日本国債(にほんこくさい、英:Japanese Government Bond、JGB)は、日本国政府が発行する公債である。「国債ニ関スル法律」(明治39年法律第34号)に基づいて発行されている。法律上の名称は「国債」だが、実務上「日本国債」または「JGB」ともいう。日本国の運営に必要な資金を集めるために発行される。日本の国債には多くの種類がある。それらは発行の目的や償還期間の長短などにより分類される。国債の額面は、15年変動利付国債と物価連動国債が10万円、個人向け国債が1万円、そのほかは5万円である。物価連動国債と割引短期国債 (TB)、政府短期証券 (FB) は法人のみ購入が可能で、個人向け国債は個人のみ購入が可能である。2003年1月27日以降に発行された物価連動・個人向けを除く固定利付国債は、元本部分と利札部分を分離して別々に流通させることができるようになった(ストリップス債)。これらの分離された元本部分、利札部分はそれぞれ割引債であり、分離元本振替国債、分離利息振替国債と呼ばれる。名前に「振替」の文字が入っているのは、これらの分離国債が振替決済制度によってのみ流通することができるからである。従って個人は購入できない。無記名証券が発行されるもの(国債証券)と発行されないもの(登録国債及び振替国債)がある。振替国債については、日本銀行が振替機関である。日本国債は日本国内の預貯金取扱金融機関や証券会社で購入できる。個人向け国債については、現在東京スター銀行では販売取扱がなく、通常の国債(利付国債等)の取扱いがないネット証券では取り扱っている会社がある。日本国債は入札方式により銀行・証券会社・生損保等の金融機関が購入し、これがその他の機関投資家や個人に販売される。また、財投債という形で郵貯・簡保・年金資金運用基金が引き受けている部分もある。2005年(平成17年)度以前は「シンジケート団(シ団)引き受け」と呼ばれる金融機関や共同で引き受ける方式も行われていたが、2005年度末をもって廃止された。流通においては、通常の売買、レポ・現先といった貸借取引の他、日銀によるオペレーションも大きな役割を担っている。なお、現在は国債のペーパーレス化により、証券での受け渡しはされなくなっている。機関投資家以外の一般的な個人向けには、以前より証券を販売金融機関に保護預かりする制度があり、銀行・協同組織系金融機関・ゆうちょ銀行の場合、総合口座に「国債(公共債)保護預かり口座」をセット(担保に組み込む)すると、総合口座普通預金の残高が不足した場合に、国債預かり残高の一定額(ゆうちょ銀行の場合は額面の80%まで)を限度に、「総合口座担保定期預貯金」と同様に、自動融資(口座貸越)・担保自動貸付けが受けられる場合がある。ただし、足利銀行など、取扱いを取りやめた、または取り扱わない金融機関もある。ゆうちょ銀行(旧郵便貯金)の場合は、「国債保護預かり口座帳」で直接貸付を受けることも可能である。ゆうちょ銀行は保護預かり口座に旧郵便貯金のように通帳状にした「国債保護預かり口座帳」を発行しているが、それ以外の金融機関ではそのようなものは発行せずに利払日や手続きごとに取引内容を報告書形式で郵送する方法が主流となっている。(ゆうちょ銀行・郵便局でも都度報告書は発送している。)一部の銀行・証券会社は「国債保護預かり口座管理料」の名目で保管料を徴収する。また、ゆうちょ銀行では国債購入“以前”に国債保護預かり口座を開設するには200円の口座開設手数料が必要である。太平洋戦争(大東亜戦争)当時の1944年度末において国の債務残高は国内所得の260 %を超える水準であった。日本では、戦後混乱期の1947年(昭和22年)には国債発行額が税収を上回り、それが戦後インフレの原因になったという反省から財政法が制定され、赤字国債の発行と日銀の赤字国債引き受けを禁止して、均衡財政主義を取ることとなった。55年体制となってから地銀の有価証券保有高は目立って上昇し、特に国債保有高が伸びた。しかし1965年(昭和40年)補正予算で赤字国債(2590億円)の発行が再開され、翌1966年(昭和41年)度予算では7300億円の建設国債が予定された。