避雷器(ひらいき、)は、発電、変電、送電、配電系統の電力機器や電力の供給を受ける需要家の需要機器、有線通信回線、空中線系、通信機器などを、雷などにより生じる過渡的な異常高電圧から保護する、いわゆるサージ防護機器のひとつである。日本では、サージ防護機器全てを避雷器と呼ぶこともあるが、ここでは国際電気標準会議 (IEC) および日本工業規格 (JIS) に定める「サージ防護デバイス」 (SPD: Surge Protective Device) について述べる。屋外に設置される送配電線(電力線)や電話線、空中線などは雷の影響を受けやすい。架設線(架空線)への落雷(直撃雷)はもとより、直撃雷よりもはるかに多く発生する避雷針を含む周辺への落雷や、雷雲内や雷雲間で生じる稲妻(雲放電・雲間放電)などによっても、架設線などに過渡的な異常高電圧が発生し、大電流が流れて回路を損傷するため、この対策は重要である。なお過渡的な異常高電圧は「大波電圧」の意味で「サージ電圧」、その結果流れる大電流のことを「サージ電流」といい、まとめて「サージ」という。雷によるものは「雷サージ」という。また、避雷針を含む周辺への落雷や雲間放電などによって架設線などに生じる雷サージを「誘導雷サージ」という。直撃雷によるものは「直撃雷サージ」という。なお、過渡的な異常高電圧として「ノイズ」があるが、これは回路を損傷させるほどのものではないが、回路の正常な動作を妨げる恐れのある程度のものを示し、サージとは区別されている。重要な回路部分にサージ電圧がかからなければ、サージ電流は流れず、重要な回路部分が損傷することはない。そこで回路中に意図的に絶縁の弱い部分を作り、ここをサージ電圧によって破壊、サージ電流をバイパスさせることにより、サージ電圧を抑制、重要な回路部分を保護する手段をとる。しかし、ただ破壊するだけでは破壊した部分を修復するまで機器が使用できないなどの問題が生じるので、サージ終息後、直ちに元の絶縁を回復する機能を持たせたものが避雷器である。雷によるサージを処理することが多いことから、避雷器の名があるが、実際のサージは雷によるものだけではなく、避雷器は他の原因によるものも処理する必要がある。このことから2003年より、その正式名称はJISにより、サージ防護デバイス (SPD : Surge Protective Device) に統一された。他にも「アレスタ」、「サージアブソーバ」などの呼称がある。なお「サージアブソーバ」は抵抗器とコンデンサを組み合わせ、コンデンサによりサージを吸収、抵抗器により熱に変換して減衰させるようにしたものを示すことがある。避雷器の歴史は古く、例えば送配電用としては、1900年代初頭に酸化アルミニウム避雷器が実用化されており、1930年代には炭化ケイ素 (SiC) を用いた弁抵抗避雷器が登場、1980年代からより特性の優れた酸化亜鉛 (ZnO) 避雷器に代ってきている。日本では、高圧送配電系統については以前より避雷器の設置が義務付けられており、電気規格調査会 JEC 203、JEC 217 さらに JIS C4608 などの統一規格があったが、これ以外の低圧回路などに用いる避雷器については特に規定はなく、メーカーの自主規格に依っていた。しかし2003年以降、IECのものに従い、低圧電源用避雷器などについても、統一規格が設けられるようになった。避雷器はそれ単体で全てのサージを処理させるものではなく、避雷設備の中で一部のサージを処理する部品であり、万一の場合、自身が焼損・破壊して他の部分を保護する目的の部品であることから、特に防火に対する安全性が求められる。このため特に数多く広範に用いられる低圧電源用避雷器などについて、アメリカ保険業者安全試験所(UL)で5つのタイプに分類、それぞれ性能に係る詳細が定められ、避雷設備における使用の詳細も定められた。機器の記号→LA避雷器とは一般に、サージ防護素子を他の部品と組み合わせ、回路に使用できるようにしたものをいう。現在、大別して4種類程度ある。上述のサージ防護素子単体もしくはこれらを組みあわせたものである。今日のJEC、JISに規定する「SPD」もこれである。いずれも必要な場合、さらにリアクトルやコンデンサ、抵抗器などと組み合わせて構成される。