速球(そっきゅう)は、野球の投手が投げる球種のうちで球速が速いものを指す。英語ではファストボール()と呼ばれる。速球はバックスピンの成分が強く直進する物と回転軸が傾いたり回転が少ない事により直進しない物の2種類に大別できる。日本において前者は直球(ちょっきゅう)、ストレート (和製英語) 、真っ直ぐ(まっすぐ)等と呼ばれ、最も落差が少なく到達時間も短い球種である事などから打たれ難く、基本になる球種とされている。後者は癖球(くせだま)、近年ではムービングファストボール(英: moving fastball)と呼ばれ、さらにツーシーム・ファストボール(英: two-seam fastball)、カット・ファストボール(英: cut fastball) などと分類されている。かつて日本では純粋なバックスピンが良い回転でそれ以外を悪い回転と考える傾向があったが、2000年代頃から明確に投げ分けや細かい種類が認識され、意図的に直進する物と直進しない物を投げ分ける投手も増加している。速度が速いほど、力学的には運動エネルギーが大きくなり、打球の飛距離が伸びない。また、技術的には振り遅れやすくバットの芯で捉えることも難しくなる。フォーシーム・ファストボール(four-seam fastball)とは日本では直球、ストレートとも呼ばれ、真っ直ぐに進む球である。省略してフォーシームとも呼ばれる。フォーシームとは縫い目の向きを表し、ボールが1周スピンする間に縫い目 (seam) の線が4回 (four) 通過し、マグヌス効果による揚力をより効果的に得られる。人差し指と中指を並べ、ボールにある縫い目に交差させて握り、リリースの際に強いバックスピンをかけて投げる。人差し指と中指の間は若干隙間を開けるのが一般的で、隙間を開けて握る事で制球が安定しやすい。隙間を閉じて握ると強い回転はかけやすいが制球が不安定になりやすく、回転軸も左右にブレやすい。また、リリースポイントが高い(腕の角度が立っている方)が純粋に近いバックスピンをかけるに有利で、後述のキレのあるボールを投じるに向く。純粋なバックスピンに近く、スピン量が多いボールが理想的なフォーシーム・ファストボール(ストレート)であるとされる。これに近い球をキレのある球と呼び、キレのある球は球速が速いことに加えて、球の軌道が直線に最も近いので打者の振り遅れやボールの下を空振る事を期待できる。日本においては最も打たれ難いと考えられているが、打撃技術の向上に伴い、単に速い直球だけで打者を打ち取ることは難しくなっている。実例として1993年5月3日に伊良部秀輝が投げた当時の日本プロ野球最速記録となる158km/hの直球を清原和博はファウルボールにし、次に伊良部が投げた157km/hの直球を二塁打にした。また、2008年のオールスターゲームではマーク・クルーンが投げた161km/hの直球を日高剛が本塁打にしている。そのため、同じ直球でも内角・外角の左右の距離感や高め・低めの高低差を使い分けたり、他の球種を交える事で球の軌道や球速の差を利用して打者を打ち取ることが一般的で、こういった工夫により球速の遅い投手でも打者を打ち取ることができる。キレのある球のうち、手足の長さや体の柔軟性などを生かした投球メカニクスの影響でリリースポイントが打者に近い等の要因により、特に浮き上がるかのような印象を打者に与えるものはライジング・ファストボール (rising fastball) と呼ばれる。ロジャー・クレメンスやランディ・ジョンソン、マーク・プライアーらのフォーシーム・ファストボールがこう呼ばれていたが、近年のメジャーリーグではこうした呼び方は減り、エルネスト・フリエリの浮き上がるような印象を与えるフォーシーム・ファストボールがマジック・ファストボール (magic fastball) と呼ばれるなどしている。日本では藤川球児のフォーシーム・ファストボールが浮き上がるような印象から火の玉ストレートなどと呼ばれた。ムービング・ファストボール (moving fastball)とは、直訳すると動く速球という意味で、日本では昔から癖球(くせだま)と呼ばれてきた。2000年頃からは以下に述べるツーシーム・ファストボールやカット・ファスト・ボールなどに分類が細分化されたため、それらと同じ意味で用いることもあれば、どれにも当てはまらない握りのものをムービング・ファストボールと呼ぶこともある。握り方や投げ方は様々あり、それによって左右どちらかに小さく変化したり打者の手元で沈んだりする。