1990年(平成2年)にはバブル景気の税収増によりいったん発行額ゼロになるも1994年(平成6年)には再開され、その後に至っている。1995年(平成7年)の村山内閣で、武村正義元大蔵大臣は、増発される赤字国債による「財政危機宣言」をしている。1998年(平成10年)に小渕恵三内閣が発行した国債40兆円の多くが、2008年(平成20年)に償還期限を迎えた。それにより国債危機が発生するのではないかと言われていた(2008年問題と呼ばれていた)。実際には、すでに各種の借換対策が進行しており、2008年における償還集中は回避された。このため、デュレーションに由来する問題は発生しない。2012年には2010年から3年連続で中華人民共和国が世界最大の日本国債保有国となった。2013年(平成25年)4月5日、東京証券取引所は国債先物相場が急落したことを受けて取引を一時的に停止する「サーキットブレーカー制度」を発動、サーキットブレーカーの発動は2008年(平成20年)10月14日以来となった。2014年(平成26年)4月14日、債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の取引が成立しなかった。1日を通して取引が成立しなかったのは、2000年(平成12年)12月26日以来約13年ぶりとなった。2016年(平成28年)12月末において、日銀が保有する国債残高は前年比で29.5%プラスの331兆円だった。保有者全体に占める比率は32.0%であった。海外勢の国債保有残高は過去最高の110兆円だった。保有比率は10.6%で初めて1割を超えた。一方で銀行の保有残高は過去最低の238兆円、保有比率は23.0%であった。海外勢の顔ぶれはトレーダーによると「外貨準備(ユーロ円債の買い手など)のほかヘッジファンドやなど幅広い」。5年前から海外の国債保有残高は2倍近くに膨らんでいる。オイルショックを背景に1975年から赤字国債が発行され始め、1980年には7兆3150億円分が発行された。1984年から特例公債法が自転車操業を容認するようになった。1990年に湾岸戦争負担金を赤字国債で調達したが、1991-93年の赤字国債の発行実績はゼロとなった。1995年、阪神淡路大震災の震災特例国債を発行した。一方、バブル崩壊により1994年から減税特例公債が1996年までに8兆644億円発行された。金利の低下などをうけて赤字国債は1998年から無制限発行体制となった。残高増加率が高い小泉純一郎政権時などは借換債と財投債が多く発行されている。借換債により調達した資金は、たとえば外貨準備を増やす目的で発行した外国為替資金証券の償還に使われている。日銀が公表した2013(平成25)年度の「資金循環統計」によると、2014年(平成26年)3月末の国債等残高は998兆円となっており、保有者の内訳は、金融仲介機関587兆円(構成比58.8 %)、一般政府・公的金融機関88兆円(8.9 %)、中央銀行201兆円(20.1 %)、国外84兆円(8.4 %)、家計21兆円(2.1 %)、その他17兆円(1.7 %)となっている。2014年(平成26年)3月末時点の日銀の日本国債保有残高は201兆円で、過去最高を更新しており、保有者に占める日銀の割合は20.1 %で最大の保有者となった。日本は他の先進国に比較して、国内総生産(GDP)に対する国債の発行残高の割合が著しく高い。2006年はバブル崩壊以降初めて一時的にGDP比の債務額が減少したが、累積債務の増加は続いている。財政状況は依然厳しく、その持続可能性が議論になっている。2011年(平成23年)末時点の日本国債の発行残高は789兆円であった。それに対し2010年度の一般会計税収入は約40.9兆円であった。2010年の日本の公債はGDPの198%と推計されている。これはジンバブエの234%に次ぎ世界で2番目であり、先進工業国の中では突出している。2011年に債務不履行の危機にあるギリシャは143%であった。