旧農地法18条)。動産を目的物とする賃借権は、どのような場合に新所有者に対しても主張できるのか、民法上は明文を欠いている。その動産の引渡しを受けていれば、換言すればその動産を占有していれば、目的物の所有者が代わったとしても、新たな所有者に対して主張することができる。すなわち、引渡し(占有)を解釈上対抗要件とするのが多数説である。賃貸人Aから賃借人Bが賃借している目的物に関する権利義務を第三者Cにすべて移転させてBが賃貸借関係から離脱することを賃借権の譲渡といい、また、賃貸人Aから賃借人Bが賃借している目的物を第三者Cにさらに賃貸して元の賃貸借関係(AB間の賃貸借契約)は存続する場合を転貸(又貸し)という。日本の民法においては、賃貸人の承諾を得ないでされた転貸や賃借権の譲渡は、賃貸人に対抗できない上、賃貸借契約の解除原因となっている()。この点は物権である地上権や永小作権などと異なる点である。もっとも、賃借権の譲渡を認めるイギリスのような国もあるし、日本でもギュスターヴ・エミール・ボアソナードが起草した旧民法では認められていた(旧民法は法典論争の結果、施行されなかった)。日本の民法が無断の譲渡・転貸を認めない理由としては、勤勉でない小作人への譲渡や資力のない借家人へ譲渡された場合などには賃料の支払いに不安を生じ、また、使用方法の悪い借家人などへの譲渡などにより賃貸人が思わぬ不利益をこうむることが懸念されたためであるとされる。なお、賃借権の譲渡や転貸に必要とされる賃貸人の承諾は、賃借人のほか譲受人や転借人に対してなされてもよい。賃借権が賃借人Bから譲受人Cへ譲渡された場合、それまでの賃借人Bが契約関係から離脱して、従来からの賃貸人Aと新たな賃借人Cの間に契約関係が移転する。ただし、敷金についての法律関係は新たな賃借人(賃借権の譲受人)には移転しない(最判昭53・12・22民集32巻9号1768頁)。Aが一旦賃借権の譲渡を承諾したときは、Bから第三者たるCとの間で賃借権の譲渡契約を締結する前であっても、これを撤回することができない(最判昭30・5・13民集9巻6号698頁)。賃借人Bが賃貸人Aの承諾を得て行った転借人Cへの転貸は当然有効であり解除原因とならない(1項参照)。適法な転貸借がある場合、Bの有する賃借権が対抗要件を具備する限り、Cが自己の転借権について対抗要件を備えていなくても、Cは第三者に対してBの賃借権を援用して自己の転借権を主張することができる(最判昭39・11・20民集18巻9号1914頁)。借地借家法が適用される場合、転貸や賃借権の譲渡が比較的容易に認められる場合もある。すなわち、借地契約については、一定の場合、賃貸人の承諾がなくても、裁判所の許可を得れば、転貸や譲渡をすることができる(、)。この規定(特に20条)では、借地上の建物に抵当権が設定されている場合などが想定されている。つまり、抵当権が実行されて借地上の建物が競売にかけられ、買い受けられた場合、建物の所有権とともに土地の賃借権も「従たる権利」(従物の項目を参照)として買受人に移転する(最判昭40・5・4民集19巻4号811頁)。しかし、それは賃借権(借地権)の無断譲渡にほかならず、借地契約の解除原因になってしまうのが原則である。これでは抵当権を設定することが事実上不可能となるため、このような規定が必要になる。借地契約・借家契約が期間満了又は解約申入れによって終了するときは、賃貸人は転借人に対しそのことを通知しないと契約の終了を転借人に対抗できない()。賃貸人が終了の通知をしたときは、転貸借はその通知後6ヶ月を経過すると終了する。期間の定めのある賃貸借においては契約期間が満了すれば終了する(・)。この場合に当事者はその期間内に解約をする権利を留保することも可能である()。ただし、特別法(借地借家法及び農地法)により修正を受けている。 期間の定めのない賃貸借またはにより黙示の更新がなされた賃貸借においては解約の申入れにより、申入れの日から所定の期間を経過することにより終了する()。解約の申入れ後直ちに賃借人が目的物を返還したとしても、特約がない限り賃借人は所定の期間分の賃料支払い義務を引き続き負う。ただし、特別法(借地借家法及び農地法)によりこの規定は修正を受けている。 賃貸借も契約である以上、賃借人に賃料不払や契約上の用法義務違反があれば債務不履行となり賃貸人からの解除が認められるが、これを安易に認めると特に不動産賃貸借においては賃借人は居住や営業といった生活の基盤を失うことになるため、判例は当事者間の信頼関係が破壊されたと認められるか否かを基準とする信頼関係破壊の法理によっている(最判昭39・7・28民集18巻6号1220頁)。なお、債務不履行が悪質なものである場合について無催告解除も認めている(最判昭27・4・25民集6巻4号451頁)。ただし、解約告知については農地法により修正を受けている。 また、民法は以下の場合につき賃借人に解除権を認める。賃貸借の目的物が火災等で滅失しあるいは老朽化により使用困難となった場合には履行不能となり賃貸借は終了する。この場合、(1)双方に帰責事由がないときは危険負担の問題となり債務者主義の原則(1項)によって賃料債務は滅失し、(2)賃貸人に帰責事由があるときは賃貸人に債務不履行責任が発生し(賃貸借の性質上、全部滅失した場合には賃料債務は発生しないと解されている)、(3)賃借人に帰責事由があるときは理論的には賃料債務は残るが賃貸人は債務を免れた利益(賃料相当額)の償還義務(2項後段)を負うため実質的に賃料債務は消滅する(端的に賃貸借契約の性質から使用収益がない以上は賃料債務は発生しないと構成する学説もある)。なお、借地借家法第38条第1項の規定による定期借家権のうち、居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は建物の賃貸借の解約の申入れをすることができることとされている(借地借家法第38条第5項前段)。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する(借地借家法第38条第5項後段)。農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、農地法第18条第1項但書の各号のいずれかに該当する場合を除いて、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならないとされている(農地法第18条第1項)。賃貸借の解除をした場合には、その解除は将来に向かってのみ効力を生ずる(前段)。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない(後段)。 この場合に損害賠償請求権及び費用償還請求権についての期間の制限は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない(・)。
出典:wikipedia
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