カルダン駆動方式(カルダンくどうほうしき cardan jointed drive)とは鉄道における駆動系の一種で、動力源をバネ上に配置し、自在継手(ユニバーサル・ジョイント)を介して車軸側の歯車装置を駆動する方式の総称である。実用化された当初は自在継手にカルダンジョイントが採用されたことからこのように呼ばれるが、慣用的にはWN継手や撓み継手など、カルダンジョイントとは異なる形式の自在継手を採用する場合も「カルダン駆動方式」と呼ばれている。カルダン駆動方式を採用した電車では、モーターの重量が全て台車の軸ばねを介して輪軸に掛かっているため、モーターの重量の半分が輪軸に直接に掛かる吊り掛け駆動方式と比べて、軸ばね下の重量であるばね下重量が小さい。これにより、線路のうねり(ピッチング)やねじれ(ローリング)といった変化に対する車輪の追従性が高く、より安定した走行性能が得られる。レールの継ぎ目を通過する際などに発生する衝撃に対しても、衝撃を直接受ける重量が小さいことから騒音や乗り心地も改善される。モーターが衝撃や振動を直接受けないことから、これらに対するモーターの耐性を低く設計して小型化できる。あるいは同等の大きさでより動力性能の高いモーターを利用できる。モーターを軸ばね上の構造に固定するためには、車輪の上下動に追従しないモーターからの動力を伝達する部材が揺動して車輪とモーターの相対位置を吸収する必要があり、このための機構が自在継ぎ手である。単に動力伝達軸の角度が変化するだけでは不十分で、軸方向の長さも変化可能な軸構造を必要とする場合もある。吊り掛け駆動方式に比較すると、これらの機構を追加することになるため部品コストや動力伝達軸の強度や振動特性などの設計検討を行う必要性は増えることとなる。この方式で利用される自在継手である「カルダンジョイント」の名称は、その原型を考案したイタリアの数学者、ジェロラモ・カルダーノ(Gerolamo Cardano、1501-1576)に由来する。カルダンジョイントは入出力軸の間に角度差があると、角速度が一定にならない「非等速」あるいは「不等速」ジョイント(等速ジョイントの英語版記事 = CVJ などを参照)であるが、2つのジョイントを90度位相をずらして使用し、中間の軸には角度があっても、入出力軸(の延長線)が並行であればかなり緩和される。さらに鉄道車両の駆動システムは、例えば自動車の前輪駆動機構などと異なり、大きな角度にはならずそのような状態を常用もしないため、重大な問題にはならない。1887年以降、電車の駆動方式は吊り掛け駆動が一般的であった。この方式は、当時においては実用上優れた方式であったが、モーターがバネ下重量となるためモーターに車輪からの激しい衝撃が加わることや、ギヤの歯面形状や遊間に起因する大きな駆動音など、いくつかの根元的問題を抱えていた。この問題を解決するには、ばね上の台車側にモーターを固定し、何らかの方法で車軸に動力を伝達する方式への転換が必要である。吊り掛け駆動が登場する以前には、チェーンによる伝達も試みられていたが、これは信頼性の面からみれば問題外で、自動車産業の発展により自在継手による動力伝達が可能になったことで実用化を見た。最初に登場したのは、ベベルギヤと自在継ぎ手を組み合わせた直角カルダン駆動で、2軸単車の路面電車用として1910年代にはドイツで使用され、1920年代のパリの路面電車では主流となっていた。軸距が短いボギー台車用の開発は1920年代にアメリカ合衆国で行われ、ウォームギヤと自在継ぎ手との組み合わせに改良されたものが、路面電車車両での試用が行われた後、1930年代中期に本格的な製造がはじめられたPCCカーの駆動方式に採用された。アメリカでのばね上装架電動機用駆動装置の開発においては、並行してWNドライブの開発も進められた。直角カルダン駆動と同じく、路面電車で試用された後、1941年にシカゴ北海岸線のエレクトロ・ライナー型高速急行電車に採用され、第二次世界大戦後、ニューヨーク市地下鉄などでの本格的な採用が行われるようになった。また同時期にスイスのブラウン・ボベリ(BBC)社がBBCディスクドライブとして撓み板による継手を用いた駆動装置を開発している。ヨーロッパではイタリアのETR200型特急電車に採用されたのが長距離高速電車に採用された最初の例である。1951年頃から、主要私鉄および重電メーカー・車両メーカーの協力によって、既存車両の駆動装置を改造する形で研究が進められた。1952年には国鉄の電気式気動車キハ44000形で初めて直角カルダン駆動方式の45kWモーターが試験的に採用された。44000形の系統に属する電気式気動車は1953年までに30両が製造されており、一般の電車に先駆けての大量導入であったが、1958年頃までに液体式変速機への改造で廃されており、定着には至っていない。私鉄電車では1953年3月竣工の東武鉄道5700系5720番台車(直角カルダン搭載)と同年7月竣工の京阪電気鉄道1800型(中空軸平行カルダンおよびWNドライブ搭載)が新製車としての初期の例であるが、いずれも半ば先行試作的なものであった。ただし、様々な不調に苦しんだ東武5700系5720番台とは異なり、京阪1800型は完成後直ちに営業運転に充当されており、日本の電車としては最初の実用化成功例となっている。大量に製造された最初の例は、アメリカのWH社などから最新技術を導入して1953年から製造された営団地下鉄(現・東京地下鉄)300形(WNドライブ搭載)である。路面電車では同じく1953年の東京都交通局5500形電車(WNドライブおよび直角カルダン搭載)が最初となった。また5500形と同年に大阪市交通局3000形も直角カルダン駆動車として落成した。日本に於けるカルダン駆動の元年となった1953年に同方式を本格採用した鉄道車両は上記の5社5形式のみの採用であったが、翌1954年以降に大手私鉄を中心に急速に一般化、一般電車への採用が遅れていた国鉄も1957年のモハ90系電車(のちの101系)でカルダン駆動方式に移行している。1960年代以降は、日本国内向けに新製されるほとんどの電車がカルダン駆動方式を用いるようになり、21世紀初頭の現在では吊り掛け駆動方式をほぼ駆逐している。移行の詳しい経緯は吊り掛け駆動方式の項目を参照。近年の傾向として、VVVFインバータ制御と誘導電動機の組み合わせの普及の結果主電動機の小型化並びに高出力化・高回転化が推進されたことから、中実軸の電動機を用いるWN式、TD継手式のいずれか(事業者によっては両者を併用)が主流となりつつある。
出典:wikipedia
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