変圧器(へんあつき、、)は、交流電力の電圧の高さを電磁誘導を利用して変換する電力機器・電子部品である。変成器(へんせいき)、トランスとも呼ぶ。電圧だけでなく電流も変化する。交流電圧の変換(変圧)、インピーダンス整合、平衡系-不平衡系の変換に利用する。変圧器は、磁気的に結合した(相互誘導)複数のコイルからなる。コイル内外に磁気回路をともなうものもある。コイルに使用する導線を巻線という。特に2個のコイルから成るものにおいて、入力側のコイルを一次コイル、出力側のコイルを二次コイルという。一次コイルに交流電流を流し、変動磁場を発生させ、それを相互インダクタンスで結合された二次コイルに伝え、再び電流に変換し、出力する。変圧器によって電圧を変更することを変圧(へんあつ)といい、電圧を上昇させることを昇圧(しょうあつ)、逆に下降させることを降圧(こうあつ)という。エネルギー保存則によれば一次側と二次側でエネルギーが変化する事はない。つまり昇圧させれば、その分だけ電流が減る。実際には変換の際に損失があるため二次側でエネルギーが減少する。一次コイルの電圧"V"、巻数"N"、電流"I"をそれぞれ一次電圧、一次巻数、一次電流という。同様に二次コイルの電圧"V"、巻数"N"、電流"I"をそれぞれ二次電圧、二次巻数、二次電流という。またそれらの比"V/V"、"N/N"、"I/I"をそれぞれ変圧比(へんあつひ)、巻数比(まきすうひ)、変流比(へんりゅうひ)という。巻数比は変成比(へんせいひ)とも呼ばれる。理想的な変圧器では巻数比と変圧比は等しく、さらに変圧比は変流比の逆数と等しい。すなわち、以下が成り立つ:前者の等号が成り立つ条件は、1次コイルから出た磁束が全て2次コイルに入る事である。より一般に1次コイルから出た磁束のうち割合"k" が2次コイルに入る場合は、が成立する。この値"k" の事を1次コイルと2次コイルの結合係数という。従って (a) の第一の等号が成り立つ条件は結合係数が1になる事であると言い換えられる。一方 (a) の第二の等号が成り立つ条件は、変圧器で電気的なエネルギーが保存される事である。実際エネルギー保存が成り立てばformula_3であるので、第二の等号が成り立つ。なお回路中に1つでも抵抗があればそこからエネルギーが熱として逃げてしまうので、電気的なエネルギーは保存せず、第二の等号が言えない。しかしこうした熱が十分小さければ第二の等号は近似的に成立する。鉄心に主磁束を形成する電流が励磁電流(れいじでんりゅう)である。理想的な変圧器では、励磁電流の位相は一次電圧よりも90°遅れる。実際には鉄心の磁気飽和やヒステリシスにより励磁電流の波形は主に奇数次の高調波ひずみを含む。電源周波数を高くすると励磁電流は減少する。変圧比と巻数比の前述した関係式をマクスウェル方程式から導出する。1次コイルに交流電流を流すと、電圧formula_5の変化に応じて1次コイル内の電場formula_6が変化する。電磁誘導の法則によりformula_6の変化は磁束formula_8を生じさせ、磁束formula_8は変圧器の芯を通って2次コイルへと到達する。結合係数の定義より、1次コイルから出た磁束のうち割合"k" が2次コイルに入る。すなわちが成立する。磁束formula_11は1次コイルの場合と逆の過程をたどることにより、2次コイル内の電場formula_12と電圧formula_13とを変化させる。1次コイル、2次コイルの断面をそれぞれformula_14、formula_15とし、さらに1次コイル、2次コイル内の磁束密度をそれぞれformula_16、formula_17とすると、i=1,2に対し、ここで (2)、(3)、(4) はそれぞれ磁束の定義formula_19、ファラデー=マクスウェル方程式formula_20、ストークスの定理から従う。また (5) は以下の理由により成り立つ:電圧の定義より、(5) の左辺はコイル一周分の積分から得られる電圧である。それに対しコイル全体に生じる電圧formula_21は、コイルの周りを巻数formula_22だけ積分して得られるので、formula_23となる。求めるべき式は (1) と (6) から従う。機器に対して製造者が保証する使用限度およびその際の指定条件。一次回路と二次回路を相互インダクタンスで結合する磁気回路として、通常は鉄心が用いられる。高周波用には鉄心を有しないものもある。