2013年5月現在の日本政府の純債務は対GDP比で134%となっており、財政破綻したギリシャの155%に近くなっている。2012年3月末現在の国のバランスシートでは、負債総額は1088兆円、資産総額は626兆円となっている。2013年3月6日、財務省は国債の残高が10年後の2022年度末に1000兆円を超えるという試算を発表した。2014年1月31日、財務省が発表した2012年度末の「国の財務書類」によると、債務超過の金額は、これまで最悪だった2011年度からさらに17.7兆円増えて477.0兆円となった。2014年4月28日、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は、政府が2014年現在の財政健全化目標を達成できたとしても(実質GDP2%・名目GDP3%の成長率、名目長期金利3.7%、インフレ率1%などが続くとの前提)、その後に更なる収支改善策を実行しなければ、国と地方を合わせた債務残高は、2060年度には2014年現在の6倍を超える8157兆円余り(対GDP比で2014年現在の1.6倍の397%)にまで膨らむとの試算を初めて示した。また、財政再建に取り組まず、基礎的財政収支の黒字化も達成できなかった場合、国の借金はGDP比約5.6倍の1京1422兆円に膨らむとの試算を示した。2014年5月9日、財務省は、国債や借入金を合わせた「国の借金」が2013年度末で過去最大の1024兆9568億円となったと発表した。「国の借金」のうち、国債は853兆7636億円となった。日本政府の所有する資産は国債発行残高を上回っているため、2013年時点では市場の債券価格は安定しており、日本の国債は国内の需要が非常に高い。その結果、金利は1%前後と、他国と比べて非常に低い水準で推移している。2013年4月5日、長期金利の指標である新発10年債の利回りが0.315%となり、過去最低を更新した。2013年4月18日、日本銀行は日本国債の金利が上昇した際の銀行や経済に及ぼす影響について、仮に1年間に金利が2%上昇した場合、銀行の損失が膨らんで貸出を絞り込むことなどでGDPが最大1.7%減少するという報告をまとめた。また、全年限の金利が同時に1%上昇する場合の金利リスク量は、2012年3月末時点で、大手行で3.7 兆円、地域銀行で3.0 兆円、信用金庫で1.6 兆円であると報告している。2013年10月、日銀は金利が1%上昇した場合、保有する国債など債券の価格が下落することで国内の金融機関に生じる損失は、総額で7兆9000億円に上るという試算をまとめた。2014年12月12日、国債市場で、長期金利の指標である新発10年債の終値利回りが0.395%と、終値として過去最低を更新した。2015年1月20日、東京債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが一時0.195%と、初めて0.1%台となった。2007年中からの円高の進行により対外債権が急速に劣化している。また逆に外貨から見れば、円建ての国債の価値が急速に膨らんでいる。2007年10月、米スタンダード&プアーズ(S&P)は、日本国債の格付けを、最上位から2番目の「AA」、ムーディーズは21段階中4番目の「Aa3」としている。他の先進国と比べると最低水準にある。だが、どの格付け会社も「返済能力が高い」という見解は崩していない。2009年5月、ムーディーズは円建ての日本国債の格付けを「Aa2」としたと発表。2011年1月27日、米スタンダード&プアーズ(S&P)は、財政の悪化懸念を理由に、日本国債の格付けを最上位から3番目の「AA」から、1段階引き下げて「AA-(ダブルAマイナス)」に格下げした。S&Pが日本国債を格下げするのは、2002年4月に「AA」から「AA-」に引き下げて以来8年9カ月ぶり。他にも、世界的な格付け機関であるフィッチもボツワナと同じ水準の格付けをしている。ただしボツワナはダイヤモンドの鉱山に恵まれ、財政も豊かである。国債の格付けとしては低くない。