ドーピング()は、スポーツなどの競技で運動能力を向上させるために、薬物を使用したり物理的方法を採ること、及びそれらを隠ぺいしたりする行為。オリンピック、競馬など多くの競技で禁止され、違反行為となる。「ドーピング (doping)」は、英語の ( ドウプ)に由来する動名詞であるが「dope」の語源は諸説ある。最も一般的に知られている説は、南アフリカの原住民が儀式舞踊を演じる際に飲用していたとされる「dop」というアルコール飲料に由来するというものである。なお、dop を「カフィール族という部族特有の風習」とする説が広まっているが、これは俗説である。もう一つの説は、オランダ語で「濃いディッピングソース」を意味する doop に由来するというもの。この単語が米語に輸入され、様々な変遷を辿った上で「競技上のパフォーマンスを向上する目的で作られた薬剤の調合」という現在の意味になったという。ちなみに、当初は「麻薬(曼陀羅華の種子と混ぜた煙草の煙)を用いて相手を朦朧とさせた上で盗みを働くこと」を意味するスラングであった。古代ギリシャ時代に競技者が興奮剤等をドーピング目的で用いるようになる。その後、19世紀には競走馬に対して麻薬や興奮剤が用いられる。1865年、アムステル運河水泳競技大会で使用した選手がいたのが、ドーピング使用で残る最も古い記録。1886年、ボルドー-パリ間の600km自転車レースでイギリスの選手が興奮剤トリメチルの過剰摂取により死亡、記録として残る初の死者。第一次世界大戦で開発された覚せい剤アンフェタミンなどさまざまな薬物がスポーツ界で使用されるようになり、ドーピングが蔓延する。1928年、国際陸上競技連盟が興奮剤の使用を禁止、他の競技団体も追随するようになる。しかし当時はドーピング検査が無く実効性に乏しいものだった。1960年、ローマオリンピックの自転車競技で興奮剤アンフェタミンを使用した競技者が競技中に死亡。オリンピックでのドーピング使用者、初の死者。1966年、国際自転車競技連合(UCI)と国際サッカー連盟(FIFA)が、初のドーピング検査をそれぞれの世界大会でを実施。1968年、グルノーブルオリンピックとメキシコオリンピックで、オリンピック初のドーピング検査を実施。1976年、アナボリックステロイドの検出が可能となり、モントリオールオリンピックで初めて禁止物質に指定される。1986年、国際オリンピック委員会(IOC)が血液ドーピングを禁止方法に指定。1990年、エリスロポエチン(EPO)が禁止物質に指定される、しかし検出方法はまだ確立していなかった。1999年、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)が設立される。これまでは、主に国際オリンピック委員会(IOC)がドーピングを取り締まっていた。2000年、シドニーオリンピックから血液検査が実施される。 2001年、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が設立される。2003年、ドーピングを定義した世界基準の規程「世界ドーピング防止規程」(WADAコード)が採択される。ドーピング騒動が繰り返されることで、その競技の公正への信頼性に疑念を抱かれ、場合によっては純粋にプレーする選手にも疑惑の目が向けられるなどの弊害が生じる可能性もある。実例としては陸上競技の男子ハンマー投では、アテネ、北京のオリンピック2大会連続でメダル獲得選手がドーピング違反で摘発されたが、繰り上がりでメダルを獲得した国のハンマー投競技関係者ですら、喜びではなく競技への信頼性が損なわれることを懸念する声が並ぶ状態となった。ドーピング騒動が繰り返されると国家への信頼が落ち、オリンピック招致などの国際大会招致等に悪影響をもたらすこともある。2020年夏季オリンピックの開催地選考ではマドリードとイスタンブールの両都市にはトルコ・スペイン両国がドーピングに関する批判を受けていたことで、ドーピングに関する質問が相次いだ。禁止物質及び禁止方法は、世界ドーピング防止規程に基づき、WADAが1年に1度以上改定して公表することになっている「禁止表」と呼ばれる一覧表に列挙されている。現在、禁止表は基本的に毎年10月に公表され、3ヵ月後の翌年1月1日から有効となっている。禁止物質が成分に含まれている市販の薬や強壮剤やサプリメントは多いため、服用する際には成分表をよく確認するか、JADAと薬剤師会が認定するドーピング防止規程に関する専門知識を持った薬剤師であるスポーツファーマシストに相談するなど、十分に注意する必要がある。代表的な例としては鼻炎薬のエフェドリン、胃腸薬のストリキニーネ、漢方薬の麻黄、育毛剤のテストステロンなどがある(お茶やコーヒーに含まれているカフェインは、2004年に禁止物質から除外され、監視プログラムに移行している。)