シアン化水素 (Hydrogen Cyanide) はメタンニトリル、ホルモニトリル、ギ酸ニトリルとも呼ばれる猛毒の物質である。相で区別する場合、気体のシアン化水素は青酸ガスといい、液体は液化青酸という。水溶液は弱酸性を示し、シアン化水素酸と呼ばれる。気体、液体、水溶液のいずれについても、慣習的に青酸(せいさん)と呼ばれる。この語は紺青に由来する。シアン酸は異なる物質である。ドイツ語のシアン(、)はジシアンに詳しい。沸点が常温付近のため、気温が低いと液状、高いときは気体になる。非常に揮発性が高く、低温でも中毒の原因となる。水溶液のシアン化水素酸になった場合は、水分子との高い親和力により液化青酸よりも気化しにくくなる。分子は高い極性を有するため液体は比誘電率が非常に高く18℃で118.8であり、イオン性物質に対し優れた溶媒となるが、毒性のため溶媒としての取り扱いは困難である。「無色で、「アーモンド臭」(苦扁桃油臭、巴旦杏(ハタンキョウ)臭、かたばみ臭、オレンジ臭)を持つ。」と説明する書物が多いが、これはビターアーモンドから香料に使うベンツアルデヒドを得る過程でシアン化水素が副生したので、ベンズアルデヒドの臭気をシアン化水素のものと間違えたものであり、実際のシアン化水素は特有の嫌な臭気であり、他と類似できる臭気がない。また、嗅盲といって遺伝的にこの臭いを感じない人が20%〜40%いる。敏感な人は0.58ppmで臭いを感じる。可燃性の気体であり、爆発範囲 (5.6〜40.0%) を持つ。炭素原子と窒素原子は三重結合を形成している。炭酸より弱い酸で金属イオンと塩を作る。酸解離定数 "K" = 1.3 × 10 (18 ℃)。シアン化水素が電離したイオン (CN) をシアン化物イオンと呼び、金属イオン特に遷移金属と錯体を作りやすいので錯体化学上重要なイオンである。極性溶媒下で電離するなど性質が異なるため、一般にはニトリルに分類することは少ない。強熱すると高温炎を上げて燃え、窒素と二酸化炭素と水になる。炎色は桃色(『化学辞典普及版』森北出版)・青色(『化学辞典』東京化学同人)・紫色(『実験化学ガイドブック』丸善)と各種の表記があるが、現実には赤紫色と呼べる。このため原子吸光分析で燃料ガスとしてシアン化水素ガスボンベを使用する事がある。純粋な物は安定だが、純度の低い物を長時間放置すると黄色や黒色に変化し爆発性の重合体を生成する。特に水分が10%程度混じっていると50℃程度で重合しやすくなり、またアルカリが混ざっていると室温でも重合する。重合防止剤がない場合は184℃になると急激に重合する(重合時に発熱し、加速される)。これを防ぐには銅粉や硫酸を入れる。逆に水の方が多い場合は、加水分解し、ホルムアミドを経てギ酸とアンモニアになる。シアン化水素は殺虫剤のほか、化学兵器(血液剤)として使用された様に、動物にとって致死性の毒物である。その毒性の発揮は、シトクロムをはじめとする生体内のヘム鉄の Fe に配位し、細胞内呼吸を阻害することによる。中毒死した場合は、シアンメトヘモグロビンのため全身が赤く染まる場合がある(青酸塩の場合はそうならない場合もある)。すなわちヒトなどの脊椎動物がこの物質を摂取すると、シアンが細菌以上の動物ミトコンドリアの酸化型のシトクロム酸化酵素複合体 (COX) のFeに配位結合・封鎖し、電子伝達系を阻害することでATP生産量を低下させる。この点で植物ミトコンドリアはシアン耐性経路 (Alternative Oxidase: AOX) を備えるため耐性を持つ。気体の毒性には異なったデータがあり、270ppmで即死というものから、5000ppmの1分間の吸入で半数死亡というものまである。これは肝臓によるチオシアン酸化解毒能力と、細胞の壊死に対する抵抗力における個体差ゆえと考察される。蓄積性は低いので、一度意識が戻れば急速に回復する。火災によりアクリル製品等が熱分解し、シアン化水素が発生して急性中毒を引き起こすことがあり、一酸化炭素とともに火災時において中毒が発生する原因となっている。デパート等の火災に際し、落ち着いて避難していた人が突然倒れた事例がある。(長崎屋火災)そのほか毒物としての青酸については、青酸カリの項を参照されたい。解毒方法としてヘモグロビンをメトヘモグロビンに故意に酸化させ、シアンをメトヘモグロビンのFe に配位させて酸化型シトクロムのFeへのシアンの配位を妨げる方法がある。シアン化水素の解毒剤については、シアン化物#シアン化合物の解毒剤を参照のこと。ホロコーストの際にガス室で使用された。