2011年8月24日、ムーディーズは日本国債の格付けを1段階引き下げ「Aa3」とした。2012年5月22日、フィッチは日本の財政再建への取り組みが遅れているためとして日本国債の格付けを1段階引き下げ「A+」とした。2014年12月1日、ムーディーズは財政赤字の中期的な削減目標の達成可能性などについて、不確実性が高まったためとして日本国債の格付けを1段階引き下げ「A1とした。2015年4月27日、フィッチは日本政府が消費増税を先送りしたが、穴埋め策を今年度予算で講じなかったとして1段階引き下げ「A」とした。2015年9月16日、米スタンダード&プアーズ(S&P)は日本経済がソブリンの信用力を支える効果が過去3、4年間低下しており、この傾向を今後2、3年で好転させる可能性は低い、として1段階引き下げ「A+」とした。2002年、ムーディーズ、スタンダード&プアーズ、フィッチ・レーティングスの格付け会社三社が日本国債の格付けを引き下げた際に、当時の財務省の黒田東彦財務官は、この三社に意見書を送っている。「日本国債のデフォルトはありえない」といった主旨であった(平成14年4月30日)。1980年代後半のバブル経済の頃は好況により税収が多く、日本の国庫は潤っており、国債の発行額もそれほど多くはなかった。しかし、バブル経済が崩壊して税収が減少すると、それにともなって歳入が減少した。併せて、景気浮揚を目的にした財政出動が何度も行われた結果、国債を大量発行するようになり、発行残高は急激に増加していった。国債の大半は固定金利であるため、デフレーションにより名目成長率が伸び悩むことでGDP比の債務が増大しやすくなっている。不況の長期化により歳入の伸びは低迷した。その結果、継続償還資金が不足し、政府は償還を目的に追加で国債を発行するようになった。この国債を借換国債という。この場合、事実上償還されていないことになり、国債の発行額はさらに増えてしまう。バブル経済崩壊後、日本は新規国債(新しく発行される国債)、借換国債ともに発行額が増加している。利息元金の返済(償還)に対する懸念はことあるごとにクローズアップされ、にわかに財政再建推進政策推進の機運が盛り上がる局面もあった。しかし、財政再建などに由来する危機的な景況悪化に際して、政府による中途半端な財政出動と日銀による引き締め政策が行われた。グローバリゼーションや競争の激化により日本におけるデフレの大きな構造的懸念を指摘する向きもある。これらの事情により、経済政策の方向性は定まらず、日本経済の実力を大きく損なっている。政府の財政出動や日銀引き締めの実施という側面と共に、または長期化した需要不足によるデフレ不況であるにもかかわらず、供給側の効率性を向上させる構造改革を推し進める傾向も経済の実力を損なう影響をもたらすという批判に対し、という指摘がある。2011年4月27日、超党派の国会議員が支援するデフレ脱却国民会議が会見を行い、日銀が震災国債を買いオペレーションの対象にすることを提言した。中央銀行が直接国債を買い入れる政策が検討され、過去に実施されている。経済学者の池尾和人は「『日本銀行が国債を買う』というところだけを見て、量的緩和政策も財政ファイナンスも同じようなものだと思ってはいけない。両者は本質的に違う。『おカネを貸す』のと『おカネをあげる』のは全く違うことだが、お金を渡すところだけ見ていたのでは区別がつかないのと同様だといえる」と指摘している。財政法第5条では原則として日本銀行が直接日本国債を購入することを禁止しているが、但し書きで国会の議決があれば可能であると規定している。この規定は戦前戦後の公債日銀引き受けによって通貨の膨張的増加を通じ激しいインフレーションを生じた反省からきている。一方で、日本銀行が過去に市中から買った日本国債が満期を迎えた際に新しく発行された借換債(日銀乗換)に切り替えるという形で、日本銀行による日本国債の直接引き受けは国会の議決の範囲内で毎年行われているが、これは国債の借換(日銀乗換)であれば総額は変わらず、禁止された通貨膨張に該当しないためである。