数学における位相空間(いそうくうかん, )とは、集合にある種の情報(位相、)を付け加えたもので、この情報により、連続性や収束性といった概念が定式化可能になる。位相空間論は位相空間の諸性質を研究する数学の分野である。位相空間は、前述のように集合にある種の情報(位相)を付け加えたもので、この情報により、例えば以下の概念が定義可能となるこれらの概念の多くは元々距離空間のような幾何学的な対象に対して定義されたものだが、位相空間としての性質を満たしさえすれば、解析学や代数学の研究対象に対してもこれらの概念を定義できることに位相空間の概念の利点の一つがある。これにより、位相空間の概念は、幾何学はもちろん解析学や代数学でも応用されており、位相空間論はこうした数学の諸分野の研究の基礎を与える。別の言い方をすると、位相空間の概念の利点の一つは、解析学や代数学などの研究対象に幾何学的な直観を与えることにある。このような観点からみたとき、位相空間論の目標の一つは、ユークリッド空間など幾何学の対象に対して成り立つ諸性質を解析学などにも一般化することにある。従って特に学部レベルにおいては、位相空間論で考える性質の多くは、ユークリッド空間などの幾何学的な対象では自明に成り立つ(例えば各種分離公理や可算公理)。こうした幾何学的な性質をいかに抽象化してより一般の空間へと拡張するかが位相空間論では問われる。位相空間の概念自身は非常に弱く、かつ抽象的に定義されているため、数学の様々な分野で広く応用可能である。しかしその分個別の用途では必要な性質が満たされないこともあり、例えば位相空間では必ずしも点列の収束の一意性は保証されない。そこで必要に応じて、位相空間にプラスアルファの性質を付け加えたものが研究対象になることも多い。前述した収束の一意性は、位相空間に「ハウスドルフ性」という性質を加えると成立する。学部レベルの位相空間論の目標の一つは、こうしたプラスアルファの性質の代表的なものを学ぶ事にある。位相空間となる代表的な空間としては、ユークリッド空間をはじめとした距離空間がある。(なお、距離空間は必ず位相空間になるが、逆は必ず正しくない)。しかしユークリッド空間など多くの空間では、位相空間としての構造は距離空間としての構造よりも遙かに弱いものになっており、距離空間としては異なっても位相空間としては同一の空間になることもある。例えばユークリッド空間をゴム膜のように連続変形したものは、元のユークリッド空間とは距離空間としては異なるが、位相空間としては同一である。実際、点列が収束するか否かという位相空間の代表的な性質は、ユークリッド空間をゴム膜のように連続変形しても不変である。この例でもわかるように、連続性や収束性といった概念を考えるときには、距離空間の概念は柔軟性に欠けるところがあり、位相空間というより弱い概念を考える積極的動機の一つとなる。他にも例えば多様体を定義する際には複数の距離空間(ユークリッド空間の開集合)を連続写像で「張り合わせる」(商空間)が、張り合わせに際して元の空間の距離構造を壊してしまうので、元の空間を距離空間とみなすより、位相空間とみなす方が自然である。位相空間の概念の代表的な応用分野に位相幾何学がある。これは曲面をはじめとした幾何学的な空間(主に有限次元の多様体や単体的複体)の位相空間としての性質を探る分野である。前述のようにゴム膜のように連続変形しても位相空間としての構造は変わらないので、球面と楕球は同じ空間であるが、トーラスは球面とは異なる位相空間である事が知られている。位相幾何学では、位相空間としての構造に着目して空間を分類したり、分類に必要な不変量(位相不変量)を定義したりする。位相空間の概念は代数学や解析学でも有益である。例えば無限次元ベクトル空間を扱う関数解析学の理論を見通しよく展開するにはベクトル空間に位相を入れて位相空間の一般論を用いることが必須であるし(位相線型空間)、代数幾何学で用いられるザリスキ位相は、通常、距離から定めることのできないような位相である。また、位相空間としての構造はその上で定義された様々な概念の制約条件として登場することがある。例えばリーマン面上の有理型関数のなす空間の次元は、リーマン面の位相構造によって制限を受ける(リーマン・ロッホの定理)。また三次元以上の二つの閉じた双曲多様体が距離空間として同型である必要十分条件は、位相空間として同型な事である(モストウの剛性定理)。位相空間にはいくつかの同値な定義があるが、本項ではまず、開集合を使った定義を述べる。位相空間を定式化する為に必要となる「開集合」という概念は、直観的には位相空間の「縁を含まない」、「開いた」部分集合である。ただし上ではわかりやすさを優先して「縁を含まない」、「開いた」という言葉を使ったが、これらの言葉を厳密に定義しようとすると位相空間の概念が必要になるので、これらを使って開集合を定義するのは循環論法になってしまう。また、ここでいう「縁」(=境界)は通常の直観と乖離している場合もあり、例えば実数直線上の有理数の集合の境界は実数全体である。そこで位相空間の定義では、「縁を含まない」とか「開いた」といった概念に頼ることなく、非常に抽象的な方法で開集合の概念を定式化する。