石綿(いしわた、せきめん、(アスベストス)、(アスベスト))は、蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した天然の鉱石で無機繊維状鉱物の総称。蛇紋石系(クリソタイル)と角閃石系(クロシドライト、アモサイトなど)に大別される。ギリシア語の は「しない(ない)」という意味の と、「消化できる」という意味の から来ている。石綿の繊維1本は直径0.02-0.35 μm(髪の毛の5,000分の1)程度である。耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ、安価であるため、「奇跡の鉱物」として重宝され、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきた。しかし、空中に飛散した石綿繊維を長期間大量に吸入すると肺癌や中皮腫の誘因となることが指摘されるようになり「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになった。古代エジプトでは、ミイラを包む布として、古代ローマでは、ランプの芯として使われていた。マルコポーロの口述によるとされる『東方見聞録』に、ヨーロッパでは火に焼けないサラマンダーの皮と知られているものが鉱物である旨の記述があり、これが石綿ではないかといわれている。中国では、周の時代に征服した西戎からの貢ぎ物として石綿の布が入ってきて、火に投じると汚れだけが燃えてきれいになることから火浣布(火で洗える布)と呼ばれ、珍重されていた。また、東晋の干宝が著した『捜神記』にも火浣布に関する記述が存在する。日本では、『竹取物語』に登場する、火にくべても燃えない「火鼠の皮衣」も、当時そういうものが実在したとすれば、正体はこの石綿であったろうと言われている。平賀源内が秩父山中で石綿を発見し、1764年(明和元年)にこれを布にしたものを中国にならい「火浣布」と名付けて幕府に献上している。この源内の火浣布は京都大学の図書館に保存されている。20世紀に入ると、建物などの断熱材や防火材、機械などの摩擦防止用などに大量に使用されるが、1970年代に入ると、人体や環境への有害性が問題になった。発ガン性などが問題となり、日本では2006年9月から、化学工業プラントで配管同士の接続に使用される「シール材」などの5製品を除き、原則禁止になった。しかし、厚生労働省は、2008年4月に、例外的に認められていた5製品についても2011年度を目途に全廃することとし、同年度以降は、新たな石綿製品は日本では製造されないことになった。産地としては、カナダ(クリソタイル)、南アフリカ(クロシドライト)が有名。後者は使用が完全禁止となっているため、既に生産されていない。日本においては、北海道中央脊梁山脈、北上山地、阿武隈山地、秩父山地、静岡から九州中部に至る中央構造線沿いなどに産出する。第二次世界大戦直前から各地で石綿資源の開発が始まり、北海道富良野市山部地区は数少ない国産石綿産地として野沢鉱山など大規模なクリソタイル鉱山が操業していた。このほか、熊本県や長崎県でも小規模で低品質のクロシドライト等が採掘されていた。これらは戦後も操業が続き、最終的に1969年に富良野市山部での採掘が中止されるまで、小規模ながら生産が続けられた。なお、山部においては採掘中止後もズリ(廃石)から低品質の石綿が2000年代初頭まで回収されていた。石綿は繊維の長さから「グレート」と呼ばれる分類がなされており、このグレートの数が小さいほど、質の高い石綿ということになる。繊維として用いられる物は主としてこのグレートの小さい1~4、建材の原料として用いられるものは比較的グレートの大きい石綿であった。日本では1975年9月に吹き付けアスベストの使用が禁止された。また、2004年に石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止、2006年には同基準が0.1%以上へと改定されている。個人でも、1960年代まで製造されていた電気火鉢の石綿灰を廃棄する際には注意が必要である。なお、労働者の石綿暴露防止の法規制は、2005年に石綿障害予防規則が新設・施行され、特定化学物質等障害予防規則(当時)から分離された。現在は、一部(下のポジティブリストの項目参照)の適用除外を除き、一切の製造・輸入・使用・譲渡・提供が禁止されている。ただし、試験研究のため等一定の要件に該当するときはこの限りでなく、無害化・飛散防止・含有検査技術の研究までも禁止されないよう配慮されている。なお、石綿含有建築物の保有者から解体業者、解体業者から廃棄物処理業者への受け渡しは、上記の禁止規定の適用はない。一方、現に使用されている物(例:建材として建物に組み込まれている状態)は、引き続き使用されている間、製造等の禁止の規定は適用されない。現に使用されている物の規制としては、石綿障害予防規則により、労働者を就業させる建築物の壁等に吹き付けられた石綿等が損傷等によりその粉じんを発散させる等のときは除去等の措置が義務づけられている他、建築基準法により、増改築時における除去等が義務づけられている。