現在、その構造の違いから「ギャップ式避雷器」「ギャップレス避雷器」という大別がなされる他、主にその特性の違いにより「電圧スイッチング型避雷器」「電圧制限型避雷器」「複合型避雷器」といった分類もなされている。サージ防護素子はサージを処理する度に劣化が進み、最終的に消耗故障する(GDTは最終的に開放故障、MOVなどは短絡故障する)。そこで通常、避雷器はその消耗故障の状態を表示、もしくは切り離す回路と組み合わせて構成される。避雷器に内蔵する場合と、外部に置く場合がある。なおこれらについては従来、特に規定がなかったが、サージ防護素子が短絡故障を起こした場合、確実に切り離しができないと、系統に広く影響を及ぼすのみならず、火災の原因になることから、今日ではUL、CE、TÜVなどによって所定の性能が求められている。右の写真は日本で発明され、1950年に登場した「紙避雷器」(低圧電源用紙コンデンサ型避雷器)である。初期(発明当初)のものは紙コンデンサのみの避雷器であったが、後にGDTが追加されて直列ギャップ付避雷器(紙コンデンサ部分を特性要素とするもの)になった。「紙」を用いた「弁」作用による避雷器であることから、「紙弁」=Paper valve より、「Pバルブ避雷器」と呼ばれる。サージにより導通すると紙コンデンサの箔電極に穴が開いて続流遮断するとともに、この穴の数とそれぞれの穴の大きさを目視計測することにより、需要家の電源回路にどの程度のサージの影響があったのかを知ることができる簡易な「サージ計測器」としての機能を兼ね備えたものである。この避雷器の登場により、配電系統への雷サージの影響を簡易測定できるようになり、その後の配電系統の避雷設計に大きく寄与した。現在、JISからは外れたものとなっているが、諸特性の良さと簡易なサージ計測器としての役割から、製造・販売が続けられている。以下、汎用避雷器(低圧系統用)のJIS番号を示す。より詳しくはそれぞれの規格を参照されたい。その他、米国向け機器・システムなどに用いる低圧電源用SPDなどについて、2009年9月以降、UL要求を満たすのみならず、実際にULによって実施される試験に合格、認証されたSPD以外の使用、また併せてUL要求以外のSPDの「適用」についての禁止が始まり、2013年現在ではほとんどの州となっていること、また欧州各国もULに追従、CE、TÜVなどに規定し、使用禁止措置などが始まっていることから、欧米向け家電製品などを製造している製造者は注意が必要である。具体的詳細についてはUL1449(第3版)や当該国の国家規格などを参照されたい。避雷器には、いざというときには大電流をバイパス、自身は故障して他の部分や機器を保護する責務がある。このため「安全に故障する」ことは、避雷器の重要な性能である。従来、避雷器についてはその純電気的な部分、すなわち定格範囲においていかに電圧を抑制するかが常に重視され、定格を超えるサージ処理を行った際に生じる避雷器の爆発・発火などについてはこれを収める容器などによって対応するなどということがなされてきたが、雷サージの大きさが解明され、雷対策システム、すなわち避雷設備の中で、避雷器に処理させる雷サージの大きさが定まった現在、例えば2013年現在のUL規格では、一般家庭などで使う低圧用避雷器などについては、避雷器本体に、家電製品などと同じく防火安全などを考慮した規定が整備され、米国ではUL認証された避雷器以外の使用を禁じる州がほとんどになった。またULは避雷器のタイプ別使用方法なども規定し、これによる使用制限なども定めている。米国では法制度が整備され、専門資格者による雷対策システム設計・施工が行われることなどから今日、UL認証避雷器には通常の家電製品などと同じ、いわゆる製品保証が付属し、万一の場合には法による消費者救済もされる。日本には2013年現在、未だこのような公的第三者による安全審査・認証制度や、これによる強制力のある使用制限・禁止、消費者救済制度などはない。これは、欧米を中心とする諸外国では二次的な雷被害、すなわち雷サージによる人的・物的被害についても今日、法的に人災認定されるようになっているが、日本では例外的に一次的な落雷被害、例えば行事などで稲妻の直撃による死傷者が出た場合、行事主催者の管理責任を民事訴訟によって追及、勝訴した場合にのみ人災認定されるだけで、その他は全て不可抗力である天災と認定されることから「必要がない」ためである。