。なお、禁止物質を含まない成分で作られたサプリメントの中には、JADAが「JADA認定商品」として認定して、そのサプリメントの安全性を保障しているものがある。禁止物質は3つに分類されている。競技会外検査で禁止されている物質の「S0.無承認物質~S5.利尿薬および他の隠蔽薬」に以下のS6.興奮薬~S9.糖質コルチコイドが加えられる監視プログラムとは、検査はされるが検出されてもドーピング違反にはならない物質。禁止表の改定の際に、ここから禁止物質へ移されることや、逆に禁止物質からここへ移されることがある。禁止方法は競技会時検査及び競技会外検査で禁止されている。病気をかかえ、治療のために禁止薬物や禁止方法を使用しなければならない競技者のためにTUE(治療目的使用に係る除外措置)という手続きがあり、事前に申請手続きを行い、TUE委員会の審査を経て認められれば、禁止物質や禁止方法を使用できる。通常は使用前に申請を行って承認を得ることになっているが、緊急治療など不測の事態に限っては、使用後の申請でも例外的に認められることがある。JADAまたは国際競技団体(IF)の検査対象者登録リスト(RTP) へ登録された競技者には、競技会外検査に対応するために居場所情報を提出することが義務付けられている。居場所情報は世界ドーピング防止機構(WADA)によって制作されたWEBベースのシステム「ADAMS」で提出する。居場所情報未提出や検査未了が、12ヶ月の間に3回累積すると、ドーピング違反となる可能性がある。日本においては、日本ドーピング防止規程に基づいて、医師と法律家で構成される「日本ドーピング防止規律パネル」が聴聞会を開いて、ドーピング違反をした競技者の主張を聞き、判断をして競技者に課す制裁措置を決定する。JADAに加盟する団体の競技者がドーピング違反をした場合は、日本ドーピング防止規程に基づいて制裁措置が課せられる。特定物質を含むドーピング違反であれば、競技者が「特定物質の使用が競技力向上を目的としたものではないことを証明」できれば制裁措置が軽減されることがある。JADAに加盟していない団体の競技者のドーピング違反は、その団体の独自の規程により処分内容が決定される。JADAに加盟する団体の競技者が制裁措置の内容に不服がある場合には、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)及びスポーツ仲裁裁判所(CAS)に制裁措置決定から21日以内に不服申立てを行い仲裁により解決をする。日本におけるドーピング問題は、近年まであまり問題視されることはなかったが、同時に禁止薬物についての認識が薄いという問題もあった。1984年のロサンゼルスオリンピックでは、男子バレーボール選手が風邪薬として服用した漢方薬に禁止薬物の成分(興奮剤)が含まれていたことが検査で発覚した。このときはトレーナーが薬を手配し本人にその認識が全くなかったことからトレーナーには処分が下されたが、選手本人は免除されている。日本においては1985年の神戸ユニバーシアードが契機となり、国内に初のドーピング検査機関が設けられた(現在はLSIメディエンスが唯一検査業務を担っている)。ドーピング問題はこれまでの所、さほど深刻なものとなってはいないが、それでもドーピングで出場停止を課される選手が散発的に出ている。国民体育大会(国体)を主催する日本体育協会はJADA(後述)加盟団体の一つで、2003年の静岡国体から、ドーピング検査を実施している。アンチ・ドーピング 使用可能薬リストを公開し、処方薬・市販薬のホワイトリストを例示している。日本におけるプロ団体・アマチュア団体・プロアマ統括団体の多くは2001年に設立された公益法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)に所属し、国際オリンピック委員会(IOC)や世界アンチ・ドーピング機関(WADA)、各国の国内オリンピック委員会(NOC)等のドーピング・コントロール機関と連携しながら、競技会検査や競技会外検査の実施をしている。しかし、日本野球機構(NPB)、日本ゴルフツアー機構、日本相撲協会、日本ボクシングコミッションはJADAに所属していない(アマチュア競技を統括する全日本野球協会、日本ゴルフ協会、日本相撲連盟、日本ボクシング連盟は、JADA加盟団体)。それぞれ独自の方法でドーピングに対処している。以上のような経緯を受けて、2006年にNPBがシーズン中に啓蒙期間として罰則なしのドーピング検査を104人に実施したところ、その中に陽性事例があったことを長谷川一雄コミッショナー事務局が発表(ただし悪質ではないと主張。氏名は公表せず)。