速い速度で小さく鋭い変化をする事から、バットの芯を外して打たせて取りやすい。「変化球を覚えるなら、まずはツーシーム」と呼ばれる、変化球の基本でもある。ツーシーム・ファストボール(two-seam fastball)はボールを1周する間に縫い目 (seam) の線が2回 (two) 通過する向きで投じられた球である。省略してツーシームファスト、ツーシームとも呼ばれる。フォーシームと同様にツーシームも縫い目の向きを表す言葉だが、主に球種を表す言葉として用いられている。日本では2000年代になってフォーシーム・ファストボールと明確に区別されるようになった。投げ方は基本的にフォーシームと同じだが、握った際のボールの向きはフォーシームを横に90度回転させた向きであり、バックスピンを掛けた時に縫い目が1周で2回通過するように握る。また、意図的に回転を少なくするために縫い目に指を掛けない投手もいる。このような指が掛かりにくい握りで投げスピン量を低下させる、また、スピン1周で縫い目が現れる回数を減らしマグヌス効果による揚力を減らすことで、フォーシームに比べ球速は大きく変えないで沈む軌道とすることができる。この変化により打者のバットの下面で打たせてゴロ打球を打たせ打ち取る事を目的とする。また、指の力加減により軌道をシュート方向(一部の投手はスライダー方向にも)に曲げることも可能であり、その変化を生かして右投手対右打者の場合には外角のボールゾーンからストライクゾーンに入る「バックドア」、対左打者の場合には内角ボールゾーンからストライクゾーンに入る「フロントドア」という攻め方が浸透しつつある。この攻め方は、黒田博樹の「魔球」としても話題になった。その場合、日本独自に用いられてきたシュートと呼ばれる球種との違いは曖昧である。吉井理人は、自分がMLB時代に投げていたツーシームは日本時代に投げていたシュートの呼び方を変えただけだと述べている。アメリカでは日本より縫い目が高く、マグヌス効果の差が出やすいボールが使われるため、フォーシーム以上に活用されている。代表的な使い手としてはグレッグ・マダックスやフェリックス・ヘルナンデスがいる。日本球界でも徐々に浸透しつつあり館山昌平や田中将大などが投げる。ワンシーム・ファストボール(one-seam fastball)は1本の縫い目だけに指をかけて投げる球種である。1本の縫い目に人差し指と中指をはさむようにかけて握る。略してワンシームとも呼ばれる。日本では2010年にダルビッシュ有が自らの新球として公表したことにより知られるようになった。回転するボールを真正面から見たとき、縫い目が縦方向に一本だけ見えることが名前の由来。実際には、縫い目は4回現れるのでフォーシーム・ファストボールの一種とされる。縫い目に平行に指を掛けるといった握りであるため握力が必要となり、制球も難しいが、ツーシームよりも大きい変化が得られる(変化の性質はツーシームとほぼ同じ)。この握力の消費が大きい球種である性質上、球数を多く投げる必要がある先発で常用することは難しく、リリーフ向きの球種であるとされる。代表的な使い手としてはティム・ハドソン、ジョン・レスター、ザック・ブリットンがいる。日本人選手ではダルビッシュや菅野智之、松坂大輔や金子千尋・山口俊が使い手として知られる。シンキング・ファストボール(sinking fastball)とは、直訳すると沈む速球という意味で、ツーシーム・ファストボールやワンシーム・ファストボールの中でも特に沈む軌道を持つものを指す。ロイ・ハラデイなども“横の変化よりも沈ませることを重視しているから”という理由で「ツーシーム・ファストボール」ではなく「シンキング・ファストボール」という言い方をしている。アジア圏以外ではシンカー(英: Sinker)と略されて呼ばれることが多いが、日本で「シンカー」と呼ばれている球種は全く別のものである(詳細はリンク先を参照)。日本においてシンキング・ファストボールはツーシーム・ファストボールと同じくシュートと呼ばれることが多い。シンキング・ファストボールの代表的な使い手としてはケビン・ブラウン、オーレル・ハーシュハイザー、ブランドン・ウェブ、デレク・ロー、ザック・ブリットン、ティム・ハドソンらが知られる。また、アンダースロー投手の大半がツーシームのシンキング・ファストボールを投げている。日本人選手では黒田博樹やダルビッシュ有、岩隈久志が知られる。カット・ファストボール (英: cut fastball) はリリースの際にボールを切る様に投げる球種。