高橋洋一によると、「平成23年度に償還される額は30兆円程度であり、同年度の特別会計予算書には、12兆円の国債を発行し日銀引き受けとすることが記されており、18兆円ほどの余裕があるのでこの枠を使えば復興増税など必要なく、平成24年度予算では、約17兆円の国債を日銀引き受けとしているが、未使用枠は10兆円以上ある」とし、現行法でも日銀が引き受けできる余地があるとしている。日本国において紙幣を増刷する官庁は、切手や政府刊行物等の印刷も行う独立行政法人国立印刷局であり(独立行政法人国立印刷局法第11条第1項第1号)、日本銀行ではない。財務大臣が定める計画に従った枚数を増刷している(独立行政法人国立印刷局法第12条)。「銀行券ルール」とは、2001年3月の金融政策決定会合で決定された「金融調節上の必要から行う国債買入れ」を通じて、日本銀行が「保有する長期国債の残高について銀行券発行残高を上限とする」というものである。作家の木暮太一は「適度のインフレであればいいかもしれないが、度が過ぎると大変なことになる。もし大量の国債を買うために、日銀が急激にお金を刷ったら、急激なインフレになる。つまり、貯金が紙くずになる。これが行き過ぎると、物々交換の経済になってしまう。だからインフレにしてはいけない。このような事態に陥らないために、日銀が独自に設定しているのが『銀行券ルール』である」と述べている。FRB議長就任前のベン・バーナンキは日銀券ルール(銀行券ルール)について「合理性がわからない」「このルールは撤廃すべき」と述べている 。また経済学者の若田部昌澄は「このルールは2001年3月の量的緩和導入時に日銀が勝手に定めたものであり、何ら経済学的な根拠はない」と指摘している。世界の主要中央銀行はこのルールを持たない。経済学者の竹中平蔵は、「国債買い入れを紙幣の発行残高に抑える日銀券ルールは意味がなく、自主ルールなので自主的に変えればよい」と指摘している。白川方明日銀元総裁は、日銀券ルールについて「撤廃すると、財政ファイナンスの面にも長期金利の面にも悪影響が出てくる。金融政策の目的が物価安定の下での持続的な経済成長の実現ということから離れて、財政ファイナンスに焦点が絞られてくると、将来の金融システムに対する不確実性が増大し、長期金利が上がってしまう。特に日本のように財政バランスが悪い国においては非常に大事なことだ」と述べている。また「銀行券の量の限界を超えて中央銀行が国債を購入すると、インフレが起こるか、長期金利が先行的に上昇する」と述べ、日銀券ルールは理論的根拠が乏しいとの見方をけん制している。2013年4月4日、日銀の「量的・質的金融緩和」の導入に伴い、「銀行券ルール」の適用の一時停止が決定した。エコノミストの片岡剛士は「国債引き受けを行うメリットは様々あるが、財政政策と金融政策の合わせ技(ポリシーミックス)を挙げることができる」「単に財政出動を行う場合に懸念される円高を金融緩和により抑えこむことが可能である」と指摘している。戦前、高橋財政期に国債の直接引受を経験している。高橋是清は、1932-1935年にかけて32億円の国債を発行し、86%にあたる27.5億円を日本銀行に買い取らせた。日銀が買い入れた国債の大半は市中銀行に売ったため、日銀が保有した国債は4年間で2億8000万円の約10%の増加に収まっている。経済学者の岩田規久男は「日本では昭和恐慌を大きな金融緩和によって乗り切ったという歴史的事実がある。そのときは財政支出を賄うため国債を発行したが、その国債を日銀がすべて引き受けた。それが高橋財政だった」と述べている。この時期のインフレ率は高くとも6.5%であり、さらに最後の2年間は2%台、すなわちマイルドインフレであったと岩田は述べている。岩田は高橋是清によるこの日銀国債引き受けは、1929年の世界恐慌から日本が立ち直るために最善の経済政策であったと評価している。一方で、安易に通貨を調達できる状況に政府や国民が甘え、財政規律が失われたという見方もある。高橋是清は景気回復をもって金融緩和から引き締めに転じ、財政規律を回復させようとしたが、二・二六事件で暗殺されてしまう(事件そのものは青年将校らの暴走だが、財政引き締めは軍の予算削減を意味し、軍が財政規律回復の抵抗勢力であった事は留意するべきである)。