位相空間を定式化するのに必要なのは、どれが開集合であるのかを弁別するために開集合全体の集合formula_1を指定する事と、formula_1が定められた性質を満たすことだけである。位相空間の厳密な定義は以下のようになる。"X"を集合とし、formula_1をべき集合formula_4の部分集合とする。formula_1が以下の性質を満たすとき、組 formula_6 を "X" を台集合としformula_1を開集合系とする位相空間と呼び、formula_1の元を "X" の開集合と呼ぶ。これらの性質の直観的意味は下記の通りである開集合系formula_1を一つ定める事で、集合"X" が位相空間になるので、formula_1を"X" 上の位相(構造)と呼ぶ。紛れがなければ開集合系formula_1を省略し、"X" の事を位相空間 と呼ぶ。また位相空間"X" の元を点と呼ぶ。なお、上記条件 1. の代わりに「(集合算に関する)空積および空和を認める」という規約を置くこともできる。即ちこのような規約に則れば、残りの条件 2.,3. より 1. が導かれる(cf. 交叉 (数学)#空なる交叉)。松坂は前者、Bourbaki は後者の立場である。開集合の"X" における補集合の事を閉集合と呼ぶ。開集合が直観的には「縁を含まない」、「開いた」集合だったのに対し、閉集合は直観的には「縁を含んだ」、「閉じた」集合である。閉集合全体の集合の事を位相空間"X" の閉集合系と呼ぶ。前述した開集合系の定める公理にド・モルガンの法則を適用することにより、formula_16が以下の性質を満たす事がわかる:本項ではこれまで、開集合系を使って位相空間を定義し、開集合の補集合として閉集合を定義した。しかし逆に上述の性質を満たたす閉集合系formula_16を使って位相空間を定義し、閉集合の補集合を開集合と定義してもよい。"X" の開集合でも閉集合でもあるような部分集合は "X" の開かつ閉集合と呼ばれる(定義から明らかに formula_21 および "X" は必ず開かつ閉である)。"X" には、開でも閉でもないような部分集合が存在しうることに留意せよ。距離空間("X" ,"d" )は、以下のようにして位相空間とみなせる。実数 "r" > 0 と "x" ∈ "X" に対し、とし、"O" ⊂ "X" が以下の性質を満たすとき、"O" は "X" の開集合であるという以上のように定義された開集合全体の集合をformula_1とすると、formula_6が位相空間の公理を満たすことを証明できる。以下、単に「距離空間の位相構造」と言ったら、上述の位相構造を指すものとする。"X" を集合とするとき、空集合formula_21と全体集合 "X" のみを開集合とする開集合系formula_27が、位相空間の公理を満たすことを簡単に確認できる。"X" 上のこの位相構造を"X" の密着位相という。また、"X" の任意の部分集合を開集合とする開集合系formula_28も、位相空間の公理を満たすことを簡単に確認できる。"X" 上のこの位相構造を"X" の離散位相という。密着位相と離散位相はいわば「両極端」の人工的な位相構造に過ぎないが、これらの位相構造は、位相に関する命題の反例として用いられる事がある。またこれらの位相構造は、任意の集合上に位相構造を定義できる事を意味している。任意の無限集合 "X" には、さらに補有限位相という位相も入れることができる。これは"X"の有限集合部分全体の集合を閉集合系とみなす位相である。なお"X" が有限集合である場合も原理的には補有限位相を定義できるが、この場合は離散位相と一致する。同様に任意の非可算集合 "X"にはを入れることができ、これは"X"の可算集合部分全体の集合を閉集合系とみなす位相である。分離性を満たさない位相空間で代数学・数論的に重要なものとして素スペクトルや極大スペクトルが挙げられる。これは単位的な可換環に対して自然に定義されるもので、環 R のスペクトル formula_29 は点集合としては R の素イデアルの集合として与えられ、その閉集合系は formula_30 と書ける formula_29 の部分集合全体によって与えられる。極大スペクトルは極大イデアル(スペクトルにおける閉点)全体からなるスペクトルの部分空間として与えられる。特に整数のなす環 Z の極大スペクトルは素数全体の集合 P = {2, 3, 5, 7, ...} と同一視でき、その閉集合は P の任意の有限部分集合および P 全体としてあたえられる。formula_6を位相空間とする。"X" の部分集合"A" が以下を満たすとき、"A" は"x" の 近傍(きんぼう, )であるという"x" の近傍でしかも開集合であるものを開近傍といい、"x" の近傍でしかも閉集合であるものを閉近傍という。開集合"O" が"x" の開近傍である必要十分条件は、"x" ∈ "O" となることである。formula_6を位相空間とし、"A" を"X" の部分集合とする。このとき、"x" ∈ "X" が"A" の内点であるとは、"A" が"x" の近傍である事を指し、"A" の内点全体の集合を"A" の内部(ないぶ, )または開核という。