酒米(さかまい)は、日本酒を醸造する原料、主に麹米(こうじまい)として使われる米である。正式には酒造好適米もしくは醸造用玄米と呼ばれ、特有の品質が求められるため、通常の食用米や一般米とは区別される。使用される種類や方法には、近年注目すべき変化がある。1951年以降は正式には酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)といい、公的な統計で使われる農産物規格規程(農産物検査法)の醸造用玄米(じょうぞうようげんまい)に分類される品種を指し、一般米と区別されるようになった。心白米(しんぱくまい)と呼ばれることもある。イネ科でほとんどがジャポニカ米である。酒造適正米に関しては「酒の原料に使われる一般米」参照。同じ米でも、家庭の炊飯器などで調理して食べる食用米に比べ稈長(稲の背丈)は高くなり、穂長(稲穂の長さ)も長いのが通例である。しかし、風の強い地方では倒れにくいように、品種改良によって稈長も穂長も小さいものが次々と作られている(「都道府県開発の酒米」参照)。一般に米の粒が大きい。これは中央部の心白を出すため精米しやすい大きさでもある。このことは専門的には「精米特性が高度精米/高度精白に耐えられる」などと表現される。食用米のように粒が小さいと、深く精米するとすぐ砕けてしまうからである。心白(「構造」参照)が大きく、タンパク質の含有量が少ない。また、磨きこんでも砕けることがないよう粘度が高く、醪によく溶ける。その品種の心白の大きさは心白発現率(%)で表される。食用米と同じように、気候・土壌などそれぞれに好適な栽培環境があること(現地適応性)も重要な性質の一つで、同種であっても産地によって品質の違いが生まれる。ゆえに、たとえば山田錦のように人気の高い品種には、栽培地によって特A地区、A地区などと栽培地区分が存在する。酒への醸造のしやすさのこと。「醸造適性が高い」などと表現される。「醸造適正」「酒造適性」などと書かれることも多い。内容としては、心白発現率の大きさ、精米特性の態様、製麹性すなわち麹への造りやすさ、破精込み(はぜこみ)の良し悪し、蒸米吸水率、粗タンパク質含有率などが挙げられる。米が豊作の年には、米の質の関係から、醸造に失敗しやすい事もある。これは豊作の年の米が比較的硬いため、酒を造る時に米が溶けにくく酵母が充分繁殖するのに時間がかかり、その間に雑菌が繁殖してしまうためだとされる。大正4年(1915年)には、この現象(後に「大正の大腐造」とも呼ばれたという)により日本各地で醸造に失敗、酒造業全体に深刻なダメージを被ったとされている。反対に、不作の年は、酒を造る杜氏の大半が農家出身であるために、不作の年は貴重な米を特に大切にしてていねいに酒を造り、不作の年は米が軟らかいために、酒の醗酵が早まりやすくなるものの、それを抑えるために低温で仕込むので非常に良い酒ができやすいとされる。米粒の中心部にある白色不透明な部分を心白(しんぱく、蔵言葉では「目ん玉」などと称される)という。デンプンから成っている。この部分は細かい空隙を含んでいて光を反射するので不透明になる。またこの空隙に麹菌が入っていって醗酵することも、酒造りにおいて心白が好まれる一因である。逆に、精米の工程で削り落とされる外殻部は、デンプンだけでなくタンパク質や脂肪を含んだ混合体なので、空気が入っても光を透過するから白色透明である。醸造適性の大きい(酒に造りやすい)酒米の条件とは、などである。酒造りにおける醸造工程では、麹菌と酵母がデンプンと水をアルコールと二酸化炭素に変えていくので、米に含まれるデンプン質が重要視される。米粒の含むその他の成分、すなわち食用米の旨みの素となるタンパク質や脂肪は日本酒にとっては雑味の原因となるため、酒米もこれらの成分ができる限り少ないことが望ましいとされることから、酒米には食用米の旨み成分がほとんど含まれていない。また酒米は心白の空隙が多いゆえに炊飯するとパサパサした食感になりがちで炊き方も非常に難しく、たとえ特A地区山田錦のように高価な酒米を炊飯しても美味には仕上がりにくいことも、酒米が食用のうるち米と区別される理由になっている。