しかも高橋暗殺前に、すでにロンドン市場でポンド建て日本国債は、暴落しジャンク債扱いされていた。そのため、海外からの資金調達が難しくなり、国債引き受けを停止するのは容易ではなかった。また当初、国債の直接引き受けに懐疑的であった世論もそれに慣れてしまい、直接引き受けで資金を調達することを当然視するようになってしまっていた。日本銀行の調査によれば、1934-1936年の消費者物価指数を1とした場合、1954年は301.8と8年間で物価が約300倍となった。このインフレの原因は戦前から戦中にかけての戦時国債、終戦後の軍人への退職金支払いなどの費用を賄うために政府が発行した国債の日本銀行の直接引き受けとされている。第二次世界大戦中に発行した戦時国債は、デフォルトはしなかったが、その後戦前比3倍の戦時インフレ(4年間で東京の小売物価は終戦時の80倍)によってほとんど紙屑となった。これらのことを踏まえて、低インフレ・低金利の状況では、中央銀行国債引き受けにより財源が生まれたように見えてしまうため、政治的にそこから抜け出すことが困難となる危険性や、国債引き受けを要請された中央銀行がそれを引き受けるという独立性の喪失により、過去のように物価の安定の喪失や財政リスクが高まる事態に再び陥る危険性を指摘する意見がある。国債直接引き受けについて、日本銀行は『日本銀行百年史』で「本行の歴史始まって以来、最も遺憾とすべき事柄であった」と記している。高橋財政期、二・二六事件までは通貨膨張はみられていなかったにもかかわらず、日本国債の金利には極めて大きなリスクプレミアム発生しており、通貨膨張がみられた二・二六事件以降の1939年にはさらに上昇を見せた。経済学者の若田部昌澄は「高橋財政のインフレと、その後の戦争に至るまでのインフレを連続していたと捉え、同一視するのは間違っている」と指摘している。田中秀臣、安達誠司は「日銀の国債の引き受け発行を開始した1932年11月25日から、二・二六事件による暗殺が起きた1932年2月26日の約5年間の高橋蔵相在任期間の平均インフレ率(GDPデフレーター)は2.4%と安定的に推移している。恒常的に年率10%のインフレが続いたのは、高橋蔵相暗殺後に本格的な戦時体制が確立されてからであり、実質的に軍部が政治的実権を握り、軍事費が膨張したためである」と指摘している。高橋洋一は「戦前の日銀引受は1930年代前半である。戦後のハイパーインフレとは10年以上の間があるし、1930年代後半のインフレ率は高くない。戦争で生産設備が壊滅的な打撃を受け、モノ不足でハイパーインフレになった。ハイパーインフレと日銀の国債引受は関係ない」と指摘している。田中秀臣は「歴史的な経験を言えば、昭和恐慌期にリフレーション政策を行った後、国債価格は下がってはいるが、暴落ではなく非常に安定的に推移している。国債の暴落は起きていない」「昭和恐慌も脱出時、財政規律を守りながら、日銀の国債の直接引き受けを行わせた高橋の政策では、悪性インフレは起こっておらず、国債の暴落も起こらなかったというのが史実である」と指摘している。田中は「テロリズムが一国経済の命運を決定したという事実は『高橋財政が戦時体制の拡大を招いた』という俗説に隠された」と指摘している。高橋財政の1932-1933年度では軍事支出は、対前年比で40-60%の伸びであったが、1934-1935年度では軍事支出は、10%台の伸びに低下している。二・二六事件後は、軍事支出は対前年比20-40%の伸びが継続していった。経済学者の中村宗悦は「歯止めのない軍事費膨張は、高橋が暗殺された『二・二六事件』以降のことである。歴史の『先後関係』のみに着眼してしまうと、戦争前のあらゆる経済政策は戦争への道を開いたものになってしまう」と指摘している。ベン・バーナンキアメリカ連邦準備制度(FRB)議長は、高橋是清が行なった日銀国債引き受けを有効な政策として評価している。