変圧器の鉄心には鉄損が少なく、飽和磁束密度・透磁率の大きい材料が適しており、ケイ素鋼板が多く用いられ、特定の方向に磁化し易い方向性鋼板が採用されることも多い。また、特に損失の低減を図る目的でアモルファス磁性材料が用いられることもある。渦電流損を低減させるため、表面を絶縁処理した薄い鋼板を積層したものや、帯状に圧延した鋼板を巻いた巻鉄心などがある。巻線には絶縁被覆を有する軟銅線が用いられる。断面形状は一般的なものでは丸形だが、大型用は導体断面積を大きくできる角形となっている。一般には一次巻線を巻いた上に二次巻線を重ねる積層巻が行われるが、特に、信号用・高周波用変成器のように一次・二次の密な結合が必要な場合は、一次・二次の巻線を1本ずつ交互に配置するバイファイラ巻なども行われる。また、複数の二次電圧が必要な場合や電圧の調整が必要な場合は、巻線の途中からタップと呼ばれる端子が取り出される。鉄心と巻線の配置は以下の2種類ある。単相交流を入出力とするものである。三相交流を入出力とするものである。容量が異なる2台の変圧器をV-V結線し、三相負荷と単相負荷を同時に取り出す変圧器の結線方式。配電用柱上変圧器では、単相(電灯)と三相(動力)の需要家が混在する地点でよく使用される。小容量側の変圧器でV結線の三相負荷の一相へ、大容量側の変圧器でV結線のもう一相と単相負荷を兼用する。前者を専用変圧器、後者を共用相変圧器と呼ぶ。同じ目的に、単相変圧器と三相変圧器を1台にまとめた灯動共用変圧器を使うこともある。三相交流から単相交流に変換する変圧器で、電気鉄道で交流電気車への電力供給や、三相交流電源を用いて単相電気炉や単相電動機を運転する場合などに採用される。三相交流から90度の位相差の2組の単相交流を出力するもので、2つの巻線を持つ。出力電圧を揃えるため、1つの巻線の巻数比をもう一方の巻線の巻数比のformula_25倍としている。鉄道の交流饋電用変電所などに用いられる。2次側巻線が2組あり、単相交流が2組出るタイプが一般的である。効率が悪くなるが、2つの出力を直列にして両端で単相1組とする事も出来る。注意点として、2つの出力の位相が90度異なるため、電圧が2倍ではなく1.4倍になる事が挙げられる。例えば、各々200Vで10kVAの容量があるスコット結線変圧器では、単相1回路結線した場合、280V・14kVAの容量しか得られないため体積効率が悪くなる。また、各巻線の電圧と電流の位相がずれるため力率も悪くなる。そのため非常用発電回路など小規模な設備に限って使われる。なお、2つの巻線の負荷にアンバランスがあると一次側が不平衡となり逆相電流が発生するため、負荷を均等化することが望ましい。これは次項のウッドブリッジ結線にも共通する留意事項である。一次側はY巻線とし、二次側は2つのΔ巻線を背中合わせに接続した変圧器で、スコット結線と同様に三相交流から90度の位相差の2組の単相交流が得られるが、電圧を揃えるため一方の二次回路に付加巻線が設けられる。また、この付加巻線を外付けの単巻変圧器としたものを変形ウッドブリッジ結線という。スコット結線に比べ、二次側の負荷が不平衡となっても接地した一次中性点に電流が流れない特徴がある(参照:電気工学ハンドブック)。多量の電力を扱う新幹線の交流饋電用変電所では220kV系以上の超高圧送電線から受電しているが、保安上、一次回路の中性点接地が必要なため、変形ウッドブリッジ結線変圧器が用いられている。一次巻線はY結線であり、二次巻線は2つの相の巻線を直列に接続したA座と、Δ結線でA座との位相差が90度のB座から構成される。変形ウッドブリッジ結線と同様に、一次側の中性点接地が可能であるため187kV以上の系統から受電する新幹線などの変電所に採用されるが、変形ウッドブリッジ結線と異なり二次側のA座とB座が電気的に独立している。従って、国内の交流電化の主流であるAT饋電方式では単巻変圧器の巻数比を1:1より大きくでき、その場合、饋電線の電圧はトロリ線の電圧よりも高くなると同時に饋電線の電流が減少する。その結果、饋電線の電圧降下を低減でき、AT間隔を広げることが可能である。変形ウッドブリッジ結線に比べ、ルーフ・デルタ結線は設置スペースや効率などが優れているが、一般的な電力用変圧器と異なる構造であることから岡山開業以降の新幹線では変形ウッドブリッジ結線が採用されてきた。その後、鉄道総研を中心にルーフ・デルタ結線の諸課題について検討が行われた結果、実用化の見通しが得られたため、この程、東北新幹線新七戸変電所に採用され、今後も新設や既設置換えでの採用が進む見込みである。