場の量子論(ばのりょうしろん、英:Quantum Field Theory)は、量子化された場(素粒子物理ではこれが素粒子そのものに対応する)の性質を扱う理論である。量子論の中でも、位置や運動量などの古典力学由来の物理量と、スピンなどの量子論特有の物理量を、基本変数とする量子論を量子力学と呼ぶ。一方、基本変数として「場とその時間微分または共役運動量」を用いる量子論を場の量子論と呼ぶ。量子力学は、場の量子論を低エネルギー状態に限った時の近似形として得られる。現代では、古典的に場であったもの(電磁場など)だけでなく、古典的に粒子とみなされてきた物理系(電子など)の量子論も、場を基本変数にしたほうが良いことがわかっている。場の量子論は、高エネルギーの系や、凝縮系(多体系)を記述する。場の量子論は特殊相対論的要請を満たす形式を備え、量子力学と特殊相対性理論の両方を満足する。素粒子物理、原子核物理学や物性物理といった領域で、基礎理論として用いられる。摂動的場の量子論では、粒子の間に働く力は、力を伝える粒子の交換により生じる。例として電子の間に働く電磁力は、光子の交換により生じる。同様に、ウィークボソンは弱い力を媒介し、グルーオンは強い力を媒介する。力を媒介するのと同じ場の励起である光子が、塊状の波として電磁波となり、またナノスケールの現象においては粒子のように振舞う。電子も同様で、対応した場の励起として表される。このように、古典物理での粒子と場は、場の量子論により粒子と場の2重性を持つ形式に書き改められる。ジェームズ・クラーク・マクスウェルの古典電磁気学では、粒子(荷電粒子)が場(電磁場)を生み、場が粒子に力を与える。これは、場の理論の最初の定式化である。1927年から1928年、ポール・ディラックによる古典電磁気学の量子化、オスカル・クライン、パスクアル・ヨルダン、ユージン・ウィグナーおよびウラジミール・フォックによる生成消滅演算子が形成され、場の量子論の原型をヴェルナー・ハイゼンベルクとヴォルフガング・パウリが創った。ハイゼンベルグは、場において粒子が力を伝えるという見解を打ち出した。これが湯川の強い力(中間子)、フェルミの弱い力(電子)の元となる。しかし、湯川が提唱した強い力のモデルに対しては、ハイゼンベルグやボーアは否定的であった。ハイゼンベルクおよびパウリらが作った原型は相対論を満たすが、相対論的共変形式を満たさなかった。1943年、朝永振一郎が超多時間理論でこれを解決する。これは1932年にポール・ディラックが提唱した多時間理論(相互作用をしている電子一つ一つに独立な時間を与える)の電子の生成・消滅を含まないという欠点を改めたものである。また、リチャード・ファインマンも経路積分を完成し、またジュリアン・シュウィンガーもこの問題を独立して解決する。ゲージ理論の概念は、1918年のヘルマン・ワイルのアイデアに端を発する。ワイルは時空点ごとに「ゲージ」(ものさし)を与え、時空点が変わっても理論が変わらないようラグランジアンを決める(ゲージは一種の自由度で、理論不変なようにゲージ自由度を与える)ことを要求し、電磁場の導出を試みたが、実験と合わなかった。1927年、フリッツ・ロンドンは、長さを位相に変え、ゲージ理論の有効性を証明した。1954年、楊振寧およびロバート・ミルズはゲージ対称性を非アーベル群に拡張した理論を定式化した(非可換ゲージ理論)。(ヴォルフガンク・パウリ、内山龍雄も独立して同様の理論を発見している。発表が遅れたため、パウリや内山らは非可換ゲージ理論の発見者と見なされない。)内山龍雄は重力場を含む形に拡張した(このため、ヤン=ミルズ=内山理論と呼ぶ人もいる)。この非可換ゲージ理論は、後に量子色力学やワインバーグ=サラム理論を定式化する際に用いられた。1964年、マレー・ゲルマン、ユヴァル・ネーマンおよびジョージ・ツワイクにより独立にクォーク模型が見出された。この原型は坂田昌一による坂田模型と、そのフレーバー変換を群論形式で記述する方法を確立した大貫義郎らによるIOO理論SU(3)である。(これはクォーク模型の原型における対称性を群論で記述した最初の事例であり、素粒子論の核で群論を使う以後の流れを決定づける。量子力学での群論の最初は、ヘルマン・ワイル1927年である。原子スペクトルの対称性を記述。また、1939年、ユージン・ウィグナーが原子核をSU(4) で記述する。しかしこれは素粒子論の核での使用ではなかった。これらは、素粒子の基本構造に迫るものではなく、素粒子研究で注目を浴びなかった。ゲージ理論では、ゲージ対称性を満たす場合、必然的にゲージ場の質量がゼロになる。しかし、光子を除く現実の粒子は質量を持ち、質量が力の及ぶ範囲を決める。1964年、これを救ったのが、ピーター・ヒッグスらのヒッグス機構で、南部陽一郎の自発的対称性の破れを使い解決した。自発的対称性の破れの概念は、ハイゼンベルグが強磁性体モデルにおけるスピンのSU(2)回転対称性について論じたのが始まりとされる。1960年に南部は、超伝導のBCS理論をヒントに対称性の自発的破れの概念を場の量子論において定式化した。。量子電磁力学 (QED) は可換ゲージ理論である。一方、量子色力学 (OCD) およびワインバーグ=サラム理論は非可換ゲージ理論である。量子色力学は3つの場のからみ合いであり、ゲージも3×3の行列となり、QEDの可換ゲージから、非可換ゲージにかわる。弱い力と電磁相互作用は、1967年、場の量子論の枠組みで非可換ゲージ形式のワインバーグ=サラム理論により統一される。強い力は、クォーク模型の完成後、1971年にヘーラルト・トホーフトの非可換ゲージの繰り込み可能性の証明を経て、1973年に繰り込み群を使ったデイビッド・グロスらによって場の量子論の枠組みで非可換ゲージ形式の量子色力学 (QCD) が完成する。量子力学では古典的に書き下した運動方程式を元に、位置や運動量を非可換な行列ないしは演算子と考える事で、量子論の描像を得る。これを正準量子化と呼ぶ。場の量子論では同様の方法を、場という物理量に対し適用する。これにより、時空間上の位置をパラメーターとして持つ場の演算子が得られる。特に自由場の理論(場同士が一切相互作用しない理論)において、この方法で定義された演算子の各振動数モードは、独立した調和振動子とみなす事ができる。この系の量子的なふるまいは生成消滅演算子によって記述される。正準量子化によって厳密な場の時間発展を記述できるのは、自由場など少数の例に限定される。量子電磁力学のような複雑な理論を扱うには通常、摂動論の考え方を用いる。これは相互作用描像などを用いて、相互作用のある場の時間発展を自由場の演算子の積に展開する方法である。場の量子論における演算子積の計算は、仮想粒子を含む多数の項を、運動量保存や対称性などを考慮してまとめあげる、かなり煩雑なものとなる。これを視覚的に表すツールとしてファインマンダイアグラムがある。また、摂動計算では仮想粒子の取りうる運動量すべてを積分する必要があり、これによって計算結果が無限大に発散する紫外発散の問題が起こる。この問題への処方として繰り込みが用いられる。摂動論は相互作用が弱い事を仮定した議論であり、結合定数の強い領域には上手く適用できない。特に量子色力学の低エネルギー領域においては、カイラル対称性の破れなどの物理について摂動論では議論する事ができない。そのため、以下に示すような非摂動論的な方法も、並行して用いられる。
出典:wikipedia
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