相続(そうぞく)とは、自然人の財産などの様々な権利・義務を他の自然人が包括的に承継すること。近代法の相続制度については、被相続人と生計をともにした遺族の生活を保障する趣旨であるとみる説や被相続人の遺した財産が無主物となってしまうことを防ぐ趣旨であるとみる説などがある。一般的には、自然人の死亡を原因とするものを相続と称することが多いが、死亡を原因としない生前相続の制度もある(日本国憲法が施行される前、いわゆる明治憲法下の日本における家督相続は死亡を原因とする場合もしない場合も含む)。比較法上、相続原因が発生した場合(死亡など)に被相続人から相続人に財産が移転する形態としては、包括承継主義と清算主義の形態がある。日本の民法における相続に関する規定には遺言により民法の規定と異なる定めをすることができる任意規定が多く含まれる一方、遺留分規定のように遺言での排除を許さない強行規定も存在する。相続は死亡によって開始する()。死亡には失踪宣告や認定死亡も含まれる。相続は被相続人の住所において開始する()。 相続人は、相続開始の時(被相続人の死亡の時)から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する()。被相続人の財産上の地位を承継する者のことを相続人(そうぞくにん)という。これに対して相続される財産、権利、法律関係の旧主体を被相続人(ひそうぞくにん)という。相続開始前には、推定相続人といい、被相続人の死亡による相続開始によって確定する。なお、相続人となり得る一般的資格を相続能力といい、法人は相続能力を持たないが、胎児は相続能力を持つ()。被相続人の血族は次の順位で相続人となる(・)。また、被相続人の配偶者は常に相続人となり、上記の順位で相続人となった者と同順位で相続人となる()。同順位同士との相続となるのであって、遺言による指定がない限り他順位間とで相続することはない。相続の開始以前に被相続人の子あるいは被相続人の兄弟姉妹が死亡、相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合、その者の子が代わって相続する(2項本文・2項)。これを代襲相続といい、代襲相続する者を代襲者、代襲相続される者を被代襲者という。代襲者は被相続人の直系卑属でなければならない(2項但書)。養子縁組前に出生していた養子の子は被相続人の直系卑属ではない(民法727条は養子と養親およびその血族との間に血族関係が生じることを認めているが、養親と養子の血族との間に血族関係が生じることは認めてない。)から代襲相続することはできない(大判昭和7年5月11日民集11巻1062頁)。なお、相続放棄は代襲原因とはならず、相続放棄をした者の直系卑属(子・孫・曾孫…)には代襲相続は発生しない。代襲者である相続人の子が死亡・相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合、孫が代わって相続する(3項)。これを再代襲相続といい、代襲者は直系卑属(子・孫・曾孫…)では延々と続くことになる。ただし、相続人が兄弟姉妹の場合には代襲者は甥姪までとなり、大甥大姪の再代襲相続は認められていない(参照)。故意に被相続人や他の相続人を死亡に至らせたり、遺言書を破棄・捏造するなどに規定される重大な不正行為(相続欠格事由)を行った者は、その被相続人の相続において当然に相続人としての資格を失なう。これを相続欠格という。被相続人に対して虐待・侮辱あるいは著しい非行があった場合、被相続人は家庭裁判所に申し立てる事によって、その相続権を喪失させることができる()。これを相続人の廃除という。相続人の廃除は遺言による申し立てによっても可能である()。廃除された推定相続人は相続権を失う。相続により相続人は原則として被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(本文)。しかし、以下の例外がある。相続人が数人あるときは相続財産は共同相続人の共有に属することになる()。この「共有」の意味については共有説と合有説の対立があるが、判例は以下の共有と異ならないものと解して共有説をとっている(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)。相続欠格者や本来相続人でないのに相続人を装っている者(表見相続人・僭称相続人・不真正相続人などという)が、遺産の管理・処分を行っている場合、相続人は遺産を取り戻すことができる。これを相続回復請求権という()。相続回復請求権はこれを包括的に行使でき個々の財産を具体的に列挙して行使する必要はない(大連判大正8年3月28日民録25輯507頁)。相続回復請求権は相続人またはその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する(前段)。また、相続開始の時から20年を経過したときも消滅する(後段)。なお、清算主義でプラスの財産しか相続しない英米法では相続回復請求権は大いに尊重されており、日本の民法との相違は大きい。そして、その相続回復請求権は共同相続人相互間の相続権の帰属の問題についても適用があるとされている。ただし、判例上は相続回復請求権における消滅時効の援用権者について、共同相続人が他の真正共同相続人の持分まで主張する場合は、他の真正共同相続人の持分を侵害している事実を知らずかつ自らが相続権があると信ずるに足りる合理的理由があることを要するとして(最大判昭和53年12月20日・民集32巻9号1674頁)その範囲を制限している。相続人の相続財産に対する分け前の割合や数額のことで、普通はその割合をいう()。被相続人は遺言で共同相続人の相続分を定め、または、相続分を定めることを第三者に委託することができる(1項本文)。このような方法によって定まった相続分を指定相続分という。ただし、被相続人や第三者は相続分の指定について遺留分に関する規定に違反することができない(1項但書)。被相続人が共同相続人のうちの一人もしくは数人の相続分のみを定め、または第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は法定相続分の規定によって定まることになる(2項)。上記のように遺言により相続分の指定・指定委託をした場合でも、消極財産は指定相続分によらず法定相続分に応じて分割されるという説が有力である。これについて大審院決定昭和5年12月4日は、「…金銭債務のその他可分債務については各自負担し平等の割合において債務を負担するものにして…」と述べている。(したがって消極財産は遺産分割の対象とならないとされる下級審判例:福岡高決平成4・12・25判タ826・259)。平成21年03月24日最高裁判所第三小法廷判決(平成19(受)1548)は、傍論ではあるが「もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。」と判示しており、大審院判例の見解を維持しているものと考えられる。