2011年度予算では日銀保有国債の内30兆円の借換債の償還枠があり、そのうちの12兆円を日銀乗換へ利用することが決定したが残りの18兆円分は新たに国会議決せずに既に成立した今年度予算の範囲内で利用できると高橋洋一は述べている。この日銀乗換12兆円という金額は国会で決議された上でへ既に掲載されている。そのため金額の変更を行うには国会の決議が必要との指摘がある。また、日銀国債引き受けによる通貨膨張の危険性は認めつつ、日銀保有国債のうち償還額の範囲内であればその危険性はないという。この通貨膨張の判断は、日本銀行が保有する国債の総額を見る必要がある。通貨膨張については、世界金融危機の影響により2009年7月以降微増傾向にあり、2011年東日本大震災災害対応のため緩和状態にあるとの指摘もある。ノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・E・スティグリッツは、長期デフレに苦しむ日本がデフレから脱却するために政府紙幣を発行すべきであると提唱した。政府紙幣の発行は、国債の市中発行あるいは無利息の永久国債の日銀引き受けと実質同じ経済政策である。景気低迷のデフレ経済ではゼロ金利継続により政府紙幣が日銀へ還流する弊害は避けられるが、景気が上昇するとゼロ金利は継続できなくなり市中で流通する銀行券、政府紙幣、コインの残高にインフレ率を乗算した金額のインフレ税が発生し民間から政府へ財が移転することになる。ポール・クルーグマンによれば、日銀が多額の国債を引き受けることに関連するインフレについては「人々の消費がその経済の生産能力(供給力)を超える状態のときに限り、紙幣増刷由来のインフレが発生する」という。クルーグマンは日本が長期不況から抜け出すための解答自体は極めて簡単であり、お金を大量に刷ること(Print lots of money)で需要を喚起し、インフレ期待を作成することが経済を拡大する唯一の方法であると述べている。クルーグマンは上記1997年頃の記載を参照して紙幣の限りない印刷によるインフレを薦めた様に受け止められたが、実際はインフレ期待生成の提言である。日本のようにインフレ期待の生成を怠った結果による流動性の罠の下ではマネタリーベースを拡大してもインフレ率を引き上げることはできない。インフレ期待は直接コントロールできない。政策サイドは総需要を拡大し失業を減少させインフレ率上昇とトレードするか、総需要を抑制して失業を増加させインフレ率低下とトレードオフする。ベン・バーナンキは、世界金融危機下で量的緩和政策を採用したものの、インフレ期待を生成する政策はインフレ率が思わぬ上昇をする可能性などベネフィットよりコストが上回ると予想したため採用していなかったが、2012年1月25日に米連邦準備理事会は2%のインフレターゲットの導入を発表した。京都大学准教授の中野剛志は、デフレーション下では金融緩和して通貨供給量が増えても、投資や消費に回らず貯蓄に回ってしまう流動性の罠に陥いるので、国債によって貯蓄を吸い上げ、国内の公共投資を行い、国内の需要と供給のギャップを確実に埋めるべきであり、金融緩和政策は積極財政政策とセットでなければ、効果的にデフレを克服することはできない、と述べている。池尾和人は「増発される国債の消化を日銀に手伝わせるということは、典型的な赤字財政のマネタイゼーションであり、財政規律の喪失を意味するという危険を伴うといわざるを得ない」「総合的に考えて、コストが大きく、リスクを伴うので賢明とは思えない」と指摘している。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生は、日銀の国債引受けは政府の当座預金に無制限に資金を振り込むことになり、お札の増刷と同じことであるとして、国民が「受け取ったお札は1万円の価値がないのではないか」と疑い始めることを危惧。「悪魔的手法」であるとしている。経済学者の齊藤誠は日本銀行の巨額の国債買い入れによる量的緩和は長期金利の反転急上昇を招きかねず「正気の沙汰と思えない」と指摘している。評論家の副島隆彦は、中央銀行による国債買い取りは絶対にやってはいけない禁じ手であるとしている。