定義から明らかなように、"x" ∈ "X" が"A" の内点である必要十分条件は、以下が満たされることである"A" の内部をなどで表す。一方、"A" の内点を"A" の外点と呼び、"A" の外点全体の集合を"A"の外部(がいぶ, )という。定義から明らかなように、"x" ∈ "X" が"A" の外点である必要十分条件は、以下が満たされることである"A" の外部を以下のように表す"A" の内点でも外点でもない 点"x" ∈ "X" を"A" の境界点といい、境界点全体の集合を"A" の境界(きょうかい, )という。定義から明らかなように、"x" ∈ "X" が"A" の境界点である必要十分条件は、以下が満たされることである"A" の境界をなどで表す。なお、「formula_39」は多様体の縁(ふち, )を表す記号としても使われるが、両者は似て非なる概念なので注意が必要である。を"A" の閉包(へいほう, )と呼び、"A" の閉包に属する点を "A" の触点と呼ぶ。"A" の閉包は、といった記号で表される事もある。定義から明らかなように、"x" が"A" の触点である事は、"x" が"A" の外点ではない事と同値である。よって "x" が"A" の触点である事は、以下のように言い換えられる閉包の概念は、以下の性質を満たす(クラトフスキーの公理)。本項ではこれまで、開集合系を使って位相空間を定義し、これをベースに閉包を定義した。しかし逆に上述の性質を満たたす閉包作用素を使って位相空間を定義し、これを使って開集合と定義する事も可能である。"A" が "X" の稠密な部分集合であるとは、"A" の閉包が "X" に一致することである。つまり、"X" の任意の点の任意の近傍が、"A" と交わることである。可算な稠密部分集合をもつ位相空間は可分であるという。以上の概念について次が成立する。位相空間の概念を考える利点の一つに、連続性の概念が非常に簡潔に定式化できる事が挙げられる。formula_51、formula_52を位相空間とし、"f" : "X" → "Y" を写像とする。"f" が以下を満たすとき、"f" は連続であるという。すなわち、"Y" の開集合の"f" による逆像が必ず開集合になるとき、"f" は連続であるという。以下が成立するformula_51、formula_52を位相空間とし、"f" : "X" → "Y" を写像とし、"x" ∈ "X" とする。"f" が以下を満たすとき、"f" は点"x" で連続であるという。以下が成立する近傍の定義より、写像 "f" が点"x" で連続であることは次のように言い換えられる。よって位相空間における一点での連続性の概念は、イプシロン・デルタ論法による一点での連続性の定義を自然に拡張したものになっている。"X"、"Y"、"Z" を位相空間として、"f" : "X" → "Y"、formula_57 : "Y" →"Z" を連続写像とするとき、以下が成立するformula_51、formula_52を位相空間とし、"f" : "X" → "Y" を写像とするとき、"f" が同相写像であるとは、"f" が全単射で、しかも"f" と "f" が両方とも連続であることをいう。また、"X"、"Y" 間に同相写像が存在するとき、formula_51、formula_52は位相同型もしくは同相であるという。位相同型性は、位相空間のクラスにおける同値関係であることを簡単に確認できる。位相空間論や、その応用分野である位相幾何学では、「位相同型で不変」(位相不変性)な性質(位相的性質)を探ったり、そうした性質により、空間を分類する。位相不変な性質の中には位相不変量と呼ばれる、位相空間の性質によって決まる「量」がある。χが「位相不変量」であるとは、以下の性質を満たすことを言うこれの対偶をとると、したがって位相不変量に着目することで、二つの空間を位相的に分類することができる。簡単な位相不変量として、位相空間の「連結成分数」がある。本項では、連結成分数の厳密な定義は割愛するが、直観的にはその名の通り、「繋がっている部分の数」である。以下の"X" では連結成分数が1なのに対し、"Y" では連結成分数が2である。従って"X" と "Y" は位相同型ではない。位相不変量は、位相空間論の応用分野である位相幾何学で主要な役割を果たし、特にホモロジー群やホモトピー群のような代数的な不変量は代数的位相幾何学の研究対象である。formula_6を位相空間とし、formula_65を "X" 上の点列とし、"x" を "X" の元とする。以下が満たされるとき、formula_65は"x" に収束するというこの収束の定義は、実数列の収束の自然な拡張となっている。一般の位相空間では収束の一意性が成り立たないが、収束の一意性が成り立つ十分条件として、ハウスドルフ性がある。収束の概念は、連続性の概念で言い換えることができる。自然数と無限大の集合formula_68にの形をした集合を開集合とみなす位相()入れることで、formula_68を位相空間であるとみなすことができる。このとき、位相空間formula_6上の点列formula_65が "X" の"x" に収束する必要十分条件は、関数が∞で連続になる事である。