またこれゆえに酒米として用いる米は、 糠などの外殻部を食用米の場合よりも大きく削り落とす。この工程を酒造りの用語では「精米する」、あるいは平たく「米を磨く」「削る」と表現する。元の米粒の大きさや重量に比べてどれくらいまで外殻部を削り落とすかが、精米歩合(単位: %)として示される。精米歩合とは磨かれて残った割合を示すものであり、数値が低い程磨きがかかっていることを指す。ちなみに精白度という呼び方もあるが、こちらは逆で磨いた割合を示すもので、数値が高いほど磨かれていることとなる。その品種の一粒に対して、心白がどのくらいの大きさを占めるかを%で表したもの。たとえば「美山錦」で20%程度、「蔵の華」で9%程度とされる。1998年(平成9年)以前は、すべての酒造好適米において心白は「粒の平面の1/2以上の大きさ」と規定されていたが、多用な新種の開発にともなって同年、食糧庁検査課長による通達により「品種固有の特性をふまえ、形質全体で判断する」という内容へ規制緩和された。一般に山田錦が「酒米の王者」などといわれてもっとも尊重され、各蔵が鑑評会へ出品する酒は山田錦で造ったものが多い。また鑑評会においては山田錦の酒米としての有利性を考慮し、山田錦の使用率が50~100%である製成酒については、第II部といって出品部門を別にしている。このような背景もあってか、酒造関係者のあいだでは俗に「YK35」といって、「(Y)山田錦を使い、(K)きょうかい9号酵母を用い、(35)精米歩合35%まで高めれば、良い酒ができて鑑評会でも金賞が取れる」などと公式めいた言葉が流行したことがあった。もちろん実際の酒造りはそんな単純なものではない。とくに1980年代以降、各都道府県の特性を生かした酒米が多く開発されてきている。(「都道府県開発の酒米」参照)。五百万石、美山錦、八反錦のように国際市場を含めて高い評価をおさめる種類も増加している。ゆえに、まだまだ山田錦の名声は根強いものの、「山田錦でなくては良い酒は造れない」といった価値観は過去のものとなりつつあり、いろいろな米からそれぞれの米の特質を生かし、いろいろな味や香りの酒が造られるようになってきている。こうした酒米の種類の多極化は、精米歩合の技術にも変化を与えている。たとえば、熟成した仕上がりに強い山田錦は35%まで精米して、ようやく心白に迫るような粒の大きさであるため「YK35」などとも言われていたのであるが、逆にフルーティな仕上がりに強い五百万石は粒が小ぶりであるため、35%まで削ると砕けてしまう恐れが大きい。すると自然と、精米歩合はその前で止める数字となっていくのである。大吟醸をはじめとした特定名称酒の定義は、精米歩合とも密接に関連しているために(「特定名称酒」参考)、上述した事実から「この酒米の種類では大吟醸はできない」といった議論がなされることがあるが、上記のような理由から、それは必ずしもその酒米の良し悪しを序列化するものではない。大正年間まで一般的な酒米であったにもかかわらず、昭和初期における精米技術の劇的な変化や国情不安などによって、もはや「絶滅」してしまった酒米の種類も多い。(参照:「日本酒の歴史-大正時代」)しかし種籾や籾殻などがわずかでも残存していたものは、バイオテクノロジーなどの力も借り、何年かにわたる育種を繰り返し、酒造りに足るだけの収量を得ることで酒米として復刻され、再び徐々に出荷されているものもある。こういう品種を復刻米(ふっこくまい)という。近年、復刻された品種としては次のようなものがある。従来より数種類の酒造好適米を混ぜて日本酒を造ることが多いが、単一の米種を使う酒蔵が増えてきているのも最近の傾向である。このように単一種の酒米から造った日本酒を、蔵言葉では「単米酒(たんまいしゅ)」あるいは「一米酒(いちまいざけ/いっこめざけ)」などと呼ぶ。鑑評会では第I部、すなわち「山田錦以外の品種を単独使用、または山田錦の使用割合が原料の50%以下」の完成酒に区分される。このような方法で造り、用いた酒造好適米をラベルに明記した先駆けは、高木酒造の『十四代』とされているが、最近では多くの蔵がこの方法を採用し、米種以外の条件を揃えて消費者の米種別の嗜好を模索したり、それぞれの米種にあった醸造法が研究されたりしている。