参考資料(鉄道総研による)巻線の一部を一次と二次側とで共用するものである。オートトランス、またはオートトランスフォーマー()、オートフォーマーともよばれている。共通部分を分路巻線(ぶんろまきせん)、そうでない部分を直列巻線(ちょくれつまきせん)という。一次・二次電圧のうち高い方をV・低い方をVとした場合、一次・二次巻線を有する通常の変圧器に比べ、単巻変圧器は (V-V)/V倍の容量で足りることとなり、メリットは変圧比 (V/V) が1に近いほど顕著となる。このような特徴から、単巻変圧器は長距離配電線の電圧降下補償などに用いられている。なお、三相交流の場合、Δ - Δ接続の単巻変圧器は一次・二次間に位相差が生じるので注意が必要である。単層絶縁巻線の露出面の一部の絶縁膜を剥がし、可動式摺動子を接触させ、単巻変圧器を可変電圧出力式とした製品があり、日本ではスライダックが古くから著名な商標であったためその名で呼ばれることも多い。最近は、重量や価格の点で半導体による電圧調整装置が用いられることも多いが、出力電圧が波形ひずみを殆ど含まないことは、単巻変圧器の大きな特長である。磁気漏れ変圧器は一次・二次巻線を別々の区画に離して巻き、これに漏れ磁束のための磁気回路を設けたものである。負荷電流が増加しようとすると漏れ磁束の増加で電圧が低下し、負荷が変動しても電流が一定に保たれる。定電流変圧器とも呼ばれる。漏れインダクタンス(漏れインピーダンスの)値が大きいトランスである。蛍光灯用磁気安定器・ネオン管用変圧器・アーク溶接用変圧器・電子レンジ(マグネトロン)安定用変圧器などに用いられる。共振変圧器は磁気漏れ変圧器の一種であり、二次巻線に並列に共振コンデンサを接続し、共振を起こさせるトランスである。磁気漏れ変圧器の漏れインダクタンスと共振コンデンサとが直列共振回路を形成して昇圧する。変圧比(昇圧比)が一定せず、負荷によって変圧比(昇圧比)が変動する。電子式蛍光灯安定器(蛍光灯インバータ)・電子式ネオン管安定器・冷陰極管用インバータ・テスラコイル(放電用)などに用いられる。負荷に供給したい電力が1台の変圧器の容量で不足する場合、複数台の変圧器の一次側および二次側を並列接続して運転することがある。これを並行運転と呼ぶ。並行運転を行うためには、電圧の極性をそろえること、巻数比が等しいことが必要である。さらに、負荷が複数台の変圧器の容量に応じて分配されるために、各変圧器のパーセントインピーダンスが等しいことが必要となる。変成器(へんせいき)とは、電磁誘導を利用して複数の巻線の間でエネルギーの伝達を行う電子部品である。トランスとも呼ばれる。変圧器と構造、動作原理はほぼ同じであるが、用途が異なるため電子部品として用いられるものをこの節で説明する。トランスの1次側と2次側の巻数比に対して、電流比=巻数比、インピーダンス比=巻数比の関係が成り立つ。トランジスタなどの増幅回路に用いるトランスには、用途別に入力トランス、段間トランス、出力トランスの3種類がある。ただしこれらの分類はインピーダンスの公称値に対してメーカーが推奨する用途を定めたものであるため、耐電力などの条件を満たせば転用も可能である。トランジスタ用の小型トランスは山水電気のST-○○(2桁の数字)が定番と言えるもので、他社製のトランスもこれに準ずる型番を付けている製品が多い。1831年にマイケル・ファラデーは変圧器の基本となる原理であるファラデーの電磁誘導の法則を発見し、コイル間の電磁誘導に関する実証を行ったが、将来それが起電力を操作する役割を持つという認識は無かった。1836年にアイルランドのメイヌース大学 () のニコラス・カラン牧師 () が誘導コイルを発明し、これが変圧器として広く用いられる初めてのものとなった。彼は、一次巻線に対して二次巻線の巻数を増やすほど大きな起電力が発生するということに気づいた初期の研究者の1人であった。誘導コイルは、電池からより高い電圧を取り出そうとする科学者や発明家の努力によって発展した。電池は交流ではなく直流の電源であることから、電磁誘導に必要な磁束の変化を生み出すために一次側でコネクタを振動させて定期的に電流を遮断することによって誘導コイルが働くようになっていた。1830年代から1870年代に掛けて、よりよい誘導コイルを、ほとんどは試行錯誤によって作り出そうとする試みにより、ゆっくりと変圧器の基本原理が明らかとなっていった。