しかし2009年以降、いよいよ米国向けの一般家電製品などで問題になってきたこと、また欧州各国も米国に準じCE、TÜVなどに規定して使用禁止措置などをとりはじめ、またこれらの規格を批准する多くの国々で同様の措置がとられはじめるようになり、このままでは日本製避雷器は日本国内のみでの販売しかできなくなることから、日本の避雷器製造者は対応を迫られている。しかしながら日本では上述「天災」を理由に、防火安全性など以前の問題として、本来求められる一般家庭の電源などにほとんど避雷器が普及しない(2006年時点で、避雷器付住宅用分電盤の出荷数は全出荷数の1 - 2%である)、つまり需要が海外諸国と比較して極端に少ない、また、例えばULで一般家庭にまで最も広く使う必要があるとされ、今日欧米ではその「適用」まで含めて厳しい規制対象となっている低圧電源用避雷器が、相当する強制力を持つ電気用品安全法の対象品目とすらもされておらず、結果JISは、「示されているだけのもの」=何ら強制力のないものになってしまっていること、さらにはUL、CE、TÜVなどの安全要求を満たすための根本基礎技術部分が、諸外国各社の厚い特許の壁に阻まれており、日本の避雷器製造者としては小さな通信回線用避雷器あるいは機器内蔵の小型のものなどはともかく、大電流回路で使う低圧電源用避雷器などについては、高コストになることを覚悟してまでUL、CE、TÜVなどの厳しい要求基準に適合、認証を受けて生産するメリットを見出せない。輸出販売機器に搭載できなくなったことから急遽、UL認証(UL1449 3rd)を受けた国産低圧電源用避雷器もあるが、2014年現在、それは日本では「JISクラスⅡ対応」などとして分電盤に搭載使用できるものとされているが、ULの安全基準では、TYPE4か5の最低ライン(UL認証SPDで「クラスⅡ」に相当するのは、普通、TYPE2である。)であり、海外ではせいぜい各電気機器単体の保護にまでしか使うことを許されておらず、結局は輸出できない、競争力を失ったお粗末な実態となってしまっている。 このような実態から日本雷保護システム工業会(JLPA)は、広報と併せ、不足している専門技術者の育成を図り、雷保護製品等の品質、性能等について社会的信頼性の向上を図るといった活動をおこなっている。またこのような実態(脚注記述したが、日本の一般雷対策の著しい遅れについて、海外の規格委員会などから手厳しい批判を受けるようにもなってきたことから)日本では、UL、JIS基準の適用設計とあわせてUL認証の米国メーカー製避雷器の保証付き販売、あるいはUL基準を導入、UL認証の避雷器を用い、UL、JISによる雷対策システム施工とあわせて消費者への製品保証サービスをする業者も登場している。また、あくまでも民間検定で法的効力はないが、特定非営利活動法人による「雷保護システム技能者」の養成なども行われるようになり、合わせて世界標準の、設計からアフターケアまで一貫した「人的システム」構築の模索が始まっている。雷対策技術は人命にかかわる重要な安全技術であること、また機器1個の対策であっても根本原因から探る、広く学問分野をまたいだものになることが普通であるため、海外諸国では電気工事士などとはまた別の専門資格制となっているところが多く、こういった国々では避雷器の選択は避雷システムの一部として専門資格者によりなされるが、日本では上述の通り、2013年現在でも公的専門資格制度などがなく、専門とする業者などの数も少ないことから、多くの場合、現場の技術担当者や機器メーカー担当者などに個別バラバラに任される状況にあり、それも実際に被害が発生してしまってからの対策となることがほとんど、いわゆる付け焼刃、基礎的な知識の不足による初歩的な失敗が多い。なお2013年現在、雷対策は技術的にはほぼ完成状態となり、このことから諸外国では主にUL、CE、TÜV、中国国家規格などに従った雷対策が実施されるようになったが、各規格ともに基本部分は同じ、日本を除き、世界の技術基準は2013年現在、統一されたとみなせる状況である。