また単米酒の出現は、必ずしも複米酒(ふくまいしゅ)すなわち単米酒でない酒の品質を低めることを意味しない。複米酒は蔵元のコンセプトにより、往々にしてその味を出すためにわざわざその割合で、複数の種類の酒米をブレンドしているからである。ブレンドの概要はたいてい裏ラベルなどに表示されている。酒の原料として米をとらえるならば、麹米、酒母米のほかに、醪(もろみ)を仕込むときに加える掛け米がある。従来、掛け米には一般のうるち米が使用されることが多かったが、2000年代初めでは掛け米にも酒造好適米を使う酒蔵も増える傾向にある。麹米、掛け米などにどういう種の酒米を用いているかは、裏ラベルに表示されている場合が多い。米は1俵=60kgであり、稲作農地(田んぼ)は面積1反を以って基本単位とするが、平均的な食用米が1反につき10俵近く獲れるのに対し、平均的な酒米は4~7俵ぐらいしか獲れない。無理に収量を増やそうとすると、1反あたりの土壌の養分の量は決まっているので、獲れる米の質が落ちる。化学肥料を使って土壌へ人工的に養分補給を行うことは可能だが、獲れる米は有機栽培に比べて脆くなり、やはり質が低下する。そのため、基本的に収量と米質は反比例の関係にあると言ってよい。それぞれの品種の酒米において、個々にそうした反比例が成り立つため、上級品種だからといって必ずしも下級品種よりも良い米質であるとは限らない。わかりやすい例を出せば「酒米の王様」と呼ばれる山田錦も、どの土地で・どの土壌で・どの農法で・どの篤農家によって栽培されたかによって、品質はピンからキリまである。たとえば雄町は、元来たいへん優れた品種であったがあちこちで収量を増やしたために品質が落ちた。平均的な酒造好適米の価格は1俵あたり14,500円程度、平均的な山田錦は1俵17,000-18,000円程度、1反で4.5俵しか獲れないような高品質な山田錦になると1俵40,000円程度であるが、もちろん毎年の米の作柄などによっても変動する。現在は、酒蔵が酒米を作る篤農家と契約栽培を結ぶときには、酒米の質を落とさないために、できた米1俵単位で契約するものではなく、はじめに田の面積1反あたりいくらで契約するのが通例である。その方が、農家にとっても1年の収入が保証されているので安心して酒米作りに専念できるからである。収穫直前の台風などで稲が倒れた場合は、稲を起こせば何とか収穫できる程度の損害であっても、篤農家は酒米作りの名人としてプライドがあるため米を蔵に売らない。その場合は蔵としても原料調達にコストをかけることになるので、そういう酒造年度は当然酒の値段が上がる。たいていプライス・リーダー的な酒蔵から値段が上がっていく。その年々の気候を思い返しながら、翌年に出回ってくる酒の値段を読むのも興味深いものがある。食糧管理法の時代は、収量の大きい米の栽培ばかりが促進されたために、多くの優れた酒米が絶滅した(参考:昭和時代後期)。また1980年代ごろまでは、ほとんどの蔵(酒造メーカー)は農協などから一括して酒米を買い入れ、これを精米し醸造していた。こうした農協経由では「1俵につきいくら」という売買になった。それが、一時期酒米の質が落ちていった原因の一つといわれている。またこれでは、杜氏が自分がめざす酒質に適合した酒米をとことん追求できなかった。こうしたいわゆる「顔の見えない」流通形態が、昭和後期以降の日本酒の消費低迷を招いた一因ともなっていった。その反省から、1990年代以降は自前の酒米用農地(田んぼ)を持ち、春から秋にかけては米作りを、秋から春にかけては酒造りをおこなう蔵や、酒米作りを専門とする農家と栽培契約をむすび一体化した生産体制に切り替える蔵が急増している。この形態を農醸一貫などといい、自ら稲作も兼ねている酒蔵を自栽蔵、もしくはブドウから栽培するフランスのワイン農家になぞらえてドメーヌ蔵などという。それだけ原料である酒米へのこだわりが強くなり、酒は米から造る時代になってきたとも言われるわけだが、歴史的にみれば大正時代以前の生産形態へ回帰しているともいえる。「酒を造る米」イコール「酒米」と考えることはできない。