この時にはツィクロンBという殺虫剤が流用された。可燃性であることから、ガス室の隣に燃焼炉があるので危険で使えないという反対意見もあるが、上記のとおり爆発する濃度は5.6% (56000 ppm) 以上であり、中毒死には270 ppm〜5000 ppm (0.5%) で十分であるから理論上可能である。なお日本でも同時期にサイロームという同種の製品が存在し、ミカン農家などで使われた。人に対する毒性が強いため、殺虫用途での使用はかつてより減っているが、現在でも、輸入食品の燻蒸に使用されている。なお、アメリカ合衆国の一部の州ではガス室刑にシアン化水素を用いているが、処刑後の清掃などに大きなコストがかかることなどもあり、1999年以降行われていない。日本軍が対戦車兵器として液化青酸270g入りのビン「一式手投丸缶」(ちゃ剤、ちび弾とも呼ばれた)を製造した。戦車にぶつけて割ると、装甲の隙間から中に入り込み、乗員を中毒させるのが目的であった。日本で時々、遺棄されたこの兵器が地中から発見されている。ナチスの幹部たちは敵に捕えられた際に噛み砕いて自殺するための青酸アンプルを常備していた。実際、ハインリヒ・ヒムラーやマルティン・ボルマンらがこのアンプルにより自殺している。共産圏のスパイたちも同様に青酸アンプルを常備していた(著名な例としては、大韓航空機爆破事件実行犯金勝一が自殺に用いたことで知られる)。この毒性に着目したオウム真理教がテロ未遂事件を起こしている(新宿駅青酸ガス事件)。空気よりわずかに軽いため、化学兵器として使用しても野戦場では早期に上空に浮き上がって消滅してしまう。このため化学兵器としての用例は稀であり、毒性が類似しており空気より重い塩化シアンの方が使われる。数百ppmの濃度では肺から吸収されて循環器に回り、血液中のヘモグロビンや細胞内のミトコンドリアと結合して機能を停止させる血液剤として働くが、数千ppm以上の濃度では肺に直接作用し、肺の機能を麻痺させて呼吸ができなくなる窒息剤として働く。未熟なウメ(青梅など)に含まれる毒成分は、シアン化水素である。ウメやアンズ、カシューナッツ、ビワなどバラ科植物の果実には、青酸配糖体であるアミグダリンやプルナシンが含まれている。未熟な種子に含まれるエムルシン、または動物の腸内細菌が持つβ-グルコシダーゼといった酵素により加水分解され(胃酸や胃の消化酵素によるものではない)、糖とアルデヒド、そしてシアン化水素を生成する。シアン化水素自体の毒性は非常に高いが、アミグダリンなどによる中毒症状を示すにはこうした果実や種子の大量摂取を必要とする。例として、アンズの種子20〜40個を摂取したことによる重症例がある。また、アミグダリンは果肉と比べ、より種子に多く含まれているため、種子を噛み砕かない限り中毒症状を引き起こす可能性は低い。幼児が青梅の果肉を囓った程度では心配ないとされる。杏仁豆腐に使用されるアンズの種子は、熟してエムルシン濃度が低下したものを粉に挽き、水に晒してアミグダリンを除去するなどの工程を経ている。また、大部分の市販品はアーモンド粉と寒天等、代替品を使用している。工業的にはソハイオ法によるアクリロニトリル製造の際の副産物として得られるほか、メタン、アンモニア、空気の混合ガスを高温下白金触媒に通すことによって作られる(アンドルソフ法)。燻蒸等の目的ではシアン化ナトリウムに酸を加える方法が一般的である。廃棄処理業者に委託して、シアン化物イオンの分解処理を依頼するのが最も安全である。通常は、シアン化物イオンをアルカリ条件下で次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤で酸化することで分解する。なお昔の辞典では、「シアン化水素酸」または「青酸」を、シアン化水素の二量体の固形物質をさす語とも記載している例もあるが、現在はこの物質は三量体の1,3,5-トリアジンであることが判明している。青酸という毒物は古代エジプト時代から認識されていた。1782年にカール・ヴィルヘルム・シェーレがシアン化水素を発見した。シアン化水素酸の別名をシェーレ酸という。空気中のシアン化水素の検出には、ピクリン酸ソーダや塩化水銀(II)などを詰めたガス検知管が使われる。シュレーディンガーの猫の装置で、猫を殺すのはシアン化水素である。コンクリートや漆喰の部屋で燻蒸に用いると、鉄分と反応して壁が青くなる場合もある。
出典:wikipedia
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