トリクルダウン理論(トリクルダウンりろん、)とは、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」とする経済理論または経済思想である。均霑理論(きんてんりろん)とも訳される。しかし、実証性の観点からは、富裕層をさらに富ませれば貧困層の経済状況が改善することを裏付ける有力な研究は存在しない。OECDによる実証研究では貧富の格差の拡大が経済成長を大幅に抑制することが結論づけられている。「トリクルダウン理論」という名前はアメリカのコメディアンであるウィル・ロジャースの"money was all appropriated for the top in hopes that it would trickle down to the needy."という発言に由来する言葉であるとされる。「トリクルダウン(trickle down)」という表現は「徐々にあふれ落ちる」という意味で、大企業や富裕層の支援政策を行うことが経済活動を活性化させることになり、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、国民全体の利益となる」とする仮説である。新自由主義の理論によれば、ジニ係数が上昇したとしても、自由競争と国際貿易によって貧困層も含む全体の「所得が底上げされる」と考えられていた。所得税や法人税の最高税率引き下げなど、主に大企業や富裕層が己の既得権益の擁護・増大を求める根拠として持ち出されている。OECD(経済協力開発機構)によって発表された貧富の格差と経済成長に関する実証研究では、次のことが結論づけられている。以下にその結論を引用する。なお、注釈は引用者によるもの。トリクルダウン理論の考え方は、「全体の利益が増える方向の変化であれば、たとえその変化によって一部の人が損を被るとしても、そのような変化は望ましい」とする「ヒックスの楽観主義」のような考え方に拠っている。というのも、変化は一度限りではなく様々に何度も起きるので、ある変化によっては損を被るとしても、別の変化によって利益を得る可能性が高く、全体の利益が増える変化が続くのであれば、最終的にはほぼ全ての人にとって変化を拒絶した場合よりも良い状況を達成できている可能性が高いからである。経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは「トリクルダウン効果により、経済成長の利益は自動的に社会の隅々まで行き渡るという前提は、経済理論・歴史経験に反している」と指摘している。経済学者の神野直彦によると、トリクルダウン理論が有効となるには「富はいずれ使用するために所有される」、「富を使用することによって充足される欲求には限界がある」という二つの前提が成立しなければならないが、現代では富は権力を得る目的で所有されているので理論は有効ではない、とされている。トリクルダウン理論は、発展途上国のように一般市民の所得が圧倒的に少なく一般市民の消費が国内経済に大して貢献しない場合、もしくは人口が少なくて国内市場規模が小さい小国家の場合は現在も有効である。ただ、先進国や人口が一定の規模を超える国々では一般市民の消費が国内経済に大きく貢献している為、トリクルダウン理論は必ずしも有効ではない。近代国家は経済構造が複雑化しており、「富は必ず上から下へ流れる」といった単純な概念は当てはまらないのである。トリクルダウン理論は、一般市民の消費が企業を支え、経済を回し、国家を成り立たせ、「富が下から上へ流れる」という状況を想定できなかった時代の理論ともいえる。政治経済学者のロバート・B・ライシュは、一部の富裕層が消費するより、分厚い中間層が消費するほうが消費規模は拡大すると主張している。2014年12月にOECD(経済協力開発機構)が発表した報告書では、OECD加盟国における富裕層と貧困層の所得格差が、過去30年で最大となり、上位10%の富裕層の所得が下位10%の貧困層の9.5倍に達していると指摘。「所得格差は経済成長を損ない、所得格差を是正すれば経済成長は活性化される」とし、トリクルダウン効果を否定。また、経済成長に対するマイナスの影響は下位40%の所得層においても見られ、教育や医療などの公共サービスを充実させるよう提言している日刊ゲンダイによると、2016年1月1日放送の「朝まで生テレビ!」で竹中平蔵は「滴り落ちてくるなんてないですよ。