「日銀の国債引き受けは長期金利を高騰させる」という反論に対して片岡剛士は「デフレギャップが存在し資本が余っている状況で大きく金利が上がるとは考えにくい。さらには昭和恐慌からの脱却過程でも長期金利の上昇はきわめて緩慢であった」と指摘している。「国債の日銀引き受けを行えば国債価格が暴落する」という反論について経済学者の浅田統一郎は「国債を日銀が引き受ければ民間に対する国債の供給は増えないので、民間引き受けの場合に比べてむしろ国債価格の低下、或いは国債金利の上昇を防ぐことができる(国債価格と国債金利は反比例的に動く)。単純なIS-LM分析の応用問題に過ぎない」と指摘している。「国債の直接引き受けで日銀が安易に通貨を増発すると、世の中でのお金の流通量も増え、インフレなど多くの弊害を生む恐れがある」という反論について片岡は「日本は10年超マイルドなデフレに陥っており、需給ギャップは20兆円程度とも言われている。デフレに苦しめられている現状で、需給ギャップを埋め、インフレにすることに何ら問題はない。勿論、過大なインフレが生じる懸念があるのならば、インフレターゲットにより目標インフレ率を設定した上で、政府と日銀が政策運営を行えばよい」と指摘している。「中央銀行による国債の引き受けは、ハイパーインフレを引き起こす」との懸念に対して、中野剛志は「アメリカのFRBは、リーマン・ショック後、金利上昇を回避しつつ、大量の国債を買い入れている。FRBの米国債保有残高は、2011年6月時点で1兆400億ドルに上る。しかし、アメリカでハイパーインフレの兆候は全く見られない」と指摘している。浜田宏一は「ノーベル経済学者のロバート・マンデルは、基本的なケースでは、インフレ率が上がるほどには国債の長期金利が上がらないことを証明している」「長期金利が上がると、投資や消費活動に影響が出るし、債券価格が下落するというマイナスもある。他方で株価の上昇で、それを通じた消費の増加という資産効果もある。金利上昇で国債を保有する銀行は損をするが、株価上昇で証券会社の利益は増える。資産への影響として、国債だけに(論点を)絞るのは銀行セクターの陰謀のような気がする」と指摘している。若田部昌澄は「国債が下落するのが嫌だと言って、永久にデフレを続けるのかという根本問題がある。デフレを続けるのは不可能である」と指摘している。自由民主党衆議院議員の山本幸三や民主党衆議院議員の金子洋一などはこの日本国債の日銀による引受を提唱している。新党日本の田中康夫代表も日銀による国債直接引受のメリットを述べている。一方で、たちあがれ日本衆議院議員の与謝野馨は「財政規律を無視した行為」「(実行すれば)日本は国際的な信認を失う」、民主党衆議院議員の野田佳彦は「企業も家計も手元流動性が潤沢だ。日銀が特別なことをやることはない」とそれぞれ反対を表明し、同じく民主党衆議院議員の岡田克也も反対を表明している。2010年、新たに発売された3年満期の固定利付債(「固定3」)の広告で使用されたタイトル。広告内では妙齢の女性「未来の旦那様はお金に真面目な人がいい!遊び人はNGです」、「株なんかは、やっぱり専門の投資家がやるものだと思うし、生活のことを考えるとちょっと怖いんです」などと語る設定となっている。この広告についてはブルームバーグの英語版でも全世界にニュースで配信され、その記事では、アナリストの『破れかぶれという感じだ・・・個人投資家を引き付ける戦略になるとは思えない』とのコメントが掲載された。銀行や証券会社等の金融機関は金融商品の広告作成について金融商品取引法やその他の規制を受けており、同様の広告を金融機関が作成した場合には法令違反となる可能性がある(この広告主体は財務省であり、同省は同法の規制対象ではないため法令違反にはならない)。尚、広告が作成された当時から2013年現在に至るまで、国債を保有することと異性から好意を寄せられることの因果関係についての実証は得られていない。
出典:wikipedia
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