効率的で実用的な設計は1880年代まで発明されなかったが、それから10年の間に電流戦争において交流が直流に対して勝利を収め、それ以来支配的な地位を確保し続けているために変圧器が助けとなった。1876年にロシアの技術者であるパーヴェル・ヤブロチコフは、一次側巻線が交流電源に接続され、二次側巻線を彼の設計した複数の「電気ろうそく」(アーク灯)に接続できる誘導コイルの組み合わせに基づいた照明システムを発明した。このコイルはシステムの中で原始的な変圧器のように用いられた。この発明に関する特許では、このシステムは「単一の電源からいくつかの照明装置にそれぞれ異なる輝度で電力を供給する」としている。1878年、ハンガリーのガンツ社の技術者がオーストリア=ハンガリー帝国での電灯装置製造のために大きな技術的な貢献をし、1883年までに50を超える装置を製作した。ガンツはアーク灯・電球・発電機・その他の備品からなる全般的なシステムを提供した。ルシアン・ゴーラールとジョン・ディクソン・ギブスは1882年にロンドンで「二次発電機」(secondary generator) と称する鉄心に空間の空いた装置を初めて公開し、このアイデアをアメリカ合衆国のジョージ・ウェスティングハウスの会社に売却した。また彼らはこの発明を1884年にイタリアのトリノでも公開し、そこで電灯システムとして採用されることになった。1880年頃まで高圧の電源から低圧の負荷に交流電力を送る方法は、電源に対して直列に負荷をつなぐものであった。直列につなぐことで各負荷に掛かる電圧は下がったが、その代わりに個々の負荷の電源を切ると全体の電源が切れてしまう。このことから、巻数比が1対1の変圧器が使われた。高圧側の電源に直列に変圧器の一次巻線を接続し、二次巻線で低圧の電灯に接続して、二次側で電源を入り切りすることで、全体の電源を切らずに個別の電灯の電源を切ることができるようにしていた。この方法の本質的な問題は、それでもなお1つの電灯を入り切りするだけで他の回路全体に影響を与えてしまうことで、この直列回路の問題のある特性に対応するために多くの調整可能なコイルの設計がなされた。そのために鉄心を調整し、あるいはコイルの周りを迂回して磁束を流すなどの電圧を調整するための多くの方法が開発された。しかし、磁気回路に空間の空いた誘導コイルは電力を変換する効率が悪かった。1884年から1885年にかけて、ブダペストのガンツ社の技術者、ジペルノウスキー、ブラーティ、デーリの3人が効率的な"ZBD"式の閉じた鉄心モデルを開発した。これはゴーラールとギブスが開発した設計に一見似ていたが、ゴーラールとギブスはあくまで鉄心に空間のあるものを設計している。ジペルノウスキー、ブラーティ、デーリは、それ以前の鉄心が無い、あるいは鉄心の磁気回路が閉じていない装置は電圧を調整できず、実用的でないことを発見した。彼らが合同で出願した特許では鉄心に極が無い、鉄心が環状になっているものと、鉄心が覆いのようになっているものの2つの構成が記載されていた。環状鉄心モデルでは、鉄心は環状に構成され、その周りに2つのコイルが同様に巻かれていた。覆い方式のモデルでは、銅製の誘導ケーブルが鉄心の中を通されていた。どちらの設計でも、一次と二次のコイルを結ぶ磁束はほぼ全て鉄心の中をとおり、意図的に空中を通る経路は無い。鉄心は鉄の線あるいは板で作られていた。この発明によって、産業と家庭に経済的に電力を供給することが可能となった。ジペルノウスキー、ブラーティ、デーリは変圧器の巻数比と電圧比の関係する数式も発見した。この数式により、変圧器は計算して設計できるようになった。彼らの特許の出願の中で、ブラーティが造語した"transformer"という言葉が初めて使われた。ジョージ・ウェスティングハウスはゴーラールとギブス、そしてZBD式の両方の特許を1885年に購入した。ウェスティングハウスはZBD式の変圧器を商用化する設計をウィリアム・スタンリーに任せた。スタンリーは、鉄心を組み合わせられたE字形の鉄のプレートから作成した。この設計は1886年に初めて商用に用いられた。ロシアの技術者ミハイル・ドリヴォ=ドブロヴォルスキー () は、1889年に初めて三相の変圧器を開発した。1891年にニコラ・テスラは高電圧を高周波数で発生させる空芯コアで共鳴を利用したテスラコイルを発明した。可聴周波数の変圧器は、電話の開発に際して初期の研究者に利用された。
出典:wikipedia
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