建築物の解体時・石綿の廃棄時の規制は、解体業者や廃棄業者の労働者の暴露防止対策として労働安全衛生法に基づく石綿障害予防規則、解体時の一般大気環境への飛散防止対策として大気汚染防止法に基づく措置、廃棄時の無害化対策等として廃棄物処理法で特別管理産業廃棄物に指定され溶融処理等が、各々規定されている。また、海洋投棄は禁止されている。日本において、石綿は2006年9月の労働安全衛生法の改正により全面製造禁止となったが、代替品が確立していない特定分野の部材については、政令により代替技術が確立されるまで製造の禁止が猶予されていた。猶予されていた製品はポジティブリストとして厚生労働省の政令で一覧表となっており、当初リストには、7種12項目が挙げられていた。ポジティブリストは代替品の技術が確立された時点で見直しがなされ、2012年3月に全ての代替技術が確立し、石綿は完全に製造禁止となった。アスベストは浮遊粉塵であると同時に繊維物質であるので、単位は本 (f) で表される。日本における大気中アスベスト敷地境界基準値は10本/L(全石綿として)である。この基準値はアメリカと同じである(米国アスベスト対策法)。大気中や室内ではどの程度アスベストが飛散しているのかの調査では次のような調査結果がある(木村ら 1987)。2005年9月現在、日本ではアスベストに関する環境基準は設定されていない。アスベストは、PRTR法で特定第一種指定化学物質に指定されている。2001年度以降の事業者からの移動排出の届出量は、次の表に示すように激減した。2005年度からは環境への排出量がゼロになった。現在は、工場等からの廃棄物として年間500トンが処分されている。2006年度の届出移動量TOP10は、以下の事業所であった。建築資材として有害物質である石綿の使用は、飛散防止の措置等、対策工事の必要性から建物の経済価値に影響を及ぼす。不動産鑑定評価における不動産鑑定評価基準には、2002年の改正時に明記された。さらに、2007年の不動産鑑定評価基準改正時に追加された証券化対象不動産について、石綿に係る建物環境は、専門性の高い価格形成要因として、不動産鑑定士以外の専門家による調査の必要性について定められている。宅地建物取引業法第35条に基づく重要事項説明においては、当該建物について、石綿の使用の有無の調査の記録がされているときは、その内容が説明事項に定められている。近年になって、石綿繊維を大量に吸った場合に人体に悪影響を与えることが判明した。初めて石綿症の論文が発表されたのは1900年代の石綿鉱山町における短命や肺病との関連についてのものだった。イギリスでは1924年には石綿症の診断基準が定められ、1930年代には換気についての労働基準が定められた。1970年代に入りアメリカの裁判所は、アスベスト産業界が1930年代からアスベストの危険性を認識しつつ隠蔽を行っていたものと認定した。アスベストは世界保健機関 (WHO) の付属機関国際がん研究機関 (IARC) により発癌性がある(グループ1)と勧告されている。アスベストは肺線維症、肺癌の他、まれな腫瘍である悪性中皮腫の原因になるとされている。したがって、世界的にアスベストの使用が削減・禁止される方向にある。日本では、2005年にアスベスト原料やアスベストを使用した資材を製造していたニチアス、クボタで製造に携わっていた従業員やその家族など多くの人間が死亡していたことが報道された。クボタについては工場周辺の住民も被害を受けている。その後も、造船や建設、運輸業(船会社、鉄道会社)などにおける被害が報じられ、2005年7月29日付けで厚生労働省から1999年度から2004年度までの間に、日本全国の労働基準監督署において石綿による肺癌又は中皮腫の労災認定を受けた労働者が所属していた事業場に関する一覧表が公表された(後述外部リンク参照)。2012年には日本で1400名の中皮腫による死亡者が発生しており、過去の石綿汚染の健康被害が本格的に顕在化し始めているとみられている。なお、環境省では建築物の解体によるアスベストの排出量が2020年から2040年頃にピークを迎えると予測している。年間10万トン前後のアスベストが排出されると見込まれ、今後の解体にあたって建築物周辺の住民の健康への影響が懸念されている。日本よりも先にアスベスト健康被害が問題化したアメリカ合衆国では、当時世界最大のアスベストメーカーであったジョンズ・マンビル社に対し訴訟が相次ぎ、マンビル社が事実上の倒産に追い込まれた。国内においてマンビル社の日本総代理店として大量のアスベストを輸入していたのは東京興業貿易商会である。2009年4月1日には韓国食品医薬品安全庁が韓国のベビーパウダーなどにアスベストが混入していることを発表した。4月6日には、アスベストが混入した原料を供給された社が304に上ることを発表した。また、化粧品・製薬・食品メーカーが約300社に達することが分かり、ベビーパウダーに端を発したアスベスト・ショックが食品・製薬分野にまで拡大した。食品医薬品安全庁はこれらメーカーにタルクが流通した経路を確認した後、すぐに自主的回収などの措置を取るとしている。なお、食品医薬品安全庁の専門家諮問会議は「アスベストに汚染したタルクによる人体への有害性が立証されたものはない」という意見をまとめている。
出典:wikipedia
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