重粒子線がん治療(じゅうりゅうしせんがんちりょう、)とは、線量局在性の高い治療が可能という性質を持つことから、炭素イオン線でがん病巣をピンポイントで狙いうちし、がん病巣にダメージを十分与えながら、正常細胞の有害事象を最小限に抑えることが可能とされる最先端の放射線療法のうちの一つ。がん治療の三本柱のうち、外科手術および化学療法と比較して、X線を用いた放射線療法では「機能と形態の温存」や「治療にあたって身体的負担が少ない」という性質が長所として挙げられる。重粒子線治療では、表面線量が比較的高いエックス線、ガンマ線に比べ、陽子線と同様に体の表面での吸収線量を低く抑えられ、腫瘍組織において吸収線量がピークになる特性を有している(模式図参照)。こうした特長を活かし、照射回数と有害事象をさらに少なく、治療期間をより短くすることが可能とされていた。2016年1月に東芝が世界初となる超伝導磁石を使用した軽量・小型の重粒子線回転ガントリー装置を開発した。重粒子線の治療施設は世界に9箇所あり、その中で日本国内に5箇所あり、重粒子線や陽子線を照射するがん治療装置は東芝や日立製作所、三菱電機、住友重機械工業などが手がけ、この分野では国内メーカーが主導的な役割を担う。重粒子線そのものは陽子線と同様シンクロトロンを用いて発生させる。放射線医学総合研究所では、1994年6月より臨床試験を実施し、良好な治療効果が得られている。治療の対象となる代表的な疾患と共通の適応条件を次に挙げる。X線による放射線治療では根治的治療となりにくい骨軟部腫瘍に対して、重粒子線治療は治療効果が高いと見積もられている。そのことから、手術適応がないか患者が手術を拒否した場合の骨軟部腫瘍の重粒子線治療が2016年の診療報酬改訂で公的医療保険の対象となった。重粒子線治療はがんのある部位に狙いを定めて、ごく限られた範囲に照射するため、従来のX線などを用いた放射線治療に比べて、理論上、有害事象を低減することが可能である。重粒子線治療の黎明期には、最適な総線量や線量分割を模索する過程で、強い皮膚障害や手術が必要となる潰瘍や穿孔(せんこう)が認められたが、近年では重度の有害事象を起こさないように、線量を減じたり、照射法を工夫することにより、過去のような症状の重い有害事象はほとんど認められなくなっている。粒子線とは、光子を除く放射線のなかでも電子より重いものをいい、π中間子、陽子線、重粒子線などが含まれる。このうち重粒子線は、ヘリウム原子より重いものと定義されている。X線(γ線)、電子線、中性子線を用いる場合は、表面付近の吸収線量が最も大きく、深さとともに減衰するのに対し、陽子線や重粒子線では、表面付近の吸収線量が小さく、粒子の飛程の終端で最も付与する線量が大きくなるという特徴があり、この線量のピークをブラッグピーク(Bragg peak)という。陽子線ではブラッグピーク以深にはほとんど線量を与えないが、重荷電粒子の場合には、核破砕現象によりブラッグピーク以深にも線量寄与が存在し、これをフラグメンテーションテール(Fragmentation Tail)という。なお、核破砕に伴って放射性同位体が生成され、PET(Positron Emission Tomography)検査で観察することができる。また、陽子線と比較して、質量の大きい重粒子線は、物質内での散乱が小さく、腫瘍組織とその周辺の正常組織に対する線量のコントラストを高めることによる物理学的効果に加え、同じ物理線量の陽子線やその他の放射線と比べると、重粒子線の線エネルギー付与(linear energy transfer: LET)が高く、生物学的効果比(relative biological effectiveness: RBE)(細胞に対する影響)が大きいという特徴がある。この特徴から、脊索腫や直腸癌の局所再発などの通常のX線照射で制御が困難な腫瘍に対しての効果が期待されている。上記の優れた特性から、メスを入れずに、腫瘍組織に選択的に線量を投与できる一方で、近接する正常組織への被曝を抑えることが可能であり、機能・形態の温存や、有害事象の低減が期待される。治療のための照射回数を減らす(寡分割照射)ことができ、早期社会復帰が可能となる、といったクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の面からの長所がある。治療用重粒子線は加速器を用い、重粒子を最大で光のおよそ70%のスピードに加速して体の外から照射し、2、3分で終了する。重粒子線が照射されている間に、痛みや熱感などを感じることはない。照射回数は、それぞれのプロトコールによってきめられている。従来の重粒子線がん治療装置では固定照射装置が標準だったが、患者の負担を軽減し、最適な方向から腫瘍に重粒子線を照射するために360°任意の方向から照射できる装置が必要で回転ガントリーに搭載可能な超伝導電磁石が開発され、これにより普及可能なサイズ(直径11m、長さ13m)の陽子線ガントリーが実現して、3次元スキャニング照射装置とX線呼吸同期装置を搭載することによって、腫瘍周辺の動きを直接観察し、腫瘍に対する正確な照射ができるようになった。ブラッグピークの幅は極めて狭く、腫瘍の厚みに応じて、深さ方向にブラッグピークを拡大する必要があり、拡大フィルタなどを用いて拡大したピークを、拡大ブラッグピーク(Spread Out Bragg Peak: SOBP)という。さらに、ボーラスを用いて、線量投与する深さを調整する。また、ビームを横方向にも拡大する必要があり、二重散乱体法、ワブラー法などが用いられる。スポットビームで腫瘍を三次元的に走査する照射法もあり、これを用いると正確に腫瘍の形に合わせて照射することができ、さらなる有害事象低減のための技術として期待されている。放射線医学総合研究所が治療開始した1994年から、2010年7月までの統計で見た登録患者数は5497名となっており、これは世界一となっている。独立行政法人放射線医学総合研究所では、巨額の国費を投入してHIMACと呼ばれる専用装置を世界で初めて開発し、臨床試験を1994年6月から行っている。2003年11月からは先進医療として運用されているが、治療を希望する患者に対する受入れ能力の制限や、高額な患者負担などが本格的な普及に向けての大きなハードルとなっている。また施設側も高額な設備の維持費が負担となっている。日本放射線腫瘍学会の調査では、前立腺がんなどにおいてエックス線による治療と比較し、優位性が確認できなかったという報告が示された。理由としては、治療計画に統一性がなく施設ごとに異なっていることや症状や年齢の違いにより、統計学的に有意なデータが得られなかったためとされる。
出典:wikipedia
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