2007年以降、同機構は機構内にアンチ・ドーピングガイドを掲げ、独自の方針でドーピング検査を実施・公表している。違反者は、NPB医事委員会の報告の後にNPBアンチ・ドーピング調査裁定委員会で審議され、その結果により譴責・10試合以下の公式戦出場停止・1年以下の公式戦出場停止・無期限出場停止のいずれかが科される。これまでに、リッキー・ガトームソン(20日間出場停止)、ルイス・ゴンザレス(1年間出場停止)、ダニエル・リオス(1年間出場停止)、井端弘和(譴責)の4人が制裁を受けたほか、吉見一起が疲労回復目的で「ニンニク注射」と呼ばれる点滴を受けていたことが判明したが、NPBは「吉見選手に対する治療は医学的に正当な適応による治療行為の範疇に入る」として不問とした。NPBの実施方法として言われているのは、「指定した試合」でベンチ入りメンバーでくじ引きをして各チーム2人ずつの尿を試合後に関係者立会いの元で採取し、専門機関に分析させる方法である。もっとも、対象となる試合は年間25~30試合程度・100人程度であり、「例えクロの選手がいたとしても、検査対象に当たる可能性は極めて低い」とされている。里崎智也は、検査のくじがあたったのは引退するまで1度だったと述べている。これに対して、MLBでは、メジャーリーグベースボールのドーピング問題が1990年台後半から2000年代前半にかけて問題視されたため、2004年から対策に乗り出した。2009年の1年間で3722人の検査を実施したとの報道がある。筋肉増強などの目的でステロイドに代わって普及したhGH(ヒト成長ホルモン)は従来の尿検査では検出が難しいとされてきたため、2013年1月10日、MLB機構と選手会がシーズン中でもhGHを摘発するための抜き打ちの血液検査を実施する事で同意し、現在は血液検査まで課されることになっている。IOCは以下のようなブラックリストを作成している。第1種ブラックリスト次のような行為を犯したものに対しては記録およびメダル等を剥奪し、IOCの第1種ブラックリストに登録され、登録された選手および関係者は永久追放処分とし、理由を問わず生涯除外されない。第2種ブラックリストIOCの第2種ブラックリストの登録はドーピング検査で陽性反応または検査拒否を犯したものに対しては記録およびメダル等を剥奪し、IOCの第1種ブラックリストの対象外であることを条件に、登録された選手および関係者は無期限の出場停止、期限付きの出場停止、各国の立法によっては懲役刑または罰金刑、追加処分保留などがあり、処分完了後は除外される。但し懲役刑または罰金刑に関してはIOCの審査により第2種ブラックリストに登録される可能性がある。覚せい剤などの違法薬物の使用や、医師等の処方が必要な管理薬物の不正入手などによる場合はむろん例外であり、単純な所持だけでも厳罰になることもあるが、一般に医師などにより処方された薬物を自分自身に投与することは、たとえそれが本来の目的外の使用であり、結果として健康に良くない行為であったとしても個人の自由の範疇にある限り、違法性を問うことは難しい(愚行権)。しかし、現実にはプロスポーツやオリンピックなどの公的大会では、選手が自己の意思により正当な手続きを経たものであったとしても、ドーピングはその行為をもって大会参加や入賞資格の剥奪理由とされ、あるいは解雇の対象とされる。この場合、他者危害の原則(他人に危害を加えない限り自己のことは自己で決定する権利を持つ)を逸脱した(かのように見える)ドーピング規制が現実の財産権の侵害(解雇など)や名誉の毀損(タイトル剥奪など)をもたらすことになり、この場合はドーピング規制の倫理的・法的根拠が問題となる。加藤尚武は3つの面からドーピング規制を説明する。世界的にドーピング違反を刑罰の対象とする国は少数であるが、詐欺罪などの形でなんらかの刑事罰を課す国は増加している。第94回オリンピック委員会では各国政府にドーピングのための特別法の制定と適用を求めている。以下、WADAのレポート『2014 Anti‐Doping Testing Figures Sport Report』より以下、WADAのレポート『2014 Anti‐Doping Testing Figures Sport Report』より陽性反応が検出された回数が多い禁止物質の主な内訳(物質名、陽性反応検出数)以下、WADAのレポート『2014 Anti‐Doping Testing Figures Sport Report』よりスポーツと薬物とのかかわりは紀元前からのものである。古代オリンピックにもあぶった牛の骨髄のエキスを飲む、コカの葉を噛むなど、天然由来の薬物を摂取した選手たちの記録が残っている。
出典:wikipedia
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