アジア圏以外ではカッター(英: Cutter)と略されて呼ばれることが多い。回転軸が僅かに傾く事で打者の手元で、投手の利き腕と逆方向に小さく鋭く変化する。ナチュラルシュートとは、フォーシーム・ファストボール(ストレート)を投げる際に、リリースポイントなどの関係で自然にシュート回転がかかった球を指す。日本において純粋なバックスピンが良い回転とされてきたことから、修正すべきものとされてきたが、サイドスローなど腕の角度を下げている投手を中心に、癖球として武器とする場合もある。試合中の疲労などにより、意図しないシュート回転が生じることも多い。この場合は伸び・キレが失われた状態であり、右(左)投手がベース左(右)側を狙った場合、ストライクゾーンの内側に球が入ってしまうこともあり、打者にとって打ちやすく、投手にとって非常に危険な球である。なお、体の構造上、ほぼ全ての投手のストレートは量に差はあれどシュート回転しており、「ナチュラルスライダー」というものは稀な存在である(カット気味の直球、ナチュラルカットなどと呼ばれる)。ジャイロボール(英: gyro ball)はボールにライフル弾やアメリカンフットボールの様な螺旋回転を与えた物を指し、螺旋回転の影響で同じ面を向けながら直進する。進行方向に向いている面によっては空気抵抗による減速が非常に少ない場合がある。また、ボールの回転軸が完全に進行方向を向くとマグヌス効果による揚力は発生しないため、軌道は放物線を描きフォークボールに似たものとなる。螺旋回転の回転軸が左右や上下に傾くとマグヌス効果が働くため、回転軸が完全に進行方向を向いた螺旋回転と比べ、落差が生じたり左右の変化が加わる。減速が少ないジャイロボールについては速球と見る向きもあるが、縦の変化をするスライダーのボールの回転が螺旋回転であることが多い事に加え、その初速は速球よりも遅い事が多いことから縦スライダーとされることが多い。ジャイロボールの提唱者である手塚一志は、従来のフォーシームやツーシームと同じ握り方で、ダブルスピン投法と呼ばれる投法から2種類のジャイロボール、4シームジャイロと2シームジャイロを投げ分ける事が可能であり、その2種のジャイロボールの空気抵抗差を活かしてストライクゾーンを前後に利用したピッチングをするのがジャイロボーラーとしている。すなわち、仮に同じ初速で4シームジャイロと2シームジャイロが投げられた場合、空気抵抗差によって大きな終速差が生じる。これを活かしバッターのタイミングを外すことを目的として投じる。これは従来の初速差による緩急とは違うものと考えられる。ボールの回転と軌道だけに着目すれば縦のスライダーだが、手塚の理論ではジャイロボールの用途は縦のスライダーとは異なる。ただし、ダブルスピン投法によって投じられたジャイロボールが従来の速球と同じ初速で投じることが可能かは判明していない。野球中継の解説などで、投手の直球に対して「球質」「球威」「球の伸び」などと表現されることがある。科学的根拠を交えれば、これらは投球された球の回転数や球の運動、リリースポイントの遠近によるボールの飛行距離などによって打者が抱く錯覚が深く関係しているものである。投手の投げた球の速さのことで、スピードガンによる簡易計測が可能なため、具体的な数値で表されることが多い。単純に球速が速いほど、球を目で捉えることが難しくなり、到達時間も短くなることから、打者は対応が難しくなる。しかし、単純に球速が速くても活躍できない投手や、逆に球速はなくとも活躍する投手、共に多く存在し、他の球種や後述する要素への工夫を凝らすことによって打者を打ち取っている場合が多い。球速はリリースポイントから捕手のミットに到達するまでに空気抵抗により逓減する。その量はストレートのスピンによって変化する。初速、終速の差を決める要素はPITCHf/x初めとするトラッキングシステムにより解析されつつある。また、ジャイロボールは縫い目の方向次第であるが、初速、終速の差を大きく減らすことが(増やすことも)可能である。効果として、同じ初速でも減速が少ない球の方が相対的に体感速度が上がるため、打ちにくい球であるとされるが、球の落差との関連などは研究の途上である。球は重力により放物線を描くが、回転軸の傾きが少なく回転数の多いバックスピンをかけた球はマグヌス効果により上向きの揚力を持ち、放物線から離れた直線に近い軌道になる。打者は、投球がマウンドからホームプレートの投手側からおおよそ2分の1から3分の2ほど進んだ時点までの球の挙動を見て、他の投手などとの対戦で見てきた経験から軌道を予測し、それに合わせてバッティングを行うが、その予測よりも上を通過すると球が浮き上がったと錯覚する。