この判例では、指定相続によって明示または黙示的に債務の帰属を定めた場合、債権者に対しては効力が及ばないが、相続人相互間ではその指定通りの効力を生じることを判示している。ただし、国税通則法または地方税法の適用・準用がある公租公課については、遺言による指定・指定委託があれば、指定相続分による承継が原則となる(国税通則法5条2項、地方税法9条2項が民法902条を用いることを明記している)。なお、公租公課については、承継する財産の価額が承継税額を超えるときは、その超過部分を限度に他の相続人と連帯して納付する義務を負う(国税通則法5条3項、地方税法9条3項)。遺言による相続分の指定がない場合は法定相続分()による。前述のように、被相続人の血族は、1.被相続人の子、2.被相続人の直系尊属(親等の異なる者の間では最近親の者)、3.被相続人の兄弟姉妹の順で相続人となり(889条1項)、被相続人の配偶者は常に相続人(被相続人の血族に相続人となるべき者があればその者と同順位)となる(890条)。以上の相続人の範囲において相続人が数人あるときは、その法定相続分は、次の各号の定めるところによる()。 被相続人に配偶者がいない場合にも、子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとするが、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となる(900条4号)。 代襲相続人の相続分はその直系尊属が受けるべきであったものと同じであり、代襲相続人となる直系卑属が数人あるときはその各自の直系尊属が受けるべきであった部分について900条の規定に従ってその相続分を定める(901条)。 なお、非嫡出子の相続分は900条4号により嫡出子の相続分の2分の1と規定されていたが、最高裁判所が2013年9月4日に婚外子(非嫡出子)の相続分が違憲であるとの判断を下したことを受け、2013年12月11日の民法の一部改正により900条4号は削除された。附則において、改正後の規定については2013年9月5日以後に開始した相続について適用するものと定められている。共同相続人中に被相続人から特別受益を受けた者については、相続における実質的公平を図るため、相当額の財産について持戻しを行う()。特別受益には次のようなものがある。共同相続人中に被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者については、相続における実質的公平を図るため、相当額の財産を取得させる寄与分の制度()が設けられている。これは1980年の民法改正で設けられたものである。共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人はその価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる(1項)。ただし、この取戻権は1ヶ月以内に行使する必要がある(2項)。共同相続の場合において、相続分に応じて遺産を分割し、各相続人の単独財産にすること。では、遺産分割により不動産の権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に権利を取得した第三者に対し、対抗することができない。相続は被相続人の権利義務を相続人が承継する効果をもつものであるが、実際に相続を承認して権利義務を承継するか、あるいは、相続を放棄して権利義務の承継を拒絶するかは各相続人の意思に委ねられている。ただし、相続人がに規定される事由を行ったときは後述の単純承認をしたものとみなされる。相続人が被相続人の権利義務の承継を受諾することを相続の承認といい、権利義務の承継を受諾する範囲により単純承認と限定承認に分けられる。相続人が被相続人の権利義務の承継を受諾することを相続の放棄(相続放棄)という。なお、被保佐人が相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をするには、その保佐人の同意を得なければならない()。相続の承認・放棄をすべき期間(熟慮期間)には制限がある。相続の承認や放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければならない(1項本文)。ただし、この期間は利害関係人や検察官の請求により家庭裁判所が伸長することができる(1項但書)。「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始の原因となるべき事実を知り、かつ、それによって自分が相続人となったことを知った時をいう(大決大正15年8月3日民集5巻679頁)。相続人は相続の承認や放棄をするまで、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない(1項)。なお、東日本大震災に伴う特例については東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律参照。相続人が相続の承認または放棄をしたときは、以後はの期間内であっても撤回できない(1項)。ただし、民法総則および親族編に定められる取消原因があれば3項に定められる一定期間に取消しをすることはできる(2項・3項)。この場合に限定承認または相続の放棄の取消しをしようとする者は家庭裁判所に申述しなければならない(4項)。相続財産と相続人の財産が混同しないように分離、管理、清算する手続のこと。財産分離には相続債権者または受遺者の請求による第一種財産分離(以下)と相続人の債権者の請求による第二種財産分離()がある。財産分離は以下に規定されているものの、実際にはほとんど利用されていない。これは、相続財産・相続人に破産原因があれば破産申立てが可能であることによると思われる。相続人の存在が明らかでない場合、相続財産は相続財産法人となり()、以下の相続人不存在確定手続がとられることになる。なお、遺言者につき相続人は不存在であるが、その相続財産の全部について包括受遺者がいる場合には、その包括受遺者に相続財産が帰属することになるので相続人不存在確定手続はとられない(最判平成9年9月12日民集51巻8号3887頁参照)。イギリスでは認められていた遺産の相続人限定が、世論の批判を受け、法律で禁止されている。2代先まで引き出せない信託にするという脱法行為がボストンで行われている。中華人民共和国での相続については中華人民共和国継承法で定められており、次のような特徴がある。なお、中華人民共和国での相続制度は扶養制度と密接に関連したものとなっており、扶養との関係により相続人の相続分が変更になる場合がある。専門の国家資格者として公証人、司法書士、弁護士がある。公証人は公正証書遺言に携わり、司法書士はそれらを含めた相続業務全般を、弁護士は主に紛争解決にあたる。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。