あり得ないですよ」と述べたとされている。アメリカのロナルド・レーガン大統領の経済政策「レーガノミクス」は実行に移され、実際に景気や失業率は改善したが、財政赤字は爆発的に膨張しビル・クリントン政権まで解消されなかった。また、この時期には景気が回復されたが、何が真の景気回復の要因となったかについては議論が続いている。1990年代までは所得の底上げが生じ、アメリカの下位20%に位置する世帯の実質所得の変化をみると、1970年代には2%弱の増加にとどまっていたものが、1980年代には7.3%、90年代には12.2%増えている。しかし、2000年代に入ると上昇がストップし、2009年の水準は2000年対比8.4%も減少し「トリクルダウン」効果が消滅した。経済学者の野口旭は「日本銀行が唱える『ダム論』はある程度までは妥当性があると考えられる。しかし、現在(2001年)の日本では、企業がどんどん賃金を下げ、労働者を解雇・リストラを進めていることによって企業の収益が改善したとも考えられる。企業収益の改善が、名目賃金の改善に結びつくとは必ずしもいえない。名目賃金が下がっていけば、将来不安が起きる。これでは、企業の収益が拡大しても、個人消費につながらない」と指摘している。「(安倍政権の大胆な金融緩和策は)資産価格の上昇を通して、大企業・資産家だけが儲かるだけで、庶民にまでは景気回復は実感されない」との議論について、経済学者の飯田泰之は「いかなる時代でも経済の上昇局面では、最初に資産価値が反応する。その動きが波及して景気が好転していく。これはトリクルダウンという経路の話をしているのではない。景気回復の初期に恩恵を被るのはビジネスの最前線に近い人で、多くの人が景気回復を実感するのには時間がかかるのが当たり前のことである」と指摘している。経済学者の浜田宏一は「アベノミクスの第1期については、トリクルダウンであるのは事実である。まず輸出産業が良くなりその後、株価の上昇によって最初に利益を受けたのは外国人を含めた金持ちの投資家だった。次に時間外賃金の上昇といった形でパート・アルバイトの労働市場に波及した。単純労働者の賃金が上がっていくような技術進歩の過程にないため、トリクルダウンの成果は遅いが、日本も明るさが見えてきて、庶民にも経済成長の恩恵が降りてきている。つまり、第1の矢によるトリクルダウン効果がより具体的に現れて国民生活を潤している」と指摘している。経済学者の田中秀臣は「安倍政権の法人税減税・設備投資減税によって企業の余剰を生み、社員の賃金にまわすように誘導しようとする政策は『トリクルダウン政策の一つである』」と指摘している。エコノミストの片岡剛士は「完全失業率・求人倍率の改善や、パート時給の上昇でも明らかなように、『上から下へ』ではなく『上と下から中間層へ』の景気回復になっている。上からのおこぼれ・施しではないという現実は理解されるべきである」と指摘している。経済学者の若田部昌澄は「アベノミクスはトリクルダウンという批判は間違いである。それは、ポール・クルーグマンやジョセフ・E・スティグリッツなどリベラルな経済学者たちがアベノミクスの方向性を基本的には支持していることから言える」と指摘している。若田部は「金融緩和の初期段階でブラック企業の収益が下がり、輸出企業の収益が上がるという効果もある。観光客も増加し、旅館・ホテルも潤っている。『トリクルダウン』ではなく、田んぼに水が広がるイメージである」と指摘している。2014年の新語・流行語大賞の候補50語に「トリクルダウン」が選出された。2015年1月28日、安倍晋三首相は、「安倍政権として目指すのはトリクルダウンではなく、経済の好循環の実現であり、地方経済の底上げだ」と国会において答弁し、以後安倍政権の経済政策および安倍を支持するエコノミストたちはトリクルダウンという言葉を用いなくなった。経済学者の田中秀臣、安達誠司は「アメリカ型の成果主義がもてはやされる理由は、一部のエリート・サラリーマンが業績を伸ばすことによって、組織全体がその成果の果実を享受できるという『したたり効果(trickle-down)』の考え方が前提にある。しかし、このような『したたり効果』は、組織メンバーのモラル低下を生み出す可能性もある」と指摘している。
出典:wikipedia
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