距離空間の位相的な性質を点列の収束で特徴づけることができる。例えば、距離空間の場合、点列の収束の概念を用いることで連続性や閉集合といった基礎的概念を特徴づけることができたが、一般の位相空間ではそのような事はできない。(これが可能な空間を列型空間という)。これは点列という概念が、自然数という限定的な添え字しか許さないことや、点の列だけで集合の列を考慮していない事などが原因である。しかし、そうした側面に対して点列の概念を一般化したものである有向点族やフィルターの概念を用いれば、前述した基礎的概念をこれらの収束性で特徴づけることができる。これらの収束性を考える利点はもうひとつあり、点列の収束性では必要性しかいえない命題が、これらの収束性を用いれば、必要十分性が言えるときがある。例えば点列の収束の一意性は、前述したハウスドルフ性の必要条件に過ぎないが、有向点族の収束の一意性はハウスドルフ性の必要十分条件となる。これまで説明してきたように、連続性と収束性は、位相空間で定義可能な代表的な性質である。しかしこれらを強めた概念である一様連続性と一様収束性は、位相のみをベースにして定義する事はできない。これらの概念は、距離空間と位相空間の中間の強さを持つ概念である一様空間で定義可能である。集合"X" 上で定義された2つの位相空間formula_77、formula_78を考える。以下が満たされるとき、formula_79はformula_80よりも粗い(coarse)というこれはすなわち、formula_77の開集合は必ずformula_78の開集合である事を意味する。formula_79がformula_80よりも粗いとき、formula_80はformula_79よりも細かい(fine)という。粗い/細かいのかわりに弱い/強い(weak/strong)、小さい/大きい(small/large)という言葉を使うこともある。formula_79がformula_80よりも粗い必要十分条件は、恒等写像が連続な事である。粗い/細かいを位相の間の順序関係とみなすと、"X" 上の位相の集合は順序集合になる。この順序集合は完備束であり、最も粗い位相は密着位相、最も細かい位相は離散位相である。すでにある位相空間を加工して、別の位相空間を作る方法を述べる。位相空間を加工する上で基本となるのは、「逆像位相」と「像位相」の概念、おそびそれらの拡張概念である「始位相」と「終位相」である。本節で紹介する残りの加工方法は、これらの特殊ケースである。逆像位相と像位相、始位相と終位相は互いに双対の関係にあり、写像の向きを逆にすることでもう片方の概念を定式化できる。formula_6を位相空間とし、formula_94を集合とし、を写像とする。このとき、とすると、formula_97は位相空間になる。formula_98を"f" による"Z" 上の逆像位相という。次の事実が知られているformula_6を位相空間とし、"A" を"X" の部分集合とする。このとき、包含写像による逆像位相を"X" による"A" の部分位相といい、"A" に部分位相を入れたものをformula_6の部分空間という。部分位相の開集合系は、以下のように書くことができる逆像位相の概念は、以下のように一般化できる。formula_94を集合とし、formula_105を位相空間の族とし、写像の族を考える。このとき、全てのformula_107を連続にする最弱の位相を"Z" のという。始位相は、から生成される位相と一致する。formula_105を位相空間の族とし、集合族 formula_110の直積からformula_111への射影の族formula_113によって直積formula_114に定義される始位相を直積位相もしくはチコノフ位相といい、直積formula_114に直積位相を入れた位相空間を直積空間という。直積位相はによって生成される位相と一致する。Λが有限集合のときは、「有限個のλを除いて…」という条件がいらなくなるので簡単であるが、Λが無限集合のときは注意が必要である。formula_118をformula_119の(可算)無限個のコピーとし、formula_120をformula_121の無限個のコピーとするとき、直積は直積位相に関しての開集合ではない。実際、前述の「有限個を除いて…」という条件を満たしておらず、条件をみたすものの和集合としても書けないからである。一方、直積位相よりも強い位相であるでは、上述の集合は開集合となる。逆像位相、部分位相、始位相、直積位相と双対的に像位相、商位相、終位相、直和位相が定義できる。formula_6 を位相空間とし、"Y" を集合とし、を写像とする。このとき、とすると、formula_127 は位相空間になる。formula_128 を "f" による "Y" 上の像位相という。次の事実が知られているformula_6 を位相空間とし、「formula_130」を "X" 上の同値関係とし、
出典:wikipedia
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