今日、各規格ともに計算式を示した詳細明確な規格となっており、詳しくは該当項目を参照されたいが、以下、UL、CE、TÜVより、おおまかな「流れ」を抜粋して述べる。原文からの翻訳とするが、個別用語については一部、日本で使用されているものと置きかえる。保護対象物のある場所の気象観測結果・過去の気象データなどより最大落雷電流値を想定(決定)、接地システムを含む各経路のインピーダンスより、最大の落雷が生じたとき、各経路に流れる最大サージ電流量を精確に算出する。既設建造物などで、既に落雷被害が生じている場合には加えて調査を実施、雷サージ経路を詳細に特定して計算する。各経路のインピーダンスは可能な限り、実測によって求めること。上述、算出された最大サージ電流に耐え得る遮断器を検討・選定する。電源系統の場合には続流遮断対策として、これに加えて給電システム(一般の商用電源の場合にはサービストランス、すなわち柱上トランスなど)の最大供給電流(短絡電流)を遮断できるものとしなければならない。適当となる遮断器がなく、続流によって周辺を破壊すると算定された場合には、はじめに戻り、各経路に流れるサージ電流量を遮断器の限界未満とすべく、接地系統などのいわゆる外部避雷システムの増強設計を行う。いかなる場合でも雷サージにより各経路に発生する高電圧が人体に影響を及ぼすことがあってはならない。また保護対象物の火災、保護対象機器の故障も生じさせてはならない。従って外部避雷システムを流れる雷サージが発生させる誘導電磁界により各導体に生じる電圧も考慮しなければならない。矛盾が生じた場合にははじめに戻り、接地系統などのいわゆる外部避雷システムの設計、建造物の設計全体とあわせて見直す。なお保護対象物が建物であって、その建物および建物内部の保護の場合には静電遮蔽を基本とすること。各経路に流れる最大サージ電流を処理するに足りるSPDを選択する。SPDは電圧抑制器であり、経路インダクタンスの影響を受けることから、経路インダクタンスを精確に求め、所定各タイプのSPDを使い分けて順に雷サージ電流を減じ、最終的に人体及び機器を確実に保護するものとすること。なお用いるSPDは別途、SPDに課される責務(防火性を含む)を確実に果たすことが、第三者によって証明もしくは認められていなければならない。すなわち避雷器の選択は最終であり、それ以前のシステム全体の検討・設計・施工が正しくなければ、その効果は期待できない。これには高度な専門知識を必要とする。日本では法、法解釈、また司法判断の全てにおいて、雷サージ被害は全て不可抗力の天災であり、専門資格はおろか強制力を持つ保安規定もなく、結果、雷被害に遭ったとしても(仮に死亡したとしても)全てユーザー責任である、さらに日本ではそもそも電気用品として避雷器なるものは存在しないことから、JISをもって規制できない=JISにある避雷器に関する諸規定はIECの原理的規格の直訳、すなわち「最低限規格」であるが、これすらクリアしていないJIS非適合の避雷器の販売・使用が自由である(欧米では今日、非適合の避雷器を単に販売しただけでも、事故となれば処罰対象となる。)、避雷器は法的には存在しないものであるから誇大広告などとして間接的規制もできない(日本国内の広告規制は国内法に従う。従って「日本国内法にないもの」は規制できない。)ため、いい加減な業者も居る、雷は電気的には地球上どこでも同じなのに、今日、JISとULなどの国際統一規格との間には大きな開きが出ているといったことから、自身の安全のため、まずは自身で今日、効果確実であることが証明され、国際的に当たり前となっている雷対策の概略を理解した上で、国際統一規格・要求に従うメーカーや施工業者(特にSPDを選択・使用する施工業者の選択に注意が必要。)を見極め、依頼する必要がある。なお、一般家庭などで汎用される小型避雷器に関する規格(海外諸国で法規制の根拠となっている規格。米国の例であるが、他国のものも内容はほぼ同じである。)としては以下のものが代表的であるので、詳しくは個別参照されたい。
出典:wikipedia
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