このような球を、「伸び」のある球と呼ぶ。また、直球においては球の「切れ(キレ)」も「伸び」と同義である。一方、逆に当たる球を「お辞儀する球」などと呼ばれ、日本においてはスピン量を増やすなど修正されるべきとされるが、球速がある場合はスピン量が少ない方が打球はゴロとなりやすいので打球管理において有効であるとする説もある。いずれも、球速とスピン量(球のマグヌス効果による変化量)には比例に近い関係があり、その球速の標準的なスピン量に対しスピンが多い、もしくはスピンが少ない球などギャップがある球が打ちにくいと分かりつつある。また、リリースポイントの低いサイドスロー、アンダースローの投法から投げられる球は下から上がって来るのでこれも浮き上がるように錯覚させられる(ソフトボールのライズボールも同じ理屈である)。マウンド上の投手板とホームベース間の距離は公認野球規則により18.44mと定められているが、実際には18.44mの距離から球は放たれず、投球動作に伴いリリースポイントはホームベース寄りに近付くのが一般的である。リリースポイントが打者に近いほどボールの飛行距離は短縮され、それにより球速が保存されて初速と終速の差が小さくなる。これを「球持ち」が良いと表現し、投手は少しでもリリースポイントを打者寄りにするため様々な工夫を行う。その一環として球を長く持つようにする事でリリースするのを遅らせようとする。より打者にリリースポイントを近付けるには基本的に身長が高く手足が長い方が有利である。また、グラブや自身の体を使う、体の開きを遅らせるなどでリリースポイントを遅くまで見えないようにすることにより、打者が球を見られる時間を減らし体感速度を上げる、もしくは打者にタイミングを取らせにくくすることも打者を打ちにくくする事に有効である。このような出処が見にくい投手をメジャーリーグでは「スモーキー」と呼ぶ。投手はその投法や身長・腕の長さにより打者に対して高低、または左右の角度を付けた球を投じることが出来る。平均的投手よりリリースポイント角度が大きいと、視界の揺さぶりや、高低の場合バットの下に潜り込むようにボールが入ってくるためメカニクスが崩れやすく、打ち難さを増す事が出来る。より大きい角度をつけるためには球持ちと同様に長身で手足が長い投手が体格的に有利で、高低差はオーバースローかアンダースロー、左右の角度はサイドスローや投手板の立ち位置の左右を利用する投手が一般的に有利である。投げる腕と対角のコースを突く直球をクロスファイアと呼ぶ事が有る。前述の球持ちとは逆に、リリースポイントを敢えて早くすることで角度を大きくしようとすることもある。投球を打ち返した際に打球の飛距離が予想よりも短く、もしくは長くなる事を、球質が「重い」、「軽い」と形容されることがある。先のキレ、伸び以外に物理的に球の重さが変わることはないが、この要因としては様々な説が存在し、球の回転数が多いほど反発力が増して軽い球に、逆に回転が少ないと重い球になるという説。逆に回転が多ければ運動エネルギーの総量も多く、運動エネルギーの多い速い球の方が飛距離が出難い事に準じ、回転が多いほど飛距離の出難い重い球であるという説もある。また、回転の少ない球は「棒球(ぼうだま)」と呼ばれ、痛打されやすい球とされる事もある。或いは、打者が自身の打ち損じなどに気付かず球質のせいだと思っているだけで、飛距離を大きく左右するほどの影響を与える球の回転や球質は存在しないという説もある。特にツーシームやカットファストボールのように打者の手元で変化する球種では、芯を外しやすく打球が伸びないということがままある。また、芯を外されるとインパクトの衝撃が手に伝わることから重く感じる。体重の軽い投手が投げる球は軽いという説もあり、体重を重くすることで球質を重くしようと考える投手もいる。これらのように回転は飛距離が伸びる方向にも縮む方向にも作用する可能性が有り、科学的に検証した論文や研究結果などは発表されていない。なお、アメリカにおいては球質という概念自体が存在しない。球威とは「球の威力」で球速などを表す言葉だが定義は曖昧で、球に伸びがあり球速以上の威力が有る事を示す場合や球速、球質、伸びなどの総合的な評価の場合も有る。速球の球速はしばしば投手の実力を評価する指標の一つとなる。
出典:wikipedia
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