なぜなら日本酒の原料として、醸造用玄米に分類されない一般米、すなわち農産物規格規程で水稲うるち玄米に分類される品種からも日本酒は造られているからである。これら一般米は、たいてい酒造好適米より安いので普通酒などには多く使用される。しかしたとえ廉価で醸造適性の低い一般米からでも、杜氏の技量によっていくらでも優れた完成酒が製成されているという事実は特記されてよい。「この味にしてこの原料米」というのは、逆に杜氏の技量を評価する一つの尺度ですらある。以下は、酒造好適米には分類されないが、酒の原料米とされることでよく知られている品種である。一般米・食用米とみなされることを避けるために、酒造適正米と呼ばれている品種もある。古くから自然に存在する在来種ではなく、人工的に開発された品種のうちで、農醸一貫の酒蔵が製成酒の目標とする酒質にあわせて自社交配したり、その他民間会社や教育機関が開発した酒米の品種をさす。農林水産省の管轄であった農業試験場で開発された酒米の品種をさす。現在は独立行政法人に所管が移されている。国の農業政策の一環として開発された初雫、美山錦などがこれにあたる。ここでは、都道府県の試験研究機関、すなわち農事試験場、醸造試験所などで、気候や土壌を初めとした、それぞれの都道府県の自然条件を生かすように開発された酒米の品種をさす。同じように都道府県開発の清酒酵母とあわせて使用することを、開発の段階から想定もしくは理想としている場合が多い。地産地消が求められる中、清酒酵母とともに、現地適応性を持った酒米の開発は、それぞれの都道府県にとって地元産清酒の品質向上、ひいては地域経済活性化や地場産業建て直しの重要な鍵を握っている。このため、新しい品種の開発は1990年代からとみに盛んになり、平成18年(2006年)には酒米の産地品種銘柄を持っていないのは東京都、鹿児島県、沖縄県のみとなった。ただし、開発された酒米は必ずしも各県内のみに流通するのではなく、他県で使用されることもあれば、他の品種と交配して、その地方内外に適応する新たな品種の開発のための交配親となることも多い。開発のコンセプトとしては、次のような観点から気候や土壌などそれぞれの土地柄に合っていること、すなわち現地適応性が模索される。都道府県は主要農作物種子法にもとづき、都道府県の農業試験場等で酒米品種の奨励品種決定のための試験を行い、優良な品種を農業者に対して栽培を奨励するのが通例である。具体的には、栽培技術の指導が施されたり、都道府県から助成金・補助金などが給付される。また、その土地の自然環境に適した栽培種であることが認められると、農林水産省が農産物検査法に基づき、その都道府県もしくは産地ごとに産地品種銘柄に指定する。米においては、酒造好適米(醸造用玄米)、水稲うるちもみ、水稲もちもみ、水稲うるち玄米、水稲もち玄米、の種類ごとに設定される。都道府県奨励品種と異なり、産地品種銘柄は、複数の都道府県のブランドとして指定されることも多い。たとえば平成18年(2006年)時点で「山田錦」は28府県で産地品種銘柄に指定されている。以下は、原産地の都道府県によって分類した、主な酒米(酒造好適米・酒造適性米を含む)の一覧と概要である。より詳しく参照するときは、それぞれの項目のリンクをたどられたい。複数の都道府県で栽培されている場合には、原則として原産地都道府県の項に配した(例:28府県で産地品種銘柄に指定されている山田錦は原産地の兵庫県の項に)。ただし、いったん絶滅した復刻米などの場合で、なおかつ現存するのが復刻地の尽力に負うことが顕著である品種は復刻地都道府県の項に配した(例:神力は兵庫県原産で、現在も兵庫県でも栽培されているが、復刻栽培した熊本県に)。親本が併記されている場合は原則的に「母本/父本」の順である。江戸後期に宮水が発見されてから、灘五郷を中心として酒作りの中心地となった同県は、明治時代から酒米の開発を盛んに行っている。なかには太平洋戦争を辛くも生き延びて、戦後に日の目を浴びた品種も多い。夢一献(ゆめいっこん)
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